紫州事変
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「ふんふんふ~ん♪」
鼻歌を歌いながら、朝日が窓から差し込む天気の良い今日、私は自宅でお菓子を作っていた。
簡単なものだが、これもこの彩雲国では見られない食べ物だ。
きっと、あげたら彼女は喜んでくれるだろうと、彼女の笑顔を思い出しながら作ったそれを持って、私は彼女の自宅へと向かった。
「よっ!」
「お、おはようございます」
紅家の門を抜けると、そこには大男がいた。
「失礼ですが、どちら様で?」
「そっちこそ、姫サンの知り合いか?」
「姫さん?あぁ、秀麗のことですね。友達です」
「へ~、姫サンにも同性の友達っていたんだな!」
「え?」
「いや、よく子どもやお年寄りと話したり、俺みたいなヤローと話しているのは知ってるけど、同い年ぐらいの同性と姫サンが話してる姿って、オレは見たことなかったからなぁ」
「はぁ、そうですか。そんなことはないと思いますけど……そんなことより、秀麗は今留守ですか?」
「え?あ、いや……家にいるぜ。出発準備で忙しいと思うけどな」
秀麗は、どうやら忙しいようなので、さっさとお菓子を渡して帰ろうと思い、大男に秀麗がいるかどうかを聞くと、彼はなぜか少し驚いた様子で私を見ていた。
「そうですか……あなたも、彼女に用が?」
「いや、俺は――――」
「秀麗にこれから会いますか?」
「あ、あぁ」
「なら、これを渡しておいていただけますか?私の故郷のお菓子で、手紙も入っているので渡せば分かると思います」
「あ、おい!直接会わないのか?」
「出発準備で忙しいようなので、邪魔しないように帰ります。それではすみませんが、皆さんによろしくお伝えください。では、失礼します」
仕方がないので、秀麗と知り合いのような雰囲気を持つ大男に、お菓子を渡して私は紅家から去った。
(秀麗が出発準備?国試に合格して、地方の官吏にでもなるのかな?)
国試を受ける前から、多忙そうに見えていた彼女だが、これからますます多忙になりそうな彼女のことを思い、私は彼女の代わりに一つ溜息をついた。
それから、日の暮れだす頃に私は仕事場へ向かう。
ここ数日は、本当に国試の準備やらで忙しかったらしく、旺季様たちがずっと来ていない。
彼らと話す時間は、とても緊張したものであったが、嫌ではなかった。
今度はいつ来てくれるのだろうかと、平和な仕事場に着いた私は、思わず顔が緩んでしまう。
すると、玄関の方で何やらにぎやかな声が聞こえてきた。
(知り合いのお客様でも来たんだろうか?)
気になって、用意をしてから玄関へ顔を出すと、そこには見知った人たちがいた。
「秀麗!邵可さん!」
「やぁ、ヒカル。久しぶりだね」
「ヒカル!良かった会えて!あなたに一言お礼が言いたくて来たのよ」
「お礼?」
「今朝、燕青(えんせい)にあなたの特製お菓子を預けてくれたでしょう?とっても美味しかったわ!」
「燕青……?」
「よっ、また会ったな!」
「あぁ、貴方が燕青さんですか」
「今朝はどうも!ウマかったぜ、アンタの料理!」
「一緒に食べながらヒカルのことを話したら、是非ヒカルの手料理をもっと食べたいって言うもんだから、明日から私も茶州に向かうし、腹ごしらえさせてもらおうと思って来たのよ!」
秀麗は、がしっと私の手を掴んでそう言う。
「家計が、やばいの?」
「そ、それもあるけど……!って、何でわかったの!?」
「だって、秀麗何か必死なんだもん。ちょっと待ってね、私が作っても良いか店長に聞いてく「勿論いいぞ」」
店長の素早いにこやかな返答に、思わず続きを言えなくなってしまう。
「だってさ、ヒカル!ウマいの頼むぜ!」
それぞれが、嬉しそうに席に着く。
「……店長、ほんとに私が作ってもいいんですか?」
「勿論だとも!ついでに我々の分も頼むぞ!」
「他のお客様にも出せなんて言いませんよね?」
「それは言わんが……他のお客様にお前の料理を見せると、それが食べたいなどと言われても困るしな……秀麗ちゃんたちには、特別室に行ってもらおうか」
「そうですね。では、準備に取り掛かってきてもいいですか?」
「あぁ、頼むぞ」
「はい」
店長と別れて、私は厨房に立つ。
まずは手をよく洗い、下準備からだ。
(さて、何を作ろうか)
作った料理をテキパキと従業員の皆に運んでもらい、食べ終わった頃合いを見計らって、秀麗たちのいるテーブルに向かった。
「お食事楽しんでいただけていますか?」
「ヒカル!とっても美味しかったわ!!」
「あぁ、楽しかったし美味かったぜ!」
秀麗と燕青は、すぐさま私の言葉に返してくれた。
邵可さんは、ゆっくりと微笑んでくれて…………あれ?
