「――――じゃ、編入生を紹介するぞー」

担任の気だるげな声と共に、教室の扉を開けて入ってきた人物に、一同はゴクリと唾を飲み込んだ。
そして、漫画やアニメを知る人物たちは思う。


（（（（（やっべー、生リヴァイ兵長だっ！？）））））

ヒカルと、彼女の弟の二人から、事前にリヴァイがこの高校へ編入してくるという情報は知っていたはずだが、誰もが驚愕するこの状況。
しかし、それはあくまでも皆の心の内での話であり、教室内は、未だかつてない程の静寂を保っていた。

「んじゃ、自己紹介してくれー」

そんな教室内の空気を読めない担任は、頭をボリボリ掻きながらリヴァイに告げる。

「リヴァイだ」

言われた通りの自己紹介を、簡潔に短く、姿勢正しく、さらに偉そうに告げた彼は、教室内に見知った顔を見つけ、少し目を細めた。
彼の生の声を聞き、興奮した生徒は思わず立ち上がって叫ぶ。

「リヴァイさん！　俺、シュンって言います！　リヴァイさんのお席は、俺の隣なんで、どーぞっ！！」

シュンは、両手をリヴァイのために用意された、皆と同じ机と椅子の方へと添えられる。
すると、リヴァイはそちらへと一歩一歩、歩いて行く。

（やっべー、リヴァイさんが今俺の横通ったぜ！？）
（つか、何か俺興奮しすぎて鼻血出そう……）
（垂れ流しとけよ。そんなことより、これ夢じゃねぇよな！？）

小声で会話する生徒が続出し、教室内がざわつき始めると、タイミングよくチャイムが鳴る。

「じゃ、HR終わるぞー。お前等、リヴァイに色々教えてやれよー」

担任の声は、生徒達がチャイムの鳴った後に騒ぎ出したため、しっかりと聞いた生徒は多分いなかったことだろう。
チャイムが鳴り終わった瞬間から、生徒達がぐわっ！　と騒ぎ出したのだ。

「リヴァイさん、カッコいいですね！」
「俺、よろしければ校内を案内いたしまっす！」
「じゃー、俺は購買でパンでも買ってきますか！？」
「馬鹿！　まだ購買やってねぇよ！　それよりも、教科書まだないなら、俺のを使ってください！」
「リヴァイさん！」
「リヴァイさん！！」

男だけではない、女子も同様である。
最早クラスのほぼ全員が、リヴァイの舎弟のような有り様に、ヒカルは唖然としていた。

「そーいえば、アンタ進撃の巨人読んでないんだっけ？」
「ううん、弟が持ってるのをちょっと読んだけど……なに、そんなに人気なのあの人」
「人気があるっていうか、最早崇められてるっていうか、人類最強の男だからね～」
「強いとは知ってたけど……あんなに人気だとは思わなかった。どうりで、うちの弟も舎弟になるはずだわ」
「アンタ、ちゃんと読むべきだよ、進撃は。まじで。あれ読まないなんて、人生損してるって」
「いや、漫画でしょ」
「アニメと漫画、両方見ろ。アニメはねー、動きがもうねヤバい。ぬるぬるどころじゃないぐらい、動くの。未だかつてないほどの完成度よ」
「ぬるぬる？」
「漫画はね、なんかすっごい躍動感があって、読んでて引き込まれるっていうか、なんかこう……グワーッ！　ってなるの」
「ぐわー？」
「…………説明しても、わかんないでしょ。とにかく、読め。弟のものを盗んででも読め」
「そんな暇があるなら、寝たい」
「どんだけ睡眠命なのよ」

そんなヒカル達が会話をしている間に、ヒカルの弟がリヴァイさんの元へやってきたことで、教室内はさらに盛り上がりを見せるのだった。