片翼の天使
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「いやあ、君のお姉さん。すごい人だったねえ」
まるで他人事のように、ハハハとオールマイトが笑い飛ばす。出久はどう返してよいか分からず、苦笑いを浮かべた。名前が帰ってから四、五分は経ったというのに、いまだ心境は複雑である。
あの後、すこし休憩しようというオールマイトの提案で、出久は手頃な廃棄物に腰掛けていた。オールマイトも近くの廃棄物の上に座っている。お互い思うところがあったのか、暫くはだんまりだった。
「すみません、オールマイト。僕が……僕が家族のことをちゃんと説得出来ていれば」
出久は、申し訳なさで胸が締め付けられる。だが俯いては、目を逸らしてはいけないと、オールマイトを見つめ続けた。ニコリ、オールマイトが笑いかけてくる。
「なに、君のせいではない。たしかに力不足な部分もあったかも知れないが、言えないことも多いからね。それは仕方のないことだ」
オールマイトにとって、トゥルーフォームは重要な秘密だ。勿論オールマイトとの関係が始まってから口外はしていないし、今後するつもりもない。だが名前は聡い姉だから、あんな言い訳では誤魔化されないだろう。もしかしすると、何か勘づいたかもーーふと、出久にある疑問が浮かぶ。
「ずっと隠れていれば良かったのでは……?」
「あっ、そこ気付いちゃう? やるな少年!」
ガクリ、出久は脱力の反動で今にも崩れ落ちそうだった。あれだけ下げるものかと踏ん張っていた顔も、だらんと垂れ下がる。
オールマイトのせいだと、声を大にして言うことは出来ない。だがここには隠れる場所など、幾らでもある。オールマイトのような巨漢であっても、余裕だ。
「君のお姉さんが、急に服を脱ぎだすものだから。驚いて、つい声をかけてしまった」
あの雄叫びが果たして、声をかけたという表現で合っているのか。出久は疑問に思ったが、訂正する気力はなかった。はは、と乾いた笑いだけが出る。すでに何とも言えない疲労感で、心が沈みかけていた。
突如そうだ、とオールマイトが何かを思い出したかのように声を上げる。出久はもう一度、垂れ下がっていた顔をオールマイトに向けた。
「途中から見ていたので、詳細は分からないが。あれは君のお姉さんが、個性を使おうとしていたのか? それともただのブラコン?」
「前者ですっ!」
やや食い気味に出久は吠えた。分かっているよ、とオールマイトが笑っても、厳しい目を向け続ける。たしかに仲の良い姉弟だとよく言われるが、別にブラコンだとかそんなことーー
「ジョークだよ、緑谷少年。お姉ちゃんの体で弟を元気に……なんて、今時AVじゃあるまいし」
オールマイトがマッスルフォームになるのは、何かしら興奮した時。出久は短いがこれまでの付き合いで、そんな考察をしていた。しかしそれもどうやら、改めなければならないらしい。まさか自分のような非力な者の眼光で、かの有名なオールマイトが、興奮する訳がないからだ。
「えっと、ゴメン……ほんと」
画風の違いに冷や汗も加筆され、オールマイトから空白がほぼ消えた。出久はこんな顔も出来るのかと、すかさず心のヒーローノートに書き込む。そしてブツブツと、思考の波に身を委ねようとしてーーオールマイトの咳払いで我に返った。ひとまず、渾身の眼光は引っ込めておく。同時にオールマイトもマッスルフォームから、トゥルーフォームに戻った。
「だが実際、あの場ではああする他なかった。それに監督者がいると分かれば、君の家族も安心しよう。結果的に良かったのではないか?」
「そう、ですね……はい」
何だか、丸め込まれた気がしないでもないが。オールマイトがそう言うなら、出久としてはもう反論はない。この際、多少の悔恨には目を瞑ることにした。相手がまだ、名前で良かったと前向きに考える。
「ところで。お姉さんがブラコンでないのなら、君がシスコンという線は……はっ、まさか緑谷少年! 今でもお姉さんとお風呂ーー」
オールマイトは意外と、年相応に?オジサンくさいことも言う。出久は今日だけで二つも新たな発見があったことに、心を震わせた。そして自分はこうはならないぞ、と密かに決意を固めるのだった。
*
「た、ただいま……」
あの後、しっかりと今日の分のトレーニングを終え、出久は帰宅した。開始から約二週間が経ったとはいえ、まだまだ体は慣れず、悲鳴を上げている。靴を脱いで靴箱にしまうという簡単な動作を、酷くゆっくりと行った。
自室に行こうとしたその時、隣の部屋のドアが開く。出てきたのは、部屋の主である名前だ。バッチリと目が合う。出久は咄嗟に、何か言わなくちゃと思考を回転させーーだが先に口を開いたのは、名前だった。
「お帰り、出久。もうすぐ晩御飯だよ」
「あ、うん……すぐ行くよ」
いつも通りのトーンで紡がれたそれは、出久の緊張を幾らかほぐした。表情に出ていたのか、名前がくすりと笑う。だがすぐさま不服と言わんばかりに、口を尖らせた。出久はおや、と思う。顔に感情が出やすいのは、別に出久だけではない。
「あの、さ。オールさん、だっけ……悪い人ではなさそうね」
