アインクラッド編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「――――スイッチ!」
ヒースクリフが叫ぶ前に、私は既に前に出ていた。
「うらあああ!」
大剣を振り回し、敵を吹き飛ばす。
それに合わせて、次の攻撃が行われていく。
「すげー……あれで女とか、まじかよ」
「しかも、ヒースクリフの女なんだろ?」
そんな声がちらほら聞こえてきたが、聞こえないフリをした。
だが、現実でもこの世界でも、噂っていうのは本当にめんどくさいものなのだと改めて思い知らされた。
敵にどんどん攻撃を加えていくが、上層ともなれば敵の攻撃力もかなり高い。
一撃を喰らった仲間が、いなくなっていくこともあった。
主に攻撃を行っているのは、私とヒースクリフ、アスナとキリトだ。
だが、そのキリトが敵の攻撃を受けて、吹き飛ばされた。
敵は、弱っている人間を狙う。
つまり、私たちを無視して倒れているキリトの方へと直進して行ったのだ。
「待てっ!!」
「全員で止めろ!」
慌てて走り出す私と、指示を出すヒースクリフ。
彼の力は、攻略組の中でも相当なものだ。
失うわけにはいかない。
「キリト君っ!」
叫びながら走るアスナを追い越して、敵がキリトの目の前に来るまでに先回りをした。
やっぱり変身マントを被っていると、女でいるときよりも足が速くなるような気がした。
キリトの目の前に立ち、スキルを構える。
「……っ………スー、だめだ……逃げろ」
「黙って寝転んでて。吹き飛ばすよ?」
振り返り、彼に笑いかける。
苦しそうに顔を上げた彼は、私を見て目を見開いた。
それが、何を言いたかったのかはわからない。
だが、それを考えている暇はない。
敵が攻撃を仕掛けてくる前に、スキルを発動させて大剣を振り回した。
敵にかなりのダメージを与え、吹き飛ばすことに成功した。
すかさず、他のメンバーが敵に攻撃を与え続ける。
その間に、私はアスナが来る前に彼に回復薬を食べさせた。
「お前、これっ……」
瞬時にHPが全快し、彼は食べたものに気付き私を見た。
「私は、まだあと一回分持ってる」
「キリト君っ!」
私を押しのけて、キリトに駆け寄る彼女。
それを見て、私はすぐさま攻撃をしているヒースクリフの元へ向かった。
「キリト君大丈夫!?」
「あぁ、すまないアスナ」
「HP、回復してるみたいだけど……回復の結晶使ったの?」
「いや、スーが……」
キリトが食べたのは、レアアイテムの板チョコレートだった。
初めて二人が出会った時に取ったレアアイテム。
その時のことを思い出したのか、キリトは小さく笑った。
「キリト君……?」
「いや、なんでもない。行こう、アスナ!」
戸惑う様子のアスナと共に、キリトは再び敵に攻撃を仕掛けた。
長い死闘の末に、ボス攻略に成功した私たちは、まさに満身創痍の状態だった。
「シリカ……無事?」
「はい~、スーも大丈夫ですか?」
「うん、なんとかね」
座り込む人たちの中、私は見知った顔を見つけた。
「ベンヌ!」
彼の名前を呼んだ瞬間、私は悪寒が走ってその場に硬直した。
ニヤリと微笑んだ彼、いつもの彼とは違う表情。
そして、満身創痍とはいえ生きていたメンバー達が、ヒースクリフと私、そしてベンヌを除いて全員が倒れてしまった。
「な、なにこれ!?」
「僕の得意な、精神攻撃さ」
優しい声色だったベンヌは、そこには存在していない。
冷たく、機械のような声と表情で、ベンヌは淡々とそう言った。
「さて、第二ラウンドといこうか」
彼の放つ殺気のようなものを感じて、思わず剣を構えた。
すると、彼の頭上に出ているHPのゲージが、突如として増えていく。
バーがガンガンと増えていき、先ほどのボスより高いHPだとわかる。
そして、HPの上に名前が出た。
≪The phoenix≫
それは、私たちが所属するギルドの名前、フィーニクスの英語表記されたもの、フェニックス。
「フェニックス……ベンヌ、ボスだったの?」
