猫可愛がり

どしん、どしん、と響き渡る音を立てて雪のように白い牛が歩いている。白牛は烏帽子を被り、首から法螺貝を下げており、普通の牛とは一風変わった様子である。さらに、紅の隈取りが見受けられる。この牛もまた筆神の一神であり、吹雪を司る凍神である。
凍神が重々しく歩いていると一匹の白い猫に出会った。愛くるしいその姿は凍神の目にも止まった。
「おはよー。凍神。」
この白猫、壁神が尻尾を立てて小さくニャッと鳴き挨拶をする。
「おはよう…。」
凍神は頷き、目を細め微笑み静かに挨拶を返す。首から下げた法螺貝が静かに揺れる。凍神はこの通り物静かなのである。
壁神をじっと見つめていると、凍神の心に白い虎の姿が思い浮かんだ。
「お前は…いいな…。」
そよ風にさえかき消されそうなほど、小さな声で凍神は呟く。
「ん?何が?」
しかし壁神は猫。虫の声程の凍神の言葉をしっかりと耳で捉えたのだ。凍神は慌てる様子もなく答える。
「いや…何でも…ない。」
「ふーんまあいいけど。」
壁神は細かいことは気にしない。良い昼寝場所を探すことほど大切なことは壁神にとって無いのである。

壁神と別れた凍神はまた重厚な足取りで歩き出す。その威厳に満ち溢れた様の心の中は、やはり白虎に支配されていた。
その白い虎は撃神。迅雷を司る筆神である。凍神の古くからの友人にして何十年にもわたる想い人である。しかしながら、この虎は恐らく、先程の可憐なる白猫に思いを寄せている。凍神はそのことを解っているのだが、当の白虎は自分が恋をしていることも、されていることにも全く気づいていないのである。

撃神がこのようなので、切なさよりも呆れの方が少々勝っている凍神である。それでも、想い人の想い人である壁神が羨ましいと感じることもあるのだろうか。
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