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自身の一目惚れを自覚してから一月。
天月は、ただひたすらにこの感情を隠すことに躍起になっていた。
ただ、依然として何をしようと消せない思いに、ほとんど眠れない日々が続き、体育館で目眩を起こしてしまった。
彼女にとって幸運だったのは、それが体育の授業だったことだろう。
成績も良くないが、運動は彼女の多々ある不得意なことの一つだ。
「先生! ヒカルが! 私、保健室運びます!」
しゃがみこんだ彼女に真っ先に気付いたのは、鶴子だった。
天月は、入学式以来鶴子と話さないようにしようと決意していた。
それは自分と違いすぎるからと彼女は結論付けていたが、勿論それだけではなかっただろう。
楽しい学校生活を送り、毎日集団に囲まれて笑っているキラキラとした彼女と天月は、天と地ほど差がある。
そして、どう足掻いても天月は鶴子にはなれない。
鶴子から嫌われるのも、利用されるのも、嫌だと感じていたのだ。
それは、彼女にとって鶴子が憧れの存在であり、初めて家族以外から触れた優しさが本物だと思ったからだ。
嬉しさより、嫌われたくないという思いが勝っていた。
そして何よりも、鶴子と三日月が共にいる姿を見たくなかった。
「立てる? おぶって行こうか?」
だが、何日経とうと鶴子は天月への挨拶をしたし、朝のホームルームまでの数分も彼女と話した。
昼食も一人で立ち上がる天月を引き止め、学食や屋上へ連れ出しては皆と話す輪にも誘い続けた。
それが天月の胃を痛める原因であることなど、彼女は予想もしないだろう。
「鶴子ー、私らも手伝おっか?」
クラスメイト達が、天月を心配してゲームを中断する。
鶴子は、天月が見上げてきた顔を見てハッとすると、心配するクラスメイト達に笑顔で断りを入れた。
転がってきたバスケットボールを返し、天月がゆるりと立ち上がるのを手助けするように引っ張り上げた。
「顔色も悪いな、頼むぞ。お前は保健室へ付き添ったら戻ってくるんだぞ、サボるなよ?」
「山伏先生、私そこまでサボリ癖ないんですけど!?」
「お前のことだ。その辺の廊下でも寝かねない!」
「ちょっとそれ誰情報!? そんなことしないし!」
天月が歩き出すのに合わせて、ゆっくり歩き出しながら先生とも軽口を叩き合う。
クラスメイト達も、二人のやりとりに声を出して笑っている。
(すごいなぁ。いいなぁ)
下を向き歩きながら、支えてくれる鶴子を改めて羨ましく思った天月。
一月、飽きもせず彼女をクラスメイトの輪へ入れようとさり気なく動く鶴子に、天月は日々鶴子を尊敬していた。
(どう生きれば、こんな人になれるんだろう)
こんな人が、幼稚園の頃にいてくれれば。小学生、中学生の時に出会えていれば、私の思い出も楽しいものがあったのかもしれない。
(だってきっと、彼女は私みたいな人にも分け隔てなく笑いかけてくれる、優しい人)
ズキズキする頭の中で、そんなことを思っていると鶴子の心配そうな顔が彼女を覗いた。
「大丈夫? ごめん、勝手に皆の手伝い断っちゃったんだけど……」
「……ううん、ありがとう」
「…………違ってたらごめんだけど、ヒカルって人見知りかなぁって思ってさ。まだ、緊張してるでしょ? だから、あんまり大勢から声かけられるの苦手かもと思って」
緊張、そう言葉にしてくれた鶴子を、天月はまた一つ尊敬した。
ただ嫌われたくない思いで、怯えから来る他人への拒否が現れるこの感情を、彼女は緊張だと、人見知りだと言ってくれる。
天月の態度を、鶴子は一度だってからかったり、否定したりしない。
「ありがとう…………鶴子」
