アインクラッド編
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このゲームの世界に連れて来られてから、どれぐらい経ったのだろうか。
私は、すっかりこのゲームでの生活に馴染んでしまっていた。
「攻略組合同レベルアップ企画?」
突然、朝から食堂に集まるように言われ、ギルド内の食堂に行くと、ギルドマスターのベンヌから企画のことが伝えられた。
「そう。最近、フロアボスだけじゃなくマップにいるモンスター達も、随分レベルが上がってきてる。それを受けて、同レベルのメンバーを集めてチームを組んで、攻略組全体の大々的なレベルアップをしようということだ」
「そのチーム分けについては、それぞれにメールが届いてるはずだ」
サブマスターのロコが、メールを開いたため、私たちもメールをそれぞれ開いた。
「……スー、貴殿をAチームとして配属することを決定した。Aチームメンバーは――――」
それを読んでいると、シリカが私のメールを覗き込んできた。
「スーは、何チームですか? って……人数めっちゃ少なくないですか!?」
「うん、なんでだろう」
「スーは、ユニークスキルの使い手な上に、結構レベルも高かったから、同レベルの人とやるより、ユニークスキルメンバーだけでやった方がいいっていうことになったらしいよ」
「で、このメンバー…………」
私は、思わずため息をついた。
「どうして沈んでるの?」
キクコに尋ねられ、メンバー名を読み上げると、全員が絶句した。
「確かに、お前のチームは少ないだろうが……すげーなそれ」
「うわー、オレ行きたくねぇ。ご愁傷様」
「他人事だと思って、皆適当すぎ……休んじゃだめ?」
「駄目だな」
ロコに言われ、項垂れる。
「皆メールは読んだか? 場所、集合時間などもそこに明記されてるから、各自装備を整えて行ってくれ。回復アイテムなどの補充は、主催者の血盟騎士団が支給してくれるそうだ」
ベンヌの言葉に、皆それぞれ頷き、準備したり出かけたりしていった。
「あー、目立つの嫌だなぁ」
「お前、前のボス攻略であれだけ目立っておいて、それは無理だろ」
「というか、そもそも貴女は遊び人の男として、このアインクラッドで有名よ」
残っているメンバーに、口々に言われブスッとした顔で彼等を睨みつけるが、彼等は笑うだけだった。
「自業自得ね」
トドメの一言が、痛かった。
仕方なく、待ち合わせ場所のダンジョン前に辿り着くと、そこには誰もいなかった。
「ま、三人だけだし……待ち合わせの十分前だし」
変身マントで男装することも忘れず、両手剣を装備した。
待ち合わせ場所なのに、敵の群がるダンジョン前を指定するあたり、主催者の性格の悪さと適当さ加減が伺える。
「片付けるか……」
暇なので、周りにいたモンスターを粗方やっつけることにした。
数十分後には、辺りはすっかり綺麗になっており、後は再びモンスターが現れればやっつけて、それの繰り返しだった。
しかし、段々と私はイラついてきていた。
なぜって、それは――――
「待ち合わせ時間、もう一時間も過ぎてんだよバカアアアア!」
両手剣を振り回し、体力ある限り敵を斬り続けた。
体力を温存しておく。
そんな考えは消え去っていた。
「おりゃおりゃおりゃおりゃーっ!! 死ねクソモンスター共おおおぉぉぉぉ!」
待たせるのは良くても、待たされるのは嫌いだった。
当然のことだけど。
結果、モンスターに八つ当たりしまくった。
「あー、すっきりした」
少し気持ちがすっきりしたころ、ようやく遠くから三人の人影を確認することができた。
(ん? 三人?)
