アインクラッド編
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「うおぉりゃあああああああああ!」
大剣を振り回す私と、冷静に敵を倒していくキリト。
私たちは今、現在行ける中でも最上階のダンジョンのマッピングを行いながら、経験値稼ぎをしていた。
あれから、ギルド内にいるのが気まずくなり、勢いで出てしまったものの、行く宛てもなかったためどうしようかと迷っているところでキリトの言葉を思い出したのだ。
(何かあったら呼べって言ってたし……呼ぼう)
すぐさま、フレンドの中からキリトを選択して手早くメールを送った。
一方、ギルドに入ったものの、まだまだソロ活動をすることが多いキリトはメールが来たのを知り、安全エリアに入ってからメールを開いた。
送り主がスーであることがわかり、早速呼び出しかと思いメールを開いた。
『件名:来い
ダンジョン前集合。今すぐ(^▽^)』
本当に必要な事しか書かれていないメールを読み、一つ溜息をついたキリトは武器の耐久度などを確認してから、転移結晶を用いて、メールで書かれている場所まで向かった。
キリトと合流し、有無を言わさずチームを組ませてから数時間。
とにかく、斬って斬って、斬りまくった。
おかげで経験値も溜まってきた。
それは、キリトも同じだろう。
「お前、ちょっとペース落とせよ」
「いいじゃん、別に。ここの敵、二人なら倒せない奴なんていないって」
私がそういうと、彼は真面目な顔をして、真面目なことを言った。
「このゲームは、遊びじゃない。それはお前もわかってるだろ? 荒れるのはいいけど、油断はするなよ、スー」
こういう時、キリトの言い方は本当に意地悪だと思う。
わかっていても、そういうのは口にしないものだ。
「…………」
立ち止った私に習うように、キリトも足を止める。
「スー……」
落ち込んだ様子の私を気にかけてくれているのだろう。
確かに、私は落ち込んでいる。
そして、心底驚いて、混乱している。
ベンヌが、私のことを好きだなんて、思いもしなかったからだ。
唐突に言われたことも、原因の一つだろう。
正直、ギルドマスターとして優しいながらもギルドをまとめる手腕を認めてはいたが、それだけだった。
尊敬の念はあっても、異性として見たことなんて一度もなかった。
告白を断るつもりで言った言葉を、すんなり避けられてしまい、どうにも困った状況になってしまい、頭が爆発しそうになった。
だから、戦闘しようと思った。
頭を空っぽにしたかった。
でも、何をしても考えてしまう。
嫌な感覚。
「実はさ、ベンヌに告白されたんだよね」
「…………は?」
「告白」
「何を告白されたんだ?」
「愛の告白」
そういうと、キリトは絶句した。
それを見ると、ちょっと笑えた。
今気づいたが、こいつは未だに私を男だと思っているんだった。
きっと、彼の脳内ではBL的な妄想が膨らんでいるんだろう。
「言っておくけど、冗談じゃないから」
「あ、あぁ……それは、落ち込むな。色々と」
真顔でそれを言うものだから、思わず声を出して笑ってしまった。
「なんでそんなに笑ってるんだ? こっちは、心配して……」
「あははは! キリト、私これでも女なんだよ?」
「………………はぁ?」
彼の目玉は、飛び出そうなぐらい彼は驚いていた。
「そんな嘘つくなよ。危うく騙されるところだった」
「ほんとだし」
そういって、私は変身マントを脱ぐ。
すると、姿は一瞬で自分へと戻る。
「それ!? レアアイテムの!」
「変身マント、これで男になってたってこと。戦闘の時は、男になった方が強いような気がするんだよねぇ。ま、効果は何も変わらないんだけど」
「お前それ、もったいない使い方してるぞ!?」
やはり、彼はこのゲームが本当に好きなのだと思った。
私の男装していたことより、私が変身マントを持っていたことに食いついてきた。
(キリトも、普通じゃないんだよね~)
そう思いながら、私は言葉を続ける。
