Existant Hero
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「「「おつかれーっ!!」」」
調査兵団本部の食堂にて、本日は調査兵団全員で飲み会が行われていた。
兵士といえど、休息が必要だと団長が自ら食材や酒を調達してきて、今に至るわけだ。
もちろん、兵士たちは両手を上げて喜んだ。
先日の壁外調査に赴き、生き残った新兵たちは、特にそれに喜んでいるようだった。
食糧難と言われる昨今、このような豪華な食事にありつけることなど、そう何度とあることではないと、彼等は理解していたためだろう。
そんな喜びを分かち合うように楽しく酒を酌み交わす彼等だったが、そんな彼等は実は、ある一角で飲み交わしているグループを異常に警戒していた。
食堂の隅に座る三人は、それぞれ水を飲むようにゴクゴクと酒を飲みながら楽しそうに会話を繰り広げているようだった。
表面上は騒いでいる彼等からは、もちろん彼女たちの会話を聞くことなどできない。
しかし、彼等は心底ビビッていた。
座っている三人とは、調査兵団の団長を務めるジーン。
今回の壁外調査での功績により分隊長へ出世した、巨人へ異常な執着心を見せる、性別不明なハンジ。
そして、今年の新兵の中でも分隊長の危機に、初めて目の当たりにした巨人に、一番に斬りかかって行った勇敢な兵士として、団長に気に入られているナナバ。
「何話してるんだろうな、あの三人」
「何話してたとしても、何か恐ろしさを感じる三人だよな」
「つーか、あれ酒だよな? 水じゃないよな!? なんであんな飲みっぷりいいんだよ。俺ら形無しじゃねぇか」
ぼそぼそと話しながらも、彼等は三人を見た。
それぞれが整った顔立ちをしており、三人とも性別が判別しにくいような顔立ちをしている。
近寄りがたいあそこへ、あの楽しそうな会話をしているところへ混ざってみたいという気持ちは、もちろん彼等にはあった。
何せ、団長は冷たくて恐ろしい人であったが、誰より仲間を大切にしてくれているということを、彼等は知っていたからである。
そして、弱音を吐くところなど見たことのない、強くて凛々しい彼女に憧れ、好意を寄せている人は少なくなかった。
ただ、それを口にする度胸が彼等にないだけで……。
とにもかくにも、彼等は話しかけたい、話に混ざりたいという思いを持ちつつ、恐ろしく、そして自分が先に話しかけたいばかりに、互いを牽制していた。
そのため、段々と微妙な空気が食堂へ広がり始めていた時だった。
ナナバと同期で入団し、ナナバと共に巨人に斬りかかった新兵、ゲルガーが酔っぱらった勢いのまま、三人の元へフラフラと歩いて行ったのである。
「あのバカ!」
「団長に絶対吹き飛ばされるぞあのバカ!」
「誰だあのバカ野放しにしたのは!?」
バカだバカだという声が彼に聞こえるはずもなく、彼は空いている団長の隣の席に座った。
「団長~、飲んでますか~?」
あのバカ、骨折で済むといいな。
周りからは、そんな憐みの表情が向けられているとも知らず、彼は呑気にへらへらしながら、赤い顔でそう言った。
「誰だ、お前」
酒をぐいっと煽りながら、団長はそういう。
ナナバは、慌ててゲルガーを団長から引き離しながら言った。
「私と同期で入団した、ゲルガーです」
「君、その頭面白いねー」
ハンジは、楽しそうに笑う。
「ねぇ~団長~?」
「ゲルガー! 団長に対して、そんな態度は……」
「下がって、ナナバ」
ナナバが、諦めたようにゲルガーから一歩距離を取った瞬間、ゲルガーは食堂の端の壁までぶっ飛んでいた。
ガラガラと崩れていく音と、煙が舞う。
「ハンジ、ナナバ、私もう寝るわ。あとよろしく」
「おやすみー」
「おやすみなさい」
二人から返事をもらい、彼女はちらりと兵士たちを見た。
瞬間、兵士たちはびくっ! と肩を跳ね上げて、「お疲れ様でした!」と頭を下げると、彼女は食堂から姿を消した。
