番外編
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「スー、クエスト消化に付き合ってくれ」
「はいはい」
SAO、アインクラッドの世界からは抜けられたものの、未だ私はこのゲームの世界に囚われていた。
ALOと呼ばれるこの世界に、私のデータが取り込まれてしまっていたことが原因だったのだが。
スー、という本名でない名前もすっかり定着してしまった今日この頃。
「キリト! そっちは任せた!」
「任せろ!」
シルフ領付近の湖に出たと言われる新種モンスターの討伐。
これが、今回キリトが受けたクエストだった訳だけど、意外にもモンスターのレベルが低かった為、想定していた時間より早く討伐が終了した。
目の前に現れるクエストクリアの文字を退けて、キリトを見る。
ALOで再会した当時、彼はツンツン頭になっており笑えた。
しかし、アスナの救出劇も終わり、ひと段落ついた頃には以前のような普通のショートヘアに戻ってしまっていた。
「今回のは楽勝だったね~。キリト一人でも十分だったんじゃない? あ、そういえば、髪なんで戻しちゃったの? ツンツンしてて面白かったのに」
素直にそう言うと、彼はじとっとした目でメニューを操作する手を止めて私を見た。
「お前なぁ……」
彼は暫く私を見ていたが、何か諦めたように歩き始める。
そのまま別れても良かったが、少し離れて彼の後ろを歩いた。
すると、すぐに彼は振り返り私を呼んだ。
「隣歩いてろよな」
ぶっきらぼうで、優しい。
こんな感じで、このゲームを生きてる私は長時間プレイしているキリトと行動する事が多かった。
(いつか帰るその日まで……期限付きだけど)
私のデータは、茅場が確保してくれている。
後は帰るだけなのだが、帰ってしまうと私のいた世界にこんなゲームは存在していなかったのだ。
当然、それは世界が違うことを意味し、私は戻ったが最後二度とこちらに来ることは出来なくなるだろう。
茅場は、私が決意を決めるまで待ってくれている。
そして、キリトもまた私がここに残りたい思いと、帰りたい思いを抱えていることを知り、心配してくれていた。
「しっかし、こうも新クエストが増え続けると、消化するのも面倒くさくなってくるな」
「確かに。今回のとか、別にやらなくても良かったんじゃない?」
「……これは、お前とやらなきゃ意味がないんだよなぁ」
「なにそれ?」
彼の言葉に首をかしげると、彼は辺りにモンスターがいないことを確認して、地べたに座り込む。
ちょいちょいと手招きされ、隣に腰を下ろすと、彼はアイテム欄から食パンを取り出した。
「なーんだ、空腹? それなら街に行った方が美味しいの食べれるのに」
「いいから、ほら」
彼に手渡されたパンを受け取ると、彼は小さな小瓶を取り出した。
「これ、さっきのクエストの報酬。ジャムなんだよ」
彼の言葉に、小瓶を受け取りパンに塗り、一口食べる。
「…………これ、ママレード?!」
「そ、懐かしいだろ。俺らが初めてSAOで会った時にも、食っただろ?」
「食った食った!あれホント美味しかったんだよねー! ていうか懐かしい! そっか、それで誘ってくれたってことか」
「お前、絶対美味いって言うと思ったからな」
「美味いもんは美味いよー! うっまーい!」
「ただのジャムパンだろ。ほんと、食い意地張ってるよなぁ、スーは」
「何処の世界にいても、美味しい物が食べたいでしょ、やっぱ」
「ま、否定はしないけどな」
その後ジャムパンを平らげて、パーティーを一旦解散し、キリトはログアウトした。
私はというと、茅場と共に購入したマイホームで一人、自身のスキルを見直していた。
「これを下げて、その分をこっちに……いや、でも攻撃力は譲れないしなぁ。その分、魔防(魔法防御力)下げよう」
チマチマとメニュー画面をあれこれ弄り、数日後に私はキリトを呼び出した。
「この前のジャムパンのお礼! ピクニックに行くよ!」
「あ、あぁ、うん。てか、俺とお前だけで?」
「うん、そうだけど…あ、皆も呼ぶ? キリト分しかないから、他のは商店で料理買わなきゃいけないけど」
「いやいい! 俺らで行こうぜ。で、何処行くんだ?」
「すぐ外出た所の、あの浮いてる適当な島で!」
「アバウトだな……さすがスー」
適当な浮島まで飛び、私は座りアイテムを取り出した。
「ちゃんちゃかちゃーん!」
「恥ずかしくないのか、それ」
「いやいや、頑張って作ったんだから、これぐらいの効果音が欲しいよほんと」
