紫州事変
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塩————たった二文字の言葉を呟いただけで、こんな大変な事件について、手伝わされる羽目になるとは思わなかった。
ついうっかり、口からポロリと出てしまったそれは、彼が私に頼みたかった案件の重要キーワード。
よくよく考えると、案外勘が働くと言っていた彼の言動からして、私がそのキーワードに気付くように、わざと仕向けて会話をして、私が断れない様にしたのではないかと思った。
しかし、そんなことを考えても後の祭り。
最早、私も事件を捜査する側……探偵にでもなった気分である。
だが、この事件の重要性は理解しているつもりだ。
彼曰く、私たちが住んでいる王都、つまり貴陽に輸入されてくる品が、どこかで細工されている。
塩が、その一つだそうだ。
本来なら、サラサラとした藍州————藍家の治める州、別名水の都とも言われる場所から運ばれてくる上質の塩が、そのままの値段で中身を、安いジャリジャリとした塩に変えられてしまっているのである。
まだ、段階的にいうと、全ての市場に出回っている訳ではないらしいが、これが酷くなると貴陽全てに出回る塩が、バカ高い値段の安い塩を買わされる羽目になる。
「————で、まずは虱潰しってことですか」
「そうだ」
どっさりとお金を引っ提げて、私と陸さんがやってきたのは、市場。
今現在の市場の状況を見定めてから、これからどう動いて行くのか方針を考えるそうだ。
大量に購入した塩を、一旦御史台まで持ち帰った私たちは、何故かそのまま陸さんが厨房に向かうため、自然に私はその後を歩く。
そして、辿り着いた場所で彼はさも当然のように言ってのけた。
「よし、料理しろ「なんでですか」」
間髪入れず、むしろ被せる勢いで彼に疑問の言葉を投げかける。
おかしい、それはおかしい。
「普通に、塩を舐めればわかるじゃないですか」
「俺は、腹が減っている。ついでに、塩の検分も出来て一石二鳥だろ。買った塩の種類ごとに料理を作れよ」
それだけ言ってのけると、彼はさっさと部屋を出ていく。
「え、いや、ちょっと!?」
パタリ、と無情にも絞められた扉を眺めてから、私は深いため息を一つついた。
(…………仕方ない、やるか)
最早、簡単なものでとにかく手早く全て作ってしまおう。
「これは何だ?」
「おにぎりです」
作ったものを、お盆一つではとてもじゃないが運べなかったため、両手にお盆を持ち、運んだ結果入室直後に質問され、平然と答えると、彼は嫌そうに顔を顰めた。
「お前、手を抜いたな?」
「だって、塩の味を検分するなら、一番塩味がわかるものが良いじゃないんですか? それに、空腹に握り飯は結構効果的ですよ」
「…………で、どれがどの塩だ?」
おにぎりの下に紙を敷いており、そこにどこから輸入されたどの名産地の塩かを明記してあることを伝えると、彼は仕方なく私にも座るようにといい、一緒におにぎりを黙々と食べ続けた。
彼は、ペロリと全種類のおにぎりを平らげると、早速紙と筆を取りだして、サラサラと文字を書いていく。
「ほとんど、美味しいお塩でしたね〜」
そんなことを私が呟くと、彼は文字を書きながら一言返事をした。
「夕餉まで、とても持ちそうにないな」
その言葉に、仕方なく私がもう一品作ることになった。
その後、一旦仕事は終了だということで、給料をいただき家に帰宅した私は、ベッドへ倒れ込んだ。
「つっかれたー」
一旦仕事が終了……それは、またいずれ必要になれば召集されるということだろう。
(嫌だなぁ、もう断りたい)
叶わぬ思いを抱えながら、とりあえず今日一日は休日であることに感謝して、私はそのまま眠りについた。
それからというものの、私は泥のように眠る日々を過ごしていた。
「おい、次に行くぞ」
あれやそれやと、彼は多くの案件を抱えていたようで、同時進行しながら塩の一件についても色々と調べが続いていた。
私は、その補助役というか、まぁつまりは彼の雑用係だ。
