結び守
三人でいることに慣れてきていた。
それは良くも悪くも、審神者にとって戸惑いを生んだ。
「──────今までは、あの大穴を作り出した犯人が私達の帰る手段を知る唯一の手掛かりでしたが、皆さんのおかげで帰還出来ますね」
「今直ぐ、と言いたいとこやけども、わし等は良くても主が危険や言うて政府は聞かんかったきに」
陸奥守が言うには、審神者は刀剣男士たちと違い人の身。
たまたま大穴を潜れたものの、政府が管理する転移装置で人が移動するにはそれなりの準備と手続きが必要だった。
如何にも彼等らしい返答と準備の悪さに、審神者は少し笑った。
「つまり、主が帰れるまで安全にここで待つしか方法がない、ってことだな」
鶴丸の言葉に、陸奥守は面目ないと言って頭を下げた。
「頭をあげて下さい、陸奥守。私は皆に今助けに来ていただけて、本当に嬉しく思っています。更には帰る方法まである。これ以上のことはありません」
「そうそう、君が気にすることでも、僕らが気にすることでもないよ? 対応が遅いそのせーふとやらが悪いんだろう?」
「そうだね。発音がおかしかった気がするけど、そうだね」
髭切はのほほん、とお茶を飲みながらそんなことを言う。
それに間髪入れずツッコミを入れたのは加州だ。
その後も、やいやいと続く彼等の会話に審神者は入らずゆっくりとその様子を眺めていた。
それは懐かしく、楽しかった本丸の日常を彼女に思い出させた。
(陸奥守に聞けば、本丸から姿を消して一週間……たった一週間で、こんなに懐かしく思うなんて)
酒も飲んでいないのに、鶴丸の話にゲラゲラと声を上げて笑う陸奥守、御手杵、今剣。
それを見て、鬱陶しそうにしながらも加州と共に笑う大和守。
髭切と小竜は、二人して彼等の様子を見て笑いながら端末に入っている将棋をしている。
二振りといた時にも、審神者は不安を感じたことはなかった。
だが今は、確実な安心感があった。
それはたくさんの仲間に囲まれていることと、本丸という家にいる気持ちになるからだろう。
(我が家は安心する、って本当だったんだ……ここ、まだ家じゃないけど)
そう思いながら、審神者の目蓋が次第に重くなっていく。
気付くと、審神者はそのまま眠りについてしまった。
「────ろ……ぃ、起きろ」
審神者はボンヤリとした意識の中、思う。
(……本丸に、こんな野太いガラガラ声の男士いたかな…………)
目を開くと、地べたに寝たはずが畳に敷かれた布団で目が覚めた。
「ようやくお目覚めか?」
大男が、布団に横たわる審神者を見下ろしていた。
「…………っ?! 貴方は、天狗の……」
「よぉ、巫女サン? アンタに恨みはねぇが、ちと戦力が必要でな」
大男は、カツタと名乗った。
彼は天狗の中でもある程度地位があるらしく、彼は戦力を、審神者に仕える刀剣男士を必要としていた。
「主、無事か?」
(私の元に刀剣男士がいるから、私を攫ったということ……)
辺りを見回し、小屋ではなく綺麗な一軒家であることから、彼女は連れ去られたのだと直ぐ理解した。
「お〜い、主? 聞こえてる?」
危険な状況だと彼女は大男を睨み上げる隣で、二振りが呑気に審神者に手を振っていた。
(何故いる?! そういえば、霊力を上げて一日経っていますが、もしかして一定経過すると力が弱まりまた人には見えなくなる?)
カツタの目に二振りが見えていない様子から、審神者はそう考えた。
だが、折角大男の探し人が見えていないこの状況は、審神者にとって良い。
「……協力しろと?」
「アンタじゃねぇ、そこは安心しろ。連れの二人だよ」
「…………拒んだら?」
ゆっくりと立ち上がり、それでも審神者より遥かに背の高い男を見上げて尋ねると、カツタは煙管から口を離し、ニヤリと笑った。
「命は、惜しいだろ?」
その答えに刀に手を置いたのは二振りだ。
審神者は二振りが動かないよう、目で止まるよう訴えた。
直ぐにこの場から逃げられるとは考えにくい。
更に、カツタはどうやら鶴丸と髭切の二振りのことを言っているようだが、他の男士のことまでバレれば、彼等も欲しいと言いかねない。
他の刀剣男士まで巻き込むのは避けたい。
だが、二振りをあの事件に巻き込むことも審神者には出来ない。
歴史改変につながる可能性がかなり強く、審神者は自分がそれに関わることは仕方ないと考えていたが、それが彼等となると話はまた別だと思った。
ならば、道は一つしかない。
(カツタを騙し……隙を見て逃げる)
審神者は、彼を見上げた。
「……不本意ですが」
そう告げ、カツタが笑い一先ず飯を持ってくると席を外したのを見て、二振りを見た。
「……お二人は無事ですか?」
「あぁ、もう逃げるか?」
「今逃げても、すぐ捕まるでしょう?」
「そうだねぇ、警備もここは厳重だし。他の奴らが助けに来るのを待つか、警備の薄い場所へ移動してから逃げる方が良いんじゃない?」
「……ですよね。二人の姿がカツタに見えないのが幸いです」
「俺らは別に構わんが」
「ダメです」
審神者は断言した。
「駄目ですけど、私が逃げるために力を貸して下さい」
審神者が言うと、二振りは当然のように頷き立ち上がった。
「っしゃ、やってやろうぜ」
「任せてよ」
他の刀剣男士の助けにも期待しつつ、三人は天狗のアジトからの脱出を考える。
(……頑張ろう)
帰る道が見えたところでの誘拐に困惑しながらも、審神者は帰還することを改めて強く願った。
