アインクラッド編
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ギルドに帰ると、庭にベンヌがいた。
私は、気持ちを切り替えてベンヌの隣にしゃがみこんだ。
「ただいま」
「おかえり、スー」
相も変わらなず、優しい笑顔を向けてくれるベンヌ。
好きと思っているから、こんな表情をしているのか。
でも、いつも誰にでも優しい彼は、自分だけを特別扱いすることなどしないのではないだろうかとも思った。
「もしかして、昨日ダンジョンで夜を明かしたのは、僕が告白したせい?」
さらりと、庭を眺めながらベンヌがそう言った。
それに、私も庭を眺めたままで答える。
「そりゃ、そこまで図太い神経してないからね。色々考えたよ」
「そっか……ごめんね」
「うん、ほんとビックリした」
「冗談だから」
「そうだよね。冗談じゃなきゃ、ほんと色々考えさせられて………………」
「うん」
「え?」
「え?」
「ちょっと待って、今何て言った?」
「え?」
「それじゃない! 冗談!? ほんとに!?」
「うん。冗談だよって、一旦スーから離れた後に言いに戻ろうとしたら、スーはもういなくて……いやー、ほんとビックリしたよ」
「ちょ、ちょちょちょ!? ちょっと待て。何それ」
「冗談。そこまで本気にしてくれるとは思わなくて。ごめんね、なんか無駄なことで悩ませちゃったみたいで」
「え!? 私、物凄く悩んでたんですけど!? どういうこと!?」
「うん、だからごめんね」
ごめんね、って……私の悩んだ時間返せ。
心底そう思ったが、それよりなによりも、告白が嘘だったことに酷く安心してしまい、地面に腰を下ろして仰向けに寝そべった。
「そっかー、よかったー」
彼の謝罪の言葉から暫く経ってからそう言うと、彼はクスクスと笑った。
「まさか、そこまで悩んでくれるなんて思わなかったよ」
「ほんと、時間返して欲しいよ。ボス攻略が間近だっていうのに、いらないストレスくれちゃって」
「そうだね、ごめんね」
「誠意がない」
ベンヌも、私と同じように仰向けに寝そべる。
「草の匂いと、空しか見えないね……これが、ほんとに実体のない世界だなんて、思えないぐらい」
小さく、寂しそうに呟いた彼の言葉に、私は返事をすることなく、互いに無言のまま暫く庭でただ寝そべって過ごした。
「――――というわけで、冗談だったんだって」
「良かったっじゃないか」
ボス攻略会議が終わってから、キリトを手頃な家の屋根へ呼び出して、屋根の上に座りながら事情を説明した。
「告白も冗談で、レベル上げもできて、いいことだらけだな」
キリトにそう言われ、「そうなんだよね~」と言い返そうとして、ふと思った。
「いや、これ結構トラブルだらけだったよ」
「それを言うなら、俺は巻き込まれただけだったよ」
「それは、ほら……あれだよ、友達じゃん?」
そういうと、キリトは目を丸くして暫く固まってしまった。
「え、なにその反応?」
「え、あ、いや……別に」
何を驚いていたのか、答えるまで厭味ったらしく聞くことも出来たが、下の方からアスナの声が聞こえたため、手早く変身マントを被りボーッとしているキリトを放置して、アスナの元へ降り立った。
「よっ、アスナ!」
「あ、スー。キリト君見なかった?」
「ううん、見てない。それより、これから二人でお茶でもしない? もちろん、奢るよ。最近、美味しい紅茶を飲める店を見つけたから、アスナに紹介したかったんだけど」
ニッコリと微笑みかけて言うが、アスナは一歩私から距離を置いた。
「い、言っておきますけど、私はキリト君と結婚してるので……」
「知ってるけど」
「それなのに、よく私のこと誘えますね」
アスナの言い方からして、私はピンと来たので笑顔で答えることにした。
「勘違いしてたら困るから言っておくけど、私はただアスナをお茶に誘いたかっただけで、デートのつもりなんてないよ」
「そ、そんなことわかってます!」
「そ? じゃあ、いいけど。今日は忙しいの?」
「そういうわけじゃないけど……今は、キリト君を」
探したい。
そう続けそうだった彼女の手をとり、考えていた喫茶店へ向かう。
「ちょ、ちょっと! 離して!」
アスナの言葉を無視して、ズンズンと突き進んでいると、俊足で目の前に一人の男が現れた。
「おい、スー」
キリトだった。
「なに。今からアスナとお茶したいんだけど」
「キ、キリト君!」
助けてと言わんばかりのアスナの声。
(参ったな、私ってば悪者?)
