片翼の天使
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どうやら二人が仲良くなったらしいことは、出久にとって喜ばしい限りであった。何がきっかけだったのかは、トレーニングに集中していたので、いまいち分からない。しかしあの変質者と間違えた出会いから、すでに四ヶ月ほど。季節も春から夏に変わりーー理由はどうあれ、それだけの時間を共有すれば自然と仲良くなるのかもしれない。
あの時から比べると、もはや名前から警戒心や嫌悪感は消えていた。だがまるで痴話喧嘩のような言い争いだけはどうにかして欲しいと、出久はため息を吐く。
「だから何度も言っているように! 私はヒーローなんて好きじゃーー」
「シンリンカムイの必殺技は?」
瞬間、名前の動きが止まった。二度三度、躊躇うように口を開閉させる。暫くして、先制必縛ウルシ鎖牢と消え入る声で答えた。
出題者であるオールマイトは、勝ち誇ったように笑う。彼女の恨めしそうな視線など、全く意に介していない。夏の暑い日差しにも負けず劣らずの、眩しい笑顔だった。
「あー、えっと。オールマ……じゃなくて、オールさんと姉ちゃん。これ良かったら」
出久は声をかけようか迷ったが、今しかないと覚悟を決める。そして手に持っていたそれらを、二人に差し出した。このまだまだ廃棄物だらけの海浜公園へ戻ってくるまでに、ペットボトルはすっかり汗をかいている。
休憩時間を与えられたは良いが、出久は場の空気に居た堪れず、飲み物を買いに行っていた。オールマイトには緑茶、名前にはアイスティーである。ちなみに自分の分はコーラをチョイスした。キャップを回すとシュワ、炭酸の小粋良い音がする。
「ありがとう、出久。暑かったでしょう、ほらここ座って休みなよ」
「こらこら、名前君。いくら弟が可愛いからって、甘やかしすぎはいかんよ。少年よ、君は空気椅子だ!」
わざとなのか、そうでないのか。オールマイトは何かと名前に突っかかる。おそらくからかっているのだろうが、ヒーローとしての彼しか知らなかった分、それはとても不思議な気分だった。二人がまた言い争いを始める前に、出久は間をとって名前が示した場所で空気椅子をする。
例の言い訳について、名前からいまだ言及はない。しかしこうやって軽口を叩ける間柄になった今、特に気にしなくても良いのかな、と出久は思っていた。それに意外と、彼女は抜けている部分もあってーー
「出久、だいぶ日に焼けたね。何だかすごく、男の子って感じ」
優しい眼差しを向けながら、ふと名前が言った。出久はこそばゆくなって、身を縮こませる。くすり、小さく笑い声が聞こえた。途端、何故かオールマイトが声を張り上げる。
「そういう君は全く変わらないな! 個人的にはもう少し、健康的な肌色の方が好みだが」
「日焼け止めを塗っていますからね。あと、あなたの好みはどうでもいいです」
ぷい、とオールマイトから顔を逸らす名前。元々、出久とオールマイトでは対応の違いがあった。しかし四ヶ月経った今、それは露骨になっている気がする。出久はまた居た堪れなさを感じたが、黙って空気椅子を続けた。
オールマイトは知らない。名前が去年よりも、日に焼けていることを。本来インドア派な彼女が、ここまで外に出ているのは本当に珍しいことなのだーー
「……ッ、オールさん。また血が」
名前が苦虫を噛み潰したような顔で指摘する。一方でオールマイトは、何ともないと言う風に口元を拭った。素っ気ない態度をとり続ける彼女への意趣返しなのだろう、顔を背けている。すると何を思ったのか、名前が酷く怒気の孕んだ声で言った。
「良い機会です。前々から見苦しいと思っていたので、私の個性で治しましょう」
*
運が悪ことに、その日名前が着ていたのはキャミソールワンピースであった。彼女の個性がどんなものか知っている出久にとって、これほど恨めしいことはない。四ヶ月前のあの時のように服を脱ぐ時間があれば、止められたかもしれないからだ。
突如ばさり、と名前の背中から白い羽が生える。キャミソールワンピースを少しめくれ上がらせて覗いているそれは、しかし片翼であった。イメージとしては、プロヒーローのホークスのものに近い。
「姉ちゃん、ダメだ! 待ってーー」
出久の制止も虚しく、名前はオールマイトに迫る。オールマイトが何事かと振り向いた時にはもう、その力は発揮されていた。
ほんの一秒か、二秒。名前の翼が、オールマイトに触れた。そして次の瞬間、彼女は勢い良く吐血する。出久は崩れ落ちる名前に、必死に手を伸ばした。その光景はまるでスローモーションのようにも思え、出久に無力さを痛感させる。奥で、目を大きく開いたオールマイトが見えた。
「み、緑谷少年! 一体これは、どういうことなんだ!」
「急いで、早く救急車を! 姉ちゃんの個性は、痛み分けなんです!」
