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「すごい……ここ数日、アンタ注目の的じゃん」
美術の授業で、隣の席の人の似顔絵を描いていたヒカルに、モデルの間ヒマそうな彼は、そう笑って言った。
「うん、凄い大袈裟なことになって来てて……困ってたんだけど、もう収拾つかないから放置してるの」
「ぶはっ! そうなんだ」
「ちょ、表情変えないで! わからなくなる」
「あはは、ごめんごめん」
「…………加州は、聞かないの? 真相」
シャッ、シャッとリズム良く描いていくヒカルの様子に、加州は小さく微笑みすぐに表情を戻した。
「それも気になるけど、俺的には今まで大人しかったアンタがあっけらかんとしてる方が気になる。元々そういう性格だったんだ?」
そう問われ、ヒカルは苦笑した。
「どうかな、自分でもわかんないんだけど……三日月に平手打ちした時に、何か色々スッキリしちゃって」
「え、それマジなんだ?」
「マジマジ。それまではさ、他人の目とかすっごい気になってたんだけど、なんかどうでも良く思えてきて……もういいんだ、誰にどう思われても」
「清々しすぎでしょ」
「あはは、そうだね。でも、結局は自分がどうしたいかを優先して考えることにしたの。他人が良くても、自分が良くないんじゃ、困ったから……」
「ふーん……いいんじゃね? 俺、そっちのアンタの方が好きだよ」
「ふふ、嬉しい。あのね、それ鶴子も言ってくれたの」
「…………あっそ」
三条ランドに行った日以来、ヒカルは鶴子達を避けるつもりでいた。
というより、向こうから避けられると思っていた。
だが、月曜日に学校へ行けば彼女等は全員いつも通りの態度のままだった。
嫌っているのを隠しているのかと、それならもういいのだと天月が伝えたところ、答えたのは鶴子だった。
「だって、子どもみたいに泣きじゃくるぐらい、私達と友達でいたかったんでしょ? じゃ、今まで通りでいーじゃん」
「そうそう。それに、ヒカルが泣くとこなんて、初めて見たからびっくりしたー」
「ていうか鶴子と恋のライバルとか、それはそれで見てみたかったような気もするけどね」
「でもヒカルは、恋より友情を取るんでしょ? 泣くほど私達が好き! ってね」
「ちょっと!? なんかそれ語弊がある言い方なんだけど!」
「えー、でも合ってるでしょ?」
「…………そう、だけど……恥ずかしすぎる」
「「「きゃーっ! ヒカルちゃんってば可愛い!!」」」
「からかわないでよっ!」
友人達には、ちゃんとヒカルの気持ちが伝わっていた。
それが、完全に彼女が吹っ切れた理由だろう。
男子達の方は、三日月が平手打ちを受けたという部分を面白可笑しく周囲に話した為、噂が横行してしまっている現状だ。
噂はどんどん膨れ上がり、ヒカルは現在小狐丸と三日月の二人を手玉に取り鶴子を貶めて、三日月を略奪した女だと言われている。
とんでもない誤解であったが、彼女も鶴子達もそれを笑って聞いているぐらいで、誰もそれを怒らなかった。
そして、加州のようにヒカルを見る目が変わった者も多かった。
入学式からずっと、鶴子達の集団にいて異質に見えていたヒカル。
それはヒカルが、彼女等に嫌われたくない一心で緊張していたことが原因であったが、今は違う。
「鶴子、それ違うんだけど!」
違うことを、違うと言える。肩肘を張らず、彼女等と楽しそうに笑い合うヒカルの姿は、自然に馴染んでいく。
まだ遠慮が見える時もあるが、その度に彼女等は顔を見合わせて笑い合う。
全く変わる、と言うわけではないけれど、確実に変わりつつあるヒカル。
そして、それと同時に彼女からは今まで見えなかった姿が見えてきていた。
周囲の目を気にしなくなっても、他人の考えには敏感な彼女は、よく気が利いた。
初めにヒカルが変わったと感じたのは、恐らく教師であろう。
授業の用意を沢山抱え込んで階段を上る教員を手伝う姿は、よく見られるようになっていた。
当然、それを見て「偽善ぶりやがって」などと言う者がいたが、彼女はその言葉を聞いても特に反応しなかった。
そして、余りにもその声が煩くなると、言い返した。
