Existant Hero
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壁外調査三日目、今日も彼等は巨人と戦っていた。
「報告します! 前衛班中央に3m級、および10m級の巨人合わせて五体が出現! 前衛班中央部隊は、全滅。中央が突破されました!」
顔を真っ青にして報告してきた男を見て、団長である彼女は笑った。
「五体、ね……リヴァイ、エルヴィン、ミケ、戦闘準備」
すぐ背後を走る三人にそう告げて、後ろをちらりと見た彼女は、既に準備を整えている三人を見て、笑みが零れるのを抑えられなかった。
「右翼、左翼は一旦中央へ後退! 中央を突破した後に、陣形を組み直す!」
真っ青な男は、慌てて彼女の指示を伝えるべく、再び馬を走らせた。
もう一人いた新兵に、反対方向にいる部隊へ連絡をするように告げて、団長自身は剣を抜いた。
「リヴァイ、エルヴィンは左端の3m級、ミケは右端の3m級をやれ」
「残りは一人でやるつもりか」
ミケの言葉に、ジーンは振り向かずに言った。
「当然」
馬から離れ、各自は立体起動装置へと移る。
馬たちは訓練されたためか、被害のない木々の所へ隠れるように逃げていくのを視界の端に留めながら、ジーンは目の前に伸びてくる10m級の腕を削いだ。
軽く一体を仕留めたジーンは、周辺の家の屋根に下りた。
この辺りは、木々もそれほど多くなく、あまり立体起動装置に向いた場所ではないが、エルヴィン達の方もそろそろ仕留められそうなのを確認して、彼女は残りの二体を探す。
すぐに視界に入れた巨人二体は、中央へ戻ってきた左翼部隊の方へと走っていたのだ。
「あの部隊は、確か新兵がいたな……」
死体が増える可能性を考慮しつつ、彼女は二体の巨人を追った。
一方、3m級を仕留めたエルヴィン達は、ようやく残りの二体が新兵の部隊へと走っている姿を見つける。
「しまった!」
エルヴィンが叫ぶより早く、彼は飛び出していた。
「待て! リヴァイ! お前一人ではまだ――――」
彼の静止の声も聞かず、彼は全速力で巨人を追う。
だが、ジーンとリヴァイが追いつくより早く、彼等は左翼部隊に襲い掛かる。
焦るリヴァイとは対照的に、ジーンは何かを確かめるようにじっと左翼部隊を観察していた。
すると、分隊長の一人が捕まった。
それを見て、新兵の数人が逃げることを止め、馬を捨てて巨人に襲い掛かった。
「「うわああああああああああああ!」」
「分隊長を離せっ! このくそやろうおおお!!」
それを見て、ジーンは少し微笑んだかと思うと、巨人二体を一瞬で仕留めた。
周りの安全を確認したうえで、分隊長を巨人の手の中から救出する。
しかし、彼の息は浅かった。
「おい、しっかりしろ! おい!」
リヴァイが声をかけても、微かな反応しか示さない彼。
分隊長の彼とは、リヴァイも何度か話したことがあった。
リヴァイのように、強い人が一緒にいると思うと心強いと言って、朗らかに笑う男だったことを、リヴァイは覚えていた。
今の現状が信じられなくて、ただ叫んで彼を取り戻そうとするリヴァイの肩を、ジーンは掴んで止めた。
そして、ジーンは彼の傍へ腰を下ろす。
「眠そうだな」
「だ……団、長…………」
手を震わせながら伸ばす手を、血だらけのその手を、ジーンは迷わず両手で握る。
「なに?」
「俺、は……団長の傍で、もっと……巨人を…………」
「巨人ね、大丈夫。私が絶滅させてあげる。約束するよ」
「ほ、本当ですか……」
「信用してないの? 失礼ね。私ほど強い人間がいて、アンタが居てくれる。なら、できないことはない。そうでしょ?」
彼女が自信たっぷりに言うと、彼は掠れた声で笑った。
「大丈夫だよ、アンタは生きてる。でも、ちょっと疲れただけ。だからもう、休んでいいんだよ」
「団長、に、そう言……われ、ると……」
嘘っぽいです。
