アインクラッド編
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周りには、もう誰もいない。
自分の頭上にあるカーソルは、きっと真っ赤になっていることだろう。
「スー……」
一足遅くかけつけてきたヒースクリフの声が聞こえて、振り返って笑った。
「麻痺と毒にかかったんじゃなかったの?」
「状態異常の時間を、少し短縮させてもらった。私は、この世界の権限を持ってるからな。二人はまだ気絶している状態だ」
なるほど、と私は頷いて、もういない集団のいた場所を見た。
「今回は、助けられてしまったな」
そういって、彼が私のカーソルを撫でると、赤かったカーソルが緑色に戻った。
「…………手品?」
「権限を用いただけだ。今日の企画はもう終わっておこう。スー、先に帰っていていいぞ。後の二人は、同ギルドのマスターである私が責任を持つ。中断したこの企画についての詳細は、後日追って連絡する」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて帰らせてもらっちゃうよ? 転移、アルゲート」
青い結晶、クリスタルを取り出してそう言うと、景色が一瞬消える。
そして、次の瞬間にはもう第50層のアルゲートの転移門にいた。
私は、真っ直ぐ一件の店へと向かった。
変身マントを脱いで、ノックもせずに店に入る。
「リズベット武具店へようこそ! ってなんだ、スーじゃない。どうしたの? 今日は、合同で何かイベントやるってアスナとキリトが言ってたけど?」
「ちょっと色々あってさ、リズベット今日忙しい?」
「え、ううん。今日は集めてた材料で武器作ろうかと……」
「それ、見てちゃだめ?」
「いいけど……」
理由も聞かず、リズベットは部屋の奥へ入れてくれた。
出してもらった椅子に座り、黙って仕事をし始めるリズベットをボーッと見ながら、思う。
(この世界が、ゲームで良かった……)
奴等の顔が嫌でも頭に浮かぶ。
一斉に襲い掛かってきた攻撃を、一撃で薙ぎ払い、彼等と距離を取った私は、叫ぶように言った。
「プレイヤー同士の対決は、一対一のデュエルで勝負するのが一般常識だって聞いてたんだけど? どういうこと」
「俺ら、≪ラフィン・コフィン≫のギルドに、常識が通じるわけねェだろ?」
「殺されたくないのなら、そこを通せ」
「ま、通さないっつっても、通すっつっても、今更だけどな」
「そうそう、殺すってことは決まってる。アンタはただ諦めればいいだけさ」
口々にそう言われる。
ニタニタと、フードを被ったままの男たちは下品な笑みを向けてくる。
気持ち悪い。
その時、なぜそう思ったのか、気付けば全員が結晶の欠片のようになって消えて行った。
別に、ヒースクリフたちを守る義理もなければ、必要もなかった。
ただ、どこかの陰に隠れてやり過ごすことだってできたはずだ。
でも、勝手に身体が動いていた。
モンスターを倒すのと同じように。
それは、ラフィン・コフィンと名乗った奴等も同じだった。
積極的にプレイヤーキルを行う彼等を嫌悪していたはずだった私は、彼等と全く同じことをしてしまっていた。
(正当防衛っていうか、過剰防衛っていうんだろうな……)
ヒースクリフが、事実を知っても微動だにしなかったのは、予想の範囲内だ。
でも、キリトやアスナは違うだろう。
彼等に、知られたくなかった。
軽蔑した目で見られることが、容易に想像できたから。
「――――ねぇ!」
ふと気付くと、眼前にリズベットがいた。
「さっきから呼んでたんだけどー?」
「あ、ごめん」
「アンタ、最近町で噂の的よ」
「なにが?」
「≪女たらしの大剣使い≫スー、ってね」
「フェミニストなだけだよ」
「女侍らして笑ってる男姿のアンタが、町中にばら撒かれてるわよ」
「モテるってのも、結構考えものだよね~」
「あのねぇ~…………」
ピキピキと、リズベットのこめかみから怒りゲージが上がっているような気がして、慌てて「じょ、冗談です!」と言うと、ちらりと睨みつけられた。
「で? 何で悩んでるの? それとも落ち込んでるの?」
「え?」
「何かあったんでしょ? 愚痴ぐらいなら、今はたまたまヒマだから、聞いてあげてもいいわよ」
「リズベット……」
「たまたまよ! たまたま!」
少し頬を染めて、ぷいっと横を向いてしまったリズベットを見て思う。
