甘い孤独

 とある夕月夜のことだった。これで何度目だったか、自身と瓜二つの男が現れた。男の腰に手を回し、我はそのまま彼を抱き締めた。蝶や花を傷つけまいとするかのように優しく。決して離さぬように、離れられぬように強く。
 男は我を見詰める。紅潮した頰、少し速い心音、乱れた呼吸音、微熱。我に、我だけに向けられた甘い視線の欲するものを、我は与える他無い。
 彼の吐いた息を、決して漏らさぬように奪う。そして、此方の息で満たす。絡まり合う舌はさらに熱を帯びる。

__嗚呼、厭程感じているこの熱のなんと甘いことか。さらに求めてしまいたくなるほどに…。
 何れ程今我が腕の中の男を愛しても、彼は我であり、我は彼なのだ。
 出逢わねば、愛さなかっただろうに。いや、本来出逢うはずがなかったのだから、愛することもなかったのだ。しかし、この甘い熱を知ってしまった今となっては、それを失うことは考えられないのだった。

 そのまま眠ってしまったのだろうか。窓の外の気附ば月光が濃くなっていた。何処にも行けぬようにしていたのに、男の姿はもうなかった。
 口腔と腕の中には未だ熱が残っていた。
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