「作った?! スー、お前料理スキルなんてついこの間まで取ってもいなかったじゃないか?! この豪華な料理、相当レベル上げなきゃ作れないんじゃないか?」
「私にかかれば、こんなもんよ。皆より費やせる時間が違うからね~。そんなことより、食べてみてよ!」
パクっと食べたキリトは、「うっめー!」と嬉しそうに料理を頬張る。
「ちょっと待って、キリトパン頬っぺたについてるんだけど」
小さく笑い、彼の鏡になるように右頬の下の方を差しながら「左側」と言えば、彼はむしゃむしゃとビーフシチューに浸したパンを咀嚼し続ける。
もぐもぐ、もぐもぐもぐもぐ
右頬を差した私の指の行き場がない、と思っていると彼は真っ直ぐに私を見たままようやく空いた口でニヤリと嫌味な笑みを浮かべて言った。
「スー、取って」
「なんで私が」
間髪入れずに返答しても、彼の笑みは崩れない。
「俺、今食事で忙しいから」
「嘘ばっか。てか私の分も置いておいてよ」
「じゃあつけたまま食事する。俺は別に気にならない」
「いやいや、常識的に気になる。なんで人に取らせたがるんだか……」
仕方がなしに、彼の左頬についたパンくずを取る。
取った小さなくずを捨てようと動かした瞬間、ガシッと彼の手に掴まれた。
「っ!? なに? ビビったんだけど」
私の声を無視して、彼は私が持った小さなパンくずを私の指ごと口に入れた。
「ちょっ!?」
そして、口に含まれた親指と人差し指の間にあるパンくずを、彼は舐めとるようにねっとりと、私の指の間に舌を這わせた。
ぞぞぞっ、と何かが背中を駆け抜ける。
「っ……キリト!!」
動かしてもビクともしない手に、彼の名を叫べば少ししてようやく手が解放される。
思わずその場から数歩立ち上がり後退るが、彼は何も気にした様子がない。
かぁっと顔に血の気が上り、舐められた指先がねっとりとしていて吹く風にひんやりと冷えていくことに、更に暑くなる。
「なんで、今!!」
こんなことしやがった馬鹿! そう叫びたいはずなのに、頭に血が上ったままでは上手く言葉にできない。
そう、私は怒ってるんだ。
だからこんなに血の気がある。
暑い。暑すぎるぐらい、私は頭に血が上っているんだ。
「綺麗にしただろ」
彼の言葉に、風が吹くたびに冷える指先がビクリと反応した。
汚いから、服で拭き取ることも出来ないというのに。
「…………冗談?」
私の口から出た言葉は、たったの一言。
もっと他に言いたい文句は幾らでもあるはずなのに、出た言葉は思ったより低い声になった。
(落ち着け、私。冗談如きに、こんな狼狽えたり熱くなる必要なんてない)
話を変えてしまおう。
今のは、さらっと流して忘れてしまうのが良い。
こんなことに、私が熱くなる必要もない。そうだとも。
「そういえば、私当分クエスト付き合えないから」
「は? なんで?」
キリトはもぐもぐと未だに料理を食べ続けている中、ぐりっと顔をこちらへ向けた。
「……ステータス弄ったから」
そう答えると、暫く彼は沈黙した後に叫んだ。
「はぁぁぁ!? お前、スー! まさかこの料理スキル上げるためにステータス弄ったのか!? 馬鹿なのかお前!?」
折角綺麗に整えられてたスキルだったのに、なんてもったいない。
そう言って、彼は項垂れた。
「いーじゃん、別に。私がキリトに料理振舞いたいって思ってしたんだから、放っておいてよ」
「…………いや、放っておかない」
「は? でもどっちにしろ、防御力はほぼないに等しいし」
「関係ない。俺がいるし、狩場やクエストを考えれば戦える」
すくっと彼が立ち上がり、目線が同じになる。
「しょうがないからな、スーは。俺が一緒にいて見張るしかないな」
「何それ」
そう答えながらも、私を見て笑うキリトに、私もつられて笑った。
「だから、今日もクエスト行こうぜ」
伸ばされた手は、掴まないわけがなかった。
だって、お互いにもう分かりきっているのだ。
戦闘スタイルや敵との距離の取り方、タイミングも分かる私達は目配せも必要なく呼吸が合う程に一緒に戦ってきた。
そんな戦友の、一緒に戦おうという言葉に反論なんてする理由がなかった。
後日、同じ家に住む茅場に料理スキルを上げた為、料理を振舞った。
経緯を聞かれ、今までの流れを説明すると彼は、きょとんと珍しく首を傾げながら私に問うた。
「君らは結婚するのか」
爆弾発言に、私が顔を真っ赤にするまであと0秒。
もちろん、その後直ぐにスキル修正し直したので、まだまだ最前線で戦える戦力に戻りました。