そう思っていると、キリトはポリポリと頭を掻いてから、一つ溜息をついた。
「スー、お前なぁ……」
私の性別をまだ男だと思っているアスナに対してと、まだ正体を晒そうとしない私の両方に対してキリトはため息をついたのだろう。
しかし、私はニッコリと笑った。
「良かったら、キリトもどう?」
私がそういうと、アスナは嬉しそうにそれなら行ってもいいと言ってくれたため、半ば強制的にキリトとアスナの三人で喫茶店へ行くこととなった。
しかし、行く途中で――――
「おぉ、キリトじゃねぇか! さっきの攻略会議ぶりだなぁ」
「よぉ、キリト。どこ行くんだ? ―――なるほどな、俺も丁度そっちの店に用があったんだ」
「スー! キリトさん! どこに行くんですか?」
「アスナ! スー! 丁度良かった。ちょっと見て欲しいものが……え? あぁ、喫茶店に行くのね。――――いっしょに行っていいの?」
様々な人と出会い、三人でいくはずが大所帯の団体となって、喫茶店に押し寄せることとなった。
「そういえば、アンタと面と向かって話すのは初めてだな」
そういって、横に座っていた男は言った。
「そうかも。お互いに、ボス攻略で一緒になってもギルド違うと、結構話さないことが多いし。でも、クラインって有名だから、知ってたよ」
「俺だってアンタのことは知ってたさ。≪女たらしの大剣使い≫ってな」
「そりゃどーも」
「でさ、アンタと話す機会があったら、絶対聞いてみたいことがあったんだが……」
突然声を小さくしたクラインに、耳を傾けると彼は小声でぼそぼそと話した。
「どうやったら、そんなにモテんの?」
モテたいんだけど。
正直にそういって、真っ直ぐに私を見つめるクライン。
だから、私は真面目に答えることにした。
「そりゃ、やっぱり…………」
「やっぱり?」
「顔でしょ」
「んだよそれええええええ!」
「おい、うるさいぞクライン」
円形のテーブルに座る私たち。
私の右隣にいるのがクラインだったが、彼が叫んだことにより、私の左隣に座るエギルがクラインを注意した。
「嘘だって。顔より、やっぱ女も男も惚れるのは一つだよ」
「なんだよ!? その惚れる部分って!」
「笑顔」
「笑顔ぉ? お前、それからかってんのか? また嘘か?」
「いや、ほんとだって。わざとらしいのじゃなくて、自然に出る笑顔な」
そういうと、エギルが私の頭に手を乗せる。
「俺も、そうだと思うぞ」
「お前もかよー」
でも、とクラインは言った。
「キリトの奴は、あんま笑わねぇじゃねぇか。あれはどう説明するんだよ? モテモテだぞ、あいつ」
羨ましいこと山の如しだ!
