結び守
三人が想像していたより小さかった船は、何人かの侍を乗せた船だったらしい。
その中の数人が審神者達を船内で発見し、怪しいと斬りかかられたところを二振りが倒すと、彼等は一様に土下座して言った。
「何処ぞの武人か存じ上げませんが、あなた方ほど強い武人は見たことがありません。どうか我等に力を貸してはいただけませんでしょうか」
彼等は天狗と名乗る集団で、江戸へはある目的があり長旅の末ようやく辿り着いたのだという。
「────して、目的は?」
鶴丸が普段審神者には言わないような、低く冷淡な声で尋ねる。
萎縮した男達は、土下座で地面に擦っていた頭を上げて明瞭快活に述べた。
「井伊大老へ、我等の意思を理解させるため!」
その言葉に、審神者はここが歴史のどの時代で、今後何が起きるのか理解してしまった。
「………………桜田門外……」
「俺達まだここへ来たばかりでさ、一先ず宿を探したいんだけど?」
審神者の小さな言葉が聞こえた髭切は、そう言ってニッコリと男達へ笑みを向けた。
そして、それに鶴丸は直ぐに彼の意図を察し、同意するように頷いた。
「それなら、俺達が泊まる予定だった宿を使って下さい。俺達のような者ではない人も泊まれる宿です」
「安全なのか?」
「はい。私が先に御三方の部屋を取れるよう主人に話してきます!」
下っ端の男が走り去るのを見て、鶴丸は目の前の船内の代表者らしき大男へキッパリと断言した。
「言っておくが、まだ協力すると決めわけではない。此方にも目的があってな」
「…………こんな船に女を乗せるぐらいだ。余程の事なのだろう」
大男は、二振りに守られるように立っている審神者を見て、直ぐに視線を外した。
顎で他の天狗達へ指示を出したその男は、三人のことを他のものに任せ、船から出て行った。
「……取り敢えず、今日の泊まるところは確保できましたね。二人ともありがとうございました。すみません、何も出来なくて…………」
「いや、主があそこで口を開かなくて正解だった」
「そうそう。俺のせいで疲れてるんだし、宿に着くまでボーッとしていて良いんだよ」
髭切の言葉に、審神者はボッと顔を赤らめた。
(うわ、恥ずかしい……今、あの時のことを思い出して顔を赤くしている暇なんてないのに!)
「……と、とにかく! また時代を飛ばされてしまった以上、することは同じですよね?!」
吃りながらも、審神者は慌てて二振りにそう尋ねる。
彼女の顔が赤いことには、二振り共特に追求したり、からかったりすることはなかった。
宿に案内され、三人は一部屋に膝を詰めて座った。
鶴丸は暫く部屋の外へ視線を向けた後、静かに目を閉じた。
「……周囲に奴等の気配はない」
「じゃあ、明日からどうする?」
髭切に尋ねられ、審神者は少し下を向く。
鶴丸と髭切の白い手を見ながら考える。
本丸に帰るためには、どうすれば良いのか。
あの大穴の正体と、それを引き起こしたドロドロとした手の正体。
そして、今ここで起ころうとしている桜田門外の変に、自分達が巻き込まれようとしているこの状態をどうすべきか。
「現状をまず整理しましょう。本丸へ帰ることが、私たちの第一目標です」
「なら大穴の犯人を見つけることは、その手段の一つ、ということだな」
「それらを踏まえると、別に今回の天狗達に関わる必要はないよね?」
「そうですね。彼等の口振りからして、安政の大獄の後の江戸時代でしょう。天狗と名乗る彼等は水戸の出だと思われます」
「俺は歴史にあまり詳しくないんだが、井伊だったか? その大獄後に桜田門とやらで暗殺されたと言われてるのは」
「歴史ではそう習いました。出来るなら、わざわざ歴史の大事件に関わる必要はないのではないかと思っています」
神妙な顔で話す審神者を見て、二振りは顔を見合わせて笑った。
そして、鶴丸がそっと審神者の頭を撫でた。
くしゃり、と彼女の髪が少し乱れる。
「まーた固くなってるな。言っただろ? ここには俺も髭切もいる。そんなに気を張らなくて良い」
鶴丸の言葉に、審神者は彼等が以前言ってくれた言葉を思い出す。
『僕等は何を置いても主が大切だよ』
『俺達が破壊されることになっても、君は生きる道を選んでくれ』
髭切と、鶴丸の言葉だ。
「俺達は主の刀だからねぇ。間違っても迷っても、俺達が全部なんとかしてあげる」
「主の目指す方向が、俺たちの目指す方向だ。邪魔なものはこの刀で全て倒す」
二人の言葉に、審神者は胸が熱くなるのと同時に自身の行動へ責任が伴うのだと実感した。
(……私の選んだ結果は、二人にも伴われる…………本丸にいた時から、そうだったはずだったのに……私、全然分かってなかった)
「……ありがとう。髭切、鶴丸」
審神者たちはその後、三人で今後の計画を考えた。
大穴から連れて来られた以上、ここに例の犯人がいる可能性は十分ある。
天狗の男達には関わらず、この辺りの町から離れてた場所で犯人の捜索を行うことを決定した。
一方、少し離れた町に審神者の刀剣達が転移してきていた。
「……懐かしいぜよ。なぁ、加州」
「…………まぁね。それより主の場所探そう」