「はいはい」
SAO、アインクラッドの世界からは抜けられたものの、未だ私はこのゲームの世界に囚われていた。
ALOと呼ばれるこの世界に、私のデータが取り込まれてしまっていたことが原因だったのだが。
スー、という本名でない名前もすっかり定着してしまった今日この頃。
「キリト! そっちは任せた!」
「任せろ!」
シルフ領付近の湖に出たと言われる新種モンスターの討伐。
これが、今回キリトが受けたクエストだった訳だけど、意外にもモンスターのレベルが低かった為、想定していた時間より早く討伐が終了した。
目の前に現れるクエストクリアの文字を退けて、キリトを見る。
ALOで再会した当時、彼はツンツン頭になっており笑えた。
しかし、アスナの救出劇も終わり、ひと段落ついた頃には以前のような普通のショートヘアに戻ってしまっていた。
「今回のは楽勝だったね~。キリト一人でも十分だったんじゃない? あ、そういえば、髪なんで戻しちゃったの? ツンツンしてて面白かったのに」
素直にそう言うと、彼はじとっとした目でメニューを操作する手を止めて私を見た。
「お前なぁ……」
彼は暫く私を見ていたが、何か諦めたように歩き始める。
そのまま別れても良かったが、少し離れて彼の後ろを歩いた。
すると、すぐに彼は振り返り私を呼んだ。
「隣歩いてろよな」
ぶっきらぼうで、優しい。
こんな感じで、このゲームを生きてる私は長時間プレイしているキリトと行動する事が多かった。
(いつか帰るその日まで……期限付きだけど)
私のデータは、茅場が確保してくれている。
後は帰るだけなのだが、帰ってしまうと私のいた世界にこんなゲームは存在していなかったのだ。
当然、それは世界が違うことを意味し、私は戻ったが最後二度とこちらに来ることは出来なくなるだろう。
茅場は、私が決意を決めるまで待ってくれている。
そして、キリトもまた私がここに残りたい思いと、帰りたい思いを抱えていることを知り、心配してくれていた。
「しっかし、こうも新クエストが増え続けると、消化するのも面倒くさくなってくるな」
「確かに。今回のとか、別にやらなくても良かったんじゃない?」
「……これは、お前とやらなきゃ意味がないんだよなぁ」
「なにそれ?」
彼の言葉に首をかしげると、彼は辺りにモンスターがいないことを確認して、地べたに座り込む。
ちょいちょいと手招きされ、隣に腰を下ろすと、彼はアイテム欄から食パンを取り出した。
「なーんだ、空腹? それなら街に行った方が美味しいの食べれるのに」
「いいから、ほら」
彼に手渡されたパンを受け取ると、彼は小さな小瓶を取り出した。
「これ、さっきのクエストの報酬。ジャムなんだよ」
彼の言葉に、小瓶を受け取りパンに塗り、一口食べる。
「…………これ、ママレード?!」
「そ、懐かしいだろ。俺らが初めてSAOで会った時にも、食っただろ?」
「食った食った!あれホント美味しかったんだよねー! ていうか懐かしい! そっか、それで誘ってくれたってことか」
「お前、絶対美味いって言うと思ったからな」
「美味いもんは美味いよー! うっまーい!」
「ただのジャムパンだろ。ほんと、食い意地張ってるよなぁ、スーは」
「何処の世界にいても、美味しい物が食べたいでしょ、やっぱ」
「ま、否定はしないけどな」
その後ジャムパンを平らげて、パーティーを一旦解散し、キリトはログアウトした。
私はというと、茅場と共に購入したマイホームで一人、自身のスキルを見直していた。
「これを下げて、その分をこっちに……いや、でも攻撃力は譲れないしなぁ。その分、魔防(魔法防御力)下げよう」
チマチマとメニュー画面をあれこれ弄り、数日後に私はキリトを呼び出した。
「この前のジャムパンのお礼! ピクニックに行くよ!」
「あ、あぁ、うん。てか、俺とお前だけで?」
「うん、そうだけど…あ、皆も呼ぶ? キリト分しかないから、他のは商店で料理買わなきゃいけないけど」
「いやいい! 俺らで行こうぜ。で、何処行くんだ?」
「すぐ外出た所の、あの浮いてる適当な島で!」
「アバウトだな……さすがスー」
適当な浮島まで飛び、私は座りアイテムを取り出した。
「ちゃんちゃかちゃーん!」
「恥ずかしくないのか、それ」
「いやいや、頑張って作ったんだから、これぐらいの効果音が欲しいよほんと」
「作った?! スー、お前料理スキルなんてついこの間まで取ってもいなかったじゃないか?! この豪華な料理、相当レベル上げなきゃ作れないんじゃないか?」