「えー!? ちょっともっかい言って! 私ずっとヒカルって呼んでたのに、返してくれたの初めてじゃない!? 私ばっかり友達と思ってるのかなぁって心配してたの! もっかい!!」
「は? わっ、ちょっ!?」
突然喜んで廊下のど真ん中で万歳して満面の笑みを向けられ、フラフラな足では支えが利かずそのままペタリと座り込んでしまう。
「あ、ごめん! 大丈夫!?」
「うん…………」
何時だって、鶴子は天月の言葉を最後まで聞いてくれた。
それがどれほど、天月にとって宝物となっているか鶴子はきっと知らないのだろう。
降り積もっていくように、彼女の心に温かな思いが増えていく。
彼女にとっては、生きてきて初めての感情だろう。
そして何より、彼女は今顔が熱かった。
「ちょ、顔赤いよ!? 熱もあるの!?」
「ちが、ちがうの……私…………」
言いかけた言葉はしかし、喉でつっかえた。
虐められていて、中学まで友達の一人もいなかったと鶴子に告げて嫌われないだろうか。
だが、鶴子が友達と呼んでくれたこと、鶴子と呼び捨てにしたことを喜んでくれた気持ちに、彼女もまた素直な気持ちで返したかった。
自分もそう言われて嬉しいと、言いたいと思ったのだ。
「友達、って……いなくて、だから…………私の方こそ、嬉し、い……の」
真っ赤な顔で鶴子に言い切り、下を向いてしまう。
素直な感情で話すことは、こんなに恥ずかしいことだったのか。
彼女は沸騰しそうな頭に、もう目眩なんて起こるはずがないと保健室に行く理由がなくなったことに気付く。
「うん、私も! 行こう、保健室」
だが、鶴子にそう言われ念の為と歩き出す。
再び肩を貸し、支えて歩き出してくれる鶴子はとても柔らかい表情をしていた。
それを見て、嬉しく思う天月だったが、それと同時に心に何かが突き刺さる。
それは紛れもない、罪悪感。
鶴子の好きな人を、好きになってしまったという思い。
叶いもしないのに、諦められない感情。
そして、同時に思ったのは鶴子の想いが叶って欲しいという、なんとも矛盾した考えだ。
(せっかく、こんな私を友達と言ってくれる鶴子を無くしたくない…………それは、絶対にやだ)
だが、育った恋心の枯らし方など、今まで経験のない彼女に分かる訳もない。
相談など到底出来ない為、どうしようもないことがもどかしい。
(…………どう、しよう)
鶴子と天月が友情を育んでいた頃、その会話は廊下先にあるトイレにまで聞こえていた。
一階にあるそのトイレにいたのは、サボリで来ていた小狐丸だった。
「……ふふ、とんだ茶番。ですね」
ヒカルの恋心には、初めて会った時から気付いていた小狐丸。
歩き出したヒカルは、嬉しさと罪悪感丸出しの複雑な表情をしている。
彼には、ヒカルが何に嬉しさを感じ、何に気持ちを痛めているのか、手に取るように理解できた。
二人が歩く様子を眺めていた彼は、ふとヒカルを支える鶴子を見た。
彼は、鶴子が三日月を想っていることも知っていた。
あれ程分かり易い態度なのだ。
恐らく、あの二人を知る者なら全員が知るところだろうと、彼は考えている。
なら、そこから辿る思いや考えは予想しやすいものだ。
(二人して、友達か恋かで悩んでいるんでしょうね)
何とも愚かなことか。そう嘲笑う小狐丸。
「縁とは所詮、一対一。他人に気遣っていては結べるものも、結べないでしょうに」
吹かしていた火を消し、便器へ流した彼はニヤリと口元に笑みを浮かべた。
彼は迷わない。
他人に影響されることなく、自身の赴くまま動いてきた彼だからこそ、辿り着いた答え。
「三日月に、気付かせてあげませんよ。ヒカル」
そう、小さくとも強く零した言葉に、彼はゆっくりと目を閉じた。
(貴方が結ぶ相手は、私であって欲しい)
何度目を閉じても、彼が思い出す光景は一つだ。