「あ、とても美味しかったです」
「あ、はい。ありがとうございます」
「そういえば、さっきは紹介出来なかったけど、彼は杜 影月(と えいげつ)君。一緒に茶州州牧として、これから頑張る仲間なの」
「はじめまして、ヒカルさん。料理、とても美味しかったです。良いお嫁さんになりそうですね」
「あ、ご丁寧にどうもありがとうございます」
二人してお辞儀をすると、思ったより互いの距離が近かったらしく、互いの頭がぶつかり鈍い音が小さく響いた。
「いだっ!?す、すみません」
「いえ、こちらこそすみません!」
そんな私たちの様子を見ていた四人は、暫くこちらをじっと見ていたが、ようやく秀麗が発した言葉に私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「なんか癒されるわね~」
「「同感」」
その後、暫くの間雑談を楽しんで、帰っていく秀麗達を見送り、いつも通り閉店まで忙しなく働いた。
閉店した店内を掃除して、まかない料理を食べて今日の残った野菜や肉を分けてもらい、ようやく店を出ると、そこには二人の見知った顔があった。
「あれ?燕青さんと、静蘭。お二人とも、店に忘れ物ですか?」
正直、静蘭とは秀麗の国試を受ける前の出来事があるから、あんまり顔を合わせたくなかったのだが……。
まぁ、すぐに帰れば何も問題はないだろうと考えて、普通にいつも通りに接しようとすることにした。
「いえ。お嬢様に、今日の食事のお礼に貴方を家まで無事に届けるように。と言われましたので」
「あぁ、そうなんですか?大丈夫ですよ、それなら。これでも、毎日通っている道ですし、まだ人通りもありますので秀麗によろしくお伝えください」
では、と歩き出そうとすると、二人から肩を掴まれて止められる。
「まぁまぁ、そう言うなって。荷物も重いだろ?持ってやるって、それぐらい!今日の飯美味かったし、礼ぐらいさせてくれよ」
「いえ、でも……」
「お話したいこともありますし。さぁ、行きましょうか」
二人から左右をガッチリ固められ、荷物を奪われてしまい、逃げ場がなくなった。
(なぜ、こうも強引なんだこの二人………案外、似た者同士なのかな)
そんなことを考えながら、三人でぼんやりと町を歩く。
「そういえば、ヒカル」
静蘭から、ふと名前を呼ばれたので右隣を歩く彼を見ると、実は結構久しぶりにちゃんと彼の顔を見たので、以前の彼と全く表情が違うことに驚いた。
(なんて、優しそうな顔……)
「以前は、お嬢様のことで貴方に酷いことを言って、申し訳ありませんでした」
「酷いことって……そんな、全然そんなことないですよ。あれは、秀麗のためを思ってのことなんですから、当然ですよ。そりゃ、初めて殺気と言うものを目の当たりにしたのでビビりはしましたが、貴方は何も間違ったことはしていないと思いますし」
「静蘭、お前ヒカルに殺気向けたのか?八つ当たりもいいとこだよな~。ヒカルも、ちょっとは怒っていいと思うぜ、ホント」
「黙れ、お前には何も言っていないだろう」
「昔っから、俺にばっかり八つ当たりしてたんだぜコイツ。まー、慣れれば可愛いもんだからさ、俺ら姫サンと一緒に茶州行っちまうけど……帰ってきたときには、コイツの八つ当たりも聞いてやってくれよな!」
「八つ当たり、って?」
「こいつ、姫サンの役に立ちたいんだけど、手出しできない状態だったから、ずっとイライラしてたんだよ」
「なるほど。でも、明日から静蘭もついて行くんでしょう?」
「えぇ、まぁ。どうしてわかったんですか?」
「八つ当たりされて以来に会うからかもしれないけど、すごく表情が穏やかだったから」
「…………そう、ですか?」
「俺から見てもバレバレだぜ?」
「そっかー、明日から会えないんですね。早朝に出発されるんですか?」