「偽善の方がいいでしょ? 見返りなしの親切なんて、気味が悪いもの」
相手に二の句を告げなくさせる言葉で、喧嘩にしない。
言い負かせた時の彼女は、とても嬉しそうに笑みを浮かべる。
加州が笑顔の理由を聞くと、彼女は照れたように笑って答えた。
「昔から罵倒とか言われ慣れてるけど、言い返したことなくて……有無を言わせず完封できるなんて、そりゃ嬉しいよ」
その返答に、加州は苦笑して頬を掻いたが、彼女の満足そうな笑みに、つられて笑った。
ヒカルと鶴子たちが友達のままでいれた理由、それはもう一つあった。
三条ランドで、ヒカルが帰った後に鶴子が三日月をグーで殴ったのだ。
「これは、私の友達を傷つけた分よ」
「ちょっと、鶴子!」
友人たちの制止の声を振り切って、鶴子は倒れ込んだ宗近の胸倉を掴みかかる。
「私は宗近が好き。けど、これが報われないのは分かってた。あんたも私も、決して自分の中に他人を寄せ付けない一線があったから」
皆が、黙ってそれを聞いた。
否、口出しが出来なかった。
男子達は特に、これで鶴子まで泣き崩れてしまったらどうしようなどと、内心は慌てていたことであろう。
「あんたは、そんなだからヒカルを拒絶したのよ。浅はかで、愚かな行為だと思う。馬鹿よ、馬鹿」
掴んだ胸倉を離しながら、鶴子は三日月へ笑顔を見せた。
それは、スッキリと晴れ渡る真っ青の空のように綺麗な笑顔。
「私達、似た者同士だった。あんたは、何時までも其処にいればいい。さよなら、宗近」
そう言い、鶴子は友人達を見た。
「と、言うわけで私、ヒカルと友達でいたい! 皆も協力して欲しい! お願いします!!」
頭を下げた鶴子に、友人たちは笑った。
あれだけ泣いて、自分たちと友達でいたがっていたんだから、きっと大丈夫だよ。そう言う彼女達の言葉に、鶴子は嬉しそうに笑ったのだった。
だが、ヒカルはこのことを知らない。
そして、男子達とランチを一緒にしなくなった鶴子達は、三日月のことも小狐丸のことも、二人がどうしているのかも、知らなかった。
女子だらけのランチ中、ヒカルは一人の男子に声をかけられた。
昼休みの終わる間際、屋上に呼び出された彼女が彼についていくと、彼は丁寧に頭を下げた。
「初対面で失礼とは思いましたが……一期一振と申します」
丁寧な彼につられ、ヒカルも慌てて頭を下げた。
「あ、私は天月ヒカルです」
「はい、知っています」
ニッコリと、空色の髪に似合う清々しい笑顔に、ヒカルは眩しささえ感じた。
「突然ではありますが、先日廊下で文句をつけてきた相手を言い負かす貴女を拝見しました」
「あぁ、はい」
「その姿に、見惚れてしまいました。好きです」
「あぁ、はい…………はい?」
「…………す、好き、だと言いました」
顔を真っ赤にした彼の顔と表情に、ヒカルはこれは本気で言ってくれているのだと理解し、一度深呼吸をした。
真面目に思いを伝えてくれたのであれば、自分とて同じように返さなければならない。
三条ランドでの記憶が蘇り、あんなことを自分はしてたまるか。そう、強い思いが彼女に芽生えていた。
彼女の中で本気だと捉えられたものに対して、彼女は全力で返すと決めている。
「………………えっと、ごめん。初対面だし、正直好きも嫌いもなくて……」
「それは、そうですね」
「だから、その…………そういうの関係なく、友達! とかっていうのは、ダメですか?」
「いえ……いえ! 友達、でお願いします」
「良かった。私、恋愛はちょっと……色々あったから悩んじゃうんですけど、友達は大切にしたいと思ってるので」
「……それは、とても良いことだと思います」
これ以外にも何度か、初対面の男子に告白されたヒカルだが、正直自分の何を好きになってくれているのか。彼女はそれがわからないままであった。
特に、三日月の一件以来恋愛事に関しては徹底的に避けており、全て友達になることで治めている。
それがいいか悪いかは、彼女にはわからなかったが、そうすることしか出来ない現状であることは確かだった。
「また友達ー? 一期一振って言えば、西校舎のイケメンでしょ?」
「何それ?」
「ヒカル知らないの? 東は三日月、西は一期って、先輩たちにまで知れ渡る程二人はイケメンなんだよ」