素直に感情を吐露するクラインに笑いながら、そういえばと思った。
彼は今、私たち男集団とは離れて、アスナとシリカの間に座っており、女子たちと楽しそうに話している。
「やっぱ顔かな」
「やっぱそれかよおおおお!!」
「おい、クライン!」
叫ぶクラインに、再びエギルが静かにするようにと注意する。
同じテーブルに座っているのに、クラインの叫びに見向きもしない女性陣に少し驚きつつも、私は運ばれてきた紅茶の香りに癒されていた。
ようやく全員に飲み物が行き渡り、話は次のボス攻略についての話になった。
「そういえば、次のボスってどんな奴なの?」
ボス攻略に参加していないリズベットがそう聞くと、アスナやキリト達が詳しく説明をする。
「骸骨っつってもなー、あんま怖そうな感じじゃなかったよな」
「怖くなかったとしても、骨に攻撃って結構厄介だよね」
「剣や斧装備の俺たちは大丈夫でも、槍やレイピアを使うやつらにとっては、あの骨にヒットさせていくのが辛いかもしれないな」
「まぁ、攻略組だし、その辺のことは大丈夫なんでしょアスナ」
アスナは問われたことに対して、もちろんと頷いた。
相変わらず、彼女は自分の強さを確信している。
強気発言が、ちゃんと行動に伴っているのがすごい。
さすが、ヒースクリフが副団長にしているだけのことはある。
こんなしっかりしてるのが下にいるから、きっと彼は自由に遊びまわったりしているんだろうと思った。
「次の攻略には、ヒースクリフも参加するんだろ。スイッチの方は相当上手く行くんじゃないか?」
「あ、そういえば!」
クラインの言葉を聞いて、突然思い出したようにアスナが私を指差した。
「次の攻略ではペアをそれぞれ組むじゃない? 団長が、そのペアの相手にスーを指名してたのよ」
「「まじでか!?」」
キリトとクラインがアスナに食らいつくように反応していた。
言われた当人の私は、「へー」と適当に返事をしただけで、紅茶のおかわりをポットから注いでいると、嫌な視線を感じた。
リズベットとシリカだ。
「アンタ、血盟騎士団とこの団長さんとデキてたのねー!」
リズベットが叫んだことにより、店内はざわついた。
当然だ。
現在攻略組トップと言われているギルドのギルドマスター、ヒースクリフに女がいるなど、今までそんな情報が上がってきたことはない。
店内だけでなく、このテーブル上からも視線が集まる。
「いや、あのね「しらばっくれようとしても無駄ですよ!」」
シリカが追い打ちをかけるように、さぁさぁ! 正直に答えてください! と急かしてくる始末。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
しかし、意気揚々とする二人とは違い、隣にいるクラインと正面に座るアスナは目を真ん丸にして私を見ていた。
「スー、お前男だよな?」
「今はね」
「今は? どういうことだよ」
そう言われ、私は変身マントを脱いだ。
一瞬で、姿は女子に戻る。
「それ! レアアイテムの!」
「そうそう、男になると強くなった気になれるよねー」
「そんな理由で男に変身してたのかよ……もったいねー」
項垂れるクライン、さらにざわつく店内。
(あぁ、これで今までお付き合いしてきた女子たちにも、私が男じゃないっていう真実が知られてしまう……)
ちょっと悲しい気もしたが、もう結構な上層まで来ている。
ヒースクリフがラスボスなんだ。
上まで来たら、遊んでいる暇などなくなってしまうだろう。
潮時だったのかもしれない。
「スー、あなた……女の子だったの…………?」
顔を真っ青にして聞いてくるアスナに、こくんと頷くと彼女はキリトを見た。
「ねぇ、キリト君……キリト君は知ってたの?」
「あぁ、ちょっと前にな」
「エギルも知ってたの?」
リズベットが聞くと、エギルは「初対面からこいつは女だった」と言い、リズベットはニヤニヤと私を見た。
しかし、アスナの方は何やら深刻そうだった。
「キリト君は知ってたのに、夜中に呼ばれてスーのところへ行ったの? 私がいるのに?」
涙目でそう問う彼女。