中学の頃、授業をサボってフラフラと様々な街へ訪れていた彼は、夏特有の湿気にたまらず棒アイスを購入した。
河川敷を歩き、川から流れる少し温い風に当たっていると、河川敷の上段を歩く集団を見かけた。
男女混ざった集団は、こぞって一人前を歩く少女に石を投げていた。
(いじめか……どこも同じだな)
つまらないものを見る目でアイスを食べていた小狐丸は、石を当てられ振り返った少女を見て、食べかけのアイスを落とした。
棒を持った手はそのまま、彼の時間だけが止まったような鮮烈な思いが体を駆け巡った。
彼女は、頭から腕から当たった石で青くなった箇所も、血が滲む個所も触らない。
ただ集団を一瞥しただけで、また歩き出してしまう。
その姿は凛々しく、気丈な振る舞いが、小狐丸の脳に焼き付いて離れない。
容姿も平凡であれば、普通にしていればそれこそ視界にも入らないような少女だ。
だが小狐丸は、あの少女が気になって仕方がなかった。
(不覚にも、綺麗だと……思ってしまった)
あの後、帰って泣いたりするのだろうか。
知りたい、話してみたい。彼女と。
どんな声だろうか、どんな笑みを浮かべるのだろうか。
からかってみるのも面白そうだ。
気付くと、彼は自分が笑みを浮かべていることに気付いた。
(私らしく、ない……)
そう思ったものの、彼の行動は早かった。
その後、彼はランクを落とし、ある高校を受験したのだった。
「さて、では保健室にでも行きましょうか」
動かなければ、成果は得られない。
トイレの鏡に映る自身の不敵な笑みに、稲光が差す。
天気予報とは異なる春雷に、彼は益々笑みを深めた。
(これで、彼女が雷を怖がっていたら、益々つけ込み易い)
怖がる彼女を宥めながら、抱き寄せることなど彼にとっては容易だ。
「……雷に打たれるようなもの、とも言いますしね」
度々轟音と共に差す稲光に、彼の足は真っ直ぐ、次第に早くなっていった。
天月は、ただひたすらにこの感情を隠すことに躍起になっていた。
ただ、依然として何をしようと消せない思いに、ほとんど眠れない日々が続き、体育館で目眩を起こしてしまった。
彼女にとって幸運だったのは、それが体育の授業だったことだろう。
成績も良くないが、運動は彼女の多々ある不得意なことの一つだ。
「先生! ヒカルが! 私、保健室運びます!」
しゃがみこんだ彼女に真っ先に気付いたのは、鶴子だった。
天月は、入学式以来鶴子と話さないようにしようと決意していた。
それは自分と違いすぎるからと彼女は結論付けていたが、勿論それだけではなかっただろう。
楽しい学校生活を送り、毎日集団に囲まれて笑っているキラキラとした彼女と天月は、天と地ほど差がある。
そして、どう足掻いても天月は鶴子にはなれない。
鶴子から嫌われるのも、利用されるのも、嫌だと感じていたのだ。
それは、彼女にとって鶴子が憧れの存在であり、初めて家族以外から触れた優しさが本物だと思ったからだ。
嬉しさより、嫌われたくないという思いが勝っていた。
そして何よりも、鶴子と三日月が共にいる姿を見たくなかった。
「立てる? おぶって行こうか?」
だが、何日経とうと鶴子は天月への挨拶をしたし、朝のホームルームまでの数分も彼女と話した。
昼食も一人で立ち上がる天月を引き止め、学食や屋上へ連れ出しては皆と話す輪にも誘い続けた。
それが天月の胃を痛める原因であることなど、彼女は予想もしないだろう。
「鶴子ー、私らも手伝おっか?」
クラスメイト達が、天月を心配してゲームを中断する。
鶴子は、天月が見上げてきた顔を見てハッとすると、心配するクラスメイト達に笑顔で断りを入れた。
転がってきたバスケットボールを返し、天月がゆるりと立ち上がるのを手助けするように引っ張り上げた。