「まぁね。良いこぶりっ子するの、結構大変だったんだよ。ヒースクリフの作戦でね、君を攻略組に入れるために作ったギルドだったんだけど、最終的に裏切って君を倒すっていうプログラムを施されていたんだ」
黙って立っているヒースクリフを見ると、彼は微動だにせず私を見た。
「じゃあ、私に冗談だと言って告白したのは?」
「あれは、それなりに本気だったんだけどねー。あまりにも悩んでいたみたいだし、僕的にはそのまま放置しても良かったんだけど、攻略を進めて行くうえで君の能力が半減するのは避けなきゃいけないって言われたからね。仕方なく、冗談だって言ったんだよ」
「それも、ヒースクリフの指示?」
「そうそう。僕は、彼の指示を直接聞かなくても脳から伝えてもらうことが出来る。僕との会話は全て彼に筒抜けさ」
それには驚いてもう一度彼を見るが、勿論彼は何の反応もしない。
いや、それどころか私がこれからどう行動するのかを、楽しもうとしているように見えた。
「で、本当はもっとあとに僕がある階層のボスってことで出現するはずだったんだけど、気分が変わってね」
「私を殺そうってわけ? それで、皆を眠らせた」
「そういうこと。一対一で対決したかったからね」
「好きな人に対する行動とは思えないけど?」
「信じてないくせに」
「ベンヌは、人じゃないんでしょ? 恋愛とかそういうの、わかるの?」
「人だよ。人になるようにプログラムされてたんだから。スーにだって、わからなかっただろ?」
「……まぁね。それにしてもアンタ、本当に猫被ってたのね。ベンヌの話し方と、全然違うんだけど」
「まぁね。さて、そろそろやろうか? 精神攻撃とは言っても、抜けてくる奴だっているだろうし」
ちらりとどこかを見たベンヌは、私に槍を向けた。
「言っておくけど、僕は結構強いよ」
「そうだろうね」
お互いに、武器を構える。
そして、同時に地面を蹴った。
「フェニックスってことはさ……もしかして、やっつけても死なないとか、そういうオプション付いてんじゃないの?」
激しい攻防の合間に私が問うと、彼は笑った。
「まさか! さすがに、そんなズルはできないよ。例え名前が不死鳥だったとしてもね」
「そう? それを聞いて安心したっ!」
ガンッと大ぶりの攻撃をして、彼の武器を弾き、距離を取った。
そして、すぐさまスキルを発動させる。
「それは……ちょっとマズイね」
私のスキルを知っているだけに、彼は私から大きく距離を開ける。
しかし、それを追いかけるようにして走りながら、スキルを発動させた。
それと同時に、腕が勝手に動き出す。
体が勝手に、ベンヌを目指して走って行く。
ベンヌも、走りながら上手くそれを避けていく。
スキルが終わると、彼のHPをそれなりに削れたようで、ようやく半分を切ったところだ。
「参ったなぁ。やっぱりユニークスキル持ってると、強いや」
「ていうか、ヒースクリフ見てるなら手伝ってよ!?」
「彼が言っていただろう? 一対一で、勝負したいのだと」
「ボス攻略の参加者でしょ?!」
「残念なことに、私はラスボスなのでな」
「そういう時だけ、その言葉使うとか反則じゃないの…?」
ぼそっと呟いていると、ベンヌが槍を突き出してきたため、間一髪でそれを避ける。
「あぁ、ちなみに。彼を倒せたら、報酬としてラスボスと戦う権利をあげよう。君も、早く元の世界に帰るチャンスが欲しいだろう?」
「なにその無理やりな急展開?!」
ベンヌの攻撃を受けながら、なんとかそうツッコミを入れると、ヒースクリフは遠くで笑っているようだった。
「なにあれ、まじむかつくんですけど」
「じゃあ、早く僕を倒さないとねっ」
そういいながらも、攻撃するスピードをガンガンあげてくるベンヌ。
私の攻撃は大ぶりなものが多く、彼のようにスピードで攻めて来られると防戦一方となってしまう。
(やばい、このままじゃ……こっちの武器の耐久度が先に削られて、武器破壊される)
彼の攻撃を弾き、距離を一旦置こうと後ろへ飛ぶと、ベンヌが瞬間的に距離を詰めてきた。
(まずい……!?)