なるほど、ヤキモチかぁ、なんて思っているとキリトは焦り出す。
周りもなんとなく、「やばいんじゃね?」なんて雰囲気になってくる。
「いや、でもスーとは友達だし……」
「女の子でしょ!?」
はいっ!と姿勢を正し思わず返事をしているキリトを見て、アスナにバレないように笑いながら紅茶を飲んでいると、彼女は私を睨んできた。
「今まで、どうして私たちを騙してきたの。攻略組に知らない人はたくさんいるはずよ。貴方は、その人たちを裏切る行為をしたのよ」
「裏切る? 性別が違う位で、何が裏切り? それに、ヤキモチ焼きたくなる気持ちはわかるけど、私とキリトはただの友達だよ。変な勘違いしないでほしいな」
そういうと、アスナはまた涙目になる。
「でも、貴方が皆を騙してきたことに変わりはないわ!」
「皆じゃない。ヒースクリフは知ってるし、他にもここにいるメンツのほとんどが私のことを知っていた。男に変身してたのは、ただ単に強くなれる気がしたから。それを、わざわざ全員に報告しなきゃいけないの?」
「おい、スー。言い方がきつすぎるだろ?」
エギルに肩を掴まれて、話すのを止める。
なんでこう、私が悪者みたいになるんだろうか。
そう思っていると、タイミングが良いのか悪いのかメールが来た。
(ヒースクリフからだ)
皆の前で開くわけには行かない。
自分の分の紅茶の代金をテーブルに置いて、席を立つ。
「用が出来たから、先に帰る。アスナ、アンタが嫌なら私を攻略組から外してくれていいよ。もう目的は果たしたし」
まぁ、私を外すなんて、できるはずないだろうけど。
最後の言葉を呟かずに、私は店を出た。
すると、目の前にはヒースクリフが立っていた。
「あまり、副団長を苛めないでやってくれ」
「苛めてないんだけど……まるで、悪者みたいだったよね」
彼はフッと軽く笑うと、歩き出した。
私は、黙ってそれについて歩いた。
人通りのない公園に着き、二人でベンチに座る。
「スー、私がお前を攻略組からは外させないのは知っているだろう?」
「まーね」
「知ってて先ほどの台詞か……性格が悪いな」
「ラスボスに言われたくない」
そういうと、彼は声を出して笑った。
「ラスボスか! 悪くないな」
喜ぶんだ……やっぱり、変。
そう思いながら、背もたれに背中を預けて空を見る。
「そういえば、なんで私の居場所わかったの?」
「索敵スキルでな」
「なるほど……」
それで、とヒースクリフは話を続けた。
「さっき、お前の所のギルドマスターと話した」
「ベンヌと?」
「副団長から聞いただろう? 次の攻略で、私とペアを組むのはお前だ」
「了解。任しといてよ」
「期待してるよ、スー」
「……で、メールの内容が空メールなのはなんで?」
そう聞くと、彼は笑顔で答えた。
「あのまま話していたら、攻略組の主戦力が仲違いしそうだったからな」
「最初から聞いてたんだ……ていうか、もうしてたじゃん。性別誤魔化すのって、そんな重大なこと? アスナのは、ただの私情でしょ」
「まぁ、お前も今性別がバレたのは不本意だろうな」
「ヒースクリフとデキてるとか、そういう噂も明日には広まってると思うよ」
「あはははっ! それはまた面白そうだな」
「嬉しそうだね」
「面白いからな。お前は面白いとは思わないのか?」
「帰りたいよ。でも、慣れって怖いね。人間関係がもっと楽だったら、この世界を面白いと思ったよ」
「人間関係? 恋愛関係の間違いだろう?」
「それをいうなら、アスナとキリトだよ。関わらなきゃ良かったって、後悔してるとこ。めんどくさい」
そういうと、彼はますます笑った。
「それでは、オンラインゲームの意味がないだろう」
そういって、彼は「楽しみにしてるぞ」とだけ言って公園から去って行った。
そんな彼が見えなくなるまで見送り、私は深いため息をついた。
私は、気持ちを切り替えてベンヌの隣にしゃがみこんだ。
「ただいま」
「おかえり、スー」
相も変わらなず、優しい笑顔を向けてくれるベンヌ。
好きと思っているから、こんな表情をしているのか。