スキルを使用して、三人の姿を確認すると、そこには当初の予定していた私以外のメンバーと、もう一人いた。
私は、彼等が近付いてくる前に、装備を両手剣からトイレスリッパに変更する。
そして、武器を自分の背に隠した。
「遅くなってすまなかったな」
そうして、歩いてのんびりやってきた三人。
皆それぞれ、悪いと思っているようだった。
なので……
「お・そ・い!」
三人にソードスキルを発動させて、スリッパを叩きつけた。
最後の人には、スリッパを顔面に直撃させてやった。
「痛いぞ、スー」
ヒースクリフは、突然のことに驚きながら、何やら笑っているようだった。
腹立たしい。
「もっかい叩こうか?」
「遠慮しよう」
「痛い! でも、遅れてしまったから仕方がないわ。ごめんなさい、スー。遅れてしまったのは私が原因なの」
「いや……アスナは悪くないよ。今日は前に見た時よりスカートの色が変わってる。似合ってるよ、アスナ」
「あ、ありがとう」
少し引き気味に礼を言われたため、これは彼女には効かないのかと判断していると、鋭い視線をアスナの横から感じた。
「おい、スー。何で俺だけ顔面なんだ」
「前に何回も叩かれたから、つい」
「ついって、お前なー」
「で、とりあえずダンジョン入る? アスナも増えて、この四人でレベル上げするんでしょ?」
「そうだが、ダンジョンに入る前にアイテムを支給しなければならない。そう急くな」
「あ、私が配るわね!」
アスナからそれぞれ、アイテムを支給され、それを受け取る。
「ていうか、お前何でトイレスリッパとか持ってんだよ」
「レアアイテムで手に入れた」
「そんなレアアイテムがあったなんて、知らなかったわ」
「さて、各々アイテムは支給されたな。では、ダンジョンへ入るぞ」
「あ、スー。お前前衛な」
「なんで? 私後衛がいい」
「俺の片手剣と、アスナのレイピアじゃ敵の初撃をはじけないんだよ。とりあえず、最初は俺とスーでチーム組んで――――」
「なんで私がキリトと組む必要が?! アスナがいい!アスナ、私とやろう!?」
「と、途中から変更すればいいじゃない? 最初はほら、慣れ親しんだ者同士でやった方がいいと思って、三人で歩きながら考えたの」
「横暴」
「俺だって、好きでお前と組むわけじゃない」
真顔で言われ、カチンと来た私はフッと鼻で笑ってキリトを見た。
「偉そうに……いつ血盟騎士団に入ったのか知らないけど、その白い服、とてつもなく似合ってないよ。傑作だけど」
プププッ、と笑うと彼はスッと目を細めた。
「お前こそ、男のくせにその長い髪。似合ってないぞ」
「あぁ? 今なんていったこのバカ!」
「バカっていう方がバカなんだよ」
「今キリトもバカって言いましたー。だから二人ともバカなんですー」
「止めなさい二人とも! ダンジョンに入るわよ」
アスナはキリトに怒っている間に、ヒースクリフと共に並んで先頭を進む。
少し、前衛と後衛で距離が離れた頃、ヒースクリフはフフッと静かに笑った。
「なに? 思いだし笑いとか、おっさんっぽいよ」
「いや、死んだら終わりのこの世界で、こんな面白いコントが見られるとは……」
「コントじゃないし。それより、なんで人数増えたの?」
「乙女の恋心というやつだろう」
「意味わかんないし、キモい」
そういうと、彼はまた笑った。
「そういえば、このダンジョンってまだ未攻略だったよね」
「あぁ、レベル上げしつつ、マッピングも行い、できれば今日中にボス部屋に到達して、ボスの姿を見ておきたいと思っている」
「もしかして、これって一日がかり?」
「当然だろう」
一日中、こんなヘンテコチームでレベル上げしなければならないなんて、どんな拷問だ。
アスナだけが、女神だと思った。
「それにしてもスー、お前のその男装、よく似合っているな」
「お褒めいただき、どうも」
「後ろの二人には、お前の本当の性別を教えていないのか?」
「何か、タイミングが合わなくて……もう別にいいかなと思って。戦闘中はこっちの方が何かやりやすい気がするしさ」
「そうか……」
「そんなことよりもさ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? 私を、このゲームに強制参加させた本当の理由」
「それは、後日君と二人で話をする時にしよう」
