猫可愛がり

大きな桜の木の下から笙、横笛、シンバルの流麗な調べが聴こえる。演奏しているのは桜色の烏帽子と前掛けをした三匹の白い猿達だった。
笙を吹くのは「花咲」の筆神・咲ノ花神、横笛を吹くのは「水蓮」の筆神・蓮ノ花神、そしてシンバルを鳴らすのは「蔦巻」の筆神・蔦ノ花神である。三人は「桜花」の筆しらべを司る桜花三神なのだ。
楽しそうに各々の楽器を奏でる三神は演奏を聴きに来た客に気づいていない。
「おや?これはこれは、壁神サンじゃないですか?」
横笛を吹いていた蓮ノ花神が聴客の姿に気づいたようだ。
客は三神と同じ白毛に紅色の隈取をした猫…壁神である。三神の演奏に壁神はご機嫌な様子で尻尾をゆっくりと揺らしていた。
蓮ノ花神の言葉に、他の二人も演奏をやめ壁神の方を見る。
「アラ、壁神サン!聴いてたのですか!ワタクシ達の演奏、いかがでしたか?」
「壁神サン、壁神サン、お魚食べる?」
「え、え〜っと…。」
三人一斉に話しかけられて、壁神は困惑する。 「おっと、ごめんなさい。三人で話されたら困っちゃいますよね。で、どうでしたか!?ワタクシ達の演奏!」
咲ノ花神が笑って言う。
「すごくよかった!あんな綺麗な音色、初めて聴いたよ!」
咲ノ花神の質問に壁神は答える。
「嬉しいこと言ってくれるね!壁神サン!」
蔦ノ花神も満面の笑みで言う。
「ところで、どうしてワタクシ達の演奏を聴いてたのですか?」
蓮ノ花神が聞く。
「蘇神に用事あって、その帰りに綺麗な音が聞こえてきたから、立ち寄ってみたんだ。」
「「「か、壁神サン…。」」」
あまりの嬉しさに何も言えなくなってしまった三神。その目は喜びの涙で少し潤んでいるようだ。
「壁神サン!ワタクシ達に何かあげさせてください!」と咲ノ花神。
「え?そんな、わたしは三神の演奏が聴けて満足だよ。」
「そんな遠慮しないでください!ワタクシ達は好きでやってるんですから!」と蓮ノ花神。
「う〜ん、そうかぁ…。」
壁神は少し悩んで、そして何かを思い出したように自分の荷物を下ろす。壁神が荷物の包を開けると中から白色の花瓶…もとい猫じゃらし瓶が出てきた。
「三神の桜花でお花を出してほしい!それをこれに飾るんだ。」
「「「えぇ、それならお安い御用!」」」
三神は口を揃えて言い、花瓶に向かって丸を描く。すると、花瓶には一輪の大きな向日葵が現れた。
「わぁ、向日葵だ!慈母の花だ!ありがとう!」 壁神は花が咲くように笑う。
「喜んでもらえたならよかった。」と蔦ノ花神。
壁神は花がしおれないように、花弁だけを出させて花瓶をまた包む。
「じゃ、またねー!」
荷物を背負い、三神に別れを告げ壁神は歩き出す。
「「「また聴きに来てねー!」」」と、三神はやはり声を揃えて言うのだった。
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