でも、いつも誰にでも優しい彼は、自分だけを特別扱いすることなどしないのではないだろうかとも思った。
「もしかして、昨日ダンジョンで夜を明かしたのは、僕が告白したせい?」
さらりと、庭を眺めながらベンヌがそう言った。
それに、私も庭を眺めたままで答える。
「そりゃ、そこまで図太い神経してないからね。色々考えたよ」
「そっか……ごめんね」
「うん、ほんとビックリした」
「冗談だから」
「そうだよね。冗談じゃなきゃ、ほんと色々考えさせられて………………」
「うん」
「え?」
「え?」
「ちょっと待って、今何て言った?」
「え?」
「それじゃない! 冗談!? ほんとに!?」
「うん。冗談だよって、一旦スーから離れた後に言いに戻ろうとしたら、スーはもういなくて……いやー、ほんとビックリしたよ」
「ちょ、ちょちょちょ!? ちょっと待て。何それ」
「冗談。そこまで本気にしてくれるとは思わなくて。ごめんね、なんか無駄なことで悩ませちゃったみたいで」
「え!? 私、物凄く悩んでたんですけど!? どういうこと!?」
「うん、だからごめんね」
ごめんね、って……私の悩んだ時間返せ。
心底そう思ったが、それよりなによりも、告白が嘘だったことに酷く安心してしまい、地面に腰を下ろして仰向けに寝そべった。
「そっかー、よかったー」
彼の謝罪の言葉から暫く経ってからそう言うと、彼はクスクスと笑った。
「まさか、そこまで悩んでくれるなんて思わなかったよ」
「ほんと、時間返して欲しいよ。ボス攻略が間近だっていうのに、いらないストレスくれちゃって」
「そうだね、ごめんね」
「誠意がない」
ベンヌも、私と同じように仰向けに寝そべる。
「草の匂いと、空しか見えないね……これが、ほんとに実体のない世界だなんて、思えないぐらい」
小さく、寂しそうに呟いた彼の言葉に、私は返事をすることなく、互いに無言のまま暫く庭でただ寝そべって過ごした。
「――――というわけで、冗談だったんだって」
「良かったっじゃないか」
ボス攻略会議が終わってから、キリトを手頃な家の屋根へ呼び出して、屋根の上に座りながら事情を説明した。
「告白も冗談で、レベル上げもできて、いいことだらけだな」
キリトにそう言われ、「そうなんだよね~」と言い返そうとして、ふと思った。
「いや、これ結構トラブルだらけだったよ」
「それを言うなら、俺は巻き込まれただけだったよ」
「それは、ほら……あれだよ、友達じゃん?」
そういうと、キリトは目を丸くして暫く固まってしまった。
「え、なにその反応?」
「え、あ、いや……別に」
何を驚いていたのか、答えるまで厭味ったらしく聞くことも出来たが、下の方からアスナの声が聞こえたため、手早く変身マントを被りボーッとしているキリトを放置して、アスナの元へ降り立った。
「よっ、アスナ!」
「あ、スー。キリト君見なかった?」
「ううん、見てない。それより、これから二人でお茶でもしない? もちろん、奢るよ。最近、美味しい紅茶を飲める店を見つけたから、アスナに紹介したかったんだけど」
ニッコリと微笑みかけて言うが、アスナは一歩私から距離を置いた。
「い、言っておきますけど、私はキリト君と結婚してるので……」
「知ってるけど」
「それなのに、よく私のこと誘えますね」
アスナの言い方からして、私はピンと来たので笑顔で答えることにした。
「勘違いしてたら困るから言っておくけど、私はただアスナをお茶に誘いたかっただけで、デートのつもりなんてないよ」
「そ、そんなことわかってます!」
「そ? じゃあ、いいけど。今日は忙しいの?」
「そういうわけじゃないけど……今は、キリト君を」
探したい。
そう続けそうだった彼女の手をとり、考えていた喫茶店へ向かう。
「ちょ、ちょっと! 離して!」
アスナの言葉を無視して、ズンズンと突き進んでいると、俊足で目の前に一人の男が現れた。
「おい、スー」
キリトだった。
「なに。今からアスナとお茶したいんだけど」
「キ、キリト君!」
助けてと言わんばかりのアスナの声。
(参ったな、私ってば悪者?)