「そうだな、見送りにでも来てくれるのか?」
「いえ、明日は朝から仕事があるので、見送りには行けないんですが……今から少し、お時間いただいてもいいですか?」
「「?」」
二人は、頭上に?マークを浮かべながらも頷いてくれたので、部屋に上がってもらい少しの時間、お茶を飲みながら待ってもらった。
「できました!」
「なに作ってたんだ?」
「多めに作ったので、明日の昼にでも皆さんで召し上がってください。材料は、今日の厨房の残りなので、タダですよ?」
「これは、なんですか?」
「これはですね――――」
説明をしたら、二人は喜んで持って帰ってくれた。
明日、必ず食べて頑張ってくる、と。
明日から、秀麗達は紫州からいなくなる。
いずれは帰省すると言っていたが、いつになるかわからない。
落ち着いたら文をくれると言っていたが、茶州は今色々と問題になっていると風の噂で聞いた。
(皆、無事でいてくれればいいけど……)
明日、見送りに行けない分はちゃんと渡した。
私には、秀麗のように働く力はない。
私は私らしく、できることをするだけだ。
「よし、明日に備えて寝よう」
次の日、馬車に揺られていた秀麗達は、ようやく昼休憩をすることにした。
「姫サン!今日だけだが、昼飯は豪勢だぜ!」
そういって、燕青が取り出したものは、ゴロゴロとした何かの塊だった。
「なに?これ?」
「肉巻きの握り飯だそうですよ?ヒカルのお手製です」
「わぁ!美味しそうですね!昨日の料理も全部美味しかったですし、ヒカルさんは本当に料理がお上手なんですね!」
秀麗は、ゆっくりと大きなそれを一つ手に取り、笑った。
「さすがヒカルね!これを食べれば、なんだかとても元気になれる気がするわ!!さぁ、いただくわよ!」
大きな口を開けて、ぱくりと食べてさらに彼女の顔が笑顔になるのを見て、彼らもまた幸せそうに笑うのだった。
(ヒカル、見てて!私、頑張るわっ!!)
鼻歌を歌いながら、朝日が窓から差し込む天気の良い今日、私は自宅でお菓子を作っていた。
簡単なものだが、これもこの彩雲国では見られない食べ物だ。
きっと、あげたら彼女は喜んでくれるだろうと、彼女の笑顔を思い出しながら作ったそれを持って、私は彼女の自宅へと向かった。
「よっ!」
「お、おはようございます」
紅家の門を抜けると、そこには大男がいた。
「失礼ですが、どちら様で?」
「そっちこそ、姫サンの知り合いか?」
「姫さん?あぁ、秀麗のことですね。友達です」
「へ~、姫サンにも同性の友達っていたんだな!」
「え?」
「いや、よく子どもやお年寄りと話したり、俺みたいなヤローと話しているのは知ってるけど、同い年ぐらいの同性と姫サンが話してる姿って、オレは見たことなかったからなぁ」
「はぁ、そうですか。そんなことはないと思いますけど……そんなことより、秀麗は今留守ですか?」
「え?あ、いや……家にいるぜ。出発準備で忙しいと思うけどな」
秀麗は、どうやら忙しいようなので、さっさとお菓子を渡して帰ろうと思い、大男に秀麗がいるかどうかを聞くと、彼はなぜか少し驚いた様子で私を見ていた。
「そうですか……あなたも、彼女に用が?」
「いや、俺は――――」
「秀麗にこれから会いますか?」
「あ、あぁ」
「なら、これを渡しておいていただけますか?私の故郷のお菓子で、手紙も入っているので渡せば分かると思います」
「あ、おい!直接会わないのか?」
「出発準備で忙しいようなので、邪魔しないように帰ります。それではすみませんが、皆さんによろしくお伝えください。では、失礼します」
仕方がないので、秀麗と知り合いのような雰囲気を持つ大男に、お菓子を渡して私は紅家から去った。
(秀麗が出発準備?国試に合格して、地方の官吏にでもなるのかな?)
