甘い孤独

「好きです…。」
 口をついて出た自分の言葉が、頭の中でこだまする。彼の寝息が小さく漏れる。そっと彼に口づけをしてその場を後にした。

 此処…昭倭五年を訪れるのも、何回目だろうか。初めて彼と出会った時、奇怪な心持ちにならなかったといえば嘘になるが、それともう一つ、胸奥で別の感情の揺らめきを感じたのも事実である。
 今まで知り得なかった感情。甘いようでいて苦い。「葛葉ライドウ」として必要のない感情、あってはならない感情。そう考えていたものがもう一人の「葛葉雷堂」によって溢れ出してしまった。
 
 何時ものように自室の戸を開ける。厭、実際は自室といってよいものなのかは分からないが。
 自分と鏡合わせのような顔の男が此方を見る。自分の顔と唯一違うその目元についたその傷は男の勲章というやつなのだろうか。
 彼は自分を静かに抱き寄せた。彼の吐息と熱が伝わってくる。自分を見詰めるその眼差しは何処となく哀しさを帯びていた。そして、優しく唇を奪った。円舞曲ワルツの様に舌が絡まり合う。彼に頭が掻き乱されてしまって、彼を求める以外の事は考えられなくなっていた。

 あれから、両方とも寝てしまっていた。自分はもう戻らなければならない。…彼を置いて。
 彼は自分で、自分は彼で。愛し愛されているのに、矢張り孤独なのだ。
 自分を強く抱きしめている暖かい腕をそっと解いて、顔の傷に合わぬほどの無垢な寝顔の彼への想いが溢れ、口から漏れる。

_____それは、残酷な程に甘かった。
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