そう思っていると、キリトはポリポリと頭を掻いてから、一つ溜息をついた。
「スー、お前なぁ……」
私の性別をまだ男だと思っているアスナに対してと、まだ正体を晒そうとしない私の両方に対してキリトはため息をついたのだろう。
しかし、私はニッコリと笑った。
「良かったら、キリトもどう?」
私がそういうと、アスナは嬉しそうにそれなら行ってもいいと言ってくれたため、半ば強制的にキリトとアスナの三人で喫茶店へ行くこととなった。
しかし、行く途中で――――
「おぉ、キリトじゃねぇか! さっきの攻略会議ぶりだなぁ」
「よぉ、キリト。どこ行くんだ? ―――なるほどな、俺も丁度そっちの店に用があったんだ」
「スー! キリトさん! どこに行くんですか?」
「アスナ! スー! 丁度良かった。ちょっと見て欲しいものが……え? あぁ、喫茶店に行くのね。――――いっしょに行っていいの?」
様々な人と出会い、三人でいくはずが大所帯の団体となって、喫茶店に押し寄せることとなった。
「そういえば、アンタと面と向かって話すのは初めてだな」
そういって、横に座っていた男は言った。
「そうかも。お互いに、ボス攻略で一緒になってもギルド違うと、結構話さないことが多いし。でも、クラインって有名だから、知ってたよ」
「俺だってアンタのことは知ってたさ。≪女たらしの大剣使い≫ってな」
「そりゃどーも」
「でさ、アンタと話す機会があったら、絶対聞いてみたいことがあったんだが……」
突然声を小さくしたクラインに、耳を傾けると彼は小声でぼそぼそと話した。
「どうやったら、そんなにモテんの?」
モテたいんだけど。
正直にそういって、真っ直ぐに私を見つめるクライン。
だから、私は真面目に答えることにした。
「そりゃ、やっぱり…………」
「やっぱり?」
「顔でしょ」
「んだよそれええええええ!」
「おい、うるさいぞクライン」
円形のテーブルに座る私たち。
私の右隣にいるのがクラインだったが、彼が叫んだことにより、私の左隣に座るエギルがクラインを注意した。
「嘘だって。顔より、やっぱ女も男も惚れるのは一つだよ」
「なんだよ!? その惚れる部分って!」
「笑顔」
「笑顔ぉ? お前、それからかってんのか? また嘘か?」
「いや、ほんとだって。わざとらしいのじゃなくて、自然に出る笑顔な」
そういうと、エギルが私の頭に手を乗せる。
「俺も、そうだと思うぞ」
「お前もかよー」
でも、とクラインは言った。
「キリトの奴は、あんま笑わねぇじゃねぇか。あれはどう説明するんだよ? モテモテだぞ、あいつ」
羨ましいこと山の如しだ!