国試を受ける前から、多忙そうに見えていた彼女だが、これからますます多忙になりそうな彼女のことを思い、私は彼女の代わりに一つ溜息をついた。
それから、日の暮れだす頃に私は仕事場へ向かう。
ここ数日は、本当に国試の準備やらで忙しかったらしく、旺季様たちがずっと来ていない。
彼らと話す時間は、とても緊張したものであったが、嫌ではなかった。
今度はいつ来てくれるのだろうかと、平和な仕事場に着いた私は、思わず顔が緩んでしまう。
すると、玄関の方で何やらにぎやかな声が聞こえてきた。
(知り合いのお客様でも来たんだろうか?)
気になって、用意をしてから玄関へ顔を出すと、そこには見知った人たちがいた。
「秀麗!邵可さん!」
「やぁ、ヒカル。久しぶりだね」
「ヒカル!良かった会えて!あなたに一言お礼が言いたくて来たのよ」
「お礼?」
「今朝、燕青(えんせい)にあなたの特製お菓子を預けてくれたでしょう?とっても美味しかったわ!」
「燕青……?」
「よっ、また会ったな!」
「あぁ、貴方が燕青さんですか」
「今朝はどうも!ウマかったぜ、アンタの料理!」
「一緒に食べながらヒカルのことを話したら、是非ヒカルの手料理をもっと食べたいって言うもんだから、明日から私も茶州に向かうし、腹ごしらえさせてもらおうと思って来たのよ!」
秀麗は、がしっと私の手を掴んでそう言う。
「家計が、やばいの?」
「そ、それもあるけど……!って、何でわかったの!?」
「だって、秀麗何か必死なんだもん。ちょっと待ってね、私が作っても良いか店長に聞いてく「勿論いいぞ」」
店長の素早いにこやかな返答に、思わず続きを言えなくなってしまう。
「だってさ、ヒカル!ウマいの頼むぜ!」
それぞれが、嬉しそうに席に着く。
「……店長、ほんとに私が作ってもいいんですか?」
「勿論だとも!ついでに我々の分も頼むぞ!」
「他のお客様にも出せなんて言いませんよね?」
「それは言わんが……他のお客様にお前の料理を見せると、それが食べたいなどと言われても困るしな……秀麗ちゃんたちには、特別室に行ってもらおうか」
「そうですね。では、準備に取り掛かってきてもいいですか?」
「あぁ、頼むぞ」
「はい」
店長と別れて、私は厨房に立つ。
まずは手をよく洗い、下準備からだ。
(さて、何を作ろうか)
作った料理をテキパキと従業員の皆に運んでもらい、食べ終わった頃合いを見計らって、秀麗たちのいるテーブルに向かった。
「お食事楽しんでいただけていますか?」
「ヒカル!とっても美味しかったわ!!」
「あぁ、楽しかったし美味かったぜ!」
秀麗と燕青は、すぐさま私の言葉に返してくれた。
邵可さんは、ゆっくりと微笑んでくれて…………あれ?
「あ、とても美味しかったです」
「あ、はい。ありがとうございます」
「そういえば、さっきは紹介出来なかったけど、彼は杜 影月(と えいげつ)君。一緒に茶州州牧として、これから頑張る仲間なの」
「はじめまして、ヒカルさん。料理、とても美味しかったです。良いお嫁さんになりそうですね」
「あ、ご丁寧にどうもありがとうございます」
二人してお辞儀をすると、思ったより互いの距離が近かったらしく、互いの頭がぶつかり鈍い音が小さく響いた。
「いだっ!?す、すみません」
「いえ、こちらこそすみません!」
そんな私たちの様子を見ていた四人は、暫くこちらをじっと見ていたが、ようやく秀麗が発した言葉に私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「なんか癒されるわね~」
「「同感」」
その後、暫くの間雑談を楽しんで、帰っていく秀麗達を見送り、いつも通り閉店まで忙しなく働いた。
閉店した店内を掃除して、まかない料理を食べて今日の残った野菜や肉を分けてもらい、ようやく店を出ると、そこには二人の見知った顔があった。
「あれ?燕青さんと、静蘭。お二人とも、店に忘れ物ですか?」
正直、静蘭とは秀麗の国試を受ける前の出来事があるから、あんまり顔を合わせたくなかったのだが……。
まぁ、すぐに帰れば何も問題はないだろうと考えて、普通にいつも通りに接しようとすることにした。
