審神者と騎空士と魔法使いと英霊が来る特異点

 20XX年、京都。

 審神者は一人京都駅にて立ち尽くしていた。正確には一人ではなく護身用に短刀を忍ばせている。もちろん現代日本では充当違反になるので見えないようしっかりと鞄の中隠している。今は周りに浮かないように審神者はいつも来ている袴ではなくカジュアルな服を身に着けていた。故に懐に短剣を忍ばせるわけにもいかず、鞄に入れるしかなかったのである。

 短刀「ねぇ主さぁん、ボクも外見てみたーい」
 審神者「(こら! 乱、静かにして。喋っちゃダメ!)」

 小声で叱咤する審神者に対し、短刀の乱藤四郎はケラケラと笑った。

 乱藤四郎「大丈夫だよ~。ボクの声、主さんにしか聞こえないから」

 ならば尚のこと喋らないでいただきたい、と審神者はため息を吐いた。これでは周りから見れば独り言をぶつぶつ話す怪しい人物と思われてしまう。乱藤四郎はさて置き、審神者はぐるりと辺りを見回した。京都と一言に言っても広い。しかし、敵が現れれば騒ぎになるはず。なんとか騒ぎになる前に事を収めたいところだが、と審神者は注意深く辺りを見回すが、如何せん広すぎる。移動するにも何処へ移動すればいいのかわからない。さて、どうしたものか、と審神者は鞄の中から一通の手紙を取り出した。

 それは昨日の朝のことだ。一通の手紙が審神者の住む本丸へ届いた。手紙など寄こすのは一つしかない。時の政府からだ。家族からの手紙さえ、一度時の政府を通って審神者の本丸へ届けられるシステムだ。今度は何だと審神者が手紙の中を確認すると、それは通常とは異なる討伐依頼であった。
 時の政府は所謂現代の人間たちが作った非営利団体の一つだ。時の政府は現代において何らかの要因によって歴史がずれていることを確認。それに伴い過去に何者かが歴史修正者と名乗る敵を送り込んでいることを突き止め、事態解決に向け歴史修正者の討伐とその根本である問題解決の糸口を探るべく研究が進められた。世間に公表するとパニックを引き起こす可能性もあることから公表はせず、時の政府は宗教法人としての組織団体を設立。その中で審神者制度を作り上げた。審神者は刀を模した疑似刀へ付喪神を降ろし、具現化、また擬人化させ過去へと送り込む。審神者の元へ降ろされた付喪神は刀剣男子と呼ばれ、日夜過去へ赴き歴史修正者達と戦っていた。
 しかし、最近の研究により時の政府は現代にも歴史修正者が現れていることを確認していた。時の政府は現代より過去の歴史修正者しか認識できておらず、その黒幕も現代若しくは過去にいるだろうと判断していた。それが現代にも表れたとなるとそれよりも未来に黒幕がいることになる。時の政府が発足したのは現代の20XX年。やっと研究、審神者の人手不足や団体維持費の問題も落ち着いてきた頃であった。未来に刀剣男子を送るシステムは未だ作られていない。だからと言ってこのまま現代を放ってはおけない。そこで何人かの審神者に現代の調査を進めてもらい、データを集めることになった。現代において未来に名を残すような者、あるいは団体の近くへ審神者を送り、敵が現代のどこに現れるのか調査を依頼した。
 今、京都にいる審神者は時の政府の研究施設が京都にあることから、その研究施設周辺を調査するよう依頼された。研究施設は京都駅ビルの地下にある何フロアかを借りている、とのことで審神者は京都駅に立ち尽くしていたのだった。依頼の手紙を読み返していると、すぐ近くに人だかりができているのに気づき、審神者は慌ててその人だかりへ飛び込んだ。敵かと思ったが、人々の中心にいるのは二人の少女だった。その内の一人が周りに食って掛かっている。

 少女「だから、ビィは人形じゃありませんってば! ちょっと引っ張らないで!!」

 少女は腕の中に赤い人形(?)を抱えていた。いや、人形ではない。何かはわからないが赤いものは腕の中で動いている。尻尾に羽根がついている。その尻尾を物珍しそうに人々が触ったり引っ張ったりし、中には写メを撮る人もいた。赤い何かを抱いた隣には青い髪の少女がいて今にも泣きだしそうだ。歴史修正者とは関係なさそうだが、審神者はいてもたってもいられず輪の中に飛び込んで赤いものを抱いている少女の腕を掴んだ。

