アインクラッド編
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「……それで、よく寝れたのか?」
「それなりに」
「お前、ほんと図太い神経してるな」
「エギルに言われちゃお終いね」
「どういう意味だ」
クスクスと笑って、エギルから貰った紅茶を飲む。
「あ、これって…アールグレイ!」
「よくわかったな。調理方法を変えたら、たまたまこの味になってな。レシピも作っておいた」
ちょっと得意げに言うエギルに、私は思わず笑顔になってしまう。
紅茶好きな私にとって、本物と同じような紅茶を、このゲーム内で飲むことが出来るとは思っていなかったからだ。
それと同時に、本当に努力次第で何でもできてしまうこの世界そのものを作り上げた茅場、もといヒースクリフを、少なからず尊敬してしまったのだった。
「それにしてもお前、最近アインクラッド内で専らの噂だぞ」
「へー、なにが?」
「≪女好きな大剣使い≫スー、だってよ」
「……それ、昨日リズベットから似たようなの聞いた」
女たらしと女好き、どっちも対して変わらないなぁ。
「お前、ほとんどそのレアアイテム使って男装してるんだろ? ほんと、それ着てる時は女に見えないもんなぁ」
「前は、確かに情報収集のために、ちょっと夜に女の子と遊んだりしてたけど、最近はもう男の姿で外歩くだけで、女の子が寄ってくるんだよね。モテるって、ほんと困る」
エギルは、スーのその言葉を聞いて苦笑した。
「ま、程々にしとけ。お前、女だろ?」
その言葉には、仕方なく頷いておくことにした。
頷いた姿を見て、エギルが微笑ましそうに笑うのが何だか恥ずかしくて、むず痒かった。
そんな時、不意に店の外から知ったような気配を感じた。
思わず、スキルを発動させ相手が誰か確認し、誰かわかった瞬間に私は顔を真っ青にした。
「エギル! ちょっとかくまって! 絶対、私がいること言わないでよ!?」
「あ、なんだ突然……?」
「いいから!」
エギルの店の奥の棚横に置いてある空き樽に、素早く体を滑り込ませ蓋を閉める。
念のため、変身マントで男装もしておく。
なんとなくだ、気分の問題だと思う。
(タイミングが悪い……)
そう思っていると、すぐにカランカランと店のドアベルが鳴った。
「よぉ、エギル」
「……お、おぅ。キリトか」
棒読みで、いかにも今自分は何かを隠してますと言わんばかりのエギルの態度に、イラッとした。
(相変わらず、隠し事が苦手な男だな、もう! そこがいいとこなんだけど!)
考えながら、まぁバレないだろうと、とりあえず彼が立ち去るまでこの樽の中で過ごそうと思った。
しかし、不意に樽の中が明るくなった。
(あれ……蓋、開けちゃったっけ?)
そう思い顔を上げると、にやっと人を馬鹿にするかのような笑みを浮かべるキリトがいた。
「にやっと笑ってなんかいなかっただろ。呆れてたけど」
「どっちも一緒! 探すなよっ!」
「お前が俺とアスナのことを避けるからだろ!? 礼ぐらい言わせろよ」
結局、彼に居場所をバレてしまったので、エギルの店のカウンターで並んでジュースを飲みながら、そんなことを話していた。
「ヒースクリフから聞いた。スーが、アスナのランチボックスに麻痺と毒を仕込んだ奴等を、追い払ってくれたんだろ? なのに、何でお前が俺等を避けるんだよ」
「…………」
驚いた。
まさか、ヒースクリフが嘘を伝えてくれていたなんて、知らなかったから。
キリトの言うことは、大体合っていて間違っている。
正しくは、追い払っていない。
息の根を止めた。
「お前だけ、ランチボックスを食べなかったこと、気にしてるのか? でも、そのおかげで俺たちは全員助かったんだ」
私が黙っているのを、どう受け取ったのか、キリトは話し続ける。
「とにかく、助かった。アスナの分も、俺が礼を言うよ。アイツ、今忙しいんだ」
それを聞いて、ふと思い出す。
『キリトはアスナと結婚してるわよ』