「読めてるんだよね、その動き」
そういって、ベンヌはスキルを発動させ、直にその攻撃を受けた私は遠くにあった柱にぶつかった。
自分のHPを見ると、ゲージは赤くなってしまっている。
「やっばい……真剣に、これは危ない状況だわ」
「そうだろうね」
座り込んでしまっている私のすぐそばにやってきたベンヌは、にっこりといつものような優しい笑みを浮かべる。
「スー、君がもし僕の告白を受けてくれてたら、こんな風にはなってなかったかもね」
「なにそれ? まだ言うの? アンタは、所詮機械でしょ?」
「君こそ、いつまでそういうのさ? 僕は、本気だったのに」
槍が自分に向けられる。
先端恐怖症なんてものはないけれど、こればかりは怖い。
死んだら、この世界からだけじゃない。
現実からも、消えなければならないなんて……
(いやだっ! 死にたくない!)
目をぎゅっと閉じる。
槍が刺さる感覚も、ベンヌの敵になってしまった彼の顔も、ヒースクリフがどんな顔をしているかなんてことも、知りたくなんてない!
そう思っていた瞬間だった。
「スーっ!!」
誰かの叫ぶ声と共に、私の身体は多分その誰かによって抱きかかえられ、ぶわっと風が吹いた。
慌てて目を開けると、眼前にはキリトの顔があった。
「キリト!?」
「どうなってるんだ……?」
「説明は後! とにかく、ベンヌはプレイヤーじゃなくて、ボスだったの! 今、キリトも含めて皆精神攻撃にあって、眠らされているらしくって、とりあえずアイツ倒せば全部終わり!」
「説明が雑だな」
「文句あるの?!」
「助けたのに、礼の一つもないし」
「後で言うって、後で」
「はいはい、了解」
地面に降り立ち、彼は両手に剣を持つ。
「それにしても、物凄いHP削ったな、スー」
「私の攻撃力は凄いからね」
「自画自賛するか? 普通」
「うるさい、とにかく私はHP回復するから、後よろしく」
そういって、キリトとベンヌから距離を置こうとすると彼が私の手を握ってきた。
「これ、やるよ」
そういって渡されたものを見て、私は思わず笑ってしまった。
「そうはさせないよ、スー」
キリトにもらったものを食べようとすると、一瞬でベンヌが距離を詰めてきた。
「げっ!?」
しかし、彼の攻撃はキリトによって受け止められた。
「早く食べろ!」
キリトの言葉を聞く前に、既にもらったレアアイテムの板チョコレートを食べた。
現実で食べていた味と変わらないチョコの味に、少し感動しつつ再び私は剣を取る。
自分のHPが緑のゲージになったのを確認して、キリトと並ぶ。
そして、二人同時に攻撃を畳み掛けて、一気にベンヌのHPを削った。
ベンヌがようやく倒れ、キリトが倒れこむ。
「………つらいな…………」
「そうだね……」
何がとも、何でとも言わなかった彼の言葉に同意しながら、私はベンヌの傍に近寄った。
キラキラと、段々と散っていくベンヌの姿を目に焼き付ける。
「スー……ひどいな…一対、一の戦いも、してくれないなんて」
「ベンヌは、強すぎたからだよ」
「ははっ、フェニックスだよ……」
「ベンヌ、あんた死んでどうするの……ギルドとか、皆のことどうすんの…………ロコが、怒るよ」
「大丈夫だよ。僕が死んだら、今寝てる人には僕のこと、全て忘れてもらえるようになってるから」
「なに、それ……?」
「ギルドマスターは……元々ロコだった、ってことにしておくから」
「なんで?」
「そういう、約束だから」
「また、ヒースクリフ?」
「…………ねぇ、スー」
優しい、小さな声に、やっぱりフェニックスなんて名前じゃなくて、彼はベンヌだと思った。
「僕は、所詮人間に作られた機械だ。君のことを好きだと言っていたって、本気だと思っていたって、実はそうじゃないのかもしれない」
「……ベンヌ」
「でも……ギルドで、みんなで過ごした時間は…………」
楽しかったんだ。
そういって、ベンヌは消えてしまった。
だから、ベンヌがいたということを覚えている人は、もう私とキリトと、ヒースクリフの三人しかいないことになってしまった。
本当は、ベンヌが私のことを好きだと言ってくれたことは嬉しかったし、嘘だと思ったことなんてない。