そういって、彼は笑って目を閉じた。
「…………信用ないねぇ、ほんと」
すくっと彼女は立ち上がると、ただ呆然と分隊長の寝顔を見ているリヴァイの頭を叩いた。
「なにしてんの。行くわよ」
「……お前、あの時もそんなこと一々言ってたな」
「あの時? あぁ、マリア奪還作戦の時?」
「巨人を絶滅とか、できんのかよ」
「私にできないことはないわ。ほんとは、こんなこと言いたくないんだけどね……でも、せめて眠るときぐらい、安心したいでしょ?」
「信用されてなかったがな」
「それでも、私が彼等に言えるのはこれしかないから。落ち込んだり、泣いたりしたって巨人には勝てない。なら、力にするしかないのよ。彼等の死を糧にして、勝たなきゃいけない。戦って、生きた人はね……クソガキ、アンタもそれは覚えておきなさい」
そうして、彼女はへたりこんでいる新兵たちの元へ行った。
新兵たちは、わなわなと恐怖から震えていた。
「顔をあげなさい!」
突然の怒鳴り声に、彼等も思わず彼女を見た。
「ここはまだ壁外ということを忘れるな! 陣形を組み直し、一度拠点まで後退する! 各自、陣形の配置を確認した後、迅速に行動せよ!」
集合していた全ての兵士たちは、自分たちを奮い立たせるため、団長の指示に対する返事として、大きな声をあげた。
「キース元団長のような、迅速な指示だな、ジーン」
いつの間にかジーンの横に立っていたエルヴィンは、少し嬉しそうにそう言い、ミケもそれに頷いた。
しかし、ジーンは眉間に皺を寄せた。
「……あんな、さっさと引退した元団長なんかと一緒にしないで。死体の回収は?」
「中央部隊も含めて回収が可能な者は、全て終了した」
素早くミケが答えると、彼女は頷いた。
「じゃあ、拠点まで後退した後、壁内に戻る。これ以上の被害を出すと、上がまた煩いからね」
彼女がそう言って馬を呼ぼうとすると、ジーンの背後から「おい」と声をかけられた。
彼女が振り向くと、彼女専用の黒い馬がいた。
「連れて来てくれたなんて、どうしたの?」
「あぁ?」
「らしくないから、明日は槍でも降ってくるかもね~」
「……おいクソババァ、てめぇは礼の一つも言えねぇのか」
「団長をババァなんて呼ぶ礼儀も弁えないクソガキに、何を言う必要があるのよ」
「やめろ、二人とも。ここはまだ壁外だろう」
「エルヴィン兵士長。彼の教育、もっとちゃんとしてよねー」
「訓練兵にでもしろというのか?」
ミケの言葉に、エルヴィンとジーンはリヴァイがキース元団長に怒られている姿を妄想し、同時に噴き出した。
滑稽で、少し可笑しいのが面白かったようだ。
「なに笑ってやがる」
「べ、別に……あ、そろそろ皆準備できたみたい。撤退するわよ、三人とも」
さらりと流されてしまい、何故笑われて屈辱的な感覚を味わわなくてはならないのかと憤慨しながら、リヴァイはふと思い出す。
先ほどの、ジーンの言葉を。
リヴァイからは、分隊長に言葉をかけているジーンの表情を見ることはできなかった。
だが、今まで聞いたことのないような優しい音色の声で、彼女が話していたのを彼は聞いていた。
一体、あの自分勝手でワガママな団長が、どんな表情であの言葉を発していたのだろうか。
今まで眠りについてきた者たちは、彼女のそんな表情を見て、嘘っぽいと先ほどの分隊長のように言っていたのだろうか。
リヴァイは、目の前を馬で駆けていくジーンの背を見る。
(休んでいい、か……生きている限りは、あのクソババァからは聞けそうにない言葉だ)
彼女の兵士たちに対する態度は、冷たい、厳しい、恐ろしいの三拍子が揃う。
そんな調査兵団で過ごしてきて、眠るときに優しい声で休んでいいと言われるのだ。
彼等は皆、きっと信じられないと思っただろう。
そして、優しい団長だけを見て、眠りについていくのだ。
『――――勝たなきゃいけない。戦って、生きた人はね……』