リズベットが、そう言っていた。
こんなゲームの中で、現実じゃない世界であったとしても結婚したいと思えるほど、二人はお互いに好きだと思っているのだろう。
そう思うと、奇妙な感覚だった。
あのキリトが、初めて会った時、一緒にママレードのために町中を駆けずり回ったような男が、一人の女の子を好きだと思えるなんて、信じられなかった。
(こんなヒョロヒョロしてるくせに……)
「おい、今何か失礼なこと考えてるだろ」
「相も変わらずヒョロヒョロしてるなぁと思って」
礼を言われたことなどスルーして、真顔でそういうと、彼からも真顔が返ってきた。
「お前こそ、女たらしだとか女好きだとか、噂されてるよ」
「そんな褒められても困る」
「ま、お前でもアスナを落とすのは無理だったみたいだけどな」
俺のだし、そう続く彼の言葉にカチンときた。
「黙れ黒チビ」
「女たらし」
「影薄男」
「未婚男」
「アホ」
「馬鹿」
そんな言い合いをジュースを飲みながら延々と続けていると、エギルが深いため息をついた。
「お前等、子どもだな」
「「子どもだし」」
私のことも、キリトのこともよく知るエギルは、恐らく戦闘の時とのギャップを言いたいのだろうとわかったが、文句を言わねば負けだと思うと、ついつい返してしまうのは仕方のないことだと思う。
いつの間にか、どちらともなく終わった言い合い。
ふう~と軽く息を吐いたキリトは、何やらメニュー画面を立ち上げていた。
もう帰ってくれるのだろうかと安堵していると、私にメニュー画面が出てきた。
「………フレンド登録?」
「早く押せよ」
「なにその偉そうな態度。押してくださいの間違いでしょ?」
そう言うと、エギルがこっそり耳打ちで私に伝えた。
それを聞いて、まぁ仕方ないかとフレンド申請を承認した。
「何かあったら呼べよ」
そういって、キリトは行きと同じようにドアベルを鳴らして出て行った。
『照れ屋なんだ。本当は、お前ともっと仲良くなりたいだけなんだよ。わかってやれ』
「ほんと、お子ちゃまの相手って疲れるわ~」
「そうだな」
エギルが、私を見て言ったような気がしたが、無視することにした。
それからしばらくエギルの店で暇をつぶしてから、ギルドへ帰ると、リビングにベンヌがいた。
「おかえり、スー」
「ただいま」
変身マントを脱いで、ベンヌの座る三人掛けのソファに彼と距離を開けて座った。
「どう? 最近調子は」
「普通だよ、そっちは?」
「僕も同じかな。なんか、未だに夢を見てる気分になるけどね」
「なんで?」
そう問うと、彼は天井を見上げて嬉しそうに言った。
「だって、攻略組に入ってこうしてボス攻略に参加できている。出来ないと思っていたことが、実現してるんだ」
「そっか……」
「ボス攻略前に、スーとシリカが入団してくれたのは、本当に良いことだったと思ってるよ。君たちがいなきゃ……スー、君がいなきゃ、あの時のボス攻略はきっと無理だった」
「そんなことないでしょ!? あんなに入念な準備してたから勝てたんだよ!」
「それでも、君の戦闘力があってこその結果だよ。実際、今ではもう君は攻略組の中でも精鋭中の精鋭だ。攻略組において、君の存在はもうなくてはならないものになっている」
そこまで聞いて、ふと思った。
「私のこと、嫌いになった…?」
「まさか、むしろその逆だよ」
ベンヌは、優しい人間だ。
常に、ギルド内のメンバーのことを、攻略組のメンバーのことを、全プレイヤーのことを考えている。
八方美人の偽善者ともいえるかもしれないが、彼の優しさは不思議と素直に聞けてしまうのだ。
「ベンヌがいたから、私は今ここにいられるんだよ」
そういうと、彼は嬉しそうに笑った。
「スーから、そんな嬉しいこと言ってもらえるとは思ってなかったよ」
失礼だな、そう思ったが何も言わなかった。
「そういえば、他の皆は?」
「レベル上げに行ったり、武器を見に行ったりして、皆出払ってるよ」
「そっか…………」
そこで、不意に空気が変わった。
(なに……?)