「なんで――――」
今じゃないのか、そう聞こうとした言葉を出す前にモンスターの雄叫びに、自然と体が反応する。
ここのダンジョンで現れるモンスターは数が少ない代わりに、個々の強さがかなりある。
ヒースクリフと共に二人で斬りかかる。
モンスターの攻撃しようとしていたタルワールを、ヒースクリフが弾く。
次に、私が奴に攻撃を加える。
そして、後ろの二人が連撃を加えていく。
「四人もいれば、楽勝だな」
あっという間に終わった戦闘。
目の前には、どこからともなく現れたグラフィック。
Congratulations!の文字が出ており、取得経験値やアイテムなどが表示されている。
「ここにいるのは、皆攻略組の中でも精鋭中の精鋭だもの」
(アスナってすごいなー。自分で精鋭中の精鋭とか言っちゃう辺りが、本当にすごい)
そして、自分の精鋭の中に含めないで欲しいと思った。
私は、こないだまで初心者だった。
ただ、ヒースクリフのおかげでかなり有利な条件から始まった初心者だった。
(何か、不正してる気分……いやいや、不正させたのはヒースクリフだし。彼が創始者で、好きなようにやってるだけだから、えこひいきってやつよ。きっとそう、絶対そう)
そんなことを考えながら、現れた敵を斬っては足を進めて行くこと数時間後、ようやく敵のいない圏内エリアに到達した。
「ここで昼食にしようか」
ヒースクリフの言葉に頷いたアスナは、すぐにアイテム欄からランチボックスを出してきた。
「今日は、いっぱい作ってきたから、遠慮なく食べてね」
そういって、アスナが開いたランチボックス。
中には、サンドイッチやら唐揚げのようなものなど、色はおかしいが、それなりに美味しそうなものが入っていた。
だが、何か違和感を感じた。
キリトは口いっぱいに料理を頬張り、ヒースクリフもモグモグと食べ始め、アスナも飲み物を全員分配ってから食べ始めている。
(なんだろ……何か嫌な予感がする)
「スー、食べないのか?」
キリトに言われ、咄嗟に立ち上がる。
「お、おい、どこ行くんだ?」
驚いている様子の三人には悪いが、嫌な予感がするためそれを食べたくない。
アスナがいるため、直接食べたくないとは言えない。
「ちょっと、お腹減ってないから、ランニングしてお腹減らしてくる!」
彼等の静止の声を振り切り、先ほどまで来ていた道を戻っていく。
結構な距離を走って戻っていると、まださらに向こうから複数の足音が聞こえてきた。
スキルを用いて、やってくる人たちを見ると、全員がフードを被っていた。
モンスターと遭遇しても、彼等が攻撃をしかけていないことから、何かアイテムを使用してモンスターから気配を消しているのだとわかった。
つまり、狙いはモンスター退治ではない。
こんな最前線のダンジョンに、普通のプレイヤーはやってくるはずがない。
攻略組か、はたまた別の人物たちか。
だが、攻略組は私達と同様に、別の場所でレベル上げをしているはず。
つまり、攻略組なはずはない。
ということは、別のプレイヤー達ということになる。
ただのレベル上げなら、モンスターを退治している。レアアイテム狙いでも同様だ。
(なら、何?)
何を目的として、彼等はここに来た?
彼等の丁度正面に立つ。
現れたプレイヤー達は、全員プレイヤーの頭部の上に出ているカーソルが、オレンジ色だった。
通常は緑色なはず。
オレンジ色、それはレッドプレイヤーを指す。
彼等は、積極的にプレイヤーキルを行う者達。
「おや、貴方は≪フィーニクス≫の……」
「スーだ。あんた達の名前は? どっかのギルド? 見たところ、レベル上げに来たわけじゃないみたいだけど?」
「――――他のプレイヤーはどうした?」
私の質問に答えず、真ん中に立つ男は言う。
「私の質問には答えないんだ。さすが礼儀知らずのレッドプレイヤー。最低ね」
「お前が動いているということは、食べてないのか?」
「食べてない? なにを?」
「お前らと一緒にいる≪閃光≫のアスナ。彼女の持っていたランチボックスが路上に置かれていたからね。僕らが親切に毒と痺れ薬をたっぷり仕込んで返してあげたのさ。気付かれないように、それ相応のアイテムを使ってね」
「残念だよなァ? ランチ食ってりゃ、苦しむことなく死ねたのによォ……お前、オレ等に殺されなきゃなんねェ」