彼女の言っていた言葉を思い返し、彼もまた思った。
(巨人を絶滅させるのは、俺だ……――――)
「報告します! 前衛班中央に3m級、および10m級の巨人合わせて五体が出現! 前衛班中央部隊は、全滅。中央が突破されました!」
顔を真っ青にして報告してきた男を見て、団長である彼女は笑った。
「五体、ね……リヴァイ、エルヴィン、ミケ、戦闘準備」
すぐ背後を走る三人にそう告げて、後ろをちらりと見た彼女は、既に準備を整えている三人を見て、笑みが零れるのを抑えられなかった。
「右翼、左翼は一旦中央へ後退! 中央を突破した後に、陣形を組み直す!」
真っ青な男は、慌てて彼女の指示を伝えるべく、再び馬を走らせた。
もう一人いた新兵に、反対方向にいる部隊へ連絡をするように告げて、団長自身は剣を抜いた。
「リヴァイ、エルヴィンは左端の3m級、ミケは右端の3m級をやれ」
「残りは一人でやるつもりか」
ミケの言葉に、ジーンは振り向かずに言った。
「当然」
馬から離れ、各自は立体起動装置へと移る。
馬たちは訓練されたためか、被害のない木々の所へ隠れるように逃げていくのを視界の端に留めながら、ジーンは目の前に伸びてくる10m級の腕を削いだ。
軽く一体を仕留めたジーンは、周辺の家の屋根に下りた。
この辺りは、木々もそれほど多くなく、あまり立体起動装置に向いた場所ではないが、エルヴィン達の方もそろそろ仕留められそうなのを確認して、彼女は残りの二体を探す。
すぐに視界に入れた巨人二体は、中央へ戻ってきた左翼部隊の方へと走っていたのだ。
「あの部隊は、確か新兵がいたな……」
死体が増える可能性を考慮しつつ、彼女は二体の巨人を追った。
一方、3m級を仕留めたエルヴィン達は、ようやく残りの二体が新兵の部隊へと走っている姿を見つける。
「しまった!」
エルヴィンが叫ぶより早く、彼は飛び出していた。
「待て! リヴァイ! お前一人ではまだ――――」
彼の静止の声も聞かず、彼は全速力で巨人を追う。
だが、ジーンとリヴァイが追いつくより早く、彼等は左翼部隊に襲い掛かる。
焦るリヴァイとは対照的に、ジーンは何かを確かめるようにじっと左翼部隊を観察していた。
すると、分隊長の一人が捕まった。
それを見て、新兵の数人が逃げることを止め、馬を捨てて巨人に襲い掛かった。
「「うわああああああああああああ!」」
「分隊長を離せっ! このくそやろうおおお!!」
それを見て、ジーンは少し微笑んだかと思うと、巨人二体を一瞬で仕留めた。
周りの安全を確認したうえで、分隊長を巨人の手の中から救出する。
しかし、彼の息は浅かった。
「おい、しっかりしろ! おい!」
リヴァイが声をかけても、微かな反応しか示さない彼。
分隊長の彼とは、リヴァイも何度か話したことがあった。
リヴァイのように、強い人が一緒にいると思うと心強いと言って、朗らかに笑う男だったことを、リヴァイは覚えていた。
今の現状が信じられなくて、ただ叫んで彼を取り戻そうとするリヴァイの肩を、ジーンは掴んで止めた。
そして、ジーンは彼の傍へ腰を下ろす。
「眠そうだな」
「だ……団、長…………」
手を震わせながら伸ばす手を、血だらけのその手を、ジーンは迷わず両手で握る。
「なに?」
「俺、は……団長の傍で、もっと……巨人を…………」
「巨人ね、大丈夫。私が絶滅させてあげる。約束するよ」
「ほ、本当ですか……」
「信用してないの? 失礼ね。私ほど強い人間がいて、アンタが居てくれる。なら、できないことはない。そうでしょ?」
彼女が自信たっぷりに言うと、彼は掠れた声で笑った。
「大丈夫だよ、アンタは生きてる。でも、ちょっと疲れただけ。だからもう、休んでいいんだよ」
「団長、に、そう言……われ、ると……」
嘘っぽいです。
そういって、彼は笑って目を閉じた。
「…………信用ないねぇ、ほんと」