「スー…………」
どうしたのかと思っていると、音もなくベンヌが近付いてきていたことに驚いた。
「ベ、ベンヌ……?」
三人側のソファで、互いに端と端に座っていたのに、ベンヌは私の座る左側のソファの肘掛けに手を置いて私を見下ろすようにして、ソファとベンヌで挟まれてしまった。
これでは、身動きが取れない。
「なに?」
「こういう空気で、わからない?」
わかりたくない。
そう思った。
だって、ベンヌは優しくて、ギルドマスターで…………。
「好きだ」
どくんと、心臓が跳ねる音が耳に響いた。
ベンヌじゃない、自分の心臓だ。
「そ、そういうの……考えたことないから、返事できない」
正直にそう述べると、「そう」といってベンヌは私から離れてくれた。
そして、キッチンへと向かって歩き出してくれたため、ホッとしていると彼はちらりと私を見て言った。
「じゃあ、時間あげるから考えて。僕のこと、好きかどうか」
返事は、気長に待つよ。
そう言われ、血の気が引いて行くような気がした。
「それなりに」
「お前、ほんと図太い神経してるな」
「エギルに言われちゃお終いね」
「どういう意味だ」
クスクスと笑って、エギルから貰った紅茶を飲む。
「あ、これって…アールグレイ!」
「よくわかったな。調理方法を変えたら、たまたまこの味になってな。レシピも作っておいた」
ちょっと得意げに言うエギルに、私は思わず笑顔になってしまう。
紅茶好きな私にとって、本物と同じような紅茶を、このゲーム内で飲むことが出来るとは思っていなかったからだ。
それと同時に、本当に努力次第で何でもできてしまうこの世界そのものを作り上げた茅場、もといヒースクリフを、少なからず尊敬してしまったのだった。
「それにしてもお前、最近アインクラッド内で専らの噂だぞ」
「へー、なにが?」
「≪女好きな大剣使い≫スー、だってよ」
「……それ、昨日リズベットから似たようなの聞いた」
女たらしと女好き、どっちも対して変わらないなぁ。
「お前、ほとんどそのレアアイテム使って男装してるんだろ? ほんと、それ着てる時は女に見えないもんなぁ」
「前は、確かに情報収集のために、ちょっと夜に女の子と遊んだりしてたけど、最近はもう男の姿で外歩くだけで、女の子が寄ってくるんだよね。モテるって、ほんと困る」
エギルは、スーのその言葉を聞いて苦笑した。
「ま、程々にしとけ。お前、女だろ?」
その言葉には、仕方なく頷いておくことにした。
頷いた姿を見て、エギルが微笑ましそうに笑うのが何だか恥ずかしくて、むず痒かった。
そんな時、不意に店の外から知ったような気配を感じた。
思わず、スキルを発動させ相手が誰か確認し、誰かわかった瞬間に私は顔を真っ青にした。
「エギル! ちょっとかくまって! 絶対、私がいること言わないでよ!?」
「あ、なんだ突然……?」
「いいから!」
エギルの店の奥の棚横に置いてある空き樽に、素早く体を滑り込ませ蓋を閉める。
念のため、変身マントで男装もしておく。
なんとなくだ、気分の問題だと思う。
(タイミングが悪い……)
そう思っていると、すぐにカランカランと店のドアベルが鳴った。
「よぉ、エギル」
「……お、おぅ。キリトか」
棒読みで、いかにも今自分は何かを隠してますと言わんばかりのエギルの態度に、イラッとした。
(相変わらず、隠し事が苦手な男だな、もう! そこがいいとこなんだけど!)
考えながら、まぁバレないだろうと、とりあえず彼が立ち去るまでこの樽の中で過ごそうと思った。
しかし、不意に樽の中が明るくなった。
(あれ……蓋、開けちゃったっけ?)
そう思い顔を上げると、にやっと人を馬鹿にするかのような笑みを浮かべるキリトがいた。
「にやっと笑ってなんかいなかっただろ。呆れてたけど」
「どっちも一緒! 探すなよっ!」
「お前が俺とアスナのことを避けるからだろ!? 礼ぐらい言わせろよ」
結局、彼に居場所をバレてしまったので、エギルの店のカウンターで並んでジュースを飲みながら、そんなことを話していた。
「ヒースクリフから聞いた。スーが、アスナのランチボックスに麻痺と毒を仕込んだ奴等を、追い払ってくれたんだろ? なのに、何でお前が俺等を避けるんだよ」
「…………」
驚いた。
まさか、ヒースクリフが嘘を伝えてくれていたなんて、知らなかったから。
キリトの言うことは、大体合っていて間違っている。
正しくは、追い払っていない。
息の根を止めた。
「お前だけ、ランチボックスを食べなかったこと、気にしてるのか? でも、そのおかげで俺たちは全員助かったんだ」
私が黙っているのを、どう受け取ったのか、キリトは話し続ける。
「とにかく、助かった。アスナの分も、俺が礼を言うよ。アイツ、今忙しいんだ」
それを聞いて、ふと思い出す。
『キリトはアスナと結婚してるわよ』
リズベットが、そう言っていた。
こんなゲームの中で、現実じゃない世界であったとしても結婚したいと思えるほど、二人はお互いに好きだと思っているのだろう。