「なんで?」
「お前等は、大々的に企画を広めすぎたな。攻略組を消そうとしている我々にとって、それは獲物を狩る絶好の機会」
「こーんな幸せな世界にいるんだぜ? わざわざクリアする必要なんてねェだろ。だからよ、攻略組は死ねや」
フードを脱いだ目つきの悪い男が、突如としてメイスを奮ってきた。
それを慌てて両手剣ではじき返し、瞬間的に武器を両手剣から大剣に変えた。
「つまり、この向こうにいるヒースクリフたちも含めて、攻略組全員が邪魔ってことでしょ」
「その通りだ」
「お前等強いから、こうでもしなきゃ倒せないだろ? 苦労したんだぜ、色々」
「そっか、わかった。でも、ここは通せない。私は、平和な高校生活に戻りたい。だから、この先に進まれると困る」
私がそう言うと、奴等は全員で一斉に飛び掛かってきた。
その瞬間、まるでモンスターみたいだと思った。
私は、すっかりこのゲームでの生活に馴染んでしまっていた。
「攻略組合同レベルアップ企画?」
突然、朝から食堂に集まるように言われ、ギルド内の食堂に行くと、ギルドマスターのベンヌから企画のことが伝えられた。
「そう。最近、フロアボスだけじゃなくマップにいるモンスター達も、随分レベルが上がってきてる。それを受けて、同レベルのメンバーを集めてチームを組んで、攻略組全体の大々的なレベルアップをしようということだ」
「そのチーム分けについては、それぞれにメールが届いてるはずだ」
サブマスターのロコが、メールを開いたため、私たちもメールをそれぞれ開いた。
「……スー、貴殿をAチームとして配属することを決定した。Aチームメンバーは――――」
それを読んでいると、シリカが私のメールを覗き込んできた。
「スーは、何チームですか? って……人数めっちゃ少なくないですか!?」
「うん、なんでだろう」
「スーは、ユニークスキルの使い手な上に、結構レベルも高かったから、同レベルの人とやるより、ユニークスキルメンバーだけでやった方がいいっていうことになったらしいよ」
「で、このメンバー…………」
私は、思わずため息をついた。
「どうして沈んでるの?」
キクコに尋ねられ、メンバー名を読み上げると、全員が絶句した。
「確かに、お前のチームは少ないだろうが……すげーなそれ」
「うわー、オレ行きたくねぇ。ご愁傷様」
「他人事だと思って、皆適当すぎ……休んじゃだめ?」
「駄目だな」
ロコに言われ、項垂れる。
「皆メールは読んだか? 場所、集合時間などもそこに明記されてるから、各自装備を整えて行ってくれ。回復アイテムなどの補充は、主催者の血盟騎士団が支給してくれるそうだ」
ベンヌの言葉に、皆それぞれ頷き、準備したり出かけたりしていった。
「あー、目立つの嫌だなぁ」
「お前、前のボス攻略であれだけ目立っておいて、それは無理だろ」
「というか、そもそも貴女は遊び人の男として、このアインクラッドで有名よ」
残っているメンバーに、口々に言われブスッとした顔で彼等を睨みつけるが、彼等は笑うだけだった。
「自業自得ね」
トドメの一言が、痛かった。
仕方なく、待ち合わせ場所のダンジョン前に辿り着くと、そこには誰もいなかった。
「ま、三人だけだし……待ち合わせの十分前だし」
変身マントで男装することも忘れず、両手剣を装備した。
待ち合わせ場所なのに、敵の群がるダンジョン前を指定するあたり、主催者の性格の悪さと適当さ加減が伺える。
「片付けるか……」
暇なので、周りにいたモンスターを粗方やっつけることにした。
数十分後には、辺りはすっかり綺麗になっており、後は再びモンスターが現れればやっつけて、それの繰り返しだった。
しかし、段々と私はイラついてきていた。
なぜって、それは――――
「待ち合わせ時間、もう一時間も過ぎてんだよバカアアアア!」
両手剣を振り回し、体力ある限り敵を斬り続けた。
体力を温存しておく。
そんな考えは消え去っていた。
「おりゃおりゃおりゃおりゃーっ!! 死ねクソモンスター共おおおぉぉぉぉ!」
待たせるのは良くても、待たされるのは嫌いだった。
当然のことだけど。
結果、モンスターに八つ当たりしまくった。
「あー、すっきりした」
少し気持ちがすっきりしたころ、ようやく遠くから三人の人影を確認することができた。
(ん? 三人?)
