「じゃっじゃーん！」

早朝、朝食を食べていた家族とリヴァイは、元気よく現れた父の存在にご飯を食べていた手を一時停止させた。

「父さん、なんなの？　その朝から高すぎるテンション。俺、まだ眠いからイライラするよ～」
「息子よっ！　皆もリヴァイ君も、ビックリして聞いてくれ！」

一枚の紙を手に現れた父親に、仕方なく彼等はその紙の正体を知るために、それぞれ食べていた手を完全に止めた。

「リヴァイ君がここに住むと決まった以上、君の戸籍や保険証など、様々な問題が出てくる」
「あ、戸籍っていうのは、この国の人ですよ～っていう証明書みたいなもので、保健証は正式名称が健康保険証って言って、怪我した時に治療してもらう代金が高いから、安くしてもらうためのものなんだ」
「息子よっ！　お前、いつの間にそんなに勉強したんだ！？　やはり、お前も将来は役所勤めをしたいということか？！」
「いや、今スマホで調べた」
「現代っ子だものね～」

母親ののんびりした言葉に、父親は一つ咳払いをした。

「とにかく、役所勤めの父が、それらの問題を全て解決しました！　君の名前は今日から、天月リヴァイ君！　我が家の養子ということにしておいた。それから、せっかくなので高校への編入手続きも行っておいた！　来週編入試験があるから、二人は勉強を教えてあげてくれ！　二人と同じ高校だからなっ！」

えっへん！　褒めてくれ！　と言わんばかりの父親に対して、ヒカルは「はーい」と気のない返事をし、母親は「リヴァイさん、コーヒーのおかわりは？」と既に父親の話を聞いていない。
対するリヴァイも「いただこう」とこちらも聞いておらず、ヒカルの弟だけが「えっ？　えっ！？」と非常に驚いていた。
父親は、涙目になりながら弟の手を両手で握った。

「そうだろう！　父はすごいだろう！？」

誰もそんなことは一言も言っていない。

「ていうか、父さん。リヴァイさん……もう三十路過ぎてる……………」
「………………え……」

弟の言葉に、一同静まり返る。

「で、でもほら！　学校生活って、やっぱりホームステイで重要なことの一つでしょ！？」
「そうね～、この国のことも色々と学べるし、やってみたら面白いかもしれないわね。リヴァイさん、高校生って言われても違和感ないもの」

ね？　と同意を求められたヒカルは、頷いていいものかと迷っていると、リヴァイは「高校とはなんだ？」とまたもや、わからない単語にぶつかっていて、母親の言葉に反応している暇もなかったようで、ヒカルはホッとしていた。

「高校っていうのはね、将来のために色々なことを勉強させてもらうための場なんだ。学問や運動、人間関係とか色々あるから、いずれ元の世界に戻るにしても、知っておいて損なことはないはずだ！」

相も変わらず、自信満々な態度を崩さない父親。
そんな彼の様子に、最早ツッコミを入れる者はおらず、とりあえずスルーされた。

「高校は、制服があるの。私と弟が着ているのがそうなんだけど。リヴァイも、これから試験に合格したら着れるよ」
「その服は、何か特別な機能でもあるのか？」
「あ、リヴァイさん！　立体起動装置みたいな、すごい機能とかはないです！　でも、これを着てればすぐに高校生だ！　って、皆にわかってもらえるんですよ！」
「制服とは、そういうものだろう」
「そっか……リヴァイさん、調査兵団の服着てたから、あれも制服みたいなものだよな…………わ、なんか……帰ったらもう一回原作読み直そ」

何やらブツブツ言っている弟を放置して、ヒカルは食べ終えた食器を流し台に運び、カバンを手に取った。

「高校は、決められた時間に行って勉強しなきゃいけないところなの。だから、いってきまーす！」
「あ、待って！　姉ちゃん！！」

慌てて姉の姿を追いかけていく弟と、先を行く姉を見送った三人は、ずずっとコーヒーを飲んだ。

「うまいな」

小さくリヴァイがそういうと、母親は「じゃあ、もう一杯どうぞ？」とブラックコーヒーを彼のコップに並々と注いだ。
その頃、走っていた弟は気付いた。

「しまったあああああ！」

あまりにも大きな声で弟が叫んだため、思わず前を歩いていたヒカルも振り返った。

「どうしたの！？」
「リヴァイさんがコーヒー飲む姿、ちゃんと見てなかった」

暫く沈黙したヒカルは、何とか一言だけ言葉を絞り出した。

「…………だから？」
「あの人、持ち方独特なんだよ！　こうやって持つの！」

弟の言っていること、やっている動作がイマイチわからず、ヒカルは首を傾げた。

「……は？」
「だから！　こう！　持ち手を持たずに、こうやって持つの！　超カッコいいんだって！」

ヒカルが、弟を放置して再び歩き出すのに時間はかからなかった。