 少女「ちょっ…何するの!?」
 審神者「こっち!!」

 少女とそのまま人だかりから抜け出して人通りの少ない地下の階段下にまで連れて来た。青い少女もしっかりと着いてきてくれていた。人だかりの人はもういないようだ。別に追われているわけではないらしい。

 青い髪の少女「もしかして、私たちのこと助けてくれたんですか?」
 赤いもの「そうなのかぁ!? ありがとうな、姉ちゃん!」

 赤いものが喋った。いや、刀も具現化して擬人化して喋るくらいだ――ご飯も食べるし――、羽が生えてて、空も飛んで、尻尾がある赤いトカゲだって喋るのかもしれない。いやない、それはない。審神者は頭をぶんぶん振って改めて二人の少女と赤いものに目をやった。少女は金髪だし、肩に鎧のようなものを着けているし、両手にも籠手を着けている。青い髪の少女は髪が青いだけでも目立つのに真っ白なワンピースに裸足だ。赤いものについては動かなければマイナーなアニメのぬいぐるみとでも思われたかもしれないが、動くし飛ぶし喋るしで人目を引かないわけがなかった。

 審神者「君たち、何物?」

 審神者の問いに三人は顔を見合わせて、何故か得意げに笑った。

 少女「私はジータ! 騎空団の団長よ!」
 青い髪の少女「私はルリアっていいます!」
 赤いもの「オイラはビィだぜ!」

 審神者「きくうだん?」

 ジータ「最近星晶獣が暴れだしたって言われて鎮めるために依頼を受けたんだけど……」
 ルリア「その島に着いたとたん、不思議な光に包まれて……」
 ビィ「気が付いたらこの島の上空を飛んでたんだよな!」

 審神者「せいしょう……何て?」

 ジータ「それで船の上から島の様子を窺ってたんだけど、埒が明かないから島に居りて探索しようと思ったの」
 ルリア「この島って不思議なものが多いですよね! 人もすごくたくさんいますし!」
 ビィ「んで、色々歩きまわってたらオイラ達の船が別の変わった船に追いかけられてて、どっかへ逃げて行っちまったんだよな」

 審神者「んんん???」

 ジータ「あ! 私たちの艇!」
 ルリア「あぁぁ、でもまだ追いかけられてますー」
 ビィ「こりゃぁ、当分艇には帰れそうにねぇなぁ」

 ジータと名乗る少女が空を指さすので審神者も空を仰ぎ見てみると、大きな飛行船が何台かのヘリコプターに追われている。飛行船にしては確かに船に近いような形をしているが……。

 ジータ「仕方ない、魔法を打ってあの追いかけてきてる船を撹乱してみよっか」
 ルリア「ジータ、頑張ってください!」

 気が付けばジータはとんがり帽子にセーラー服のような襟とネクタイ、白いレースのスカートに紫のマントを身に着け、大きな杖を空に掲げていた。

 審神者「え、ちょ? 何!? 早着替えっ!!?」
 ジータ「エーテルブラスト! スリー!!!」

 ジータの掲げる杖から5色の何かが弾けるように飛び出して空へと飛んで行った。そしてその内の一つがジータの艇(?)を追いかけているヘリコプターの一機に当たった。『ドォーン!!!』という大きな音と共に落下していく元ヘリコプターの残骸。

 ジータ「あ、やば。当たっちゃった」

 てへ、と舌を出してジータが謝っているが、もう只事ではない。ヘリコプターが線路の上に落ちたらしく京都駅周辺は騒然としてきた。

 審神者「撹乱って言ってなかった!?」
 ジータ「ごめん、ごめん。なんかこの島魔法扱うの難しくなってるみたい」
 審神者「めちゃくちゃ大事になってるけど!?」

 正直もう歴史修正者どころの話ではなくなってきている審神者である。

 少女「やっぱり! 魔力の流れが違うっていうか、魔法のコントロールが難しいですよね!」

 審神者たちが右往左往していると、また別の少女が話しかけてきた。どうやらジータとの会話を耳にしていたらしい。審神者は思った。

 審神者「めっちゃピンク……(あ、思わず口に出してしまった!)」
 ジータ「本当だ! ピンクの髪って珍しいね」
 ルリア「杖もとっても綺麗です!」
 ビィ「お前も魔法が使えるのか?」