(どうしてこう……私の友達は皆強いのかなぁ)
男装をしたりしている身として、結構強いつもりでいたけれど、やっぱり自分はまだまだ色んな面で弱いのだと思い知らされる。
彼女にバレないように苦笑して、掻い摘んで今日あったことを全て話した。
ヒースクリフが権限を使って色々とズルをしたことは、勿論伏せておいた。
リズベットは、真剣に聞いていて、時々相槌をうちながら聞いてくれた。
「――――と、いうわけなんだけど」
「それで、何でアンタが落ち込む必要があるのよ」
「だって、人殺ししたも同然なんでしょ? そりゃ、殺人犯になんてなりたくなかったしさー」
「正当防衛よ! 気にすることなんてないわ! キリトとアスナだって、きっとそういうと思うし」
「うん、そうかもしれない。でもお願い、言わないで」
真っ直ぐにリズベットの目を見て言うと、彼女は渋々頷いてくれた。
「信用、してないの?」
小さく呟かれた声は、寂しそうなものだった。
リズベットは、キリトともアスナとも仲が良い。
「ごめん……まだ、付き合いが浅いと、こればっかりはどうにもならないよ。でも、リズベットのことは信じてる」
「は? 私?」
「武器のメンテしてもらってるから、狩りも快適だし、こうやって話聞いてくれるし」
「スー…………」
リズベットが嬉しそうに、はにかむ様に笑うから、つられて私も笑ってしまった。
それから、リズベットの強制的提案によって、一泊させてもらうことになった。
そして、それを聞きつけたシリカも合流し、三人でダブルベッドに寝転ぶ。
「せまい! 私、真剣に布団でいいんだけど!」
「狭くて悪かったわね」
「えー、いいじゃないですか別に。楽しいですよ」
「そうそう。女同士なんだし、女好きなスーとしては嬉しい限りでしょ?」
「いや、それ男の時だけだから。女の時は別にそんなことないから」
「そういえば、まだキリトとアスナの前では男装しっ放しなんだっけ?」
「血盟騎士団の人たちとか、他のギルドの人は知らないんじゃないですか?」
そう問われ、うんと頷きかけて留まる。
「いや、ヒースクリフは知ってる」
「あぁ、あの団長さんね。そういえば、今日一緒にチーム組んでたんでしょ? あの人って、ちょっと謎っぽいところがあると思わない?」
「貫録ある人ですよね~」
リズベットとシリカの言葉に、私の知っているヒースクリフを脳内で再生してみる。
……どう考えても、ただのオヤジだ。
以上を『異常』と漢字変換ミスをしたりする、ただのオッサンだ。
(全然謎も貫録もない……)
思わず笑ってしまいそうになったが、何とか堪えた。
「ま、私が連中と戦った後を見ても、動じたりしない人だったね」
「そういう冷静な対応できる人って、カッコいいわよね」
「え? リズベットさんって、血盟騎士団の団長さんが好きなんですか?! 私は、キリトさんが良いと思います……」
後半、シリカは喋りながら顔を赤くした。
「シリカ、キリトが好きなの?」
「えぇ!? アンタもなの!?」
リズベットは墓穴を掘り、二人がキリトのことを好きなのだということを知った。
「もう、この際だからスーもキリトが好きってことでいいんじゃない?」
「はははっ、冗談やめてよ」
「うわー、冷たい笑いですね。スー」
驚いた、まさかキリトがこんなにモテているとは。
(あれ? でも、そうなるとアスナだって……)
「シリカ、アンタ知らないみたいだから教えてあげるけど、キリトはアスナと結婚してるわよ」
「ええぇぇぇぇ!? そうなんですか?! どうりでベタベタしていると……」
結婚……これまたすごいワードが出てきた。
三角関係どころか、四角関係だったってことか。
(うわー、ドロドロじゃん。めんどくさそ~)
そう思いつつも、高校に通っている頃にもこういう話がなかったわけではない。
自分が関係してないのであれば、聞いている分にはとても楽しい話題だ。
「で? 二人は諦めるの?」
「「まさか!」」
予想通り、二人は私を見て言った。
「この世界では、でしょ? 現実に帰ったら、そうは行かないわよ」
「そうです! 私だって、諦めません!」
二人が闘志を燃やしている様子に、小さく笑っていると、二人が不意にこちらを睨んできた。
「……な、なに?」
「そういうスーは? 誰か好きな人とかいないの?」
リズベットは、ニヤニヤとしている。
一方、シリカはニッコリと笑っている。
(どっちも何か怖い!)