素直に感情を吐露するクラインに笑いながら、そういえばと思った。
彼は今、私たち男集団とは離れて、アスナとシリカの間に座っており、女子たちと楽しそうに話している。
「やっぱ顔かな」
「やっぱそれかよおおおお!!」
「おい、クライン!」
叫ぶクラインに、再びエギルが静かにするようにと注意する。
同じテーブルに座っているのに、クラインの叫びに見向きもしない女性陣に少し驚きつつも、私は運ばれてきた紅茶の香りに癒されていた。
ようやく全員に飲み物が行き渡り、話は次のボス攻略についての話になった。
「そういえば、次のボスってどんな奴なの?」
ボス攻略に参加していないリズベットがそう聞くと、アスナやキリト達が詳しく説明をする。
「骸骨っつってもなー、あんま怖そうな感じじゃなかったよな」
「怖くなかったとしても、骨に攻撃って結構厄介だよね」
「剣や斧装備の俺たちは大丈夫でも、槍やレイピアを使うやつらにとっては、あの骨にヒットさせていくのが辛いかもしれないな」
「まぁ、攻略組だし、その辺のことは大丈夫なんでしょアスナ」
アスナは問われたことに対して、もちろんと頷いた。
相変わらず、彼女は自分の強さを確信している。
強気発言が、ちゃんと行動に伴っているのがすごい。
さすが、ヒースクリフが副団長にしているだけのことはある。
こんなしっかりしてるのが下にいるから、きっと彼は自由に遊びまわったりしているんだろうと思った。
「次の攻略には、ヒースクリフも参加するんだろ。スイッチの方は相当上手く行くんじゃないか?」
「あ、そういえば!」
クラインの言葉を聞いて、突然思い出したようにアスナが私を指差した。
「次の攻略ではペアをそれぞれ組むじゃない? 団長が、そのペアの相手にスーを指名してたのよ」
「「まじでか!?」」
キリトとクラインがアスナに食らいつくように反応していた。
言われた当人の私は、「へー」と適当に返事をしただけで、紅茶のおかわりをポットから注いでいると、嫌な視線を感じた。
リズベットとシリカだ。
「アンタ、血盟騎士団とこの団長さんとデキてたのねー!」
リズベットが叫んだことにより、店内はざわついた。
当然だ。
現在攻略組トップと言われているギルドのギルドマスター、ヒースクリフに女がいるなど、今までそんな情報が上がってきたことはない。
店内だけでなく、このテーブル上からも視線が集まる。
「いや、あのね「しらばっくれようとしても無駄ですよ!」」
シリカが追い打ちをかけるように、さぁさぁ! 正直に答えてください! と急かしてくる始末。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
しかし、意気揚々とする二人とは違い、隣にいるクラインと正面に座るアスナは目を真ん丸にして私を見ていた。
「スー、お前男だよな?」
「今はね」
「今は? どういうことだよ」
そう言われ、私は変身マントを脱いだ。
一瞬で、姿は女子に戻る。
「それ! レアアイテムの!」
「そうそう、男になると強くなった気になれるよねー」
「そんな理由で男に変身してたのかよ……もったいねー」
項垂れるクライン、さらにざわつく店内。
(あぁ、これで今までお付き合いしてきた女子たちにも、私が男じゃないっていう真実が知られてしまう……)
ちょっと悲しい気もしたが、もう結構な上層まで来ている。
ヒースクリフがラスボスなんだ。
上まで来たら、遊んでいる暇などなくなってしまうだろう。
潮時だったのかもしれない。
「スー、あなた……女の子だったの…………?」
顔を真っ青にして聞いてくるアスナに、こくんと頷くと彼女はキリトを見た。
「ねぇ、キリト君……キリト君は知ってたの?」
「あぁ、ちょっと前にな」
「エギルも知ってたの?」
リズベットが聞くと、エギルは「初対面からこいつは女だった」と言い、リズベットはニヤニヤと私を見た。
しかし、アスナの方は何やら深刻そうだった。