それでも、私は誰かとこの世界で付き合ったりそういったことをすることが、何故か怖かった。
だから、答えられなかった。
だから、彼の気持ちも信じたくなかったし、嘘にしてほしかった。
自分のワガママを、無理やりベンヌに押し付けた。
それを、謝ることもできなかった。
もう、彼はいない。
そんな酷いことはない。
「こんな世界なら、現実の方がまだマシだよ……」
この世界に慣れてしまっていた私は、初めて思った。
もう、こんな世界にいたくないと――――
ヒースクリフが叫ぶ前に、私は既に前に出ていた。
「うらあああ!」
大剣を振り回し、敵を吹き飛ばす。
それに合わせて、次の攻撃が行われていく。
「すげー……あれで女とか、まじかよ」
「しかも、ヒースクリフの女なんだろ?」
そんな声がちらほら聞こえてきたが、聞こえないフリをした。
だが、現実でもこの世界でも、噂っていうのは本当にめんどくさいものなのだと改めて思い知らされた。
敵にどんどん攻撃を加えていくが、上層ともなれば敵の攻撃力もかなり高い。
一撃を喰らった仲間が、いなくなっていくこともあった。
主に攻撃を行っているのは、私とヒースクリフ、アスナとキリトだ。
だが、そのキリトが敵の攻撃を受けて、吹き飛ばされた。
敵は、弱っている人間を狙う。
つまり、私たちを無視して倒れているキリトの方へと直進して行ったのだ。
「待てっ!!」
「全員で止めろ!」
慌てて走り出す私と、指示を出すヒースクリフ。
彼の力は、攻略組の中でも相当なものだ。
失うわけにはいかない。
「キリト君っ!」
叫びながら走るアスナを追い越して、敵がキリトの目の前に来るまでに先回りをした。
やっぱり変身マントを被っていると、女でいるときよりも足が速くなるような気がした。
キリトの目の前に立ち、スキルを構える。
「……っ………スー、だめだ……逃げろ」
「黙って寝転んでて。吹き飛ばすよ?」
振り返り、彼に笑いかける。
苦しそうに顔を上げた彼は、私を見て目を見開いた。
それが、何を言いたかったのかはわからない。
だが、それを考えている暇はない。
敵が攻撃を仕掛けてくる前に、スキルを発動させて大剣を振り回した。
敵にかなりのダメージを与え、吹き飛ばすことに成功した。
すかさず、他のメンバーが敵に攻撃を与え続ける。
その間に、私はアスナが来る前に彼に回復薬を食べさせた。
「お前、これっ……」
瞬時にHPが全快し、彼は食べたものに気付き私を見た。
「私は、まだあと一回分持ってる」
「キリト君っ!」
私を押しのけて、キリトに駆け寄る彼女。
それを見て、私はすぐさま攻撃をしているヒースクリフの元へ向かった。
「キリト君大丈夫!?」
「あぁ、すまないアスナ」
「HP、回復してるみたいだけど……回復の結晶使ったの?」
「いや、スーが……」
キリトが食べたのは、レアアイテムの板チョコレートだった。
初めて二人が出会った時に取ったレアアイテム。
その時のことを思い出したのか、キリトは小さく笑った。
「キリト君……?」
「いや、なんでもない。行こう、アスナ!」
戸惑う様子のアスナと共に、キリトは再び敵に攻撃を仕掛けた。
長い死闘の末に、ボス攻略に成功した私たちは、まさに満身創痍の状態だった。
「シリカ……無事?」
「はい~、スーも大丈夫ですか?」
「うん、なんとかね」
座り込む人たちの中、私は見知った顔を見つけた。
「ベンヌ!」
彼の名前を呼んだ瞬間、私は悪寒が走ってその場に硬直した。
ニヤリと微笑んだ彼、いつもの彼とは違う表情。
そして、満身創痍とはいえ生きていたメンバー達が、ヒースクリフと私、そしてベンヌを除いて全員が倒れてしまった。
「な、なにこれ!?」
「僕の得意な、精神攻撃さ」
優しい声色だったベンヌは、そこには存在していない。
冷たく、機械のような声と表情で、ベンヌは淡々とそう言った。
「さて、第二ラウンドといこうか」
彼の放つ殺気のようなものを感じて、思わず剣を構えた。
すると、彼の頭上に出ているHPのゲージが、突如として増えていく。
バーがガンガンと増えていき、先ほどのボスより高いHPだとわかる。
そして、HPの上に名前が出た。
≪The phoenix≫