「知らなかった」
「付き合ってみても良かったんじゃなーい?」
「いやいや。真面目に言ってくれてたのに、それは無理」
「ヒカルも真面目だもんね。それより、今日ここの専門店行かない!?」
「あぁ! 新店舗オープンしたんだ!」
「いこいこっ!」
放課後の寄り道先で盛り上がる中、鶴子は嬉しそうな笑みを浮かべてヒカル、と彼女を呼んだ。
「私、宗近にフラれたから。ヒカルがまだ諦めてないなら、頑張ってね」
言われた瞬間、ヒカルは飲んでいた紅茶を噴き出した。
「はっ!? え? どゆこと?!」
「ヒカルきったない!」
「うわっ、ごめん!!」
「そのまんまの意味だよ」
「え、ちょ鶴子!?」
鶴子は、噴き出して床に散らばった紅茶を、ベランダに置いてある雑巾を取ってきて、数枚の内の一枚をヒカルへ投げるとすぐに拭き出した。
「ヒカル、今モテ期みたいだから。早く言っておいた方が良いかと思って」
「モテっ……そんなんじゃないし、しかも意味わかんないし」
「宗近のことは、まだ嫌い?」
「…………」
ヒカルは、むすっと黙り込んでしまう。
その様子に、彼女等は笑った。
「顔に出てるよヒカルー」
「やっぱまだ怒ってるんだ、あれ」
「そりゃあ当然でしょ」
未だ根に持つヒカルの様子に、鶴子は苦笑した。
(三日月……アンタ、自分で自分の首絞めてるわー)
それは、鶴子だけが気付いたこと。
ヒカルは、まだ三日月を嫌いになれていない。
三日月は、多分ヒカルに惹かれている。
けれど、互いに自覚が全くないのだから仕方がない。
(けど、分かってるのと協力するのは別だもんね)
フラれたのに、簡単に友達の恋を応援できるほど、彼女の心は広くない。
けれど、叶うならヒカルが幸せになって欲しい、とは思っていた。
それは、ヒカルが三日月を諦めなければと考えていた頃にもあった考えで、互いが互いの幸せを願っていた。
だが、当然ながら告げられないその想いは、互いが知ることはなかった。
「……まぁ、それならいいんだけど、ね」
(まだ教えてあげないよ。もうちょっと…………私だって、怒ってるんだから)
鶴子は、一人クスリと笑うのだった。
美術の授業で、隣の席の人の似顔絵を描いていたヒカルに、モデルの間ヒマそうな彼は、そう笑って言った。
「うん、凄い大袈裟なことになって来てて……困ってたんだけど、もう収拾つかないから放置してるの」
「ぶはっ! そうなんだ」
「ちょ、表情変えないで! わからなくなる」
「あはは、ごめんごめん」
「…………加州は、聞かないの? 真相」
シャッ、シャッとリズム良く描いていくヒカルの様子に、加州は小さく微笑みすぐに表情を戻した。
「それも気になるけど、俺的には今まで大人しかったアンタがあっけらかんとしてる方が気になる。元々そういう性格だったんだ?」
そう問われ、ヒカルは苦笑した。
「どうかな、自分でもわかんないんだけど……三日月に平手打ちした時に、何か色々スッキリしちゃって」
「え、それマジなんだ?」
「マジマジ。それまではさ、他人の目とかすっごい気になってたんだけど、なんかどうでも良く思えてきて……もういいんだ、誰にどう思われても」
「清々しすぎでしょ」
「あはは、そうだね。でも、結局は自分がどうしたいかを優先して考えることにしたの。他人が良くても、自分が良くないんじゃ、困ったから……」
「ふーん……いいんじゃね? 俺、そっちのアンタの方が好きだよ」
「ふふ、嬉しい。あのね、それ鶴子も言ってくれたの」
「…………あっそ」
三条ランドに行った日以来、ヒカルは鶴子達を避けるつもりでいた。
というより、向こうから避けられると思っていた。
だが、月曜日に学校へ行けば彼女等は全員いつも通りの態度のままだった。
嫌っているのを隠しているのかと、それならもういいのだと天月が伝えたところ、答えたのは鶴子だった。
「だって、子どもみたいに泣きじゃくるぐらい、私達と友達でいたかったんでしょ? じゃ、今まで通りでいーじゃん」
「そうそう。それに、ヒカルが泣くとこなんて、初めて見たからびっくりしたー」
「ていうか鶴子と恋のライバルとか、それはそれで見てみたかったような気もするけどね」