「キリト君は知ってたのに、夜中に呼ばれてスーのところへ行ったの? 私がいるのに?」
涙目でそう問う彼女。
なるほど、ヤキモチかぁ、なんて思っているとキリトは焦り出す。
周りもなんとなく、「やばいんじゃね?」なんて雰囲気になってくる。
「いや、でもスーとは友達だし……」
「女の子でしょ!?」
はいっ!と姿勢を正し思わず返事をしているキリトを見て、アスナにバレないように笑いながら紅茶を飲んでいると、彼女は私を睨んできた。
「今まで、どうして私たちを騙してきたの。攻略組に知らない人はたくさんいるはずよ。貴方は、その人たちを裏切る行為をしたのよ」
「裏切る? 性別が違う位で、何が裏切り? それに、ヤキモチ焼きたくなる気持ちはわかるけど、私とキリトはただの友達だよ。変な勘違いしないでほしいな」
そういうと、アスナはまた涙目になる。
「でも、貴方が皆を騙してきたことに変わりはないわ!」
「皆じゃない。ヒースクリフは知ってるし、他にもここにいるメンツのほとんどが私のことを知っていた。男に変身してたのは、ただ単に強くなれる気がしたから。それを、わざわざ全員に報告しなきゃいけないの?」
「おい、スー。言い方がきつすぎるだろ?」
エギルに肩を掴まれて、話すのを止める。
なんでこう、私が悪者みたいになるんだろうか。
そう思っていると、タイミングが良いのか悪いのかメールが来た。
(ヒースクリフからだ)
皆の前で開くわけには行かない。
自分の分の紅茶の代金をテーブルに置いて、席を立つ。
「用が出来たから、先に帰る。アスナ、アンタが嫌なら私を攻略組から外してくれていいよ。もう目的は果たしたし」
まぁ、私を外すなんて、できるはずないだろうけど。
最後の言葉を呟かずに、私は店を出た。
すると、目の前にはヒースクリフが立っていた。
「あまり、副団長を苛めないでやってくれ」
「苛めてないんだけど……まるで、悪者みたいだったよね」
彼はフッと軽く笑うと、歩き出した。
私は、黙ってそれについて歩いた。
人通りのない公園に着き、二人でベンチに座る。
「スー、私がお前を攻略組からは外させないのは知っているだろう?」
「まーね」
「知ってて先ほどの台詞か……性格が悪いな」
「ラスボスに言われたくない」
そういうと、彼は声を出して笑った。
「ラスボスか! 悪くないな」
喜ぶんだ……やっぱり、変。
そう思いながら、背もたれに背中を預けて空を見る。
「そういえば、なんで私の居場所わかったの?」
「索敵スキルでな」
「なるほど……」
それで、とヒースクリフは話を続けた。
「さっき、お前の所のギルドマスターと話した」
「ベンヌと?」
「副団長から聞いただろう? 次の攻略で、私とペアを組むのはお前だ」
「了解。任しといてよ」
「期待してるよ、スー」
「……で、メールの内容が空メールなのはなんで?」
そう聞くと、彼は笑顔で答えた。
「あのまま話していたら、攻略組の主戦力が仲違いしそうだったからな」
「最初から聞いてたんだ……ていうか、もうしてたじゃん。性別誤魔化すのって、そんな重大なこと? アスナのは、ただの私情でしょ」
「まぁ、お前も今性別がバレたのは不本意だろうな」
「ヒースクリフとデキてるとか、そういう噂も明日には広まってると思うよ」
「あはははっ! それはまた面白そうだな」
「嬉しそうだね」
「面白いからな。お前は面白いとは思わないのか?」
「帰りたいよ。でも、慣れって怖いね。人間関係がもっと楽だったら、この世界を面白いと思ったよ」
「人間関係? 恋愛関係の間違いだろう?」
「それをいうなら、アスナとキリトだよ。関わらなきゃ良かったって、後悔してるとこ。めんどくさい」
そういうと、彼はますます笑った。
「それでは、オンラインゲームの意味がないだろう」
そういって、彼は「楽しみにしてるぞ」とだけ言って公園から去って行った。
そんな彼が見えなくなるまで見送り、私は深いため息をついた。