紫州事変
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「よぉ、お嬢さん」
そう静かな声で話しかけてきたのは、向かい側の牢屋に入ってらっしゃる男性だった。
性別関係なく入れられるらしいこの牢屋、どうやらお向かいさんは牢屋歴が長いらしく、のんびりと過ごしているようだった。
「アンタ、なんでまたこんなところに放り込まれたんだ? 悪人面には見えないが?」
暗闇の中、お向かいさんが小さく笑うような声が聞こえた。
「自分にも、よく事情がわからなくて……でもまぁ、なるようにしかなりませんし。大人しくしてますよ」
「なるようにしかならない、か…………そういう考え方、嫌いじゃないぜ?まぁ、アンタは悪い奴には見えないし、大丈夫そうに見えるが?」
彼の言葉を聞きながら食事を続けていると、「案外、図太そうだ」と小さく笑いながら言われた。
「貴方こそ、悪人には見えませんよ」
牢屋の人に対する食事にしては、結構美味しいものだった。そう思いながらも、箸を置きお向かいさんの方へ向きながら言えば彼は私から目を逸らした。
「それは、褒め言葉として受け取っておくぜ」
大きな体に、しっかりとした筋肉、ボサボサの髪の毛の奥には眼帯も見えた。
だが、話し声のせいなのか、ゆったりとしたその声は見た目とは裏腹に優しそうな印象を受けた。
「褒め言葉ですよ」
私の言葉に、彼は壁にもたれ目を閉じてしまった。
それから暫くすると、ガチャリと重い扉が開く音がした。
地下室のような牢屋の部屋全てに、外の明かりが入ってくる。
重い扉を開けた人は、大股で足早に私の牢の前まで歩いてきた。
「すみません」
ただ一言、それだけ告げて彼は牢屋の鍵を開けてくれた。
「ありがとうございます」
こっちだ、そういって出口へと案内してくれる彼の後ろを歩く前に、お向かいさんに「では、また」と頭を下げてから彼の元へ向かった。
「また、ね…………つくづく、変わった女だ」
頬杖をつきながら、牢屋に入ったまま彼はヒラヒラと手を振ってくれた。
牢屋から出してくれた人は、私を牢屋まで連行した人だったらしく、その節は申し訳ないことをしたと、顔面蒼白で言われた。
どうやら、陸という人に何か言われたらしく、気にしないでほしいとのことを伝えると、彼が会いたいと言っていたため、部屋まで案内された。
「こちらです」
言われるがままに足を踏み入れると、そこは図書館のような場所だった。
所狭しと詰め込まれた本の数々。
その中に、申し訳程度に存在する机で仕事をしていた彼は、顔を上げた。
「あぁ、来たのか」
「どうも、何だかご迷惑をおかけしてしまって……」
気が付くと、案内してくれた人は姿を消していたため、一歩彼の部屋に足を踏み入れて頭を下げれば、彼はため息を一つついた。
「何故、謝る必要があるんですか? 僕をここまで運んでくれたのは、貴方でしょう?」
「でも、牢屋から助けていただいたので……」
「命の恩人なんですから、当然です。あ、散らかってますけど、どうぞ座ってください」
これまた、申し訳程度にあった座り心地の良さそうな椅子を用意してもらい、腰かけるとお茶を彼が持ってきてくれた。
「生憎、僕は普通のお茶の淹れ方しかできないので、これで」
苦笑してお茶をくれた彼に、「とんでもないです、いただきます」と言って飲むと、何だか変わったお茶の味がした。
「これ、何のお茶だかわかりますか?」
ニッコリ、毒のない笑みを向けられて、お茶を見る。
(これは、また……陰湿な質問だなぁ)
一口飲んだ瞬間、普通の烏龍茶だと思ったけれど、何だか他の味がグルグルと口内に広がってくる。
恐らく、何種類かのお茶を混ぜているのだろう。
しかし、私にこんなクイズを出して、彼は一体私にどんな答えを出してほしいのだろうか。
ただ単に、お茶の答えを言っても、彼は満足してくれないような気がするのは、気のせいなのだろうか。
うーん、と暫く考えて、私は口を開いた。
「すみません、わかりません」
そう言うと、彼は苦笑する。
「ちょっと、難しすぎましたか?」
「いえ、お茶ではなく、この質問をして貴方が何を知りたがっているかが、わかりませんでした」