それは良くも悪くも、審神者にとって戸惑いを生んだ。
「──────今までは、あの大穴を作り出した犯人が私達の帰る手段を知る唯一の手掛かりでしたが、皆さんのおかげで帰還出来ますね」
「今直ぐ、と言いたいとこやけども、わし等は良くても主が危険や言うて政府は聞かんかったきに」
陸奥守が言うには、審神者は刀剣男士たちと違い人の身。
たまたま大穴を潜れたものの、政府が管理する転移装置で人が移動するにはそれなりの準備と手続きが必要だった。
如何にも彼等らしい返答と準備の悪さに、審神者は少し笑った。
「つまり、主が帰れるまで安全にここで待つしか方法がない、ってことだな」
鶴丸の言葉に、陸奥守は面目ないと言って頭を下げた。
「頭をあげて下さい、陸奥守。私は皆に今助けに来ていただけて、本当に嬉しく思っています。更には帰る方法まである。これ以上のことはありません」
「そうそう、君が気にすることでも、僕らが気にすることでもないよ? 対応が遅いそのせーふとやらが悪いんだろう?」
「そうだね。発音がおかしかった気がするけど、そうだね」
髭切はのほほん、とお茶を飲みながらそんなことを言う。
それに間髪入れずツッコミを入れたのは加州だ。
その後も、やいやいと続く彼等の会話に審神者は入らずゆっくりとその様子を眺めていた。
それは懐かしく、楽しかった本丸の日常を彼女に思い出させた。
(陸奥守に聞けば、本丸から姿を消して一週間……たった一週間で、こんなに懐かしく思うなんて)
酒も飲んでいないのに、鶴丸の話にゲラゲラと声を上げて笑う陸奥守、御手杵、今剣。
それを見て、鬱陶しそうにしながらも加州と共に笑う大和守。
髭切と小竜は、二人して彼等の様子を見て笑いながら端末に入っている将棋をしている。
二振りといた時にも、審神者は不安を感じたことはなかった。
だが今は、確実な安心感があった。
それはたくさんの仲間に囲まれていることと、本丸という家にいる気持ちになるからだろう。
(我が家は安心する、って本当だったんだ……ここ、まだ家じゃないけど)
そう思いながら、審神者の目蓋が次第に重くなっていく。
気付くと、審神者はそのまま眠りについてしまった。
「────ろ……ぃ、起きろ」
審神者はボンヤリとした意識の中、思う。
(……本丸に、こんな野太いガラガラ声の男士いたかな…………)
目を開くと、地べたに寝たはずが畳に敷かれた布団で目が覚めた。
「ようやくお目覚めか?」
大男が、布団に横たわる審神者を見下ろしていた。
「…………っ?! 貴方は、天狗の……」
「よぉ、巫女サン? アンタに恨みはねぇが、ちと戦力が必要でな」
大男は、カツタと名乗った。
彼は天狗の中でもある程度地位があるらしく、彼は戦力を、審神者に仕える刀剣男士を必要としていた。
「主、無事か?」
(私の元に刀剣男士がいるから、私を攫ったということ……)
辺りを見回し、小屋ではなく綺麗な一軒家であることから、彼女は連れ去られたのだと直ぐ理解した。
「お〜い、主? 聞こえてる?」
危険な状況だと彼女は大男を睨み上げる隣で、二振りが呑気に審神者に手を振っていた。
(何故いる?! そういえば、霊力を上げて一日経っていますが、もしかして一定経過すると力が弱まりまた人には見えなくなる?)
カツタの目に二振りが見えていない様子から、審神者はそう考えた。
だが、折角大男の探し人が見えていないこの状況は、審神者にとって良い。
「……協力しろと?」
「アンタじゃねぇ、そこは安心しろ。連れの二人だよ」
「…………拒んだら?」
ゆっくりと立ち上がり、それでも審神者より遥かに背の高い男を見上げて尋ねると、カツタは煙管から口を離し、ニヤリと笑った。
「命は、惜しいだろ?」
その答えに刀に手を置いたのは二振りだ。
審神者は二振りが動かないよう、目で止まるよう訴えた。
直ぐにこの場から逃げられるとは考えにくい。
更に、カツタはどうやら鶴丸と髭切の二振りのことを言っているようだが、他の男士のことまでバレれば、彼等も欲しいと言いかねない。
他の刀剣男士まで巻き込むのは避けたい。
だが、二振りをあの事件に巻き込むことも審神者には出来ない。
歴史改変につながる可能性がかなり強く、審神者は自分がそれに関わることは仕方ないと考えていたが、それが彼等となると話はまた別だと思った。
ならば、道は一つしかない。
(カツタを騙し……隙を見て逃げる)
審神者は、彼を見上げた。
「……不本意ですが」
そう告げ、カツタが笑い一先ず飯を持ってくると席を外したのを見て、二振りを見た。
「……お二人は無事ですか?」
「あぁ、もう逃げるか?」
「今逃げても、すぐ捕まるでしょう?」
「そうだねぇ、警備もここは厳重だし。他の奴らが助けに来るのを待つか、警備の薄い場所へ移動してから逃げる方が良いんじゃない?」
「……ですよね。二人の姿がカツタに見えないのが幸いです」
「俺らは別に構わんが」
「ダメです」
審神者は断言した。
「駄目ですけど、私が逃げるために力を貸して下さい」
審神者が言うと、二振りは当然のように頷き立ち上がった。
「っしゃ、やってやろうぜ」
「任せてよ」
他の刀剣男士の助けにも期待しつつ、三人は天狗のアジトからの脱出を考える。
(……頑張ろう)
帰る道が見えたところでの誘拐に困惑しながらも、審神者は帰還することを改めて強く願った。