スキルを使用して、三人の姿を確認すると、そこには当初の予定していた私以外のメンバーと、もう一人いた。
私は、彼等が近付いてくる前に、装備を両手剣からトイレスリッパに変更する。
そして、武器を自分の背に隠した。
「遅くなってすまなかったな」
そうして、歩いてのんびりやってきた三人。
皆それぞれ、悪いと思っているようだった。
なので……
「お・そ・い!」
三人にソードスキルを発動させて、スリッパを叩きつけた。
最後の人には、スリッパを顔面に直撃させてやった。
「痛いぞ、スー」
ヒースクリフは、突然のことに驚きながら、何やら笑っているようだった。
腹立たしい。
「もっかい叩こうか?」
「遠慮しよう」
「痛い! でも、遅れてしまったから仕方がないわ。ごめんなさい、スー。遅れてしまったのは私が原因なの」
「いや……アスナは悪くないよ。今日は前に見た時よりスカートの色が変わってる。似合ってるよ、アスナ」
「あ、ありがとう」
少し引き気味に礼を言われたため、これは彼女には効かないのかと判断していると、鋭い視線をアスナの横から感じた。
「おい、スー。何で俺だけ顔面なんだ」
「前に何回も叩かれたから、つい」
「ついって、お前なー」
「で、とりあえずダンジョン入る? アスナも増えて、この四人でレベル上げするんでしょ?」
「そうだが、ダンジョンに入る前にアイテムを支給しなければならない。そう急くな」
「あ、私が配るわね!」
アスナからそれぞれ、アイテムを支給され、それを受け取る。
「ていうか、お前何でトイレスリッパとか持ってんだよ」
「レアアイテムで手に入れた」
「そんなレアアイテムがあったなんて、知らなかったわ」
「さて、各々アイテムは支給されたな。では、ダンジョンへ入るぞ」
「あ、スー。お前前衛な」
「なんで? 私後衛がいい」
「俺の片手剣と、アスナのレイピアじゃ敵の初撃をはじけないんだよ。とりあえず、最初は俺とスーでチーム組んで――――」
「なんで私がキリトと組む必要が?! アスナがいい!アスナ、私とやろう!?」
「と、途中から変更すればいいじゃない? 最初はほら、慣れ親しんだ者同士でやった方がいいと思って、三人で歩きながら考えたの」
「横暴」
「俺だって、好きでお前と組むわけじゃない」
真顔で言われ、カチンと来た私はフッと鼻で笑ってキリトを見た。
「偉そうに……いつ血盟騎士団に入ったのか知らないけど、その白い服、とてつもなく似合ってないよ。傑作だけど」
プププッ、と笑うと彼はスッと目を細めた。
「お前こそ、男のくせにその長い髪。似合ってないぞ」
「あぁ? 今なんていったこのバカ!」
「バカっていう方がバカなんだよ」
「今キリトもバカって言いましたー。だから二人ともバカなんですー」
「止めなさい二人とも! ダンジョンに入るわよ」
アスナはキリトに怒っている間に、ヒースクリフと共に並んで先頭を進む。
少し、前衛と後衛で距離が離れた頃、ヒースクリフはフフッと静かに笑った。
「なに? 思いだし笑いとか、おっさんっぽいよ」
「いや、死んだら終わりのこの世界で、こんな面白いコントが見られるとは……」
「コントじゃないし。それより、なんで人数増えたの?」
「乙女の恋心というやつだろう」
「意味わかんないし、キモい」
そういうと、彼はまた笑った。
「そういえば、このダンジョンってまだ未攻略だったよね」
「あぁ、レベル上げしつつ、マッピングも行い、できれば今日中にボス部屋に到達して、ボスの姿を見ておきたいと思っている」
「もしかして、これって一日がかり?」
「当然だろう」
一日中、こんなヘンテコチームでレベル上げしなければならないなんて、どんな拷問だ。
アスナだけが、女神だと思った。
「それにしてもスー、お前のその男装、よく似合っているな」
「お褒めいただき、どうも」
「後ろの二人には、お前の本当の性別を教えていないのか?」
「何か、タイミングが合わなくて……もう別にいいかなと思って。戦闘中はこっちの方が何かやりやすい気がするしさ」
「そうか……」
「そんなことよりもさ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない? 私を、このゲームに強制参加させた本当の理由」
「それは、後日君と二人で話をする時にしよう」
「なんで――――」
今じゃないのか、そう聞こうとした言葉を出す前にモンスターの雄叫びに、自然と体が反応する。
ここのダンジョンで現れるモンスターは数が少ない代わりに、個々の強さがかなりある。
ヒースクリフと共に二人で斬りかかる。
モンスターの攻撃しようとしていたタルワールを、ヒースクリフが弾く。
次に、私が奴に攻撃を加える。
そして、後ろの二人が連撃を加えていく。
