猫可愛がり

「あ、あそこ!」
「よし、今片付ける。」
夜闇の中、白銀の猛虎が稲妻の矢を放つ。撃たれた矢は一筋の光となり、妖怪の体を貫いた。
その様子を壁に貼り付いて見ていた白銀の愛らしい猫が鼻を鳴らしながら言う。
「わぁ!撃神すごーい!!かっこいい!!」
しかし、撃神と呼ばれたその虎は、白猫の声に応ずることなくただ黙り込んでいる。これは撃神がこの白い猫、壁神に無関心な訳では無い。いやむしろ、壁神のことで頭がいっぱいいっぱいなのである。
(壁神…、なんと可憐で健気なのだろうか。俺がお前を守らねばならぬな…。お前を見ていると、何故か俺の心に稲妻の走る心地がする…。)
壁神の方をじっと見つめ、そのように想う。ここまで壁神に対し想っている撃神であるが、実は自分の恋心に気づいていない。撃神は目も耳も鼻も敏感なのだが、気持ちの面においては少し鈍い所がある。
それ故、長年2人の神に想われているのに、全く気付いていないのである。1人目は撃神の一番の信頼できる友人、凍神。もう1人は…、
「げーきーがーみっ!ぼーっとしてどうしたの?」
その声にはっと気づき声のした方を見る。先程まで壁に貼り付いていた壁神が下まで降りてきている。可愛らしげにニャーンと鳴いて撃神を呼ぶ。そう、今この白虎が見下ろしているこの白猫こそ、撃神を想うもう1人の神であった。
「あ、いや、何でもないぞ…。」
撃神は言葉を濁す。この白猫に対する自分の心の名に全く気づいていないのに。何故この白猫のことを考える度に自分の心臓がざわつくのかさっぱり解らないのに。今考えていることを知られたいような知られたくないような、そんな心地がしたのだ。
「そ、そっか。」
想い人の素っ気ない態度が気になる様子で答える壁神。こちらはというと、自分の心はよく理解しているが、相手の無自覚の心には全く気づいていない。
「おい、壁神!見てみろ!!」
壁神の心が渦を巻いているのを静止させたのは撃神のその声であった。
撃神の指す方を見ると、山の向こうから日がめらめらと赤く燃えながら上っている。日の光が空を少しずつ紅色に染め上げている。
(わあ…きれい…。)
まじまじと日の出を眺める可憐なる白猫を、愛おしそうに猛き白虎は見つめる。優しくゆっくり揺れる尻尾は壁神の全てを代弁していた。
「お前に…、お前と、この美しい朝焼けを見ることができて、よかった。」
撃神の口からその言葉がこぼれ落ちた。 壁神の心がまた揺れる。本当にこの虎は。今見えるあの朝日のように壁神の心も恋という火に赤く燃えている。
「わたしもっ!」
壁神は嬉しそうに笑って答える。そんな壁神の愛くるしい笑顔にやはり胸が締め付けられそうになる撃神。
しかし、その気持ちの正体に気付くにはやはりまだ時間がかかりそうなのであった。
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