「……まぁとにかく、ベンヌに返事暫く待つから考えてって言われたんだ。でもさ、同じギルドだしフッたら気まずくなって、攻略に影響出るし、付き合うのも何か変な感じだし」
「嫌いなのか、お前のところのリーダーのこと」
「尊敬してる。それだけ」
きっぱり告げると、彼はうんと頷いた。
「本人にもそう言ってやれよ。その方がいいんじゃないか?」
「……そうなんだけどさー…………なんていうか、唐突に言われ過ぎて頭がついていかないっていうか、なんかムシャクシャするっていうか。唐突過ぎて、不信感しか抱けないというか」
「で、こんな夜中までモンスターに八つ当たりか。モンスターもいい迷惑だな」
「違う違う、八つ当たりしたかったのはキリトだし」
「ほんと迷惑だよ」
彼の言葉を聞いて、私は笑った。
「付き合わせて、悪かったと思ってるよ」
素直にそういうと、彼は意外そうな目で私を見た。
「……ま、別にいーけど。どうする? まだ続けるか?」
「うん、近いうちに、また攻略会議あるじゃん? だいぶボスの武器とか特徴とかわかってきたみたいだし、そろそろだと思うから……ちょっとは、レベル上げておきたい」
「そういや、お前スキルの方はどうしてるんだ?」
「スキルの方って?」
「ユニーク武器とスキルがあると、普通のスキルとは勝手が違うから、難しいこともあるだろ? お前、初心者並みに知識ないし」
「しょうがないでしょ」
「スキルポイントとか、ちゃんと割り振りしてるのか?」
「なにそれ?」
「してないのか!? よくここまで来れたな」
溜息をつきながら言われ、むっとする。
「誰もそんなこと教えてくれなかった」
「調べろよ、自分で」
「調べるよ、後で。だから、教えてよ」
「それは調べるとは言わない」
「じゃあ、後でキリトに教えてもらうことにする」
「俺は教えるなんて言ってないぞ」
「いーじゃん。一緒にママレードのために奔走した仲でしょ?」
そういうと、キリトはあの時のことを思い出して笑った。
「あー、あれな! あれはホント、今考えるとバカ丸出しだったよな」
「反復クエストだったら良かったのに、って思うよ。あれはホント美味しかった。後でさ、シリカやったことないっていうから、やってもらって一緒に食べたんだ」
「お前、自分が食べたかっただけだろ」
「でも、シリカも美味しそうに食べてたよ」
「シリカか……」
「そういえば、知り合いだっけ?」
シリカは、キリトを好きと言っていたが、それをキリトは知っているのかと思い、話を振ってみると彼は優しく笑いながら、シリカと出会った時のことを話してくれた。
「へー、そりゃまたバカな話だね」
「なにがだよ」
「キリトが」
「なんでだよ。助けることはバカじゃないだろ?」
「妹みたいだと思ってたっていうのを、本人に言っちゃう辺りが。私なら、そんな風には言わない」
「あぁ、≪女たらしの大剣士≫だっけ? すげー女子の間で噂になってるらしいな」
「この世界に来て良かったことは、男と女と両方になれる貴重な体験をできたことぐらいだよ」
そういうと、彼は私の手を取った。
「行こうぜ、続きするんだろ? レベル上げ」
途中参加である私が、彼等と同じ恐怖や絶望を味わったわけではない。
ただ、私にだって突然巻き込まれてしまって、それから決して楽にここまで来たわけじゃない。
人それぞれに、それぞれの苦労があって、今に至る。
だから、私の本当の事情を全て話しても、きっとキリトは私を軽蔑したり、怒ったりしないと思う。
それでも、色んなことを話して、相談にも乗ってもらった彼に、私が特別優遇されたおかげでここにいることを、絶対に知られたくないと、改めて思った。
(彼だけには、知られたくない――――)
この世界に来て、こんな適当に話せる、性別も関係なくただ思うままに話せる人がいるなんて思わなかったから。
彼から掴まれた手を離し、変身マントを被る。
「またそれ被るのか?」
「言ったじゃん? これ被って男になると、強くなれる気がするんだって」
「だからそれ、もったいない使い方だって言っただろ」
そんな言葉の応酬を続けながら、私たちは夜が明けるまで人のいないダンジョンでレベル上げを続けた。
