アインクラッド編
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「じょ、冗談ですよね!? スーはまだ初心者と変わらないようなものですし……」
「いや~、ある人と約束しててさ。攻略組に行かなきゃいけないんだけど……難しいの?」
「こ、ここ数日でようやくスキルの使い方覚えたばかりでは、ちょっと……攻略組って、ボス退治したりとか、とにかく相当強い人じゃないと無理ですよ!」
「そっか~」
紅茶を一気に飲み干して、シリカを見る。
あわあわと、私の言った言葉が余程信じられなくて、無謀なことなのだと言わんばかりの焦りっぷりだ。
「じゃあ、もうちょっとシリカと一緒に戦闘馴れしてからにするよ」
「ちょ、ちょっとって……そんなんじゃ無理ですってば!」
シリカの言葉をスルーして、ひらひらと手を振ってカフェを出る。
もう日は沈むころだ。
約束があるのを思い出し、アイテム欄から≪変身マント≫を出して、着替える。
これは、茅場から支給されていたアイテムの中にあったもので、脳内で考えるなりたい姿になることができるアイテムだ。
ふわっと、自身の姿が変わる。
元々背が低いわけではないため、顔と体格さえ変われば、問題ない。
鏡を取り出して、見てみる。
「カッコいい~」
自画自賛である。
それもそのはず、私が変身したのは美形男子だ。
いざ、待ち合わせ場所へと赴く。
そこにいるのは、私を見て頬を赤く染める女の子だ。
「スー様、お待ちしていました」
スー、というのは私の名前のことだ。
茅場が、勝手に私のキャラクター名として決めていたようだった。
それを、変身して美形になった私に見惚れた女子たちが、スー様と呼んでくれている。
(女子からモテるって、何か気分良いなぁ)
そんな感覚で遊んでいたのだが、近頃は真剣にこの姿は使えると思い始めていた。
何て言ったって、飲み代、どこかに行くにしても彼女たちは情報通な人が多い。
攻略組に混ざるためにも、様々な情報が必要な私にとって彼女たちと遊ぶことは、必要だ。
女の子が、私の腕に絡めてくる。
「今日、どこ行く?」
「どこがいい?」
うっとりとしている様子の女の子と歩きつつ、彼女にも聞いてみることにした。
「ねぇ、そういえば聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「攻略組になりたいんだけど、どうすればいいか知ってる?」
「スー様なら強いから、何でもなれるわよ」
「そう?」
「でも、そうね……攻略組って、ソロはあんまりいないって聞いたことがあるわ。複数のギルドで、ダンジョンやボス部屋に何度も行って調査を進めてから、大人数でボス攻略に挑むから」
「ギルドに入ればいいの?」
「一番手っ取り早いのは、≪血盟騎士団≫に入ることね。空きがあるかどうかは知らないけど。それか、別でボス攻略を目指しているギルドに入るのもアリかもしれないわ」
「なるほどねぇ。ほんと、何でも知ってるなんてすごいね」
「そんなことないわよ」
女の子は、嬉しそうに微笑む。
おそらく、私より年齢が低いように見えるのに、この色気は一体どこからやってくるのだろうかと聞きたくなる。
それから、夜遅くまで彼女と遊んでから、彼女の住んでいる家まで送り、ダンジョンへと向かった。
夜だと寝ている人が多くて、ダンジョンでの経験値稼ぎにはもってこいだ。
ダンジョン内を歩いていると、一通のメールが届いた。
手馴れてきた操作でメールを開くと、ここ数日毎日届いている人物からのメールだった。
「また茅場か……」
茅場という、このゲームの創始者は、ゲーム参加者の一人として≪ヒースクリフ≫と名乗っている。
彼は、攻略組の中でもトップギルドとして有名な血盟騎士団のリーダーである。
『近頃調子はどうかな? 君が一刻も早くこのゲームに慣れ、攻略組に参加してくれることを願ってるよ』
冒頭は、いつもこの文章から始まる。
ここ数日で届くメール内容は、これに始まり現在の攻略組の近況や、それぞれの階層で起こった大きな事件、レアアイテム情報など、様々な情報が書かれている。
