「なぜだ！？」

リヴァイの叫び声に、ヒカルは動じずに答える。

「お父さんが、もうそうやって決めちゃったから」

笑いたい、けれど笑ったら確実に殺されると判断して、何とか笑うのを我慢する弟。
リヴァイは、帰宅した二人からもう一度高校について詳しく説明を聞き、冒頭の叫び声をあげた。

「年齢が範囲外ではないのか？　エレンならまだしも……」
「大丈夫です。今うちの高校にはいませんけど、おじいさんとかになっていても通う人はいます」

黙っていた弟は、エレン――――その三文字のワードに、歓喜していた。

(うわっ！？　やっべー！　俺リヴァイ兵長の生エレンって呼ぶ声聞いちゃった！　やっべー！！)

もちろん、そんなことを思われているとは知らないリヴァイは、ヒカルと弟を見た。

「とにかく、そんなガキの集まるところに、誰が行くか」
「じゃあ、試験で落ちればいいんじゃないですか？　さすがに、試験に落ちれば入れませんし」

弟が、悪知恵をリヴァイに吹き込む。

「試験か…………」
「じゃあどうしよ……勉強しないってこと？」
「いや、一応勉強はする。この世界のことを知らなさすぎるのは、生活して行くうえで不便だ」

((高校生にはなりたくないけど、試験に落ちるのは嫌なんだ……))

リヴァイの心情が何となくわかり、二人は互いに目を合わせた。



そんなやりとりがあって、数日後――――
無事に編入試験をパスしたリヴァイは、制服に身を包んでいた。

「リヴァイさん！　すっげーお似合いです！　カッコいいです！」
「…………」

弟からの賛美の声に反応することなく、リヴァイは朝食後のコーヒーをゆったりと満喫していた。
彼のいた世界のコーヒーとは違うその味に、どうやら魅了されてしまったらしい。
そんな様子を見ていたヒカルは、時計を見て立ち上がった。

「二人とも、そろそろ行こう」

ヒカルの声に、二人は立ち上がる。

「じゃ、……」
「「「いってきます」」」

三人の息子、娘たちを見送るように、父と母は玄関先で手を振った。

「なんだか、息子がもう一人増えたみたいで、嬉しいわね」
「あぁ、そうだな」

穏やかな空気が流れる天月家。

「あら！　あなた、遅刻よ。大変ね」

そう言って、母は時計を見て慌てた様子もなくそんなことを言った。
それを聞いて、父が時計を見ると、確かに出勤時刻を十分も過ぎていた。

「あーっ！？　ママ、俺も行ってくるよ！」
「いってらっしゃーい」

穏やかに送り出した母は、嬉しそうに笑った。

「息子が三人ね」

そんなことを呟き、彼女は「さて、食器洗いしなくちゃねー」と鼻歌を歌いながら家事を始めるのだった。