次の日の朝、キリトと別れて町を歩いていると、一通のメールが届いた。
メールを開き、内容を読んですぐに私は来た道を引き返した。
送信者は、ヒースクリフ。
内容は、彼の隠れ家への招待状だった。
誰にも知られないよう、ギルドメンバーにも教えていないという隠れ家へ行くために、転移結晶で書かれた階層に移動し、説明通りに歩いて行くと、一件の家に辿り着いた。
「普通すぎる家だね」
家にあがり、そういうと彼は笑いながら「でないと隠れ家とは言えないだろう」と返しながら、私の好きな紅茶を淹れてくれた。
「セイロンを淹れてみたんだが」
そういって出してくれた紅茶を一口飲む。
温かくて、口内に広がる香りはまさしくセイロンだった。
「すっごい! これも再現したものなの!?」
「気に入ってもらえて良かったよ」
美味しい紅茶を飲みながら、部屋を見渡す。
もっと豪華な家具で飾られた部屋を想像していたが、男性の部屋なだけあって、整頓された部屋というより、何もない部屋に近かった。
あるのは、一人掛けのソファが二つと、間に置かれたローテーブル、そして大きな本棚だけだ。
「ここに住んでないの?」
「あぁ、ギルド内で寝起きしている」
「へー」
聞いておいて、適当な返事をしてしまった。
だが、彼の顔を見ても彼は特に気にしていないようだった。
「それで、何でそんな隠れ家に私を招待してくれたの?」
私の言葉に、彼は飲んでいた紅茶をソーサーに置いて、話し出した。
「明日、ボス攻略会議が行われる。それは知ってるな?」
「知ってる」
「今回の攻略には、私も混ざることになっている。相当上の層まで来たからな。攻略組だけでは太刀打ちできないような強い敵も出てくるはずだ」
「……で?」
「私も戦闘に参加する。だからといって、君が私に馴れ馴れしく話しかけてきたりしたら、不審がられるだろう?」
「確かに……でも、ユニークスキル者で集まってレベル上げのイベント一緒にやってるんだし、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないの?」
「スー、君は確かキリト君と仲が良かったはずだが?」
「普通ですよ、普通の友達」
「彼が、私の正体を怪しんでいる。彼に気付かれないよう、君からも配慮してほしいと思ってね」
「あぁ、そういうことですか。なるほど、わかりました。気を付けますよ。でも、なんでバレちゃいけないんですか?」
「私の予定ではね、95層辺りで自分がボスだと明かして100層で待機して、全員と戦うようなラスボス戦をイメージしているんだ」
「へー、そりゃまた壮大な計画で」
適当に私が話を聞いていると、彼は笑った。
「今、彼に私の正体がバレても、彼等全員が力を合わせたとしても、私には勝てない。それでは、面白くないだろう? だから、今バレるわけにはないということだ」
「じゃあ、違う質問」
そういうと、ヒースクリフは紅茶を一口飲んで「なんだ?」と尋ねてきた。
「私は、ヒースクリフ側の人間でしょ、一応。ヒースクリフが敵になっても、私はこっち側にいていいの?」
「君は、帰りたいのだろう? なら、そちら側にいるのが正解だ。こちら側に来てくれても、私は全然構わないが」
「ははっ、冗談」
紅茶を全て飲み干して、立ち上がる。
「話はこれで終わりでしょ? 用事あるから、帰る」
「そうか、ではまた明日会おう」
「また、明日」
私は、彼の隠れ家から出て、静かな町を歩きながら思った。
(ヒースクリフは、最終的に攻略者に殺されるんだ……)
彼だって、ゲームの参加者の一人だ。
ということは、勿論ゲームオーバーになるということは死に直結する。
彼の性格上、自分だけ安全にゲームに参加するようなズルをしないはずだ。
ということは、100層のクリアは人間同士の戦いになると言うことだ。
彼のことは、無理やり連れて来られたことを忘れたわけではないため、あまり信用してはいない。
けれども、これだけ長い時期を一緒に過ごしたりしていたのだ。
嫌でも情は湧くし、好意を寄せてしまうのは仕方がないことだろう。
彼が死ぬことで、この世界は終わる仕組みだった。