「いえ。お嬢様に、今日の食事のお礼に貴方を家まで無事に届けるように。と言われましたので」
「あぁ、そうなんですか?大丈夫ですよ、それなら。これでも、毎日通っている道ですし、まだ人通りもありますので秀麗によろしくお伝えください」
では、と歩き出そうとすると、二人から肩を掴まれて止められる。
「まぁまぁ、そう言うなって。荷物も重いだろ?持ってやるって、それぐらい!今日の飯美味かったし、礼ぐらいさせてくれよ」
「いえ、でも……」
「お話したいこともありますし。さぁ、行きましょうか」
二人から左右をガッチリ固められ、荷物を奪われてしまい、逃げ場がなくなった。
(なぜ、こうも強引なんだこの二人………案外、似た者同士なのかな)
そんなことを考えながら、三人でぼんやりと町を歩く。
「そういえば、ヒカル」
静蘭から、ふと名前を呼ばれたので右隣を歩く彼を見ると、実は結構久しぶりにちゃんと彼の顔を見たので、以前の彼と全く表情が違うことに驚いた。
(なんて、優しそうな顔……)
「以前は、お嬢様のことで貴方に酷いことを言って、申し訳ありませんでした」
「酷いことって……そんな、全然そんなことないですよ。あれは、秀麗のためを思ってのことなんですから、当然ですよ。そりゃ、初めて殺気と言うものを目の当たりにしたのでビビりはしましたが、貴方は何も間違ったことはしていないと思いますし」
「静蘭、お前ヒカルに殺気向けたのか?八つ当たりもいいとこだよな~。ヒカルも、ちょっとは怒っていいと思うぜ、ホント」
「黙れ、お前には何も言っていないだろう」
「昔っから、俺にばっかり八つ当たりしてたんだぜコイツ。まー、慣れれば可愛いもんだからさ、俺ら姫サンと一緒に茶州行っちまうけど……帰ってきたときには、コイツの八つ当たりも聞いてやってくれよな!」
「八つ当たり、って?」
「こいつ、姫サンの役に立ちたいんだけど、手出しできない状態だったから、ずっとイライラしてたんだよ」
「なるほど。でも、明日から静蘭もついて行くんでしょう?」
「えぇ、まぁ。どうしてわかったんですか?」
「八つ当たりされて以来に会うからかもしれないけど、すごく表情が穏やかだったから」
「…………そう、ですか?」
「俺から見てもバレバレだぜ?」
「そっかー、明日から会えないんですね。早朝に出発されるんですか?」
「そうだな、見送りにでも来てくれるのか?」
「いえ、明日は朝から仕事があるので、見送りには行けないんですが……今から少し、お時間いただいてもいいですか?」
「「?」」
二人は、頭上に?マークを浮かべながらも頷いてくれたので、部屋に上がってもらい少しの時間、お茶を飲みながら待ってもらった。
「できました!」
「なに作ってたんだ?」
「多めに作ったので、明日の昼にでも皆さんで召し上がってください。材料は、今日の厨房の残りなので、タダですよ?」
「これは、なんですか?」
「これはですね――――」
説明をしたら、二人は喜んで持って帰ってくれた。
明日、必ず食べて頑張ってくる、と。
明日から、秀麗達は紫州からいなくなる。
いずれは帰省すると言っていたが、いつになるかわからない。
落ち着いたら文をくれると言っていたが、茶州は今色々と問題になっていると風の噂で聞いた。
(皆、無事でいてくれればいいけど……)
明日、見送りに行けない分はちゃんと渡した。
私には、秀麗のように働く力はない。
私は私らしく、できることをするだけだ。
「よし、明日に備えて寝よう」
次の日、馬車に揺られていた秀麗達は、ようやく昼休憩をすることにした。
「姫サン!今日だけだが、昼飯は豪勢だぜ!」
そういって、燕青が取り出したものは、ゴロゴロとした何かの塊だった。
「なに?これ?」
「肉巻きの握り飯だそうですよ?ヒカルのお手製です」
「わぁ!美味しそうですね!昨日の料理も全部美味しかったですし、ヒカルさんは本当に料理がお上手なんですね!」
秀麗は、ゆっくりと大きなそれを一つ手に取り、笑った。
「さすがヒカルね!これを食べれば、なんだかとても元気になれる気がするわ!!さぁ、いただくわよ!」
大きな口を開けて、ぱくりと食べてさらに彼女の顔が笑顔になるのを見て、彼らもまた幸せそうに笑うのだった。
(ヒカル、見てて!私、頑張るわっ!!)