1章
主人公のお名前を変えたい方
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水泳部のドアを開けるのは、少し怖くて手が震えた。
でも、何度も頭の中に昨日の海堂くんの姿を思い浮かべて勇気を振り絞って、ドアノプを捻った。
慕ってくれていた1年生の後輩の子が泣きながら駆け寄ってきてくれて、先輩や一緒に泳いだメンバー達にもみくちゃにされる。ホッとした気持ちと一緒に、早く合流しなくて申し訳なかった気持ちでいっぱいになっていたら同じ水泳部の友達、葉月が隣に来てくれて。
「唯、おかえり…!足の怪我もう大丈夫?」
「だいぶ良くなったよ。ごめんね、遅くなって…」
「全然いいんだよ!完全復活まで足痛めないトレーニングとかやろ!」
やり過ぎなければ、むしろ軽く動いた方がいいと言われたくらいには捻挫は回復していた。
ずっと自分の心だけが治らなかったんだ。でも、もう大丈夫。今の私の心の中にはあの時の海堂くんがいるから。
+
私は部活でもしっかりトレーニングとリハビリに励み、朝にランニングをするようになった。
夏は日が昇った途端に暑くなるから、まだ涼しい時間の5時とかの早朝に家から川沿いの方まで走る。走ると心地の良い風が肌を撫でる。同じように朝からランニングする人達が向こう側から走ってきたり、追い越したりする。会話は交わさないけどすれ違いざまにぺこりとお辞儀してくれる人がいたりして、少し嬉しかったりした。
すると、横をすっと追い越していった人がまた1人。
バンダナを巻いてる頭と見覚えのある後ろ姿に思わず「あっ」と声を出してしまった。
「…?」
振り返った人はやっぱり海堂くんだった。
学校じゃないとこで会うのはこれが2回目。前よりもなんだか気恥しくなってしまって、なんて言葉を掛ければいいか迷ってしまった。
「お、おはよう。海堂くん」
「…おはよう」
少しだけ走る速度をあげて海堂くんの横に並ぶ。
「海堂くんもここら辺走ってたんだね」
「ああ」
「えっと、一緒に走ってもいい?」
「ペースは合わせねぇが…それでもいいなら勝手にしろ」
うん。と返事してそのまま一緒に走る。
海堂くんは「足、無理して走んじゃねぇぞ」と気を使って言ってくれた。やっぱり優しいな。
川沿いのランニングは町中よりも涼しくて景色も綺麗だから好きだ。晴れの日の早朝は薄い水色の空にこれからのぼり始める太陽の淡いオレンジ色が混ざっていて、それが川に反射すると少し神秘的な景色に見えるのだ。
涼しい風と熱くなった体も心地が良いし、走り続けてると余計な考えごとが少しずつ消えていって、綺麗な景色と前に進むことだけで頭の中が埋め尽くされる。
1番好きなのは泳ぐことだけど、こうして走るのも楽しい。
しばらく川沿いを走った後、海堂くんが息を整えながら「少し休憩するが、お前はどうする」と声をかけてくれた。一緒に休憩することにして、土手から河川敷に続く階段に腰を掛けた。水筒の中身を飲んで一息つく。
「ありがとう海堂くん。一緒に走ってくれて」
「別に、同じコースを同じペースで走ってただけだ」
「でもさ、1人で走りたいとかあるじゃん」
「…お前が居るくらいで気が散ったりしねぇ」
「そっか、流石だね」
走ってきた方の道を振り返ってみると、ずっと遠くまで走ってきたのがわかる。川沿いに入るために渡ってきた橋がものすごく小さく見える。
「たくさん走ったなぁ」
「…そうか」
「私、海堂くんのおかげで今日こんなに走れたんだよ」
「…?何でだ」
「この間の氷帝との試合の、海堂くんが必死にボールに食らいつく姿を見て、勇気付けられた!カッコ良かったよ」
海堂くんの目を見て、お礼を伝えた。
するとびっくりしたように目を見開いたと思ったら、ふいっと川の方を向いてしまった。
「…あの試合では負けた。ブーメランスネイクもまだまだだ、全然足りねぇ」
「勝ち負けとかじゃないの。反撃が始まるまで粘り続けてた海堂くんがカッコよかったんだよ、すごい励まされたの、私もあんな風に強くなりたいって思った…!……って、あれ、海堂くん?」
「……休みすぎた。そろそろ再開する」
海堂くんは立ち上がって軽くストレッチをする。
ストイックだなぁって思ってまた横に並んだ。
「だから、ありがとうって伝えたかったの」
「………そうか」
目も合わせずに海堂くんはまた前だけを見て走り出す。
「またこうして朝に偶然会えたらさ、一緒に走ってもいい?」
「…勝手にしろ」