「…………機嫌、悪かった……のかな?」
「いや、わかんねぇ。あの人に、機嫌とかそういうのあったっけ?」
「つか、今の顔怖かったー。まだ怒ってる顔のがいいっスよ。無表情とか、俺凍らされたかと思いました」
口々に団長のことを言い合った彼等は、ようやくゲルガーの無事を確認し、数人で医務室へと運んでいく。
そんな姿を見て、ハンジとナナバは小さく笑った。
コツコツと規則正しい音が、廊下に響く。
廊下を歩いていたジーンは、不意にバルコニーに目を向けた。
そこには、月を見ながら酒を飲む男達の姿が目に入り、彼女はそっと足を忍ばせた。
「悪かったな、ナイル」
「そう思うなら、頼まないでくれ」
「ジーンがどうしてもと言っていたからな」
「お前ら二人から、さらにジーンからも頼まれたとなりゃ、断れないだろうが」
ナイルが愚痴を溢すと、ミケとエルヴィンは顔を見合わせて静かに笑った。
「男だらけで月見酒なんて、寂しいことしてるのね」
ナイルの背後から、そっと囁くように言うと、彼女の声にナイルは飛び上がって酒をぶちまけた。
「ジーン!? 驚かすなっ!」
「なによ、食堂で飲めばいいのに、こんなところで飲んでるなんて……しかも男だけで」
「もうあっちは盛り上がってるんだろう? 俺たちがいない方がいい時もあるかと思ってな」
ミケは、エルヴィンの言葉に頷く。
「……で、男だらけで酒なんて、風情がないわね」
「文句言ってないで、お前も座って飲めばいいだろ?」
ナイルがそういうと、彼女はスッと目を細めた。
「結構。驚かせたから、もう満足したわ」
そう言って、彼女はすぐにその場から去って行ってしまった。
「あ、おい、ジーン!? なんなんだ、あいつは……」
「寂しかったんじゃないか?」
ミケがそういうと、エルヴィンとナイルは二人して顔を見合わせた。
「俺たち同期が集まって酒を飲んでるのに、あいつだけいなかったからな。呼んでもらえなかったと拗ねているんじゃないか?」
「ミケ、それは…………」
エルヴィンは、額から出てきた汗を拭いながらミケを見た。
そして、ナイルもまた驚いた様子でミケを見ながら言った。
「ありえんだろう、ジーンに限って」
エルヴィンとナイルは、互いに顔を見合わせては、「いやいや、ないない」「あれにそういう感情は持ち合わせがないだろう」などと言い合っていた。
「はっくしゅん!! 誰か噂してるわね、ナイルとエルヴィンか……」
彼女は歩きながら、鼻をすすった。
歩いていると、月明かりに照らされた廊下がやけに明るく見えたのか、ジーンは空を見上げる。
そして、窓を開けた。夜風がふんわりと入ってきて、酒の匂いばかり嗅いできた鼻が休まるような気がした彼女は、窓に頬杖をついた。
そして、すぐ下を見て後悔した。
(なんでこうも、人を見つけてしまうかな私は……)
二階だったせいか、予想以上に近くに人がいた。
外に置かれている器具を使って、筋力トレーニングをしている人物がいたのだ。
(リヴァイか……)
姿が見えなくても、彼女は確信した。
ジーンにとって、彼の存在はいつの間にか大きなものとなっていた。
それに彼女が気付いたのは、先日の壁外調査の撤退中だ。
拠点から壁内へ行くまでの間にも、巨人の奇襲があったのだ。
しかし、それらは全て戦闘を走るリヴァイが一人で倒してしまったというのだ。
遠くからではあったが、肉眼でそれを確認していたジーン自身、彼の成長には目を見張るものがあると心底感じていた。
(私には、まだまだ勝てそうにないけどね~。今のところ)
以前まで、彼女は自身が死ねば、調査兵団の兵力は死んだも同然のようなものだと思っていた。
現在も、その意思が変わることはない。
しかし、リヴァイの存在は彼女にとって大きかった。
自分と同じように、兵士たちから一目置かれ、どんな巨体が現れようとも恐れず一人で倒し切ってしまえるほどの力を持つ彼の存在があるなんて、彼女は今まで思いもしなかったのだから。
(私がもし、死んだら――――)