そう考えると、ヒースクリフ……茅場という男は、なんて奴だと思った。
大剣を振り回す私と、冷静に敵を倒していくキリト。
私たちは今、現在行ける中でも最上階のダンジョンのマッピングを行いながら、経験値稼ぎをしていた。
あれから、ギルド内にいるのが気まずくなり、勢いで出てしまったものの、行く宛てもなかったためどうしようかと迷っているところでキリトの言葉を思い出したのだ。
(何かあったら呼べって言ってたし……呼ぼう)
すぐさま、フレンドの中からキリトを選択して手早くメールを送った。
一方、ギルドに入ったものの、まだまだソロ活動をすることが多いキリトはメールが来たのを知り、安全エリアに入ってからメールを開いた。
送り主がスーであることがわかり、早速呼び出しかと思いメールを開いた。
『件名:来い
ダンジョン前集合。今すぐ(^▽^)』
本当に必要な事しか書かれていないメールを読み、一つ溜息をついたキリトは武器の耐久度などを確認してから、転移結晶を用いて、メールで書かれている場所まで向かった。
キリトと合流し、有無を言わさずチームを組ませてから数時間。
とにかく、斬って斬って、斬りまくった。
おかげで経験値も溜まってきた。
それは、キリトも同じだろう。
「お前、ちょっとペース落とせよ」
「いいじゃん、別に。ここの敵、二人なら倒せない奴なんていないって」
私がそういうと、彼は真面目な顔をして、真面目なことを言った。
「このゲームは、遊びじゃない。それはお前もわかってるだろ? 荒れるのはいいけど、油断はするなよ、スー」
こういう時、キリトの言い方は本当に意地悪だと思う。
わかっていても、そういうのは口にしないものだ。
「…………」
立ち止った私に習うように、キリトも足を止める。
「スー……」
落ち込んだ様子の私を気にかけてくれているのだろう。
確かに、私は落ち込んでいる。
そして、心底驚いて、混乱している。
ベンヌが、私のことを好きだなんて、思いもしなかったからだ。
唐突に言われたことも、原因の一つだろう。
正直、ギルドマスターとして優しいながらもギルドをまとめる手腕を認めてはいたが、それだけだった。
尊敬の念はあっても、異性として見たことなんて一度もなかった。
告白を断るつもりで言った言葉を、すんなり避けられてしまい、どうにも困った状況になってしまい、頭が爆発しそうになった。
だから、戦闘しようと思った。
頭を空っぽにしたかった。
でも、何をしても考えてしまう。
嫌な感覚。
「実はさ、ベンヌに告白されたんだよね」
「…………は?」
「告白」
「何を告白されたんだ?」
「愛の告白」
そういうと、キリトは絶句した。
それを見ると、ちょっと笑えた。
今気づいたが、こいつは未だに私を男だと思っているんだった。
きっと、彼の脳内ではBL的な妄想が膨らんでいるんだろう。
「言っておくけど、冗談じゃないから」
「あ、あぁ……それは、落ち込むな。色々と」
真顔でそれを言うものだから、思わず声を出して笑ってしまった。
「なんでそんなに笑ってるんだ? こっちは、心配して……」
「あははは! キリト、私これでも女なんだよ?」
「………………はぁ?」
彼の目玉は、飛び出そうなぐらい彼は驚いていた。
「そんな嘘つくなよ。危うく騙されるところだった」
「ほんとだし」
そういって、私は変身マントを脱ぐ。
すると、姿は一瞬で自分へと戻る。
「それ!? レアアイテムの!」
「変身マント、これで男になってたってこと。戦闘の時は、男になった方が強いような気がするんだよねぇ。ま、効果は何も変わらないんだけど」
「お前それ、もったいない使い方してるぞ!?」
やはり、彼はこのゲームが本当に好きなのだと思った。
私の男装していたことより、私が変身マントを持っていたことに食いついてきた。
(キリトも、普通じゃないんだよね~)
そう思いながら、私は言葉を続ける。
「……まぁとにかく、ベンヌに返事暫く待つから考えてって言われたんだ。でもさ、同じギルドだしフッたら気まずくなって、攻略に影響出るし、付き合うのも何か変な感じだし」