そう思うと、奇妙な感覚だった。
あのキリトが、初めて会った時、一緒にママレードのために町中を駆けずり回ったような男が、一人の女の子を好きだと思えるなんて、信じられなかった。
(こんなヒョロヒョロしてるくせに……)
「おい、今何か失礼なこと考えてるだろ」
「相も変わらずヒョロヒョロしてるなぁと思って」
礼を言われたことなどスルーして、真顔でそういうと、彼からも真顔が返ってきた。
「お前こそ、女たらしだとか女好きだとか、噂されてるよ」
「そんな褒められても困る」
「ま、お前でもアスナを落とすのは無理だったみたいだけどな」
俺のだし、そう続く彼の言葉にカチンときた。
「黙れ黒チビ」
「女たらし」
「影薄男」
「未婚男」
「アホ」
「馬鹿」
そんな言い合いをジュースを飲みながら延々と続けていると、エギルが深いため息をついた。
「お前等、子どもだな」
「「子どもだし」」
私のことも、キリトのこともよく知るエギルは、恐らく戦闘の時とのギャップを言いたいのだろうとわかったが、文句を言わねば負けだと思うと、ついつい返してしまうのは仕方のないことだと思う。
いつの間にか、どちらともなく終わった言い合い。
ふう~と軽く息を吐いたキリトは、何やらメニュー画面を立ち上げていた。
もう帰ってくれるのだろうかと安堵していると、私にメニュー画面が出てきた。
「………フレンド登録?」
「早く押せよ」
「なにその偉そうな態度。押してくださいの間違いでしょ?」
そう言うと、エギルがこっそり耳打ちで私に伝えた。
それを聞いて、まぁ仕方ないかとフレンド申請を承認した。
「何かあったら呼べよ」
そういって、キリトは行きと同じようにドアベルを鳴らして出て行った。
『照れ屋なんだ。本当は、お前ともっと仲良くなりたいだけなんだよ。わかってやれ』
「ほんと、お子ちゃまの相手って疲れるわ~」
「そうだな」
エギルが、私を見て言ったような気がしたが、無視することにした。
それからしばらくエギルの店で暇をつぶしてから、ギルドへ帰ると、リビングにベンヌがいた。
「おかえり、スー」
「ただいま」
変身マントを脱いで、ベンヌの座る三人掛けのソファに彼と距離を開けて座った。
「どう? 最近調子は」
「普通だよ、そっちは?」
「僕も同じかな。なんか、未だに夢を見てる気分になるけどね」
「なんで?」
そう問うと、彼は天井を見上げて嬉しそうに言った。
「だって、攻略組に入ってこうしてボス攻略に参加できている。出来ないと思っていたことが、実現してるんだ」
「そっか……」
「ボス攻略前に、スーとシリカが入団してくれたのは、本当に良いことだったと思ってるよ。君たちがいなきゃ……スー、君がいなきゃ、あの時のボス攻略はきっと無理だった」
「そんなことないでしょ!? あんなに入念な準備してたから勝てたんだよ!」
「それでも、君の戦闘力があってこその結果だよ。実際、今ではもう君は攻略組の中でも精鋭中の精鋭だ。攻略組において、君の存在はもうなくてはならないものになっている」
そこまで聞いて、ふと思った。
「私のこと、嫌いになった…?」
「まさか、むしろその逆だよ」
ベンヌは、優しい人間だ。
常に、ギルド内のメンバーのことを、攻略組のメンバーのことを、全プレイヤーのことを考えている。
八方美人の偽善者ともいえるかもしれないが、彼の優しさは不思議と素直に聞けてしまうのだ。
「ベンヌがいたから、私は今ここにいられるんだよ」
そういうと、彼は嬉しそうに笑った。
「スーから、そんな嬉しいこと言ってもらえるとは思ってなかったよ」
失礼だな、そう思ったが何も言わなかった。
「そういえば、他の皆は?」
「レベル上げに行ったり、武器を見に行ったりして、皆出払ってるよ」
「そっか…………」
そこで、不意に空気が変わった。
(なに……?)
「スー…………」
どうしたのかと思っていると、音もなくベンヌが近付いてきていたことに驚いた。
「ベ、ベンヌ……?」
三人側のソファで、互いに端と端に座っていたのに、ベンヌは私の座る左側のソファの肘掛けに手を置いて私を見下ろすようにして、ソファとベンヌで挟まれてしまった。
これでは、身動きが取れない。
「なに?」
「こういう空気で、わからない?」
わかりたくない。
そう思った。
だって、ベンヌは優しくて、ギルドマスターで…………。
「好きだ」
どくんと、心臓が跳ねる音が耳に響いた。
ベンヌじゃない、自分の心臓だ。
「そ、そういうの……考えたことないから、返事できない」
正直にそう述べると、「そう」といってベンヌは私から離れてくれた。
そして、キッチンへと向かって歩き出してくれたため、ホッとしていると彼はちらりと私を見て言った。
「じゃあ、時間あげるから考えて。僕のこと、好きかどうか」
返事は、気長に待つよ。
そう言われ、血の気が引いて行くような気がした。