そこに書かれていた内容の中で、丁度今いるダンジョンでのレアアイテム情報があった。
「隠し部屋にある宝箱ね……探してみよ」
コツコツと、静かなダンジョンを歩き回り、時折現れるモンスターを退治していると、壁沿いに歩く中で奇妙な場所を発見した。
「もしかして、ここ……?」
足を踏み入れようか迷っていると、背後から急に手を置かれた。
「うっひゃあ!?」
「あ、わ、悪い……」
モンスターだと思ったが、どうやら人間だったようだ。
慌てて引き抜いた両手剣を背中の鞘に納める。
「な、何か用?」
黒い服に黒い髪、何やら地味そうな少年だ。
いや、でも私と年齢近いのかな……。
「そこ、隠し部屋だろ。入らない方がいい。相当レベルが高くないと危ないぞ」
「へー、そうなんだ」
そう言いつつ、彼を無視して入ろうとすると、またしても肩を掴まれる。
「おいっ! 人の忠告聞けよ! お前、装備からすると結構レベルはあるのかもしれないけど、一人じゃ危ないって」
そう言われ、私は自分の装備を見る。
(そっか……茅場って、結構良い装備くれてるんだ)
イマイチ装備のレベルやら、そういったものがよくわからないため、一目でレベルはそれなりに高いなんて見抜かれて、驚いてしまった。
「って言われても……この部屋にあるレアアイテムってどんなのか気になるし……」
「そんな、興味本位で行こうとしてたのかよ……」
がっくりと項垂れて、彼はがしっと私の両肩を掴んだ。
「おっまえ、わかってんのか? このゲームは、死んだら本当に終わりなんだぞ!? それなのに、そんな興味本位で行動すんなよ!?」
何やら怒り出した彼に、正直よくわからなくてビビる。
しかし、一応見知らぬ赤の他人の自分を心配してくれているのだろう。
悪い人ではない、と思う。
「し、心配してくれてありがと」
「いや……っつーか、お前男だからって夜中にダンジョンウロウロすんなよ。ここだって、それなりに強い奴だっているんだから」
(…………お、とこ?……)
しまった、そういえば変身マントつけたままだった。
まぁいいか、と軽い気持ちで「あぁ」とだけ返事する。
これだけ心配されているのに、一人で部屋に突っ込むわけにも行かなくなってしまった。
仕方なく帰ろうとすると、彼はボソッと一言言った。
「でも、興味あるよな……」
レアアイテム。
そう彼が言った言葉に振り向くと、彼はニヤリと笑った。
「俺とチーム組んで行くか?」
「分け前は?」
「取ってから考えよう。どうだ? やるか?」
「そんなの、決まってる」
互いに、握手を交わす。
「俺はキリト。ソロでやってる」
「私はスー。同じくソロ」
キリトからチームの申請をされ、すぐにYESを選ぶ。
チームを組んだ方が利点が多く安全性が増すため、彼と組んで隠し部屋へ入ることとなった。
しかも、聞くところによると、彼は結構な手練れらしい。
どうやら、隠し部屋の種類によっては、転移結晶―――危険な状況になったときの、緊急脱出用のワープシステムが使えない場所があるらしい。
「お前、隠し部屋に一人で入ろうとするぐらいだし、装備も良いみたいだけど、自信あるのか?」
「ない。初心者みたいなもんだし。最近、ようやくスキルの使い方も覚えた」
私がそう言うと、キリトは唖然とした。
そして、引き返そうと私の腕を掴んだが、時すでに遅し。
隠し部屋から普通の通路へと続く道が大きな岩で塞がれた。
「あらら、脱出不可能ってやつ?」
「馬鹿かスー!? お前、絶対俺から離れんなよっ!?」
「大丈夫だって」
呑気にそういうと、キリトは私を自身の後ろへと追いやる。
私の後ろは壁だ。
アイテムの入った宝箱を前に、私たちは剣をそれぞれ構える。
すると、私たちより一回りデカイ敵が数えきれないぐらい、部屋に溢れ返った。
「うわぉ……」
「俺のパーティーメンバーは、絶対殺させやしない……」
まるで呪文のようにそう唱えた彼は、俊足で近くにいた敵を一撃で何匹かを倒した。
「キリトって強いんだ……」
あまりにも綺麗な動きに、一瞬見惚れてしまったが、そんな場合ではない。
向ってくる敵の攻撃をかわし、敵の腹を両手剣で薙ぎ払う。
ついでに、近くにいた敵も吹っ飛ばして、剣を構え直す。