「顔色も悪いな、頼むぞ。お前は保健室へ付き添ったら戻ってくるんだぞ、サボるなよ?」
「山伏先生、私そこまでサボリ癖ないんですけど!?」
「お前のことだ。その辺の廊下でも寝かねない!」
「ちょっとそれ誰情報!? そんなことしないし!」
天月が歩き出すのに合わせて、ゆっくり歩き出しながら先生とも軽口を叩き合う。
クラスメイト達も、二人のやりとりに声を出して笑っている。
(すごいなぁ。いいなぁ)
下を向き歩きながら、支えてくれる鶴子を改めて羨ましく思った天月。
一月、飽きもせず彼女をクラスメイトの輪へ入れようとさり気なく動く鶴子に、天月は日々鶴子を尊敬していた。
(どう生きれば、こんな人になれるんだろう)
こんな人が、幼稚園の頃にいてくれれば。小学生、中学生の時に出会えていれば、私の思い出も楽しいものがあったのかもしれない。
(だってきっと、彼女は私みたいな人にも分け隔てなく笑いかけてくれる、優しい人)
ズキズキする頭の中で、そんなことを思っていると鶴子の心配そうな顔が彼女を覗いた。
「大丈夫? ごめん、勝手に皆の手伝い断っちゃったんだけど……」
「……ううん、ありがとう」
「…………違ってたらごめんだけど、ヒカルって人見知りかなぁって思ってさ。まだ、緊張してるでしょ? だから、あんまり大勢から声かけられるの苦手かもと思って」
緊張、そう言葉にしてくれた鶴子を、天月はまた一つ尊敬した。
ただ嫌われたくない思いで、怯えから来る他人への拒否が現れるこの感情を、彼女は緊張だと、人見知りだと言ってくれる。
天月の態度を、鶴子は一度だってからかったり、否定したりしない。
「ありがとう…………鶴子」
「えー!? ちょっともっかい言って! 私ずっとヒカルって呼んでたのに、返してくれたの初めてじゃない!? 私ばっかり友達と思ってるのかなぁって心配してたの! もっかい!!」
「は? わっ、ちょっ!?」
突然喜んで廊下のど真ん中で万歳して満面の笑みを向けられ、フラフラな足では支えが利かずそのままペタリと座り込んでしまう。
「あ、ごめん! 大丈夫!?」
「うん…………」
何時だって、鶴子は天月の言葉を最後まで聞いてくれた。
それがどれほど、天月にとって宝物となっているか鶴子はきっと知らないのだろう。
降り積もっていくように、彼女の心に温かな思いが増えていく。
彼女にとっては、生きてきて初めての感情だろう。
そして何より、彼女は今顔が熱かった。
「ちょ、顔赤いよ!? 熱もあるの!?」
「ちが、ちがうの……私…………」
言いかけた言葉はしかし、喉でつっかえた。
虐められていて、中学まで友達の一人もいなかったと鶴子に告げて嫌われないだろうか。
だが、鶴子が友達と呼んでくれたこと、鶴子と呼び捨てにしたことを喜んでくれた気持ちに、彼女もまた素直な気持ちで返したかった。
自分もそう言われて嬉しいと、言いたいと思ったのだ。
「友達、って……いなくて、だから…………私の方こそ、嬉し、い……の」
真っ赤な顔で鶴子に言い切り、下を向いてしまう。
素直な感情で話すことは、こんなに恥ずかしいことだったのか。
彼女は沸騰しそうな頭に、もう目眩なんて起こるはずがないと保健室に行く理由がなくなったことに気付く。
「うん、私も! 行こう、保健室」
だが、鶴子にそう言われ念の為と歩き出す。
再び肩を貸し、支えて歩き出してくれる鶴子はとても柔らかい表情をしていた。
それを見て、嬉しく思う天月だったが、それと同時に心に何かが突き刺さる。
それは紛れもない、罪悪感。
鶴子の好きな人を、好きになってしまったという思い。
叶いもしないのに、諦められない感情。