「私にかかれば、こんなもんよ。皆より費やせる時間が違うからね~。そんなことより、食べてみてよ!」
パクっと食べたキリトは、「うっめー!」と嬉しそうに料理を頬張る。
「ちょっと待って、キリトパン頬っぺたについてるんだけど」
小さく笑い、彼の鏡になるように右頬の下の方を差しながら「左側」と言えば、彼はむしゃむしゃとビーフシチューに浸したパンを咀嚼し続ける。
もぐもぐ、もぐもぐもぐもぐ
右頬を差した私の指の行き場がない、と思っていると彼は真っ直ぐに私を見たままようやく空いた口でニヤリと嫌味な笑みを浮かべて言った。
「スー、取って」
「なんで私が」
間髪入れずに返答しても、彼の笑みは崩れない。
「俺、今食事で忙しいから」
「嘘ばっか。てか私の分も置いておいてよ」
「じゃあつけたまま食事する。俺は別に気にならない」
「いやいや、常識的に気になる。なんで人に取らせたがるんだか……」
仕方がなしに、彼の左頬についたパンくずを取る。
取った小さなくずを捨てようと動かした瞬間、ガシッと彼の手に掴まれた。
「っ!? なに? ビビったんだけど」
私の声を無視して、彼は私が持った小さなパンくずを私の指ごと口に入れた。
「ちょっ!?」
そして、口に含まれた親指と人差し指の間にあるパンくずを、彼は舐めとるようにねっとりと、私の指の間に舌を這わせた。
ぞぞぞっ、と何かが背中を駆け抜ける。
「っ……キリト!!」
動かしてもビクともしない手に、彼の名を叫べば少ししてようやく手が解放される。
思わずその場から数歩立ち上がり後退るが、彼は何も気にした様子がない。
かぁっと顔に血の気が上り、舐められた指先がねっとりとしていて吹く風にひんやりと冷えていくことに、更に暑くなる。
「なんで、今!!」
こんなことしやがった馬鹿! そう叫びたいはずなのに、頭に血が上ったままでは上手く言葉にできない。
そう、私は怒ってるんだ。
だからこんなに血の気がある。
暑い。暑すぎるぐらい、私は頭に血が上っているんだ。
「綺麗にしただろ」
彼の言葉に、風が吹くたびに冷える指先がビクリと反応した。
汚いから、服で拭き取ることも出来ないというのに。
「…………冗談?」
私の口から出た言葉は、たったの一言。
もっと他に言いたい文句は幾らでもあるはずなのに、出た言葉は思ったより低い声になった。
(落ち着け、私。冗談如きに、こんな狼狽えたり熱くなる必要なんてない)
話を変えてしまおう。
今のは、さらっと流して忘れてしまうのが良い。
こんなことに、私が熱くなる必要もない。そうだとも。
「そういえば、私当分クエスト付き合えないから」
「は? なんで?」
キリトはもぐもぐと未だに料理を食べ続けている中、ぐりっと顔をこちらへ向けた。
「……ステータス弄ったから」
そう答えると、暫く彼は沈黙した後に叫んだ。
「はぁぁぁ!? お前、スー! まさかこの料理スキル上げるためにステータス弄ったのか!? 馬鹿なのかお前!?」
折角綺麗に整えられてたスキルだったのに、なんてもったいない。
そう言って、彼は項垂れた。
「いーじゃん、別に。私がキリトに料理振舞いたいって思ってしたんだから、放っておいてよ」
「…………いや、放っておかない」
「は? でもどっちにしろ、防御力はほぼないに等しいし」
「関係ない。俺がいるし、狩場やクエストを考えれば戦える」
すくっと彼が立ち上がり、目線が同じになる。
「しょうがないからな、スーは。俺が一緒にいて見張るしかないな」
「何それ」
そう答えながらも、私を見て笑うキリトに、私もつられて笑った。
「だから、今日もクエスト行こうぜ」
伸ばされた手は、掴まないわけがなかった。
だって、お互いにもう分かりきっているのだ。
戦闘スタイルや敵との距離の取り方、タイミングも分かる私達は目配せも必要なく呼吸が合う程に一緒に戦ってきた。
そんな戦友の、一緒に戦おうという言葉に反論なんてする理由がなかった。
後日、同じ家に住む茅場に料理スキルを上げた為、料理を振舞った。
経緯を聞かれ、今までの流れを説明すると彼は、きょとんと珍しく首を傾げながら私に問うた。
「君らは結婚するのか」
爆弾発言に、私が顔を真っ赤にするまであと0秒。
もちろん、その後直ぐにスキル修正し直したので、まだまだ最前線で戦える戦力に戻りました。
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