自分の攻撃では、一撃で敵を倒すことは出来ない。
敵を薙ぎ払いながら、キリトがスキルを使いやすいように、敵を自分たちからできるだけ遠ざける。
そうこうして、結構な時間をかけたが、ようやく敵を全滅させた。
自然と、通路と部屋を塞いでいた岩は消えて、アイテムの入った箱が開く。
ヒットポイント(HP)が半分以下になった私たちは、回復することも忘れて、宝箱の中身を覗き込んだ。
「「…………なんだ、コレ……」」
中に入っていたのは、板チョコレート一枚だった。
「ええぇ!? 信じられないんだけど! 普通もっと、お宝的な武器とかさ、財宝とか入ってるもんでしょ!?」
「いや待て!」
キリトは、チョコレートを手に取り、チョコレートを押して目の前に現れた説明を読んでいるようだった。
「チョコの説明読んだって、カカオからできているものです~、ぐらいしか書いてないんじゃないの?」
「これすごいぞ!?」
「板チョコレートの味を、忠実に再現してるとか? そういえば、ここの食材ってマズイのばっかりだし……」
「違うって!」
キリトの説明曰く、普通出回って使用されているヒールポーション、つまり回復薬は結晶アイテムを除けば、即効性ではなく時間をかけて回復していくものである。
しかし、このチョコレートだけは特製チョコレートだそうだ。
食べた瞬間に、HPを全回復する優れもの、さらに言うのなら、結晶無効化空間でも使用可能という、まさしくレアアイテムなんだそう。
「半分ずつにするぞ! 四回分あるから、二回分ずつなっ!」
何やら嬉しそうなキリト。
半分になった板チョコを受け取り、アイテムボックスにしまった。
「回復しないのか?」
「もったいないから、ヒールポーション飲んどく」
「たしかに」
ゴクゴクと、無言のまま二人してヒールポーションを飲む。
飲み終わってからも、徐々にしか回復していかないHP。
仕方なく、ダンジョンの通路に出て町にワープしようということになった。
互いに町に戻り、その辺にあるベンチに二人して腰かけた。
「しっかし、スーって結構豪快な攻撃の仕方するんだな。レイピアとか使ってそうなのに」
キリトにそう言われ、ギクリとした。
両手剣を使っているのは、ヒースクリフ……茅場の指示だ。
最初から得ていた≪ユニークスキル≫である大剣をいきなり使用していると、色々と情報提供を求められたりと、初心者には厳しいだろうということだった。
よくわからないが、ゲームの創始者が言うぐらいだ。
そうした方がいいと考え、彼の言うとおり両手剣を使用している。
(そういえば、ほんとに何でレイピアとか、もっと使いやすそうなスキルくれなかったんだろうか……)
そんなことを一瞬考えながら、彼の言葉に答えた。
「……あぁ、知り合いのススメでね。両手剣使うことにしてるんだ。キリトこそ、見た目ひ弱そうなのに強いじゃん。私、結局一匹も倒してないし」
「ひ弱そうとか、お前失礼だな」
「貧弱そうなのに」
「意味変わってないから、それ」
「細くて黒いのに」
「それ服だろ!? あと、そんな言うほど細くないから俺!」
「何必死になってんの」
どうやら、細いと言われるのは嫌らしい。
そういえば、変身マントのままだから、男扱いのままだ。
それは別にいいのだが、彼に誤解されたままというのは何だか気が引けるような気がして、事実を言おうとした。
しかし、物凄い至近距離から二つの腹の虫が鳴ったことで、言葉が出なくなった。
ぐうううぅぅぅ、ぐぅきゅるるるる~
「「…………」」
顔を見合わせて、同時に噴き出す。
「あははははっ! おっまえ、腹の虫デカイな!」
「そっちこそ、長い間音鳴ってたくせに!」
ゲラゲラと笑っていると、笑いつかれたキリトは、不意にアイテム欄を出し始めた。
「何やってんの?」
「板チョコ見たせいで腹減ったからなー。夜食食うんだよ」
「へー、いいなー」
じっと、彼を見つめていると、ちらりと嫌そうに視線を寄越してきたキリトは、渋々と言った表情で聞いてきた。
「……スーも食うか?」
その答えに、大きく首を縦に振ると、彼は一つ溜息をついた。
そして、すぐにアイテムを選択する独特な音と共に、パンとビンが現れた。
「パン……」