そして、同時に思ったのは鶴子の想いが叶って欲しいという、なんとも矛盾した考えだ。
(せっかく、こんな私を友達と言ってくれる鶴子を無くしたくない…………それは、絶対にやだ)
だが、育った恋心の枯らし方など、今まで経験のない彼女に分かる訳もない。
相談など到底出来ない為、どうしようもないことがもどかしい。
(…………どう、しよう)
鶴子と天月が友情を育んでいた頃、その会話は廊下先にあるトイレにまで聞こえていた。
一階にあるそのトイレにいたのは、サボリで来ていた小狐丸だった。
「……ふふ、とんだ茶番。ですね」
ヒカルの恋心には、初めて会った時から気付いていた小狐丸。
歩き出したヒカルは、嬉しさと罪悪感丸出しの複雑な表情をしている。
彼には、ヒカルが何に嬉しさを感じ、何に気持ちを痛めているのか、手に取るように理解できた。
二人が歩く様子を眺めていた彼は、ふとヒカルを支える鶴子を見た。
彼は、鶴子が三日月を想っていることも知っていた。
あれ程分かり易い態度なのだ。
恐らく、あの二人を知る者なら全員が知るところだろうと、彼は考えている。
なら、そこから辿る思いや考えは予想しやすいものだ。
(二人して、友達か恋かで悩んでいるんでしょうね)
何とも愚かなことか。そう嘲笑う小狐丸。
「縁とは所詮、一対一。他人に気遣っていては結べるものも、結べないでしょうに」
吹かしていた火を消し、便器へ流した彼はニヤリと口元に笑みを浮かべた。
彼は迷わない。
他人に影響されることなく、自身の赴くまま動いてきた彼だからこそ、辿り着いた答え。
「三日月に、気付かせてあげませんよ。ヒカル」
そう、小さくとも強く零した言葉に、彼はゆっくりと目を閉じた。
(貴方が結ぶ相手は、私であって欲しい)
何度目を閉じても、彼が思い出す光景は一つだ。
中学の頃、授業をサボってフラフラと様々な街へ訪れていた彼は、夏特有の湿気にたまらず棒アイスを購入した。
河川敷を歩き、川から流れる少し温い風に当たっていると、河川敷の上段を歩く集団を見かけた。
男女混ざった集団は、こぞって一人前を歩く少女に石を投げていた。
(いじめか……どこも同じだな)
つまらないものを見る目でアイスを食べていた小狐丸は、石を当てられ振り返った少女を見て、食べかけのアイスを落とした。
棒を持った手はそのまま、彼の時間だけが止まったような鮮烈な思いが体を駆け巡った。
彼女は、頭から腕から当たった石で青くなった箇所も、血が滲む個所も触らない。
ただ集団を一瞥しただけで、また歩き出してしまう。
その姿は凛々しく、気丈な振る舞いが、小狐丸の脳に焼き付いて離れない。
容姿も平凡であれば、普通にしていればそれこそ視界にも入らないような少女だ。
だが小狐丸は、あの少女が気になって仕方がなかった。
(不覚にも、綺麗だと……思ってしまった)
あの後、帰って泣いたりするのだろうか。
知りたい、話してみたい。彼女と。
どんな声だろうか、どんな笑みを浮かべるのだろうか。
からかってみるのも面白そうだ。
気付くと、彼は自分が笑みを浮かべていることに気付いた。
(私らしく、ない……)
そう思ったものの、彼の行動は早かった。
その後、彼はランクを落とし、ある高校を受験したのだった。
「さて、では保健室にでも行きましょうか」
動かなければ、成果は得られない。
トイレの鏡に映る自身の不敵な笑みに、稲光が差す。
天気予報とは異なる春雷に、彼は益々笑みを深めた。
(これで、彼女が雷を怖がっていたら、益々つけ込み易い)
怖がる彼女を宥めながら、抱き寄せることなど彼にとっては容易だ。
「……雷に打たれるようなもの、とも言いますしね」
度々轟音と共に差す稲光に、彼の足は真っ直ぐ、次第に早くなっていった。