それは、私たちが所属するギルドの名前、フィーニクスの英語表記されたもの、フェニックス。
「フェニックス……ベンヌ、ボスだったの?」
「まぁね。良いこぶりっ子するの、結構大変だったんだよ。ヒースクリフの作戦でね、君を攻略組に入れるために作ったギルドだったんだけど、最終的に裏切って君を倒すっていうプログラムを施されていたんだ」
黙って立っているヒースクリフを見ると、彼は微動だにせず私を見た。
「じゃあ、私に冗談だと言って告白したのは?」
「あれは、それなりに本気だったんだけどねー。あまりにも悩んでいたみたいだし、僕的にはそのまま放置しても良かったんだけど、攻略を進めて行くうえで君の能力が半減するのは避けなきゃいけないって言われたからね。仕方なく、冗談だって言ったんだよ」
「それも、ヒースクリフの指示?」
「そうそう。僕は、彼の指示を直接聞かなくても脳から伝えてもらうことが出来る。僕との会話は全て彼に筒抜けさ」
それには驚いてもう一度彼を見るが、勿論彼は何の反応もしない。
いや、それどころか私がこれからどう行動するのかを、楽しもうとしているように見えた。
「で、本当はもっとあとに僕がある階層のボスってことで出現するはずだったんだけど、気分が変わってね」
「私を殺そうってわけ? それで、皆を眠らせた」
「そういうこと。一対一で対決したかったからね」
「好きな人に対する行動とは思えないけど?」
「信じてないくせに」
「ベンヌは、人じゃないんでしょ? 恋愛とかそういうの、わかるの?」
「人だよ。人になるようにプログラムされてたんだから。スーにだって、わからなかっただろ?」
「……まぁね。それにしてもアンタ、本当に猫被ってたのね。ベンヌの話し方と、全然違うんだけど」
「まぁね。さて、そろそろやろうか? 精神攻撃とは言っても、抜けてくる奴だっているだろうし」
ちらりとどこかを見たベンヌは、私に槍を向けた。
「言っておくけど、僕は結構強いよ」
「そうだろうね」
お互いに、武器を構える。
そして、同時に地面を蹴った。
「フェニックスってことはさ……もしかして、やっつけても死なないとか、そういうオプション付いてんじゃないの?」
激しい攻防の合間に私が問うと、彼は笑った。
「まさか! さすがに、そんなズルはできないよ。例え名前が不死鳥だったとしてもね」
「そう? それを聞いて安心したっ!」
ガンッと大ぶりの攻撃をして、彼の武器を弾き、距離を取った。
そして、すぐさまスキルを発動させる。
「それは……ちょっとマズイね」
私のスキルを知っているだけに、彼は私から大きく距離を開ける。
しかし、それを追いかけるようにして走りながら、スキルを発動させた。
それと同時に、腕が勝手に動き出す。
体が勝手に、ベンヌを目指して走って行く。
ベンヌも、走りながら上手くそれを避けていく。
スキルが終わると、彼のHPをそれなりに削れたようで、ようやく半分を切ったところだ。
「参ったなぁ。やっぱりユニークスキル持ってると、強いや」
「ていうか、ヒースクリフ見てるなら手伝ってよ!?」
「彼が言っていただろう? 一対一で、勝負したいのだと」
「ボス攻略の参加者でしょ?!」
「残念なことに、私はラスボスなのでな」
「そういう時だけ、その言葉使うとか反則じゃないの…?」
ぼそっと呟いていると、ベンヌが槍を突き出してきたため、間一髪でそれを避ける。
「あぁ、ちなみに。彼を倒せたら、報酬としてラスボスと戦う権利をあげよう。君も、早く元の世界に帰るチャンスが欲しいだろう?」
「なにその無理やりな急展開?!」
ベンヌの攻撃を受けながら、なんとかそうツッコミを入れると、ヒースクリフは遠くで笑っているようだった。
「なにあれ、まじむかつくんですけど」
「じゃあ、早く僕を倒さないとねっ」
そういいながらも、攻撃するスピードをガンガンあげてくるベンヌ。
私の攻撃は大ぶりなものが多く、彼のようにスピードで攻めて来られると防戦一方となってしまう。
(やばい、このままじゃ……こっちの武器の耐久度が先に削られて、武器破壊される)
彼の攻撃を弾き、距離を一旦置こうと後ろへ飛ぶと、ベンヌが瞬間的に距離を詰めてきた。
(まずい……!?)