「と、ジャム」
「ジャム!? この土みたいな汚い色のドロッとした食欲失せるようなビンの中身が!?」
「文句があるなら食うな」
「いや、食べるけどさ~。なんかさ~」
「まぁいいから、食べてみろよ」
パンを渡され、ビンを差し出されたが、どうやってジャムを塗るのかわからないと言うと、彼はビンの蓋のボタンを押せと言った。
訳の分からないまま、片手にパンを持ち、空いた手でビンの蓋の尖った部分を押した。
すると、押した手が白く光り出した。
「うわっ!? なにこれ!?」
「それでパンに指で撫でつけたら、ジャムがつくんだよ。お前、ホント初心者みたいだな。レベルそれなりにあるくせに」
「うっさいなー、しょうがないんだって」
内心、途中参加であることを彼にバレないか不安だったが、そんな感じはしなかったので彼のことを気にせず、言われた通り、パンに光る指を撫でつけた。
汚い色のドロッとした物体がパンについた。
「うげー」
「そんな嫌そうな声出すなよ。美味いんだから」
半信半疑な中、大口を開けて一口食べてみた。
もぐもぐもぐもぐ。
目をぎゅっと閉じて、パンを咀嚼していると、酸味のような味と、細い何か噛み応えのある食感と、とろりと甘い味が口内に広がった。
ゴクリと飲み込み、思わず笑顔になった。
「これっ……ママレード!?」
「そっ、マーマレード」
キリトも、パクッと食べる。
「「うまい~!」」
誰もいない道端のベンチで、二人して何やってんだか……。
後から思えば、ほんと私たちはバカみたいにムシャムシャとパンを頬張っていた。
でも、その時間は強制参加させられていたことや、早く平和な高校生活に戻りたいなんてことを考えることなく、ただただ美味しいママレードジャムとパンの味を楽しんでいた。
「あ、ちなみにママレードだから。マーマレードは間違った言い方だから」
「どっちでもいいだろ、そんなの。ていうか、スーこれいるか? 簡単なクエストで手に入るんだ。やるなら教えるけど」
「やるやる! 手伝って!」
「お前なー……」
二人はこの後、朝までママレードのために奔走した。
「「うまーい!!」」
早朝、そんな声をどこかで聞いた人がいたとか、いなかったとか。
「いや~、ある人と約束しててさ。攻略組に行かなきゃいけないんだけど……難しいの?」
「こ、ここ数日でようやくスキルの使い方覚えたばかりでは、ちょっと……攻略組って、ボス退治したりとか、とにかく相当強い人じゃないと無理ですよ!」
「そっか~」
紅茶を一気に飲み干して、シリカを見る。
あわあわと、私の言った言葉が余程信じられなくて、無謀なことなのだと言わんばかりの焦りっぷりだ。
「じゃあ、もうちょっとシリカと一緒に戦闘馴れしてからにするよ」
「ちょ、ちょっとって……そんなんじゃ無理ですってば!」
シリカの言葉をスルーして、ひらひらと手を振ってカフェを出る。
もう日は沈むころだ。
約束があるのを思い出し、アイテム欄から≪変身マント≫を出して、着替える。
これは、茅場から支給されていたアイテムの中にあったもので、脳内で考えるなりたい姿になることができるアイテムだ。
ふわっと、自身の姿が変わる。
元々背が低いわけではないため、顔と体格さえ変われば、問題ない。
鏡を取り出して、見てみる。
「カッコいい~」
自画自賛である。
それもそのはず、私が変身したのは美形男子だ。
いざ、待ち合わせ場所へと赴く。
そこにいるのは、私を見て頬を赤く染める女の子だ。
「スー様、お待ちしていました」
スー、というのは私の名前のことだ。
茅場が、勝手に私のキャラクター名として決めていたようだった。
それを、変身して美形になった私に見惚れた女子たちが、スー様と呼んでくれている。
(女子からモテるって、何か気分良いなぁ)
そんな感覚で遊んでいたのだが、近頃は真剣にこの姿は使えると思い始めていた。
何て言ったって、飲み代、どこかに行くにしても彼女たちは情報通な人が多い。
攻略組に混ざるためにも、様々な情報が必要な私にとって彼女たちと遊ぶことは、必要だ。
女の子が、私の腕に絡めてくる。
「今日、どこ行く?」
「どこがいい?」