「い、いないけど……そもそも、今までずっと恋愛とかそういう暇なく攻略組になるために努力してたわけだし」
「それですよ、それ!」
どれだ、そう思っているとシリカも詰め寄ってきた。
「私と会った時から言ってましたよね、それ。知り合いに良い武器をもらって、攻略組を目指してるって……それは、攻略組にいる人に言われたんですか?」
「そうなの!?」
これは、困った。
正直に答えていいものかどうか。
しかし、ヒースクリフだと言ったところで、別に何もおかしくないかもしれない。
ユニークスキルを使っているところを見られ、装備道具を貰って、もっと鍛えたら攻略組に来いと言われていたと言えば、納得できなくもない……かもしれない。
「…………もしかして、ベンヌさんですか?」
「ベンヌって、アンタ達の所属してる≪フィーニクス≫のギルドマスターの男?」
「はい」
そういって、シリカは急に語り出した。
はじまりの街で出会った二人は、互いに何らかの理由から別々の道を歩むことになってしまう。
そこで、ベンヌとスーは約束した。
お互いに、攻略組になってまた会おう。
一緒にこの世界をクリアして、現実で君と――――
「こんな展開はどうですか!?」
ワクワクと、目をキラキラさせていうシリカ。
「うーん、悪くはないけど……ありきたり過ぎな展開じゃない?」
リズベットも何だかノリノリで、話を脚色していく。
そうして、二人のとんでもない勘違いのお話は進んでいく。
(もういいや、勝手にしてもらおう)
ヒースクリフのことを話そうと思ったのだが、まぁまた今度でいいかと、両サイドで話す二人の楽しそうな声を子守唄にして、ベッドのど真ん中で目を閉じた。
自分の頭上にあるカーソルは、きっと真っ赤になっていることだろう。
「スー……」
一足遅くかけつけてきたヒースクリフの声が聞こえて、振り返って笑った。
「麻痺と毒にかかったんじゃなかったの?」
「状態異常の時間を、少し短縮させてもらった。私は、この世界の権限を持ってるからな。二人はまだ気絶している状態だ」
なるほど、と私は頷いて、もういない集団のいた場所を見た。
「今回は、助けられてしまったな」
そういって、彼が私のカーソルを撫でると、赤かったカーソルが緑色に戻った。
「…………手品?」
「権限を用いただけだ。今日の企画はもう終わっておこう。スー、先に帰っていていいぞ。後の二人は、同ギルドのマスターである私が責任を持つ。中断したこの企画についての詳細は、後日追って連絡する」
「そっか。じゃあ、お言葉に甘えて帰らせてもらっちゃうよ? 転移、アルゲート」
青い結晶、クリスタルを取り出してそう言うと、景色が一瞬消える。
そして、次の瞬間にはもう第50層のアルゲートの転移門にいた。
私は、真っ直ぐ一件の店へと向かった。
変身マントを脱いで、ノックもせずに店に入る。
「リズベット武具店へようこそ! ってなんだ、スーじゃない。どうしたの? 今日は、合同で何かイベントやるってアスナとキリトが言ってたけど?」
「ちょっと色々あってさ、リズベット今日忙しい?」
「え、ううん。今日は集めてた材料で武器作ろうかと……」
「それ、見てちゃだめ?」
「いいけど……」
理由も聞かず、リズベットは部屋の奥へ入れてくれた。
出してもらった椅子に座り、黙って仕事をし始めるリズベットをボーッと見ながら、思う。
(この世界が、ゲームで良かった……)
奴等の顔が嫌でも頭に浮かぶ。
一斉に襲い掛かってきた攻撃を、一撃で薙ぎ払い、彼等と距離を取った私は、叫ぶように言った。
「プレイヤー同士の対決は、一対一のデュエルで勝負するのが一般常識だって聞いてたんだけど? どういうこと」
「俺ら、≪ラフィン・コフィン≫のギルドに、常識が通じるわけねェだろ?」
「殺されたくないのなら、そこを通せ」
「ま、通さないっつっても、通すっつっても、今更だけどな」
「そうそう、殺すってことは決まってる。アンタはただ諦めればいいだけさ」