第一部隊が、審神者達のいる町のすぐ近くまで辿り着いていた。
その中の数人が審神者達を船内で発見し、怪しいと斬りかかられたところを二振りが倒すと、彼等は一様に土下座して言った。
「何処ぞの武人か存じ上げませんが、あなた方ほど強い武人は見たことがありません。どうか我等に力を貸してはいただけませんでしょうか」
彼等は天狗と名乗る集団で、江戸へはある目的があり長旅の末ようやく辿り着いたのだという。
「────して、目的は?」
鶴丸が普段審神者には言わないような、低く冷淡な声で尋ねる。
萎縮した男達は、土下座で地面に擦っていた頭を上げて明瞭快活に述べた。
「井伊大老へ、我等の意思を理解させるため!」
その言葉に、審神者はここが歴史のどの時代で、今後何が起きるのか理解してしまった。
「………………桜田門外……」
「俺達まだここへ来たばかりでさ、一先ず宿を探したいんだけど?」
審神者の小さな言葉が聞こえた髭切は、そう言ってニッコリと男達へ笑みを向けた。
そして、それに鶴丸は直ぐに彼の意図を察し、同意するように頷いた。
「それなら、俺達が泊まる予定だった宿を使って下さい。俺達のような者ではない人も泊まれる宿です」
「安全なのか?」
「はい。私が先に御三方の部屋を取れるよう主人に話してきます!」
下っ端の男が走り去るのを見て、鶴丸は目の前の船内の代表者らしき大男へキッパリと断言した。
「言っておくが、まだ協力すると決めわけではない。此方にも目的があってな」
「…………こんな船に女を乗せるぐらいだ。余程の事なのだろう」
大男は、二振りに守られるように立っている審神者を見て、直ぐに視線を外した。
顎で他の天狗達へ指示を出したその男は、三人のことを他のものに任せ、船から出て行った。
「……取り敢えず、今日の泊まるところは確保できましたね。二人ともありがとうございました。すみません、何も出来なくて…………」
「いや、主があそこで口を開かなくて正解だった」
「そうそう。俺のせいで疲れてるんだし、宿に着くまでボーッとしていて良いんだよ」
髭切の言葉に、審神者はボッと顔を赤らめた。
(うわ、恥ずかしい……今、あの時のことを思い出して顔を赤くしている暇なんてないのに!)
「……と、とにかく! また時代を飛ばされてしまった以上、することは同じですよね?!」
吃りながらも、審神者は慌てて二振りにそう尋ねる。
彼女の顔が赤いことには、二振り共特に追求したり、からかったりすることはなかった。
宿に案内され、三人は一部屋に膝を詰めて座った。
鶴丸は暫く部屋の外へ視線を向けた後、静かに目を閉じた。
「……周囲に奴等の気配はない」
「じゃあ、明日からどうする?」
髭切に尋ねられ、審神者は少し下を向く。
鶴丸と髭切の白い手を見ながら考える。
本丸に帰るためには、どうすれば良いのか。
あの大穴の正体と、それを引き起こしたドロドロとした手の正体。
そして、今ここで起ころうとしている桜田門外の変に、自分達が巻き込まれようとしているこの状態をどうすべきか。
「現状をまず整理しましょう。本丸へ帰ることが、私たちの第一目標です」
「なら大穴の犯人を見つけることは、その手段の一つ、ということだな」
「それらを踏まえると、別に今回の天狗達に関わる必要はないよね?」
「そうですね。彼等の口振りからして、安政の大獄の後の江戸時代でしょう。天狗と名乗る彼等は水戸の出だと思われます」
「俺は歴史にあまり詳しくないんだが、井伊だったか? その大獄後に桜田門とやらで暗殺されたと言われてるのは」
「歴史ではそう習いました。出来るなら、わざわざ歴史の大事件に関わる必要はないのではないかと思っています」
神妙な顔で話す審神者を見て、二振りは顔を見合わせて笑った。
そして、鶴丸がそっと審神者の頭を撫でた。
くしゃり、と彼女の髪が少し乱れる。
「まーた固くなってるな。言っただろ? ここには俺も髭切もいる。そんなに気を張らなくて良い」
鶴丸の言葉に、審神者は彼等が以前言ってくれた言葉を思い出す。
『僕等は何を置いても主が大切だよ』
『俺達が破壊されることになっても、君は生きる道を選んでくれ』
髭切と、鶴丸の言葉だ。
「俺達は主の刀だからねぇ。間違っても迷っても、俺達が全部なんとかしてあげる」
「主の目指す方向が、俺たちの目指す方向だ。邪魔なものはこの刀で全て倒す」
二人の言葉に、審神者は胸が熱くなるのと同時に自身の行動へ責任が伴うのだと実感した。
(……私の選んだ結果は、二人にも伴われる…………本丸にいた時から、そうだったはずだったのに……私、全然分かってなかった)
「……ありがとう。髭切、鶴丸」
審神者たちはその後、三人で今後の計画を考えた。
大穴から連れて来られた以上、ここに例の犯人がいる可能性は十分ある。
天狗の男達には関わらず、この辺りの町から離れてた場所で犯人の捜索を行うことを決定した。
一方、少し離れた町に審神者の刀剣達が転移してきていた。
「……懐かしいぜよ。なぁ、加州」
「…………まぁね。それより主の場所探そう」
第一部隊が、審神者達のいる町のすぐ近くまで辿り着いていた。