でも、何度も頭の中に昨日の海堂くんの姿を思い浮かべて勇気を振り絞って、ドアノプを捻った。
慕ってくれていた1年生の後輩の子が泣きながら駆け寄ってきてくれて、先輩や一緒に泳いだメンバー達にもみくちゃにされる。ホッとした気持ちと一緒に、早く合流しなくて申し訳なかった気持ちでいっぱいになっていたら同じ水泳部の友達、葉月が隣に来てくれて。
「唯、おかえり…!足の怪我もう大丈夫?」
「だいぶ良くなったよ。ごめんね、遅くなって…」
「全然いいんだよ!完全復活まで足痛めないトレーニングとかやろ!」
やり過ぎなければ、むしろ軽く動いた方がいいと言われたくらいには捻挫は回復していた。
ずっと自分の心だけが治らなかったんだ。でも、もう大丈夫。今の私の心の中にはあの時の海堂くんがいるから。
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私は部活でもしっかりトレーニングとリハビリに励み、朝にランニングをするようになった。
夏は日が昇った途端に暑くなるから、まだ涼しい時間の5時とかの早朝に家から川沿いの方まで走る。走ると心地の良い風が肌を撫でる。同じように朝からランニングする人達が向こう側から走ってきたり、追い越したりする。会話は交わさないけどすれ違いざまにぺこりとお辞儀してくれる人がいたりして、少し嬉しかったりした。
すると、横をすっと追い越していった人がまた1人。
バンダナを巻いてる頭と見覚えのある後ろ姿に思わず「あっ」と声を出してしまった。
「…?」
振り返った人はやっぱり海堂くんだった。
学校じゃないとこで会うのはこれが2回目。前よりもなんだか気恥しくなってしまって、なんて言葉を掛ければいいか迷ってしまった。
「お、おはよう。海堂くん」
「…おはよう」
少しだけ走る速度をあげて海堂くんの横に並ぶ。
「海堂くんもここら辺走ってたんだね」
「ああ」
「えっと、一緒に走ってもいい?」
「ペースは合わせねぇが…それでもいいなら勝手にしろ」
うん。と返事してそのまま一緒に走る。
海堂くんは「足、無理して走んじゃねぇぞ」と気を使って言ってくれた。やっぱり優しいな。
川沿いのランニングは町中よりも涼しくて景色も綺麗だから好きだ。晴れの日の早朝は薄い水色の空にこれからのぼり始める太陽の淡いオレンジ色が混ざっていて、それが川に反射すると少し神秘的な景色に見えるのだ。
涼しい風と熱くなった体も心地が良いし、走り続けてると余計な考えごとが少しずつ消えていって、綺麗な景色と前に進むことだけで頭の中が埋め尽くされる。
1番好きなのは泳ぐことだけど、こうして走るのも楽しい。
しばらく川沿いを走った後、海堂くんが息を整えながら「少し休憩するが、お前はどうする」と声をかけてくれた。一緒に休憩することにして、土手から河川敷に続く階段に腰を掛けた。水筒の中身を飲んで一息つく。
「ありがとう海堂くん。一緒に走ってくれて」
「別に、同じコースを同じペースで走ってただけだ」
「でもさ、1人で走りたいとかあるじゃん」
「…お前が居るくらいで気が散ったりしねぇ」
「そっか、流石だね」
走ってきた方の道を振り返ってみると、ずっと遠くまで走ってきたのがわかる。川沿いに入るために渡ってきた橋がものすごく小さく見える。
「たくさん走ったなぁ」
「…そうか」
「私、海堂くんのおかげで今日こんなに走れたんだよ」
「…?何でだ」
「この間の氷帝との試合の、海堂くんが必死にボールに食らいつく姿を見て、勇気付けられた!カッコ良かったよ」
海堂くんの目を見て、お礼を伝えた。
するとびっくりしたように目を見開いたと思ったら、ふいっと川の方を向いてしまった。
「…あの試合では負けた。ブーメランスネイクもまだまだだ、全然足りねぇ」
「勝ち負けとかじゃないの。反撃が始まるまで粘り続けてた海堂くんがカッコよかったんだよ、すごい励まされたの、私もあんな風に強くなりたいって思った…!……って、あれ、海堂くん?」
「……休みすぎた。そろそろ再開する」
海堂くんは立ち上がって軽くストレッチをする。
ストイックだなぁって思ってまた横に並んだ。
「だから、ありがとうって伝えたかったの」
「………そうか」
目も合わせずに海堂くんはまた前だけを見て走り出す。
「またこうして朝に偶然会えたらさ、一緒に走ってもいい?」
「…勝手にしろ」
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