そう素直に告げると、彼の眉毛がピクリと動いた。
意外にも、感情が表に出るタイプなのかもしれないと、思った。
「案外、勘がいいのか。思ったより、使えそうで良かった」
急に、彼の口調と共に、纏っていた空気が変わった。
胡散臭そうな笑い方をする男の人だと思っていたが、どうやらこっちが彼の本当の顔らしい。
ニヤリと微笑む彼の顔は、活き活きとしているように見えた。
「長官に、お前を使うよう言われていたから、本当に役に立つのか調べただけだ。気にするな」
「使うって、何にですか? 言っておきますけど、私は一般人で、御史台の役に立てるようなことは何も……」
「それは、今俺が決めた。お前に、調べてもらいたいことがある。給料なら、ちゃんと出るぞ」
なんなら、額を指定してくれてもいい。
そう言われると、私は益々怪しい気配を感じた。
「何をしなければならないのか、詳細を教えてください。それから決めたいです」
「それはできない。この仕事は、機密事項が多すぎる。内容を知ったら、他言無用で絶対にやってもらうことになるな」
「じゃあ、やりません」
彼の言葉を聞いて即答すると、彼は椅子から立ち上がる。
「言っただろう? 長官に、使うように言われている。お前の意見ではない、俺たちが決めたことだ。従え」
「お断りします。危ないことには、関わりたくありません」
「危なくはない」
「貴方、襲われてたじゃないですか!?」
「それは別件だ」
「…………」
黙って、一歩ずつ距離を詰めてくる彼を見つめていると、彼は一つ溜息をついた。
「あのなぁ、言っておくが、この問題は早急に解決しないとお前にも影響が出ることだぞ」
そう言われ、頭を回す。
国が動く解決しなければならない問題で、私にも影響が出ること。
ここ数日の出来事を掘り返していく、今までと何か異変があっただろうかと……。
特に何もなく、いつも通り仕事をして寝て、過ごしていたはずだ。
だが、そこでふと気付いてしまった。
「…………塩……」
そこで、この二文字を呟かなければ、私はこの案件に首を突っ込むことなく、平穏無事に過ごせていたかもしれないと、心底後悔することとなる。
そう静かな声で話しかけてきたのは、向かい側の牢屋に入ってらっしゃる男性だった。
性別関係なく入れられるらしいこの牢屋、どうやらお向かいさんは牢屋歴が長いらしく、のんびりと過ごしているようだった。
「アンタ、なんでまたこんなところに放り込まれたんだ? 悪人面には見えないが?」
暗闇の中、お向かいさんが小さく笑うような声が聞こえた。
「自分にも、よく事情がわからなくて……でもまぁ、なるようにしかなりませんし。大人しくしてますよ」
「なるようにしかならない、か…………そういう考え方、嫌いじゃないぜ?まぁ、アンタは悪い奴には見えないし、大丈夫そうに見えるが?」
彼の言葉を聞きながら食事を続けていると、「案外、図太そうだ」と小さく笑いながら言われた。
「貴方こそ、悪人には見えませんよ」
牢屋の人に対する食事にしては、結構美味しいものだった。そう思いながらも、箸を置きお向かいさんの方へ向きながら言えば彼は私から目を逸らした。
「それは、褒め言葉として受け取っておくぜ」
大きな体に、しっかりとした筋肉、ボサボサの髪の毛の奥には眼帯も見えた。
だが、話し声のせいなのか、ゆったりとしたその声は見た目とは裏腹に優しそうな印象を受けた。
「褒め言葉ですよ」
私の言葉に、彼は壁にもたれ目を閉じてしまった。
それから暫くすると、ガチャリと重い扉が開く音がした。
地下室のような牢屋の部屋全てに、外の明かりが入ってくる。
重い扉を開けた人は、大股で足早に私の牢の前まで歩いてきた。
「すみません」
ただ一言、それだけ告げて彼は牢屋の鍵を開けてくれた。
「ありがとうございます」
こっちだ、そういって出口へと案内してくれる彼の後ろを歩く前に、お向かいさんに「では、また」と頭を下げてから彼の元へ向かった。
「また、ね…………つくづく、変わった女だ」
頬杖をつきながら、牢屋に入ったまま彼はヒラヒラと手を振ってくれた。
牢屋から出してくれた人は、私を牢屋まで連行した人だったらしく、その節は申し訳ないことをしたと、顔面蒼白で言われた。
