「…あ、ニノだ。」
「うぃーっす」

「…と、えっと、ランカちゃん。」
『あ、こんにちは。』

名前を覚えてくれてたことにすら、うれしく思ってしまった。

「お～、覚えてんすか、名前」
「覚えてるよ～、馬鹿にすんな？」
『ありがとうございます』

ニヤニヤしちゃう。

「顔、やばいよ」
『は？うるさいな、もう』

二宮君とも、大野先輩の事で話すようになってちょっと打ち解けたから
照れ隠しで少し強く言う。

「ふふ、あなたもわかりやすいなあ」
『なにがよ』
「鈍感なとこもそっくりだわ」
『だから誰にってば、なんなの笑』

そんな会話をしてると、視線を感じる。

「…。」

ちょっとむすっとした大野先輩からの視線。

練習で疲れてるのに、休憩時間に急にこんな会話聞かせちゃったら
申し訳ないな…

ちゃんと考えろ私…

『あ、えっと、大野せん』
「ニノってさ」
「はい？」
「ランカちゃんとそんな仲良かったの？」
「…ん～…」

そこまで良くはなかったよね。
けど仲良くないですってのも違うか。

これは難しいよね二宮君。

「すんごく仲良しです。」

『……え』

逆にね、そう来たか

すると大野先輩の顔がどんどん曇っていく。

「ふーん…言ってよ。」
「え？」

半笑いで二宮君が返事をする。

「だからさ、言ってくれよ仲がいいなら」
「なんでっすか」
「おいら頑張れねえし」
「ふふっ、え？」
『？？？』

話が読めない。

多分二宮君はわかってる感じ。

「大丈夫っすよ。そんなんじゃないんで。」
「…ほんとかよ」
「ほんとほんと」

私は小声で二宮君に尋ねる。

『なんか私悪いことしたかな』
「いや、大丈夫。」
『すごい機嫌悪そうだよ』
「こんなに近くで耳打ちしてたら多分もっと機嫌悪くなるかもね」

ちらっともう一度大野先輩を見たら
二宮君の言う通り、一段とむすっとした大野先輩の顔が。

『あ、えっと、すいません！』

わけもわからず謝る私。

「…にーのーーー。」
「ふふふふふ、はい？」

大野先輩は私にムッとした後、二宮君をこづいた。

「いって、なんすか笑」
「俺のことわかってるくせにそんなんすんなって」
『えっと…』

何かに見かねた二宮君は、私たちを見て言った。

「あの、二人とも。」

ちょっと真面目な表情になる二宮君に
私と大野先輩は改まる。

『な、なに？』
「なん、だよ」

「俺もそんな世話焼くの好きじゃないんで。
鈍感ってか、いい加減自分の気持ちくらい管理できるようになってください。」

……

！！


私と大野先輩は目を見合わせて、

パッとそらした。

「はあ…」

二宮君のため息が響く。

「んじゃあ、俺もう帰るんで。」
『えっ、ちょっと二宮君！！』

「ねね」

二宮君のほうを向いていた体が
グイっと大野先輩のほうに向けられる。

『大野先輩…？』

「ん～、なんつっていいかわかんないんだけど」

私の腕をつかんだまま、大野先輩はハの字になった眉を掻く。

「あのさ、試合、見に来ないかね」

そのおじいちゃんみたいな口調が、
私の第一印象の大野先輩と重なっておかしく見えた。

『ぷっ笑』
「んえ、なんで笑うの」

きょとんとした表情もまたおかしくて…

『何でもないです笑
見に行きますよ、試合。』


おかしいっていうか…
少し愛おしく思った自分に気づく。

「ほんと？…ふふふ、俺ね、そのために練習頑張ることにした」

そういう大野先輩のふわふわした雰囲気が
余計に私の心を確信に近づけていく。

『そのためって、私のため、だったりしますか？笑』

「え？…あ～…」


間違えた。
これは間違えたな。
浮ついた気持ちが調子に乗った。

『や、えっと、なんでもないです！失礼します！』

顔が熱い。

私は急ぎ足で体育館を出た。

そして、小声でつぶやいた。
『大野先輩のこと…好き…なのかな？』





「なんで言えねえかね…情けね。」