ユーカリの幸福
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血の色にも似た、鮮やかな痣。
昨夜の同衾の名残として、今も左胸に残るそれが脳裏に呼び起こした光景に、意図せず唇が動いた。
「殺される夢って、何かの暗示でしょうか」
「どうしたの、イキナリ。
ヘンな夢でも見た?」
「ええ、まあ」
口を滑らせた気まずさを覚えながら、儚は言葉を濁すように誤魔化し、起き抜けに話すにしては物騒な話題を打ち切った。
殆ど剥き出しに等しかった肌に服を纏いながら、夢と呼ぶには鮮明な情景を一人
反芻する。
左胸に穿たれた凶器が抜き去られ、流れ出る血と共に狭まる視界。
そして、涙に濡れた同僚の声を最期に、完全に途切れる意識。
今まで犯人と揉み合いになっても軽度の負傷が精々で、致命的な箇所を刺された経験は一度して無いと云うのに、不思議な夢幻だと思う。
尤も、巌徒とこうして密かに逢瀬を繰り返す間柄となったのも、妙に現実的な既視感が切っ掛けなのだから、困惑よりも感謝が勝るのだが。
そんな取り留めのないことを考えながら、袖の釦をきっちり留めていると、温かな腕が背後から絡み付く。
「儚ちゃん、もう行くの?」
「そうですね。
身嗜みを整えたら、お暇させて頂きます。
海慈さんと一緒に出勤する訳にはいきませんから」
堅くも器用な指先が伸びたかと思えば、巌徒に贈られた深紅のベルベットのチョーカーを辿り、程無く中央に行き着いた。
其処には繊細な意匠の中に留められた、華やかに煌めく夕陽色の貴石が存在している。
贈られた直後は高級感に戦慄き、軽い押し問答の末に結局受け取ったこの装飾品は、襟まで確り釦を留めれば隠れるし、何より身に付けていれば彼は愉しそうに笑うのだ。
何故愉しそうなのか。
そう問うて『だってキミはボクのモノでしょ?』と言い切られた時は閉口したものの、普通と括るには随分支配的な愛でさえ嬉しいと思うのだから、自分も大概重症なのだろう。
一頻りチョーカーを指で弄んでから、やがて満足した巌徒が体を離す。
熱い程の体温を名残惜しく思っていると体を向き直され、次いで軽いリップ音と共に唇が重なり、余韻を残して離れた。
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