「でもヒカルは、恋より友情を取るんでしょ? 泣くほど私達が好き! ってね」
「ちょっと!? なんかそれ語弊がある言い方なんだけど!」
「えー、でも合ってるでしょ?」
「…………そう、だけど……恥ずかしすぎる」
「「「きゃーっ! ヒカルちゃんってば可愛い!!」」」
「からかわないでよっ!」
友人達には、ちゃんとヒカルの気持ちが伝わっていた。
それが、完全に彼女が吹っ切れた理由だろう。
男子達の方は、三日月が平手打ちを受けたという部分を面白可笑しく周囲に話した為、噂が横行してしまっている現状だ。
噂はどんどん膨れ上がり、ヒカルは現在小狐丸と三日月の二人を手玉に取り鶴子を貶めて、三日月を略奪した女だと言われている。
とんでもない誤解であったが、彼女も鶴子達もそれを笑って聞いているぐらいで、誰もそれを怒らなかった。
そして、加州のようにヒカルを見る目が変わった者も多かった。
入学式からずっと、鶴子達の集団にいて異質に見えていたヒカル。
それはヒカルが、彼女等に嫌われたくない一心で緊張していたことが原因であったが、今は違う。
「鶴子、それ違うんだけど!」
違うことを、違うと言える。肩肘を張らず、彼女等と楽しそうに笑い合うヒカルの姿は、自然に馴染んでいく。
まだ遠慮が見える時もあるが、その度に彼女等は顔を見合わせて笑い合う。
全く変わる、と言うわけではないけれど、確実に変わりつつあるヒカル。
そして、それと同時に彼女からは今まで見えなかった姿が見えてきていた。
周囲の目を気にしなくなっても、他人の考えには敏感な彼女は、よく気が利いた。
初めにヒカルが変わったと感じたのは、恐らく教師であろう。
授業の用意を沢山抱え込んで階段を上る教員を手伝う姿は、よく見られるようになっていた。
当然、それを見て「偽善ぶりやがって」などと言う者がいたが、彼女はその言葉を聞いても特に反応しなかった。
そして、余りにもその声が煩くなると、言い返した。
「偽善の方がいいでしょ? 見返りなしの親切なんて、気味が悪いもの」
相手に二の句を告げなくさせる言葉で、喧嘩にしない。
言い負かせた時の彼女は、とても嬉しそうに笑みを浮かべる。
加州が笑顔の理由を聞くと、彼女は照れたように笑って答えた。
「昔から罵倒とか言われ慣れてるけど、言い返したことなくて……有無を言わせず完封できるなんて、そりゃ嬉しいよ」
その返答に、加州は苦笑して頬を掻いたが、彼女の満足そうな笑みに、つられて笑った。
ヒカルと鶴子たちが友達のままでいれた理由、それはもう一つあった。
三条ランドで、ヒカルが帰った後に鶴子が三日月をグーで殴ったのだ。
「これは、私の友達を傷つけた分よ」
「ちょっと、鶴子!」
友人たちの制止の声を振り切って、鶴子は倒れ込んだ宗近の胸倉を掴みかかる。
「私は宗近が好き。けど、これが報われないのは分かってた。あんたも私も、決して自分の中に他人を寄せ付けない一線があったから」
皆が、黙ってそれを聞いた。
否、口出しが出来なかった。
男子達は特に、これで鶴子まで泣き崩れてしまったらどうしようなどと、内心は慌てていたことであろう。
「あんたは、そんなだからヒカルを拒絶したのよ。浅はかで、愚かな行為だと思う。馬鹿よ、馬鹿」
掴んだ胸倉を離しながら、鶴子は三日月へ笑顔を見せた。
それは、スッキリと晴れ渡る真っ青の空のように綺麗な笑顔。
「私達、似た者同士だった。あんたは、何時までも其処にいればいい。さよなら、宗近」
そう言い、鶴子は友人達を見た。
「と、言うわけで私、ヒカルと友達でいたい! 皆も協力して欲しい! お願いします!!」
頭を下げた鶴子に、友人たちは笑った。
あれだけ泣いて、自分たちと友達でいたがっていたんだから、きっと大丈夫だよ。そう言う彼女達の言葉に、鶴子は嬉しそうに笑ったのだった。
だが、ヒカルはこのことを知らない。
そして、男子達とランチを一緒にしなくなった鶴子達は、三日月のことも小狐丸のことも、二人がどうしているのかも、知らなかった。
女子だらけのランチ中、ヒカルは一人の男子に声をかけられた。
昼休みの終わる間際、屋上に呼び出された彼女が彼についていくと、彼は丁寧に頭を下げた。