口々にそう言われる。
ニタニタと、フードを被ったままの男たちは下品な笑みを向けてくる。
気持ち悪い。
その時、なぜそう思ったのか、気付けば全員が結晶の欠片のようになって消えて行った。
別に、ヒースクリフたちを守る義理もなければ、必要もなかった。
ただ、どこかの陰に隠れてやり過ごすことだってできたはずだ。
でも、勝手に身体が動いていた。
モンスターを倒すのと同じように。
それは、ラフィン・コフィンと名乗った奴等も同じだった。
積極的にプレイヤーキルを行う彼等を嫌悪していたはずだった私は、彼等と全く同じことをしてしまっていた。
(正当防衛っていうか、過剰防衛っていうんだろうな……)
ヒースクリフが、事実を知っても微動だにしなかったのは、予想の範囲内だ。
でも、キリトやアスナは違うだろう。
彼等に、知られたくなかった。
軽蔑した目で見られることが、容易に想像できたから。
「――――ねぇ!」
ふと気付くと、眼前にリズベットがいた。
「さっきから呼んでたんだけどー?」
「あ、ごめん」
「アンタ、最近町で噂の的よ」
「なにが?」
「≪女たらしの大剣使い≫スー、ってね」
「フェミニストなだけだよ」
「女侍らして笑ってる男姿のアンタが、町中にばら撒かれてるわよ」
「モテるってのも、結構考えものだよね~」
「あのねぇ~…………」
ピキピキと、リズベットのこめかみから怒りゲージが上がっているような気がして、慌てて「じょ、冗談です!」と言うと、ちらりと睨みつけられた。
「で? 何で悩んでるの? それとも落ち込んでるの?」
「え?」
「何かあったんでしょ? 愚痴ぐらいなら、今はたまたまヒマだから、聞いてあげてもいいわよ」
「リズベット……」
「たまたまよ! たまたま!」
少し頬を染めて、ぷいっと横を向いてしまったリズベットを見て思う。
(どうしてこう……私の友達は皆強いのかなぁ)
男装をしたりしている身として、結構強いつもりでいたけれど、やっぱり自分はまだまだ色んな面で弱いのだと思い知らされる。
彼女にバレないように苦笑して、掻い摘んで今日あったことを全て話した。
ヒースクリフが権限を使って色々とズルをしたことは、勿論伏せておいた。
リズベットは、真剣に聞いていて、時々相槌をうちながら聞いてくれた。
「――――と、いうわけなんだけど」
「それで、何でアンタが落ち込む必要があるのよ」
「だって、人殺ししたも同然なんでしょ? そりゃ、殺人犯になんてなりたくなかったしさー」
「正当防衛よ! 気にすることなんてないわ! キリトとアスナだって、きっとそういうと思うし」
「うん、そうかもしれない。でもお願い、言わないで」
真っ直ぐにリズベットの目を見て言うと、彼女は渋々頷いてくれた。
「信用、してないの?」
小さく呟かれた声は、寂しそうなものだった。
リズベットは、キリトともアスナとも仲が良い。
「ごめん……まだ、付き合いが浅いと、こればっかりはどうにもならないよ。でも、リズベットのことは信じてる」
「は? 私?」
「武器のメンテしてもらってるから、狩りも快適だし、こうやって話聞いてくれるし」
「スー…………」
リズベットが嬉しそうに、はにかむ様に笑うから、つられて私も笑ってしまった。
それから、リズベットの強制的提案によって、一泊させてもらうことになった。
そして、それを聞きつけたシリカも合流し、三人でダブルベッドに寝転ぶ。
「せまい! 私、真剣に布団でいいんだけど!」
「狭くて悪かったわね」
「えー、いいじゃないですか別に。楽しいですよ」
「そうそう。女同士なんだし、女好きなスーとしては嬉しい限りでしょ?」
「いや、それ男の時だけだから。女の時は別にそんなことないから」
「そういえば、まだキリトとアスナの前では男装しっ放しなんだっけ?」
「血盟騎士団の人たちとか、他のギルドの人は知らないんじゃないですか?」
そう問われ、うんと頷きかけて留まる。
「いや、ヒースクリフは知ってる」