考えそうになり、彼女はそれを否定した。
「はっ、あんなクソガキ程度に、私が持ってきたモノを持たせるなんて、できるわけないか……」
自嘲気味な笑い方をするジーン、自分で自分に腹が立つのか、髪をぐしゃりと握る。
責任、無念、怨恨、憎悪、様々な思いや感情が飛び出てきそうになる。
「くそっ……」
小さく呟くと、風が吹いた。
「クソババァか」
不意に、目の前にリヴァイの姿が現れる。
「なんだ、立体起動装置つけてたの……練習であっても、使用許可は取ってるんでしょうね?」
「うっせーな、エルヴィンに聞け」
エルヴィンにちゃんと許可を貰っているということだろう。
ジーンは鬱陶しそうに窓から離れると、リヴァイはその窓から廊下へ入ってきた。
「何してる、鍛錬してたんでしょ。続けろクソガキ」
「…………」
何も話さないリヴァイに、ジーンは放置しておいてさっさと部屋へ行こうと足を進めようとすると、スッと首元に刃の切っ先が当てられた。
「何を考えていた」
「は?」
「答えろ」
少し食い込ませて、血を出させようとしたリヴァイ。
しかし、力を入れても刃はびくともしなかった。
ジーンの手によって、刃が押さえつけられていたからだ。
「勘違いすんなクソガキ。刃を突き付けてるんじゃない。突き付けさせてあげただけ。私に傷をつけようなんて、百年早い」
「さっき……」
刃を下ろさせると、ジーンはリヴァイの方へ振り向く。
「何を考えていた」
「私の考えてたことが、そんなに気になるの?」
そう言い返すと、ジーンの思惑通り、彼は言い返せなくなる。
彼が言いたいのは、そういった意味でのことではないと、わかった上で彼女はそう聞いているのだから。
「私は、私に負けるような男と話すことなんて何もないわ。精々鍛錬を積んで、私を殺せるよう頑張って」
そう言って、彼女は歩き出して行ってしまった。
「巨人を絶滅させるのは、俺だ」
「寝言は寝て言え、クソガキ」
「てめぇこそ、さっさと定年退職しろクソババァ」
調査兵団本部の食堂にて、本日は調査兵団全員で飲み会が行われていた。
兵士といえど、休息が必要だと団長が自ら食材や酒を調達してきて、今に至るわけだ。
もちろん、兵士たちは両手を上げて喜んだ。
先日の壁外調査に赴き、生き残った新兵たちは、特にそれに喜んでいるようだった。
食糧難と言われる昨今、このような豪華な食事にありつけることなど、そう何度とあることではないと、彼等は理解していたためだろう。
そんな喜びを分かち合うように楽しく酒を酌み交わす彼等だったが、そんな彼等は実は、ある一角で飲み交わしているグループを異常に警戒していた。
食堂の隅に座る三人は、それぞれ水を飲むようにゴクゴクと酒を飲みながら楽しそうに会話を繰り広げているようだった。
表面上は騒いでいる彼等からは、もちろん彼女たちの会話を聞くことなどできない。
しかし、彼等は心底ビビッていた。
座っている三人とは、調査兵団の団長を務めるジーン。
今回の壁外調査での功績により分隊長へ出世した、巨人へ異常な執着心を見せる、性別不明なハンジ。
そして、今年の新兵の中でも分隊長の危機に、初めて目の当たりにした巨人に、一番に斬りかかって行った勇敢な兵士として、団長に気に入られているナナバ。
「何話してるんだろうな、あの三人」
「何話してたとしても、何か恐ろしさを感じる三人だよな」
「つーか、あれ酒だよな? 水じゃないよな!? なんであんな飲みっぷりいいんだよ。俺ら形無しじゃねぇか」
ぼそぼそと話しながらも、彼等は三人を見た。
それぞれが整った顔立ちをしており、三人とも性別が判別しにくいような顔立ちをしている。
近寄りがたいあそこへ、あの楽しそうな会話をしているところへ混ざってみたいという気持ちは、もちろん彼等にはあった。
何せ、団長は冷たくて恐ろしい人であったが、誰より仲間を大切にしてくれているということを、彼等は知っていたからである。