「初対面で失礼とは思いましたが……一期一振と申します」
丁寧な彼につられ、ヒカルも慌てて頭を下げた。
「あ、私は天月ヒカルです」
「はい、知っています」
ニッコリと、空色の髪に似合う清々しい笑顔に、ヒカルは眩しささえ感じた。
「突然ではありますが、先日廊下で文句をつけてきた相手を言い負かす貴女を拝見しました」
「あぁ、はい」
「その姿に、見惚れてしまいました。好きです」
「あぁ、はい…………はい?」
「…………す、好き、だと言いました」
顔を真っ赤にした彼の顔と表情に、ヒカルはこれは本気で言ってくれているのだと理解し、一度深呼吸をした。
真面目に思いを伝えてくれたのであれば、自分とて同じように返さなければならない。
三条ランドでの記憶が蘇り、あんなことを自分はしてたまるか。そう、強い思いが彼女に芽生えていた。
彼女の中で本気だと捉えられたものに対して、彼女は全力で返すと決めている。
「………………えっと、ごめん。初対面だし、正直好きも嫌いもなくて……」
「それは、そうですね」
「だから、その…………そういうの関係なく、友達! とかっていうのは、ダメですか?」
「いえ……いえ! 友達、でお願いします」
「良かった。私、恋愛はちょっと……色々あったから悩んじゃうんですけど、友達は大切にしたいと思ってるので」
「……それは、とても良いことだと思います」
これ以外にも何度か、初対面の男子に告白されたヒカルだが、正直自分の何を好きになってくれているのか。彼女はそれがわからないままであった。
特に、三日月の一件以来恋愛事に関しては徹底的に避けており、全て友達になることで治めている。
それがいいか悪いかは、彼女にはわからなかったが、そうすることしか出来ない現状であることは確かだった。
「また友達ー? 一期一振って言えば、西校舎のイケメンでしょ?」
「何それ?」
「ヒカル知らないの? 東は三日月、西は一期って、先輩たちにまで知れ渡る程二人はイケメンなんだよ」
「知らなかった」
「付き合ってみても良かったんじゃなーい?」
「いやいや。真面目に言ってくれてたのに、それは無理」
「ヒカルも真面目だもんね。それより、今日ここの専門店行かない!?」
「あぁ! 新店舗オープンしたんだ!」
「いこいこっ!」
放課後の寄り道先で盛り上がる中、鶴子は嬉しそうな笑みを浮かべてヒカル、と彼女を呼んだ。
「私、宗近にフラれたから。ヒカルがまだ諦めてないなら、頑張ってね」
言われた瞬間、ヒカルは飲んでいた紅茶を噴き出した。
「はっ!? え? どゆこと?!」
「ヒカルきったない!」
「うわっ、ごめん!!」
「そのまんまの意味だよ」
「え、ちょ鶴子!?」
鶴子は、噴き出して床に散らばった紅茶を、ベランダに置いてある雑巾を取ってきて、数枚の内の一枚をヒカルへ投げるとすぐに拭き出した。
「ヒカル、今モテ期みたいだから。早く言っておいた方が良いかと思って」
「モテっ……そんなんじゃないし、しかも意味わかんないし」
「宗近のことは、まだ嫌い?」
「…………」
ヒカルは、むすっと黙り込んでしまう。
その様子に、彼女等は笑った。
「顔に出てるよヒカルー」
「やっぱまだ怒ってるんだ、あれ」
「そりゃあ当然でしょ」
未だ根に持つヒカルの様子に、鶴子は苦笑した。
(三日月……アンタ、自分で自分の首絞めてるわー)
それは、鶴子だけが気付いたこと。
ヒカルは、まだ三日月を嫌いになれていない。
三日月は、多分ヒカルに惹かれている。
けれど、互いに自覚が全くないのだから仕方がない。
(けど、分かってるのと協力するのは別だもんね)
フラれたのに、簡単に友達の恋を応援できるほど、彼女の心は広くない。
けれど、叶うならヒカルが幸せになって欲しい、とは思っていた。
それは、ヒカルが三日月を諦めなければと考えていた頃にもあった考えで、互いが互いの幸せを願っていた。
だが、当然ながら告げられないその想いは、互いが知ることはなかった。
「……まぁ、それならいいんだけど、ね」
(まだ教えてあげないよ。もうちょっと…………私だって、怒ってるんだから)
鶴子は、一人クスリと笑うのだった。