「嫌いなのか、お前のところのリーダーのこと」
「尊敬してる。それだけ」
きっぱり告げると、彼はうんと頷いた。
「本人にもそう言ってやれよ。その方がいいんじゃないか?」
「……そうなんだけどさー…………なんていうか、唐突に言われ過ぎて頭がついていかないっていうか、なんかムシャクシャするっていうか。唐突過ぎて、不信感しか抱けないというか」
「で、こんな夜中までモンスターに八つ当たりか。モンスターもいい迷惑だな」
「違う違う、八つ当たりしたかったのはキリトだし」
「ほんと迷惑だよ」
彼の言葉を聞いて、私は笑った。
「付き合わせて、悪かったと思ってるよ」
素直にそういうと、彼は意外そうな目で私を見た。
「……ま、別にいーけど。どうする? まだ続けるか?」
「うん、近いうちに、また攻略会議あるじゃん? だいぶボスの武器とか特徴とかわかってきたみたいだし、そろそろだと思うから……ちょっとは、レベル上げておきたい」
「そういや、お前スキルの方はどうしてるんだ?」
「スキルの方って?」
「ユニーク武器とスキルがあると、普通のスキルとは勝手が違うから、難しいこともあるだろ? お前、初心者並みに知識ないし」
「しょうがないでしょ」
「スキルポイントとか、ちゃんと割り振りしてるのか?」
「なにそれ?」
「してないのか!? よくここまで来れたな」
溜息をつきながら言われ、むっとする。
「誰もそんなこと教えてくれなかった」
「調べろよ、自分で」
「調べるよ、後で。だから、教えてよ」
「それは調べるとは言わない」
「じゃあ、後でキリトに教えてもらうことにする」
「俺は教えるなんて言ってないぞ」
「いーじゃん。一緒にママレードのために奔走した仲でしょ?」
そういうと、キリトはあの時のことを思い出して笑った。
「あー、あれな! あれはホント、今考えるとバカ丸出しだったよな」
「反復クエストだったら良かったのに、って思うよ。あれはホント美味しかった。後でさ、シリカやったことないっていうから、やってもらって一緒に食べたんだ」
「お前、自分が食べたかっただけだろ」
「でも、シリカも美味しそうに食べてたよ」
「シリカか……」
「そういえば、知り合いだっけ?」
シリカは、キリトを好きと言っていたが、それをキリトは知っているのかと思い、話を振ってみると彼は優しく笑いながら、シリカと出会った時のことを話してくれた。
「へー、そりゃまたバカな話だね」
「なにがだよ」
「キリトが」
「なんでだよ。助けることはバカじゃないだろ?」
「妹みたいだと思ってたっていうのを、本人に言っちゃう辺りが。私なら、そんな風には言わない」
「あぁ、≪女たらしの大剣士≫だっけ? すげー女子の間で噂になってるらしいな」
「この世界に来て良かったことは、男と女と両方になれる貴重な体験をできたことぐらいだよ」
そういうと、彼は私の手を取った。
「行こうぜ、続きするんだろ? レベル上げ」
途中参加である私が、彼等と同じ恐怖や絶望を味わったわけではない。
ただ、私にだって突然巻き込まれてしまって、それから決して楽にここまで来たわけじゃない。
人それぞれに、それぞれの苦労があって、今に至る。
だから、私の本当の事情を全て話しても、きっとキリトは私を軽蔑したり、怒ったりしないと思う。
それでも、色んなことを話して、相談にも乗ってもらった彼に、私が特別優遇されたおかげでここにいることを、絶対に知られたくないと、改めて思った。
(彼だけには、知られたくない――――)
この世界に来て、こんな適当に話せる、性別も関係なくただ思うままに話せる人がいるなんて思わなかったから。
彼から掴まれた手を離し、変身マントを被る。
「またそれ被るのか?」
「言ったじゃん? これ被って男になると、強くなれる気がするんだって」
「だからそれ、もったいない使い方だって言っただろ」
そんな言葉の応酬を続けながら、私たちは夜が明けるまで人のいないダンジョンでレベル上げを続けた。
次の日の朝、キリトと別れて町を歩いていると、一通のメールが届いた。