「四人もいれば、楽勝だな」
あっという間に終わった戦闘。
目の前には、どこからともなく現れたグラフィック。
Congratulations!の文字が出ており、取得経験値やアイテムなどが表示されている。
「ここにいるのは、皆攻略組の中でも精鋭中の精鋭だもの」
(アスナってすごいなー。自分で精鋭中の精鋭とか言っちゃう辺りが、本当にすごい)
そして、自分の精鋭の中に含めないで欲しいと思った。
私は、こないだまで初心者だった。
ただ、ヒースクリフのおかげでかなり有利な条件から始まった初心者だった。
(何か、不正してる気分……いやいや、不正させたのはヒースクリフだし。彼が創始者で、好きなようにやってるだけだから、えこひいきってやつよ。きっとそう、絶対そう)
そんなことを考えながら、現れた敵を斬っては足を進めて行くこと数時間後、ようやく敵のいない圏内エリアに到達した。
「ここで昼食にしようか」
ヒースクリフの言葉に頷いたアスナは、すぐにアイテム欄からランチボックスを出してきた。
「今日は、いっぱい作ってきたから、遠慮なく食べてね」
そういって、アスナが開いたランチボックス。
中には、サンドイッチやら唐揚げのようなものなど、色はおかしいが、それなりに美味しそうなものが入っていた。
だが、何か違和感を感じた。
キリトは口いっぱいに料理を頬張り、ヒースクリフもモグモグと食べ始め、アスナも飲み物を全員分配ってから食べ始めている。
(なんだろ……何か嫌な予感がする)
「スー、食べないのか?」
キリトに言われ、咄嗟に立ち上がる。
「お、おい、どこ行くんだ?」
驚いている様子の三人には悪いが、嫌な予感がするためそれを食べたくない。
アスナがいるため、直接食べたくないとは言えない。
「ちょっと、お腹減ってないから、ランニングしてお腹減らしてくる!」
彼等の静止の声を振り切り、先ほどまで来ていた道を戻っていく。
結構な距離を走って戻っていると、まださらに向こうから複数の足音が聞こえてきた。
スキルを用いて、やってくる人たちを見ると、全員がフードを被っていた。
モンスターと遭遇しても、彼等が攻撃をしかけていないことから、何かアイテムを使用してモンスターから気配を消しているのだとわかった。
つまり、狙いはモンスター退治ではない。
こんな最前線のダンジョンに、普通のプレイヤーはやってくるはずがない。
攻略組か、はたまた別の人物たちか。
だが、攻略組は私達と同様に、別の場所でレベル上げをしているはず。
つまり、攻略組なはずはない。
ということは、別のプレイヤー達ということになる。
ただのレベル上げなら、モンスターを退治している。レアアイテム狙いでも同様だ。
(なら、何?)
何を目的として、彼等はここに来た?
彼等の丁度正面に立つ。
現れたプレイヤー達は、全員プレイヤーの頭部の上に出ているカーソルが、オレンジ色だった。
通常は緑色なはず。
オレンジ色、それはレッドプレイヤーを指す。
彼等は、積極的にプレイヤーキルを行う者達。
「おや、貴方は≪フィーニクス≫の……」
「スーだ。あんた達の名前は? どっかのギルド? 見たところ、レベル上げに来たわけじゃないみたいだけど?」
「――――他のプレイヤーはどうした?」
私の質問に答えず、真ん中に立つ男は言う。
「私の質問には答えないんだ。さすが礼儀知らずのレッドプレイヤー。最低ね」
「お前が動いているということは、食べてないのか?」
「食べてない? なにを?」
「お前らと一緒にいる≪閃光≫のアスナ。彼女の持っていたランチボックスが路上に置かれていたからね。僕らが親切に毒と痺れ薬をたっぷり仕込んで返してあげたのさ。気付かれないように、それ相応のアイテムを使ってね」
「残念だよなァ? ランチ食ってりゃ、苦しむことなく死ねたのによォ……お前、オレ等に殺されなきゃなんねェ」
「なんで?」
「お前等は、大々的に企画を広めすぎたな。攻略組を消そうとしている我々にとって、それは獲物を狩る絶好の機会」
「こーんな幸せな世界にいるんだぜ? わざわざクリアする必要なんてねェだろ。だからよ、攻略組は死ねや」
フードを脱いだ目つきの悪い男が、突如としてメイスを奮ってきた。
それを慌てて両手剣ではじき返し、瞬間的に武器を両手剣から大剣に変えた。
「つまり、この向こうにいるヒースクリフたちも含めて、攻略組全員が邪魔ってことでしょ」
「その通りだ」
「お前等強いから、こうでもしなきゃ倒せないだろ? 苦労したんだぜ、色々」
「そっか、わかった。でも、ここは通せない。私は、平和な高校生活に戻りたい。だから、この先に進まれると困る」
私がそう言うと、奴等は全員で一斉に飛び掛かってきた。
その瞬間、まるでモンスターみたいだと思った。