そして、弱音を吐くところなど見たことのない、強くて凛々しい彼女に憧れ、好意を寄せている人は少なくなかった。
ただ、それを口にする度胸が彼等にないだけで……。
とにもかくにも、彼等は話しかけたい、話に混ざりたいという思いを持ちつつ、恐ろしく、そして自分が先に話しかけたいばかりに、互いを牽制していた。
そのため、段々と微妙な空気が食堂へ広がり始めていた時だった。
ナナバと同期で入団し、ナナバと共に巨人に斬りかかった新兵、ゲルガーが酔っぱらった勢いのまま、三人の元へフラフラと歩いて行ったのである。
「あのバカ!」
「団長に絶対吹き飛ばされるぞあのバカ!」
「誰だあのバカ野放しにしたのは!?」
バカだバカだという声が彼に聞こえるはずもなく、彼は空いている団長の隣の席に座った。
「団長~、飲んでますか~?」
あのバカ、骨折で済むといいな。
周りからは、そんな憐みの表情が向けられているとも知らず、彼は呑気にへらへらしながら、赤い顔でそう言った。
「誰だ、お前」
酒をぐいっと煽りながら、団長はそういう。
ナナバは、慌ててゲルガーを団長から引き離しながら言った。
「私と同期で入団した、ゲルガーです」
「君、その頭面白いねー」
ハンジは、楽しそうに笑う。
「ねぇ~団長~?」
「ゲルガー! 団長に対して、そんな態度は……」
「下がって、ナナバ」
ナナバが、諦めたようにゲルガーから一歩距離を取った瞬間、ゲルガーは食堂の端の壁までぶっ飛んでいた。
ガラガラと崩れていく音と、煙が舞う。
「ハンジ、ナナバ、私もう寝るわ。あとよろしく」
「おやすみー」
「おやすみなさい」
二人から返事をもらい、彼女はちらりと兵士たちを見た。
瞬間、兵士たちはびくっ! と肩を跳ね上げて、「お疲れ様でした!」と頭を下げると、彼女は食堂から姿を消した。
「…………機嫌、悪かった……のかな?」
「いや、わかんねぇ。あの人に、機嫌とかそういうのあったっけ?」
「つか、今の顔怖かったー。まだ怒ってる顔のがいいっスよ。無表情とか、俺凍らされたかと思いました」
口々に団長のことを言い合った彼等は、ようやくゲルガーの無事を確認し、数人で医務室へと運んでいく。
そんな姿を見て、ハンジとナナバは小さく笑った。
コツコツと規則正しい音が、廊下に響く。
廊下を歩いていたジーンは、不意にバルコニーに目を向けた。
そこには、月を見ながら酒を飲む男達の姿が目に入り、彼女はそっと足を忍ばせた。
「悪かったな、ナイル」
「そう思うなら、頼まないでくれ」
「ジーンがどうしてもと言っていたからな」
「お前ら二人から、さらにジーンからも頼まれたとなりゃ、断れないだろうが」
ナイルが愚痴を溢すと、ミケとエルヴィンは顔を見合わせて静かに笑った。
「男だらけで月見酒なんて、寂しいことしてるのね」
ナイルの背後から、そっと囁くように言うと、彼女の声にナイルは飛び上がって酒をぶちまけた。
「ジーン!? 驚かすなっ!」
「なによ、食堂で飲めばいいのに、こんなところで飲んでるなんて……しかも男だけで」
「もうあっちは盛り上がってるんだろう? 俺たちがいない方がいい時もあるかと思ってな」
ミケは、エルヴィンの言葉に頷く。
「……で、男だらけで酒なんて、風情がないわね」
「文句言ってないで、お前も座って飲めばいいだろ?」
ナイルがそういうと、彼女はスッと目を細めた。
「結構。驚かせたから、もう満足したわ」
そう言って、彼女はすぐにその場から去って行ってしまった。
「あ、おい、ジーン!? なんなんだ、あいつは……」
「寂しかったんじゃないか?」
ミケがそういうと、エルヴィンとナイルは二人して顔を見合わせた。
「俺たち同期が集まって酒を飲んでるのに、あいつだけいなかったからな。呼んでもらえなかったと拗ねているんじゃないか?」
「ミケ、それは…………」
エルヴィンは、額から出てきた汗を拭いながらミケを見た。
そして、ナイルもまた驚いた様子でミケを見ながら言った。