メールを開き、内容を読んですぐに私は来た道を引き返した。
送信者は、ヒースクリフ。
内容は、彼の隠れ家への招待状だった。
誰にも知られないよう、ギルドメンバーにも教えていないという隠れ家へ行くために、転移結晶で書かれた階層に移動し、説明通りに歩いて行くと、一件の家に辿り着いた。
「普通すぎる家だね」
家にあがり、そういうと彼は笑いながら「でないと隠れ家とは言えないだろう」と返しながら、私の好きな紅茶を淹れてくれた。
「セイロンを淹れてみたんだが」
そういって出してくれた紅茶を一口飲む。
温かくて、口内に広がる香りはまさしくセイロンだった。
「すっごい! これも再現したものなの!?」
「気に入ってもらえて良かったよ」
美味しい紅茶を飲みながら、部屋を見渡す。
もっと豪華な家具で飾られた部屋を想像していたが、男性の部屋なだけあって、整頓された部屋というより、何もない部屋に近かった。
あるのは、一人掛けのソファが二つと、間に置かれたローテーブル、そして大きな本棚だけだ。
「ここに住んでないの?」
「あぁ、ギルド内で寝起きしている」
「へー」
聞いておいて、適当な返事をしてしまった。
だが、彼の顔を見ても彼は特に気にしていないようだった。
「それで、何でそんな隠れ家に私を招待してくれたの?」
私の言葉に、彼は飲んでいた紅茶をソーサーに置いて、話し出した。
「明日、ボス攻略会議が行われる。それは知ってるな?」
「知ってる」
「今回の攻略には、私も混ざることになっている。相当上の層まで来たからな。攻略組だけでは太刀打ちできないような強い敵も出てくるはずだ」
「……で?」
「私も戦闘に参加する。だからといって、君が私に馴れ馴れしく話しかけてきたりしたら、不審がられるだろう?」
「確かに……でも、ユニークスキル者で集まってレベル上げのイベント一緒にやってるんだし、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないの?」
「スー、君は確かキリト君と仲が良かったはずだが?」
「普通ですよ、普通の友達」
「彼が、私の正体を怪しんでいる。彼に気付かれないよう、君からも配慮してほしいと思ってね」
「あぁ、そういうことですか。なるほど、わかりました。気を付けますよ。でも、なんでバレちゃいけないんですか?」
「私の予定ではね、95層辺りで自分がボスだと明かして100層で待機して、全員と戦うようなラスボス戦をイメージしているんだ」
「へー、そりゃまた壮大な計画で」
適当に私が話を聞いていると、彼は笑った。
「今、彼に私の正体がバレても、彼等全員が力を合わせたとしても、私には勝てない。それでは、面白くないだろう? だから、今バレるわけにはないということだ」
「じゃあ、違う質問」
そういうと、ヒースクリフは紅茶を一口飲んで「なんだ?」と尋ねてきた。
「私は、ヒースクリフ側の人間でしょ、一応。ヒースクリフが敵になっても、私はこっち側にいていいの?」
「君は、帰りたいのだろう? なら、そちら側にいるのが正解だ。こちら側に来てくれても、私は全然構わないが」
「ははっ、冗談」
紅茶を全て飲み干して、立ち上がる。
「話はこれで終わりでしょ? 用事あるから、帰る」
「そうか、ではまた明日会おう」
「また、明日」
私は、彼の隠れ家から出て、静かな町を歩きながら思った。
(ヒースクリフは、最終的に攻略者に殺されるんだ……)
彼だって、ゲームの参加者の一人だ。
ということは、勿論ゲームオーバーになるということは死に直結する。
彼の性格上、自分だけ安全にゲームに参加するようなズルをしないはずだ。
ということは、100層のクリアは人間同士の戦いになると言うことだ。
彼のことは、無理やり連れて来られたことを忘れたわけではないため、あまり信用してはいない。
けれども、これだけ長い時期を一緒に過ごしたりしていたのだ。
嫌でも情は湧くし、好意を寄せてしまうのは仕方がないことだろう。
彼が死ぬことで、この世界は終わる仕組みだった。
そう考えると、ヒースクリフ……茅場という男は、なんて奴だと思った。