「あぁ、あの団長さんね。そういえば、今日一緒にチーム組んでたんでしょ? あの人って、ちょっと謎っぽいところがあると思わない?」
「貫録ある人ですよね~」
リズベットとシリカの言葉に、私の知っているヒースクリフを脳内で再生してみる。
……どう考えても、ただのオヤジだ。
以上を『異常』と漢字変換ミスをしたりする、ただのオッサンだ。
(全然謎も貫録もない……)
思わず笑ってしまいそうになったが、何とか堪えた。
「ま、私が連中と戦った後を見ても、動じたりしない人だったね」
「そういう冷静な対応できる人って、カッコいいわよね」
「え? リズベットさんって、血盟騎士団の団長さんが好きなんですか?! 私は、キリトさんが良いと思います……」
後半、シリカは喋りながら顔を赤くした。
「シリカ、キリトが好きなの?」
「えぇ!? アンタもなの!?」
リズベットは墓穴を掘り、二人がキリトのことを好きなのだということを知った。
「もう、この際だからスーもキリトが好きってことでいいんじゃない?」
「はははっ、冗談やめてよ」
「うわー、冷たい笑いですね。スー」
驚いた、まさかキリトがこんなにモテているとは。
(あれ? でも、そうなるとアスナだって……)
「シリカ、アンタ知らないみたいだから教えてあげるけど、キリトはアスナと結婚してるわよ」
「ええぇぇぇぇ!? そうなんですか?! どうりでベタベタしていると……」
結婚……これまたすごいワードが出てきた。
三角関係どころか、四角関係だったってことか。
(うわー、ドロドロじゃん。めんどくさそ~)
そう思いつつも、高校に通っている頃にもこういう話がなかったわけではない。
自分が関係してないのであれば、聞いている分にはとても楽しい話題だ。
「で? 二人は諦めるの?」
「「まさか!」」
予想通り、二人は私を見て言った。
「この世界では、でしょ? 現実に帰ったら、そうは行かないわよ」
「そうです! 私だって、諦めません!」
二人が闘志を燃やしている様子に、小さく笑っていると、二人が不意にこちらを睨んできた。
「……な、なに?」
「そういうスーは? 誰か好きな人とかいないの?」
リズベットは、ニヤニヤとしている。
一方、シリカはニッコリと笑っている。
(どっちも何か怖い!)
「い、いないけど……そもそも、今までずっと恋愛とかそういう暇なく攻略組になるために努力してたわけだし」
「それですよ、それ!」
どれだ、そう思っているとシリカも詰め寄ってきた。
「私と会った時から言ってましたよね、それ。知り合いに良い武器をもらって、攻略組を目指してるって……それは、攻略組にいる人に言われたんですか?」
「そうなの!?」
これは、困った。
正直に答えていいものかどうか。
しかし、ヒースクリフだと言ったところで、別に何もおかしくないかもしれない。
ユニークスキルを使っているところを見られ、装備道具を貰って、もっと鍛えたら攻略組に来いと言われていたと言えば、納得できなくもない……かもしれない。
「…………もしかして、ベンヌさんですか?」
「ベンヌって、アンタ達の所属してる≪フィーニクス≫のギルドマスターの男?」
「はい」
そういって、シリカは急に語り出した。
はじまりの街で出会った二人は、互いに何らかの理由から別々の道を歩むことになってしまう。
そこで、ベンヌとスーは約束した。
お互いに、攻略組になってまた会おう。
一緒にこの世界をクリアして、現実で君と――――
「こんな展開はどうですか!?」
ワクワクと、目をキラキラさせていうシリカ。
「うーん、悪くはないけど……ありきたり過ぎな展開じゃない?」
リズベットも何だかノリノリで、話を脚色していく。
そうして、二人のとんでもない勘違いのお話は進んでいく。
(もういいや、勝手にしてもらおう)
ヒースクリフのことを話そうと思ったのだが、まぁまた今度でいいかと、両サイドで話す二人の楽しそうな声を子守唄にして、ベッドのど真ん中で目を閉じた。