「ありえんだろう、ジーンに限って」
エルヴィンとナイルは、互いに顔を見合わせては、「いやいや、ないない」「あれにそういう感情は持ち合わせがないだろう」などと言い合っていた。
「はっくしゅん!! 誰か噂してるわね、ナイルとエルヴィンか……」
彼女は歩きながら、鼻をすすった。
歩いていると、月明かりに照らされた廊下がやけに明るく見えたのか、ジーンは空を見上げる。
そして、窓を開けた。夜風がふんわりと入ってきて、酒の匂いばかり嗅いできた鼻が休まるような気がした彼女は、窓に頬杖をついた。
そして、すぐ下を見て後悔した。
(なんでこうも、人を見つけてしまうかな私は……)
二階だったせいか、予想以上に近くに人がいた。
外に置かれている器具を使って、筋力トレーニングをしている人物がいたのだ。
(リヴァイか……)
姿が見えなくても、彼女は確信した。
ジーンにとって、彼の存在はいつの間にか大きなものとなっていた。
それに彼女が気付いたのは、先日の壁外調査の撤退中だ。
拠点から壁内へ行くまでの間にも、巨人の奇襲があったのだ。
しかし、それらは全て戦闘を走るリヴァイが一人で倒してしまったというのだ。
遠くからではあったが、肉眼でそれを確認していたジーン自身、彼の成長には目を見張るものがあると心底感じていた。
(私には、まだまだ勝てそうにないけどね~。今のところ)
以前まで、彼女は自身が死ねば、調査兵団の兵力は死んだも同然のようなものだと思っていた。
現在も、その意思が変わることはない。
しかし、リヴァイの存在は彼女にとって大きかった。
自分と同じように、兵士たちから一目置かれ、どんな巨体が現れようとも恐れず一人で倒し切ってしまえるほどの力を持つ彼の存在があるなんて、彼女は今まで思いもしなかったのだから。
(私がもし、死んだら――――)
考えそうになり、彼女はそれを否定した。
「はっ、あんなクソガキ程度に、私が持ってきたモノを持たせるなんて、できるわけないか……」
自嘲気味な笑い方をするジーン、自分で自分に腹が立つのか、髪をぐしゃりと握る。
責任、無念、怨恨、憎悪、様々な思いや感情が飛び出てきそうになる。
「くそっ……」
小さく呟くと、風が吹いた。
「クソババァか」
不意に、目の前にリヴァイの姿が現れる。
「なんだ、立体起動装置つけてたの……練習であっても、使用許可は取ってるんでしょうね?」
「うっせーな、エルヴィンに聞け」
エルヴィンにちゃんと許可を貰っているということだろう。
ジーンは鬱陶しそうに窓から離れると、リヴァイはその窓から廊下へ入ってきた。
「何してる、鍛錬してたんでしょ。続けろクソガキ」
「…………」
何も話さないリヴァイに、ジーンは放置しておいてさっさと部屋へ行こうと足を進めようとすると、スッと首元に刃の切っ先が当てられた。
「何を考えていた」
「は?」
「答えろ」
少し食い込ませて、血を出させようとしたリヴァイ。
しかし、力を入れても刃はびくともしなかった。
ジーンの手によって、刃が押さえつけられていたからだ。
「勘違いすんなクソガキ。刃を突き付けてるんじゃない。突き付けさせてあげただけ。私に傷をつけようなんて、百年早い」
「さっき……」
刃を下ろさせると、ジーンはリヴァイの方へ振り向く。
「何を考えていた」
「私の考えてたことが、そんなに気になるの?」
そう言い返すと、ジーンの思惑通り、彼は言い返せなくなる。
彼が言いたいのは、そういった意味でのことではないと、わかった上で彼女はそう聞いているのだから。
「私は、私に負けるような男と話すことなんて何もないわ。精々鍛錬を積んで、私を殺せるよう頑張って」
そう言って、彼女は歩き出して行ってしまった。
「巨人を絶滅させるのは、俺だ」
「寝言は寝て言え、クソガキ」
「てめぇこそ、さっさと定年退職しろクソババァ」
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