うっとりとしている様子の女の子と歩きつつ、彼女にも聞いてみることにした。
「ねぇ、そういえば聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
「攻略組になりたいんだけど、どうすればいいか知ってる?」
「スー様なら強いから、何でもなれるわよ」
「そう?」
「でも、そうね……攻略組って、ソロはあんまりいないって聞いたことがあるわ。複数のギルドで、ダンジョンやボス部屋に何度も行って調査を進めてから、大人数でボス攻略に挑むから」
「ギルドに入ればいいの?」
「一番手っ取り早いのは、≪血盟騎士団≫に入ることね。空きがあるかどうかは知らないけど。それか、別でボス攻略を目指しているギルドに入るのもアリかもしれないわ」
「なるほどねぇ。ほんと、何でも知ってるなんてすごいね」
「そんなことないわよ」
女の子は、嬉しそうに微笑む。
おそらく、私より年齢が低いように見えるのに、この色気は一体どこからやってくるのだろうかと聞きたくなる。
それから、夜遅くまで彼女と遊んでから、彼女の住んでいる家まで送り、ダンジョンへと向かった。
夜だと寝ている人が多くて、ダンジョンでの経験値稼ぎにはもってこいだ。
ダンジョン内を歩いていると、一通のメールが届いた。
手馴れてきた操作でメールを開くと、ここ数日毎日届いている人物からのメールだった。
「また茅場か……」
茅場という、このゲームの創始者は、ゲーム参加者の一人として≪ヒースクリフ≫と名乗っている。
彼は、攻略組の中でもトップギルドとして有名な血盟騎士団のリーダーである。
『近頃調子はどうかな? 君が一刻も早くこのゲームに慣れ、攻略組に参加してくれることを願ってるよ』
冒頭は、いつもこの文章から始まる。
ここ数日で届くメール内容は、これに始まり現在の攻略組の近況や、それぞれの階層で起こった大きな事件、レアアイテム情報など、様々な情報が書かれている。
そこに書かれていた内容の中で、丁度今いるダンジョンでのレアアイテム情報があった。
「隠し部屋にある宝箱ね……探してみよ」
コツコツと、静かなダンジョンを歩き回り、時折現れるモンスターを退治していると、壁沿いに歩く中で奇妙な場所を発見した。
「もしかして、ここ……?」
足を踏み入れようか迷っていると、背後から急に手を置かれた。
「うっひゃあ!?」
「あ、わ、悪い……」
モンスターだと思ったが、どうやら人間だったようだ。
慌てて引き抜いた両手剣を背中の鞘に納める。
「な、何か用?」
黒い服に黒い髪、何やら地味そうな少年だ。
いや、でも私と年齢近いのかな……。
「そこ、隠し部屋だろ。入らない方がいい。相当レベルが高くないと危ないぞ」
「へー、そうなんだ」
そう言いつつ、彼を無視して入ろうとすると、またしても肩を掴まれる。
「おいっ! 人の忠告聞けよ! お前、装備からすると結構レベルはあるのかもしれないけど、一人じゃ危ないって」
そう言われ、私は自分の装備を見る。
(そっか……茅場って、結構良い装備くれてるんだ)
イマイチ装備のレベルやら、そういったものがよくわからないため、一目でレベルはそれなりに高いなんて見抜かれて、驚いてしまった。
「って言われても……この部屋にあるレアアイテムってどんなのか気になるし……」
「そんな、興味本位で行こうとしてたのかよ……」
がっくりと項垂れて、彼はがしっと私の両肩を掴んだ。
「おっまえ、わかってんのか? このゲームは、死んだら本当に終わりなんだぞ!? それなのに、そんな興味本位で行動すんなよ!?」
何やら怒り出した彼に、正直よくわからなくてビビる。
しかし、一応見知らぬ赤の他人の自分を心配してくれているのだろう。
悪い人ではない、と思う。
「し、心配してくれてありがと」
「いや……っつーか、お前男だからって夜中にダンジョンウロウロすんなよ。ここだって、それなりに強い奴だっているんだから」
(…………お、とこ?……)
しまった、そういえば変身マントつけたままだった。
まぁいいか、と軽い気持ちで「あぁ」とだけ返事する。
これだけ心配されているのに、一人で部屋に突っ込むわけにも行かなくなってしまった。