 少女「はい! 私、リズベットって言います! 聖石について情報を追ってたらいつの間にかここにいて、知り合いもいないし、どうしようかなーって思ってたら空に向かって魔法が飛んでくのが見えて。それでもしかして魔法使いがいるのかなーって見に来たんです!」

 怒涛の勢いで喋るリズベットに審神者が唖然としていると、

 ジータ「そうだったんだ! 私たちは星晶獣を追ってたら気付いたらここにいたんだ」
 ルリア「私、こんなに人や物が溢れてるの初めて見ました!」
 リズベット「そうなんだ! 私もだよー!」

 とジータ達には話は通じているようで、きゃっきゃと話に花を咲かせている。もうこの人たちを置いて立ち去りたいところだが、時の政府からの依頼を無下にも出来ず、かと言ってこのままこの人たちに関わっていてもいいのかわからない――どちらかというと関わりたくない――。

 少女「動かないで」

 ジータ達の明るい声がぴたりと止んだ。すぐ近くに二人の少女がこちらを睨みつけていたからだ。一人は拳を握りしめ、その手の甲になにやら模様が浮かび上がり、怪しく光っている。もう一人の少女はピンクの髪――審神者はピンクの髪を見たのは初めてなのに1日に2人も見てしまったと驚愕している――に眼鏡をかけ、大きな盾を構えていた。そのほかにはもう人はいない。どうやらヘリコプター墜落のせいで人々は駅ビルから出て行ったらしい。人はいないが、避難を呼びかけるスピーカーの声だけがビル内に鳴り響いていた。

 少女「あなた達、この世界の魔術師?」

 審神者「この世界って……(まるで別の世界から来たみたいな言い方)」
 ジータ「多分違う。私は魔術師でもあるけど、それ以前に騎空士だし、この世界の人間じゃないよ」
 審神者「違うの!?」

 審神者が驚く間もなく、リズベットも頷く。

 リズベット「私は魔法使いのリズベット。私も多分、この世界の住人じゃないと思う。だって、こんなにも人が集まって、こんなにも技術が発展している街を、私は聞いたことも見たこともないもん」

 すると声をかけてきた少女と眼鏡の少女はお互い目を合わせて、警戒を解いたようだった。けれど、先よりも困ったように眉を潜めている。

 少女「なにか凄く面倒くさい事態になってるかも」
 眼鏡の少女「はい、でもこの人たちも何か関係しているんでしょうか?」
 少女「さてね……」

 少女たちは審神者たちに近づいて手を差し出した。

 少女「私、藤丸立夏。魔術の回路を追ってここまで来たらあなたたちがいた。でも、何だろう。あなた達、普通の人間だよね?」
 少女「私はマシュ・キリエライトです。でも観測によるとこの辺りから英霊に匹敵するほどの魔力を察知したとのことでしたが……」

 二人に改めて審神者、ジータ、ルリア、ビィ、リズベットは握手を交わし、互いを紹介しあった。同時に自分たちが探しているものも明かした。審神者は歴史修正者を追い、討伐が目的。ジータ達は暴走する星晶獣を沈め、その力を吸収することを目的としている。リズベットは聖杯の情報またはそのものを追っている。そして藤丸立夏たちは聖杯を追ってここへレイシフトしてきたのだと言う。20XX年の京都に様々なものが集まりつつある。

 藤丸立夏「歴史修正者に星晶獣? 聖石? 聖杯? この特異点色々集まりすぎだよね」

 この少女たちが求める全ての物に対し様々な試練を乗り越えるに辺り、少女たちがチームとしてタッグを組むことを、この時はまだ少女たちは知らなかった。審神者、刀剣男子、騎空団、魔法使い、英霊達を迎え撃つのは一体何者なのか……。






 乱藤四郎「ね! 主さん! ボクもういい加減出ていいかな!?」
 審神者「(ダメだって! 喋らないでって!)」

 ジータ「ん?」
 ルリア「今誰かほかの声が聞こえたような……」

 審神者「(ひぃ!)気のせいじゃないですかね!!?」

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