「そこの資料をまとめておけ。そっちは整理しろ。それが終わったら————」
彼の仕事は半端じゃない。
一日が二十四時間では足りないと、初めてそう思った。
「しかしお前、思ったより便利だな。このままあの料理屋辞めさせて、俺の雑用をしてもらいたいぐらいだ」
「丁重にお断りさせてください。身が持ちませんよ」
「その割に、目の下にクマ一つ作らないじゃないか。昼はこっちで、夜は料理屋に行ってるんだろう?」
「眠ることと、食べることは譲れないので」
「余裕なんじゃないか。お前、向いてると思うぜ」
「…………ありがとうございます。すみません」
私の返事に、彼は説得を何とか諦めてくれたのか、苦笑して髪をかき上げた。
「強情な奴」
「すみません。でも、陸さんと一緒にお仕事をするのは、充実していて良い勉強になりました」
私の言葉に、彼は顔を背け書類に目を向ける。
「………………当然だな」
「はい。ありがとうございました」
照れていると思うと、何だかこちらまで照れる。
礼の言葉を述べ、頭を下げると彼は笑った。
「言っておくが、まだまだ仕事は終わってない。お前にはまだ働いてもらうからな」
「……はい、頑張ります」
「よし、なら今日も出かけるぞ」
彼と仕事をしていると、学べることが多い。
また他のことを考える暇すらないため、私は結構彼の仕事を手伝えることを、楽しんですらいた。
(厳しいことをよく言うけど、全部正論だし。何より行動に無駄がなくて、効率の良い動き方を知っている人だ)
自分も、そういう人になりたいと思い、お手本にしようと料理屋での働き方を見直す良いきっかけにもなった。
この前に会った邵可さんのお話では、年の明けに一度秀麗が紫州に帰ってくるとの連絡もあった。
その時に会えたら、秀麗にも御史台で働いたこの出来事を、言える範囲で報告しよう。
政治にこれから関わる彼女なら、きっとこのことを役立ててくれるだろう。
そう思い、私は胸を膨らませるのだった。
よくよく考えれば、この事件は機密事項だらけで秀麗に話せることは何一つなかったのだが、のちに彼女がこの事件に関わることになるなど、この時の私はまだ知らなかった。
ついうっかり、口からポロリと出てしまったそれは、彼が私に頼みたかった案件の重要キーワード。
よくよく考えると、案外勘が働くと言っていた彼の言動からして、私がそのキーワードに気付くように、わざと仕向けて会話をして、私が断れない様にしたのではないかと思った。
しかし、そんなことを考えても後の祭り。
最早、私も事件を捜査する側……探偵にでもなった気分である。
だが、この事件の重要性は理解しているつもりだ。
彼曰く、私たちが住んでいる王都、つまり貴陽に輸入されてくる品が、どこかで細工されている。
塩が、その一つだそうだ。
本来なら、サラサラとした藍州————藍家の治める州、別名水の都とも言われる場所から運ばれてくる上質の塩が、そのままの値段で中身を、安いジャリジャリとした塩に変えられてしまっているのである。
まだ、段階的にいうと、全ての市場に出回っている訳ではないらしいが、これが酷くなると貴陽全てに出回る塩が、バカ高い値段の安い塩を買わされる羽目になる。
「————で、まずは虱潰しってことですか」
「そうだ」
どっさりとお金を引っ提げて、私と陸さんがやってきたのは、市場。
今現在の市場の状況を見定めてから、これからどう動いて行くのか方針を考えるそうだ。
大量に購入した塩を、一旦御史台まで持ち帰った私たちは、何故かそのまま陸さんが厨房に向かうため、自然に私はその後を歩く。
そして、辿り着いた場所で彼はさも当然のように言ってのけた。
「よし、料理しろ「なんでですか」」
間髪入れず、むしろ被せる勢いで彼に疑問の言葉を投げかける。
おかしい、それはおかしい。
「普通に、塩を舐めればわかるじゃないですか」
「俺は、腹が減っている。ついでに、塩の検分も出来て一石二鳥だろ。買った塩の種類ごとに料理を作れよ」
それだけ言ってのけると、彼はさっさと部屋を出ていく。