仕方なく帰ろうとすると、彼はボソッと一言言った。
「でも、興味あるよな……」
レアアイテム。
そう彼が言った言葉に振り向くと、彼はニヤリと笑った。
「俺とチーム組んで行くか?」
「分け前は?」
「取ってから考えよう。どうだ? やるか?」
「そんなの、決まってる」
互いに、握手を交わす。
「俺はキリト。ソロでやってる」
「私はスー。同じくソロ」
キリトからチームの申請をされ、すぐにYESを選ぶ。
チームを組んだ方が利点が多く安全性が増すため、彼と組んで隠し部屋へ入ることとなった。
しかも、聞くところによると、彼は結構な手練れらしい。
どうやら、隠し部屋の種類によっては、転移結晶―――危険な状況になったときの、緊急脱出用のワープシステムが使えない場所があるらしい。
「お前、隠し部屋に一人で入ろうとするぐらいだし、装備も良いみたいだけど、自信あるのか?」
「ない。初心者みたいなもんだし。最近、ようやくスキルの使い方も覚えた」
私がそう言うと、キリトは唖然とした。
そして、引き返そうと私の腕を掴んだが、時すでに遅し。
隠し部屋から普通の通路へと続く道が大きな岩で塞がれた。
「あらら、脱出不可能ってやつ?」
「馬鹿かスー!? お前、絶対俺から離れんなよっ!?」
「大丈夫だって」
呑気にそういうと、キリトは私を自身の後ろへと追いやる。
私の後ろは壁だ。
アイテムの入った宝箱を前に、私たちは剣をそれぞれ構える。
すると、私たちより一回りデカイ敵が数えきれないぐらい、部屋に溢れ返った。
「うわぉ……」
「俺のパーティーメンバーは、絶対殺させやしない……」
まるで呪文のようにそう唱えた彼は、俊足で近くにいた敵を一撃で何匹かを倒した。
「キリトって強いんだ……」
あまりにも綺麗な動きに、一瞬見惚れてしまったが、そんな場合ではない。
向ってくる敵の攻撃をかわし、敵の腹を両手剣で薙ぎ払う。
ついでに、近くにいた敵も吹っ飛ばして、剣を構え直す。
自分の攻撃では、一撃で敵を倒すことは出来ない。
敵を薙ぎ払いながら、キリトがスキルを使いやすいように、敵を自分たちからできるだけ遠ざける。
そうこうして、結構な時間をかけたが、ようやく敵を全滅させた。
自然と、通路と部屋を塞いでいた岩は消えて、アイテムの入った箱が開く。
ヒットポイント(HP)が半分以下になった私たちは、回復することも忘れて、宝箱の中身を覗き込んだ。
「「…………なんだ、コレ……」」
中に入っていたのは、板チョコレート一枚だった。
「ええぇ!? 信じられないんだけど! 普通もっと、お宝的な武器とかさ、財宝とか入ってるもんでしょ!?」
「いや待て!」
キリトは、チョコレートを手に取り、チョコレートを押して目の前に現れた説明を読んでいるようだった。
「チョコの説明読んだって、カカオからできているものです~、ぐらいしか書いてないんじゃないの?」
「これすごいぞ!?」
「板チョコレートの味を、忠実に再現してるとか? そういえば、ここの食材ってマズイのばっかりだし……」
「違うって!」
キリトの説明曰く、普通出回って使用されているヒールポーション、つまり回復薬は結晶アイテムを除けば、即効性ではなく時間をかけて回復していくものである。
しかし、このチョコレートだけは特製チョコレートだそうだ。
食べた瞬間に、HPを全回復する優れもの、さらに言うのなら、結晶無効化空間でも使用可能という、まさしくレアアイテムなんだそう。
「半分ずつにするぞ! 四回分あるから、二回分ずつなっ!」
何やら嬉しそうなキリト。
半分になった板チョコを受け取り、アイテムボックスにしまった。
「回復しないのか?」
「もったいないから、ヒールポーション飲んどく」
「たしかに」
ゴクゴクと、無言のまま二人してヒールポーションを飲む。
飲み終わってからも、徐々にしか回復していかないHP。
仕方なく、ダンジョンの通路に出て町にワープしようということになった。
互いに町に戻り、その辺にあるベンチに二人して腰かけた。
「しっかし、スーって結構豪快な攻撃の仕方するんだな。レイピアとか使ってそうなのに」
キリトにそう言われ、ギクリとした。