すくっと彼女は立ち上がると、ただ呆然と分隊長の寝顔を見ているリヴァイの頭を叩いた。
「なにしてんの。行くわよ」
「……お前、あの時もそんなこと一々言ってたな」
「あの時? あぁ、マリア奪還作戦の時?」
「巨人を絶滅とか、できんのかよ」
「私にできないことはないわ。ほんとは、こんなこと言いたくないんだけどね……でも、せめて眠るときぐらい、安心したいでしょ?」
「信用されてなかったがな」
「それでも、私が彼等に言えるのはこれしかないから。落ち込んだり、泣いたりしたって巨人には勝てない。なら、力にするしかないのよ。彼等の死を糧にして、勝たなきゃいけない。戦って、生きた人はね……クソガキ、アンタもそれは覚えておきなさい」
そうして、彼女はへたりこんでいる新兵たちの元へ行った。
新兵たちは、わなわなと恐怖から震えていた。
「顔をあげなさい!」
突然の怒鳴り声に、彼等も思わず彼女を見た。
「ここはまだ壁外ということを忘れるな! 陣形を組み直し、一度拠点まで後退する! 各自、陣形の配置を確認した後、迅速に行動せよ!」
集合していた全ての兵士たちは、自分たちを奮い立たせるため、団長の指示に対する返事として、大きな声をあげた。
「キース元団長のような、迅速な指示だな、ジーン」
いつの間にかジーンの横に立っていたエルヴィンは、少し嬉しそうにそう言い、ミケもそれに頷いた。
しかし、ジーンは眉間に皺を寄せた。
「……あんな、さっさと引退した元団長なんかと一緒にしないで。死体の回収は?」
「中央部隊も含めて回収が可能な者は、全て終了した」
素早くミケが答えると、彼女は頷いた。
「じゃあ、拠点まで後退した後、壁内に戻る。これ以上の被害を出すと、上がまた煩いからね」
彼女がそう言って馬を呼ぼうとすると、ジーンの背後から「おい」と声をかけられた。
彼女が振り向くと、彼女専用の黒い馬がいた。
「連れて来てくれたなんて、どうしたの?」
「あぁ?」
「らしくないから、明日は槍でも降ってくるかもね~」
「……おいクソババァ、てめぇは礼の一つも言えねぇのか」
「団長をババァなんて呼ぶ礼儀も弁えないクソガキに、何を言う必要があるのよ」
「やめろ、二人とも。ここはまだ壁外だろう」
「エルヴィン兵士長。彼の教育、もっとちゃんとしてよねー」
「訓練兵にでもしろというのか?」
ミケの言葉に、エルヴィンとジーンはリヴァイがキース元団長に怒られている姿を妄想し、同時に噴き出した。
滑稽で、少し可笑しいのが面白かったようだ。
「なに笑ってやがる」
「べ、別に……あ、そろそろ皆準備できたみたい。撤退するわよ、三人とも」
さらりと流されてしまい、何故笑われて屈辱的な感覚を味わわなくてはならないのかと憤慨しながら、リヴァイはふと思い出す。
先ほどの、ジーンの言葉を。
リヴァイからは、分隊長に言葉をかけているジーンの表情を見ることはできなかった。
だが、今まで聞いたことのないような優しい音色の声で、彼女が話していたのを彼は聞いていた。
一体、あの自分勝手でワガママな団長が、どんな表情であの言葉を発していたのだろうか。
今まで眠りについてきた者たちは、彼女のそんな表情を見て、嘘っぽいと先ほどの分隊長のように言っていたのだろうか。
リヴァイは、目の前を馬で駆けていくジーンの背を見る。
(休んでいい、か……生きている限りは、あのクソババァからは聞けそうにない言葉だ)
彼女の兵士たちに対する態度は、冷たい、厳しい、恐ろしいの三拍子が揃う。
そんな調査兵団で過ごしてきて、眠るときに優しい声で休んでいいと言われるのだ。
彼等は皆、きっと信じられないと思っただろう。
そして、優しい団長だけを見て、眠りについていくのだ。
『――――勝たなきゃいけない。戦って、生きた人はね……』
彼女の言っていた言葉を思い返し、彼もまた思った。
(巨人を絶滅させるのは、俺だ……――――)