「え、いや、ちょっと!?」
パタリ、と無情にも絞められた扉を眺めてから、私は深いため息を一つついた。
(…………仕方ない、やるか)
最早、簡単なものでとにかく手早く全て作ってしまおう。
「これは何だ?」
「おにぎりです」
作ったものを、お盆一つではとてもじゃないが運べなかったため、両手にお盆を持ち、運んだ結果入室直後に質問され、平然と答えると、彼は嫌そうに顔を顰めた。
「お前、手を抜いたな?」
「だって、塩の味を検分するなら、一番塩味がわかるものが良いじゃないんですか? それに、空腹に握り飯は結構効果的ですよ」
「…………で、どれがどの塩だ?」
おにぎりの下に紙を敷いており、そこにどこから輸入されたどの名産地の塩かを明記してあることを伝えると、彼は仕方なく私にも座るようにといい、一緒におにぎりを黙々と食べ続けた。
彼は、ペロリと全種類のおにぎりを平らげると、早速紙と筆を取りだして、サラサラと文字を書いていく。
「ほとんど、美味しいお塩でしたね〜」
そんなことを私が呟くと、彼は文字を書きながら一言返事をした。
「夕餉まで、とても持ちそうにないな」
その言葉に、仕方なく私がもう一品作ることになった。
その後、一旦仕事は終了だということで、給料をいただき家に帰宅した私は、ベッドへ倒れ込んだ。
「つっかれたー」
一旦仕事が終了……それは、またいずれ必要になれば召集されるということだろう。
(嫌だなぁ、もう断りたい)
叶わぬ思いを抱えながら、とりあえず今日一日は休日であることに感謝して、私はそのまま眠りについた。
それからというものの、私は泥のように眠る日々を過ごしていた。
「おい、次に行くぞ」
あれやそれやと、彼は多くの案件を抱えていたようで、同時進行しながら塩の一件についても色々と調べが続いていた。
私は、その補助役というか、まぁつまりは彼の雑用係だ。
「そこの資料をまとめておけ。そっちは整理しろ。それが終わったら————」
彼の仕事は半端じゃない。
一日が二十四時間では足りないと、初めてそう思った。
「しかしお前、思ったより便利だな。このままあの料理屋辞めさせて、俺の雑用をしてもらいたいぐらいだ」
「丁重にお断りさせてください。身が持ちませんよ」
「その割に、目の下にクマ一つ作らないじゃないか。昼はこっちで、夜は料理屋に行ってるんだろう?」
「眠ることと、食べることは譲れないので」
「余裕なんじゃないか。お前、向いてると思うぜ」
「…………ありがとうございます。すみません」
私の返事に、彼は説得を何とか諦めてくれたのか、苦笑して髪をかき上げた。
「強情な奴」
「すみません。でも、陸さんと一緒にお仕事をするのは、充実していて良い勉強になりました」
私の言葉に、彼は顔を背け書類に目を向ける。
「………………当然だな」
「はい。ありがとうございました」
照れていると思うと、何だかこちらまで照れる。
礼の言葉を述べ、頭を下げると彼は笑った。
「言っておくが、まだまだ仕事は終わってない。お前にはまだ働いてもらうからな」
「……はい、頑張ります」
「よし、なら今日も出かけるぞ」
彼と仕事をしていると、学べることが多い。
また他のことを考える暇すらないため、私は結構彼の仕事を手伝えることを、楽しんですらいた。
(厳しいことをよく言うけど、全部正論だし。何より行動に無駄がなくて、効率の良い動き方を知っている人だ)
自分も、そういう人になりたいと思い、お手本にしようと料理屋での働き方を見直す良いきっかけにもなった。
この前に会った邵可さんのお話では、年の明けに一度秀麗が紫州に帰ってくるとの連絡もあった。
その時に会えたら、秀麗にも御史台で働いたこの出来事を、言える範囲で報告しよう。
政治にこれから関わる彼女なら、きっとこのことを役立ててくれるだろう。
そう思い、私は胸を膨らませるのだった。
よくよく考えれば、この事件は機密事項だらけで秀麗に話せることは何一つなかったのだが、のちに彼女がこの事件に関わることになるなど、この時の私はまだ知らなかった。