倒れた名前に駆け寄りながら、出久は吠える。生えていた羽は、空中に霧散していった。吐き出された血が、砂の上に血溜まりをつくる。出久は名前の口元に手を当て、呼吸の有無を確認したーー大丈夫、息はまだある。
「つまりそれは……私の怪我を……シット! 緑谷少年、彼女は私が運ぶ!」
あの時から比べると、もはや名前から警戒心や嫌悪感は消えていた。だがまるで痴話喧嘩のような言い争いだけはどうにかして欲しいと、出久はため息を吐く。
「だから何度も言っているように! 私はヒーローなんて好きじゃーー」
「シンリンカムイの必殺技は?」
瞬間、名前の動きが止まった。二度三度、躊躇うように口を開閉させる。暫くして、先制必縛ウルシ鎖牢と消え入る声で答えた。
出題者であるオールマイトは、勝ち誇ったように笑う。彼女の恨めしそうな視線など、全く意に介していない。夏の暑い日差しにも負けず劣らずの、眩しい笑顔だった。
「あー、えっと。オールマ……じゃなくて、オールさんと姉ちゃん。これ良かったら」
出久は声をかけようか迷ったが、今しかないと覚悟を決める。そして手に持っていたそれらを、二人に差し出した。このまだまだ廃棄物だらけの海浜公園へ戻ってくるまでに、ペットボトルはすっかり汗をかいている。
休憩時間を与えられたは良いが、出久は場の空気に居た堪れず、飲み物を買いに行っていた。オールマイトには緑茶、名前にはアイスティーである。ちなみに自分の分はコーラをチョイスした。キャップを回すとシュワ、炭酸の小粋良い音がする。
「ありがとう、出久。暑かったでしょう、ほらここ座って休みなよ」
「こらこら、名前君。いくら弟が可愛いからって、甘やかしすぎはいかんよ。少年よ、君は空気椅子だ!」
わざとなのか、そうでないのか。オールマイトは何かと名前に突っかかる。おそらくからかっているのだろうが、ヒーローとしての彼しか知らなかった分、それはとても不思議な気分だった。二人がまた言い争いを始める前に、出久は間をとって名前が示した場所で空気椅子をする。
例の言い訳について、名前からいまだ言及はない。しかしこうやって軽口を叩ける間柄になった今、特に気にしなくても良いのかな、と出久は思っていた。それに意外と、彼女は抜けている部分もあってーー
「出久、だいぶ日に焼けたね。何だかすごく、男の子って感じ」
優しい眼差しを向けながら、ふと名前が言った。出久はこそばゆくなって、身を縮こませる。くすり、小さく笑い声が聞こえた。途端、何故かオールマイトが声を張り上げる。
「そういう君は全く変わらないな! 個人的にはもう少し、健康的な肌色の方が好みだが」
「日焼け止めを塗っていますからね。あと、あなたの好みはどうでもいいです」
ぷい、とオールマイトから顔を逸らす名前。元々、出久とオールマイトでは対応の違いがあった。しかし四ヶ月経った今、それは露骨になっている気がする。出久はまた居た堪れなさを感じたが、黙って空気椅子を続けた。
オールマイトは知らない。名前が去年よりも、日に焼けていることを。本来インドア派な彼女が、ここまで外に出ているのは本当に珍しいことなのだーー
「……ッ、オールさん。また血が」
名前が苦虫を噛み潰したような顔で指摘する。一方でオールマイトは、何ともないと言う風に口元を拭った。素っ気ない態度をとり続ける彼女への意趣返しなのだろう、顔を背けている。すると何を思ったのか、名前が酷く怒気の孕んだ声で言った。
「良い機会です。前々から見苦しいと思っていたので、私の個性で治しましょう」
*
運が悪ことに、その日名前が着ていたのはキャミソールワンピースであった。彼女の個性がどんなものか知っている出久にとって、これほど恨めしいことはない。四ヶ月前のあの時のように服を脱ぐ時間があれば、止められたかもしれないからだ。
突如ばさり、と名前の背中から白い羽が生える。キャミソールワンピースを少しめくれ上がらせて覗いているそれは、しかし片翼であった。イメージとしては、プロヒーローのホークスのものに近い。
「姉ちゃん、ダメだ! 待ってーー」
出久の制止も虚しく、名前はオールマイトに迫る。オールマイトが何事かと振り向いた時にはもう、その力は発揮されていた。
ほんの一秒か、二秒。名前の翼が、オールマイトに触れた。そして次の瞬間、彼女は勢い良く吐血する。出久は崩れ落ちる名前に、必死に手を伸ばした。その光景はまるでスローモーションのようにも思え、出久に無力さを痛感させる。奥で、目を大きく開いたオールマイトが見えた。
「み、緑谷少年! 一体これは、どういうことなんだ!」
「急いで、早く救急車を! 姉ちゃんの個性は、痛み分けなんです!」
倒れた名前に駆け寄りながら、出久は吠える。生えていた羽は、空中に霧散していった。吐き出された血が、砂の上に血溜まりをつくる。出久は名前の口元に手を当て、呼吸の有無を確認したーー大丈夫、息はまだある。
「つまりそれは……私の怪我を……シット! 緑谷少年、彼女は私が運ぶ!」