両手剣を使っているのは、ヒースクリフ……茅場の指示だ。
最初から得ていた≪ユニークスキル≫である大剣をいきなり使用していると、色々と情報提供を求められたりと、初心者には厳しいだろうということだった。
よくわからないが、ゲームの創始者が言うぐらいだ。
そうした方がいいと考え、彼の言うとおり両手剣を使用している。
(そういえば、ほんとに何でレイピアとか、もっと使いやすそうなスキルくれなかったんだろうか……)
そんなことを一瞬考えながら、彼の言葉に答えた。
「……あぁ、知り合いのススメでね。両手剣使うことにしてるんだ。キリトこそ、見た目ひ弱そうなのに強いじゃん。私、結局一匹も倒してないし」
「ひ弱そうとか、お前失礼だな」
「貧弱そうなのに」
「意味変わってないから、それ」
「細くて黒いのに」
「それ服だろ!? あと、そんな言うほど細くないから俺!」
「何必死になってんの」
どうやら、細いと言われるのは嫌らしい。
そういえば、変身マントのままだから、男扱いのままだ。
それは別にいいのだが、彼に誤解されたままというのは何だか気が引けるような気がして、事実を言おうとした。
しかし、物凄い至近距離から二つの腹の虫が鳴ったことで、言葉が出なくなった。
ぐうううぅぅぅ、ぐぅきゅるるるる~
「「…………」」
顔を見合わせて、同時に噴き出す。
「あははははっ! おっまえ、腹の虫デカイな!」
「そっちこそ、長い間音鳴ってたくせに!」
ゲラゲラと笑っていると、笑いつかれたキリトは、不意にアイテム欄を出し始めた。
「何やってんの?」
「板チョコ見たせいで腹減ったからなー。夜食食うんだよ」
「へー、いいなー」
じっと、彼を見つめていると、ちらりと嫌そうに視線を寄越してきたキリトは、渋々と言った表情で聞いてきた。
「……スーも食うか?」
その答えに、大きく首を縦に振ると、彼は一つ溜息をついた。
そして、すぐにアイテムを選択する独特な音と共に、パンとビンが現れた。
「パン……」
「と、ジャム」
「ジャム!? この土みたいな汚い色のドロッとした食欲失せるようなビンの中身が!?」
「文句があるなら食うな」
「いや、食べるけどさ~。なんかさ~」
「まぁいいから、食べてみろよ」
パンを渡され、ビンを差し出されたが、どうやってジャムを塗るのかわからないと言うと、彼はビンの蓋のボタンを押せと言った。
訳の分からないまま、片手にパンを持ち、空いた手でビンの蓋の尖った部分を押した。
すると、押した手が白く光り出した。
「うわっ!? なにこれ!?」
「それでパンに指で撫でつけたら、ジャムがつくんだよ。お前、ホント初心者みたいだな。レベルそれなりにあるくせに」
「うっさいなー、しょうがないんだって」
内心、途中参加であることを彼にバレないか不安だったが、そんな感じはしなかったので彼のことを気にせず、言われた通り、パンに光る指を撫でつけた。
汚い色のドロッとした物体がパンについた。
「うげー」
「そんな嫌そうな声出すなよ。美味いんだから」
半信半疑な中、大口を開けて一口食べてみた。
もぐもぐもぐもぐ。
目をぎゅっと閉じて、パンを咀嚼していると、酸味のような味と、細い何か噛み応えのある食感と、とろりと甘い味が口内に広がった。
ゴクリと飲み込み、思わず笑顔になった。
「これっ……ママレード!?」
「そっ、マーマレード」
キリトも、パクッと食べる。
「「うまい~!」」
誰もいない道端のベンチで、二人して何やってんだか……。
後から思えば、ほんと私たちはバカみたいにムシャムシャとパンを頬張っていた。
でも、その時間は強制参加させられていたことや、早く平和な高校生活に戻りたいなんてことを考えることなく、ただただ美味しいママレードジャムとパンの味を楽しんでいた。
「あ、ちなみにママレードだから。マーマレードは間違った言い方だから」
「どっちでもいいだろ、そんなの。ていうか、スーこれいるか? 簡単なクエストで手に入るんだ。やるなら教えるけど」
「やるやる! 手伝って!」
「お前なー……」
二人はこの後、朝までママレードのために奔走した。
「「うまーい!!」」
早朝、そんな声をどこかで聞いた人がいたとか、いなかったとか。