どうやら、陸という人に何か言われたらしく、気にしないでほしいとのことを伝えると、彼が会いたいと言っていたため、部屋まで案内された。
「こちらです」
言われるがままに足を踏み入れると、そこは図書館のような場所だった。
所狭しと詰め込まれた本の数々。
その中に、申し訳程度に存在する机で仕事をしていた彼は、顔を上げた。
「あぁ、来たのか」
「どうも、何だかご迷惑をおかけしてしまって……」
気が付くと、案内してくれた人は姿を消していたため、一歩彼の部屋に足を踏み入れて頭を下げれば、彼はため息を一つついた。
「何故、謝る必要があるんですか? 僕をここまで運んでくれたのは、貴方でしょう?」
「でも、牢屋から助けていただいたので……」
「命の恩人なんですから、当然です。あ、散らかってますけど、どうぞ座ってください」
これまた、申し訳程度にあった座り心地の良さそうな椅子を用意してもらい、腰かけるとお茶を彼が持ってきてくれた。
「生憎、僕は普通のお茶の淹れ方しかできないので、これで」
苦笑してお茶をくれた彼に、「とんでもないです、いただきます」と言って飲むと、何だか変わったお茶の味がした。
「これ、何のお茶だかわかりますか?」
ニッコリ、毒のない笑みを向けられて、お茶を見る。
(これは、また……陰湿な質問だなぁ)
一口飲んだ瞬間、普通の烏龍茶だと思ったけれど、何だか他の味がグルグルと口内に広がってくる。
恐らく、何種類かのお茶を混ぜているのだろう。
しかし、私にこんなクイズを出して、彼は一体私にどんな答えを出してほしいのだろうか。
ただ単に、お茶の答えを言っても、彼は満足してくれないような気がするのは、気のせいなのだろうか。
うーん、と暫く考えて、私は口を開いた。
「すみません、わかりません」
そう言うと、彼は苦笑する。
「ちょっと、難しすぎましたか?」
「いえ、お茶ではなく、この質問をして貴方が何を知りたがっているかが、わかりませんでした」
そう素直に告げると、彼の眉毛がピクリと動いた。
意外にも、感情が表に出るタイプなのかもしれないと、思った。
「案外、勘がいいのか。思ったより、使えそうで良かった」
急に、彼の口調と共に、纏っていた空気が変わった。
胡散臭そうな笑い方をする男の人だと思っていたが、どうやらこっちが彼の本当の顔らしい。
ニヤリと微笑む彼の顔は、活き活きとしているように見えた。
「長官に、お前を使うよう言われていたから、本当に役に立つのか調べただけだ。気にするな」
「使うって、何にですか? 言っておきますけど、私は一般人で、御史台の役に立てるようなことは何も……」
「それは、今俺が決めた。お前に、調べてもらいたいことがある。給料なら、ちゃんと出るぞ」
なんなら、額を指定してくれてもいい。
そう言われると、私は益々怪しい気配を感じた。
「何をしなければならないのか、詳細を教えてください。それから決めたいです」
「それはできない。この仕事は、機密事項が多すぎる。内容を知ったら、他言無用で絶対にやってもらうことになるな」
「じゃあ、やりません」
彼の言葉を聞いて即答すると、彼は椅子から立ち上がる。
「言っただろう? 長官に、使うように言われている。お前の意見ではない、俺たちが決めたことだ。従え」
「お断りします。危ないことには、関わりたくありません」
「危なくはない」
「貴方、襲われてたじゃないですか!?」
「それは別件だ」
「…………」
黙って、一歩ずつ距離を詰めてくる彼を見つめていると、彼は一つ溜息をついた。
「あのなぁ、言っておくが、この問題は早急に解決しないとお前にも影響が出ることだぞ」
そう言われ、頭を回す。
国が動く解決しなければならない問題で、私にも影響が出ること。
ここ数日の出来事を掘り返していく、今までと何か異変があっただろうかと……。
特に何もなく、いつも通り仕事をして寝て、過ごしていたはずだ。
だが、そこでふと気付いてしまった。
「…………塩……」
そこで、この二文字を呟かなければ、私はこの案件に首を突っ込むことなく、平穏無事に過ごせていたかもしれないと、心底後悔することとなる。