「読めてるんだよね、その動き」
そういって、ベンヌはスキルを発動させ、直にその攻撃を受けた私は遠くにあった柱にぶつかった。
自分のHPを見ると、ゲージは赤くなってしまっている。
「やっばい……真剣に、これは危ない状況だわ」
「そうだろうね」
座り込んでしまっている私のすぐそばにやってきたベンヌは、にっこりといつものような優しい笑みを浮かべる。
「スー、君がもし僕の告白を受けてくれてたら、こんな風にはなってなかったかもね」
「なにそれ? まだ言うの? アンタは、所詮機械でしょ?」
「君こそ、いつまでそういうのさ? 僕は、本気だったのに」
槍が自分に向けられる。
先端恐怖症なんてものはないけれど、こればかりは怖い。
死んだら、この世界からだけじゃない。
現実からも、消えなければならないなんて……
(いやだっ! 死にたくない!)
目をぎゅっと閉じる。
槍が刺さる感覚も、ベンヌの敵になってしまった彼の顔も、ヒースクリフがどんな顔をしているかなんてことも、知りたくなんてない!
そう思っていた瞬間だった。
「スーっ!!」
誰かの叫ぶ声と共に、私の身体は多分その誰かによって抱きかかえられ、ぶわっと風が吹いた。
慌てて目を開けると、眼前にはキリトの顔があった。
「キリト!?」
「どうなってるんだ……?」
「説明は後! とにかく、ベンヌはプレイヤーじゃなくて、ボスだったの! 今、キリトも含めて皆精神攻撃にあって、眠らされているらしくって、とりあえずアイツ倒せば全部終わり!」
「説明が雑だな」
「文句あるの?!」
「助けたのに、礼の一つもないし」
「後で言うって、後で」
「はいはい、了解」
地面に降り立ち、彼は両手に剣を持つ。
「それにしても、物凄いHP削ったな、スー」
「私の攻撃力は凄いからね」
「自画自賛するか? 普通」
「うるさい、とにかく私はHP回復するから、後よろしく」
そういって、キリトとベンヌから距離を置こうとすると彼が私の手を握ってきた。
「これ、やるよ」
そういって渡されたものを見て、私は思わず笑ってしまった。
「そうはさせないよ、スー」
キリトにもらったものを食べようとすると、一瞬でベンヌが距離を詰めてきた。
「げっ!?」
しかし、彼の攻撃はキリトによって受け止められた。
「早く食べろ!」
キリトの言葉を聞く前に、既にもらったレアアイテムの板チョコレートを食べた。
現実で食べていた味と変わらないチョコの味に、少し感動しつつ再び私は剣を取る。
自分のHPが緑のゲージになったのを確認して、キリトと並ぶ。
そして、二人同時に攻撃を畳み掛けて、一気にベンヌのHPを削った。
ベンヌがようやく倒れ、キリトが倒れこむ。
「………つらいな…………」
「そうだね……」
何がとも、何でとも言わなかった彼の言葉に同意しながら、私はベンヌの傍に近寄った。
キラキラと、段々と散っていくベンヌの姿を目に焼き付ける。
「スー……ひどいな…一対、一の戦いも、してくれないなんて」
「ベンヌは、強すぎたからだよ」
「ははっ、フェニックスだよ……」
「ベンヌ、あんた死んでどうするの……ギルドとか、皆のことどうすんの…………ロコが、怒るよ」
「大丈夫だよ。僕が死んだら、今寝てる人には僕のこと、全て忘れてもらえるようになってるから」
「なに、それ……?」
「ギルドマスターは……元々ロコだった、ってことにしておくから」
「なんで?」
「そういう、約束だから」
「また、ヒースクリフ?」
「…………ねぇ、スー」
優しい、小さな声に、やっぱりフェニックスなんて名前じゃなくて、彼はベンヌだと思った。
「僕は、所詮人間に作られた機械だ。君のことを好きだと言っていたって、本気だと思っていたって、実はそうじゃないのかもしれない」
「……ベンヌ」
「でも……ギルドで、みんなで過ごした時間は…………」
楽しかったんだ。
そういって、ベンヌは消えてしまった。
だから、ベンヌがいたということを覚えている人は、もう私とキリトと、ヒースクリフの三人しかいないことになってしまった。
本当は、ベンヌが私のことを好きだと言ってくれたことは嬉しかったし、嘘だと思ったことなんてない。
それでも、私は誰かとこの世界で付き合ったりそういったことをすることが、何故か怖かった。
だから、答えられなかった。
だから、彼の気持ちも信じたくなかったし、嘘にしてほしかった。
自分のワガママを、無理やりベンヌに押し付けた。
それを、謝ることもできなかった。
もう、彼はいない。
そんな酷いことはない。
「こんな世界なら、現実の方がまだマシだよ……」
この世界に慣れてしまっていた私は、初めて思った。
もう、こんな世界にいたくないと――――