そうボソリと呟く名前に、出久の心は温まる。そして改めて思うのだ、彼女ほど家族想いな人はいないと。
まるで他人事のように、ハハハとオールマイトが笑い飛ばす。出久はどう返してよいか分からず、苦笑いを浮かべた。名前が帰ってから四、五分は経ったというのに、いまだ心境は複雑である。
あの後、すこし休憩しようというオールマイトの提案で、出久は手頃な廃棄物に腰掛けていた。オールマイトも近くの廃棄物の上に座っている。お互い思うところがあったのか、暫くはだんまりだった。
「すみません、オールマイト。僕が……僕が家族のことをちゃんと説得出来ていれば」
出久は、申し訳なさで胸が締め付けられる。だが俯いては、目を逸らしてはいけないと、オールマイトを見つめ続けた。ニコリ、オールマイトが笑いかけてくる。
「なに、君のせいではない。たしかに力不足な部分もあったかも知れないが、言えないことも多いからね。それは仕方のないことだ」
オールマイトにとって、トゥルーフォームは重要な秘密だ。勿論オールマイトとの関係が始まってから口外はしていないし、今後するつもりもない。だが名前は聡い姉だから、あんな言い訳では誤魔化されないだろう。もしかしすると、何か勘づいたかもーーふと、出久にある疑問が浮かぶ。
「ずっと隠れていれば良かったのでは……?」
「あっ、そこ気付いちゃう? やるな少年!」
ガクリ、出久は脱力の反動で今にも崩れ落ちそうだった。あれだけ下げるものかと踏ん張っていた顔も、だらんと垂れ下がる。
オールマイトのせいだと、声を大にして言うことは出来ない。だがここには隠れる場所など、幾らでもある。オールマイトのような巨漢であっても、余裕だ。
「君のお姉さんが、急に服を脱ぎだすものだから。驚いて、つい声をかけてしまった」
あの雄叫びが果たして、声をかけたという表現で合っているのか。出久は疑問に思ったが、訂正する気力はなかった。はは、と乾いた笑いだけが出る。すでに何とも言えない疲労感で、心が沈みかけていた。
突如そうだ、とオールマイトが何かを思い出したかのように声を上げる。出久はもう一度、垂れ下がっていた顔をオールマイトに向けた。
「途中から見ていたので、詳細は分からないが。あれは君のお姉さんが、個性を使おうとしていたのか? それともただのブラコン?」
「前者ですっ!」
やや食い気味に出久は吠えた。分かっているよ、とオールマイトが笑っても、厳しい目を向け続ける。たしかに仲の良い姉弟だとよく言われるが、別にブラコンだとかそんなことーー
「ジョークだよ、緑谷少年。お姉ちゃんの体で弟を元気に……なんて、今時AVじゃあるまいし」
オールマイトがマッスルフォームになるのは、何かしら興奮した時。出久は短いがこれまでの付き合いで、そんな考察をしていた。しかしそれもどうやら、改めなければならないらしい。まさか自分のような非力な者の眼光で、かの有名なオールマイトが、興奮する訳がないからだ。
「えっと、ゴメン……ほんと」
画風の違いに冷や汗も加筆され、オールマイトから空白がほぼ消えた。出久はこんな顔も出来るのかと、すかさず心のヒーローノートに書き込む。そしてブツブツと、思考の波に身を委ねようとしてーーオールマイトの咳払いで我に返った。ひとまず、渾身の眼光は引っ込めておく。同時にオールマイトもマッスルフォームから、トゥルーフォームに戻った。
「だが実際、あの場ではああする他なかった。それに監督者がいると分かれば、君の家族も安心しよう。結果的に良かったのではないか?」
「そう、ですね……はい」
何だか、丸め込まれた気がしないでもないが。オールマイトがそう言うなら、出久としてはもう反論はない。この際、多少の悔恨には目を瞑ることにした。相手がまだ、名前で良かったと前向きに考える。
「ところで。お姉さんがブラコンでないのなら、君がシスコンという線は……はっ、まさか緑谷少年! 今でもお姉さんとお風呂ーー」
オールマイトは意外と、年相応に?オジサンくさいことも言う。出久は今日だけで二つも新たな発見があったことに、心を震わせた。そして自分はこうはならないぞ、と密かに決意を固めるのだった。
*
「た、ただいま……」
あの後、しっかりと今日の分のトレーニングを終え、出久は帰宅した。開始から約二週間が経ったとはいえ、まだまだ体は慣れず、悲鳴を上げている。靴を脱いで靴箱にしまうという簡単な動作を、酷くゆっくりと行った。
自室に行こうとしたその時、隣の部屋のドアが開く。出てきたのは、部屋の主である名前だ。バッチリと目が合う。出久は咄嗟に、何か言わなくちゃと思考を回転させーーだが先に口を開いたのは、名前だった。
「お帰り、出久。もうすぐ晩御飯だよ」
「あ、うん……すぐ行くよ」
いつも通りのトーンで紡がれたそれは、出久の緊張を幾らかほぐした。表情に出ていたのか、名前がくすりと笑う。だがすぐさま不服と言わんばかりに、口を尖らせた。出久はおや、と思う。顔に感情が出やすいのは、別に出久だけではない。
「あの、さ。オールさん、だっけ……悪い人ではなさそうね」
そうボソリと呟く名前に、出久の心は温まる。そして改めて思うのだ、彼女ほど家族想いな人はいないと。