デュラララ短編
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花粉の飛散予報が、天気予報で伝えられるようになったのはいつからだったか。
日本全土が真っ赤に染まり、その酷さが伝えられる中、人々はピッタリとマスクをして出掛けた。
都内の駅構内では、誰もがマスクをして鼻をすすっている。
その姿を海外が見れば、きっとなにか重大な感染病が日本で流行っているに違いないと思うだろう。
そんな中、一人の少女が電車内に足を踏み入れた。
学生服の少女は大きなヘッドホンから漏れ出る音楽に耳を澄ませながら、ドア付近にもたれ掛かり目を閉じた。
マスクもせず、鼻もすすらない彼女はきっと花粉症ではないのだろう。
大人達はそんな少女を羨ましく、そして朝から車両内でマナー違反を堂々とする姿に、ストレスを積み上げていた。
睨みつけるように鋭い視線を向けられても、彼女はどこ吹く風だと数駅で降りて行った。
同じ学生服の生徒達がひしめき合う改札口付近。
その中でも、彼女の姿は目立った。
周りとじゃれ合うでもなく、ただ静かに淡々と歩く姿は、学生らしくなかった。
改札を出て学校へと歩き始めていると、不意に横の電柱から人影が現れた。
「やぁ」
ファーのついた黒い上衣を羽織る男は、近い位置から彼女に笑顔で手を振った。
学生でない男から声をかけられる少女の姿に、周りの生徒達は騒めいた。
やっぱり男いたんだ、朝から彼氏かよ。
てか誘拐じゃね? どうでもいいから道開けろよ、邪魔。
そんな冷たい言葉が飛び交うが、当の二人は互いを見たままで周囲には目もくれていなかった。
先に動いたのは、やはり男だった。
「あのさ、何か喋ってくれない? 俺、このままじゃ不審者扱いで通報されそうなんだけど」
そう言って、彼はチラリと冷たい言葉を向けた生徒達を見た。
目が合った生徒達は、慌てて学校へ走っていく。
男の視線は鋭利なものではなかったが、得体の知れない不気味さを感じさせるものだった。
そうこうしている間に生徒達の波が消えていく。
予鈴に間に合う最終時間の電車が去った今、道を通る生徒達はもういない。
すると、少女はスマホを取り出した。
カチカチとスマホの文字を打つ音が数回聞こえた男は、少女のスマホを覗き込んだ。
ーーーーだれ
ブハッ! と音が吹き出したかと思うと、腹を抱えて笑い出した。
「君さぁ、初対面の男に会って思うことってそれだけ? もっと他にないの? なんで自分に声かけたの?とか、なんの用なの? とかさ」
ーーーーだれ
早口で捲し立てる男の言葉に、スマホを目の前にかざした少女は眉を少し寄せていて、男はますます笑みを深くした。
「それは答えにくい質問だね。まぁ、強いて言うならなら人、だよ」
大げさな身振り手振りで言う男の言葉は、当然彼女の求めた答えではない。
きっと盛大なツッコミがあると踏んでいた男は、返された少女の言葉に更に爆笑した。
「人が、何の用?」
抑揚もなく、平坦な音程の声が聞こえた。
いつの間にか、少女のヘッドホンから音楽は消えており、彼女はそれを首に掛けている。
「ツッコミも何もないなんて、ちょっと寂しいなぁ」
少し下を向き目を伏せ気味な少女に、男はしゃがみ込んで無理やり手を合わせて微笑んだ。
「俺の声、聴こえても平気?」
男の声に、彼女はビクッと一歩後退りした。
そして、男が自分のことを知っているのだと理解した。
「私のことを知ってなお、用があるの?」
少女は、男を不審な目で見た。
「君は人の心が読めるんだろう? なら読めばいい。わかるだろう、俺が考えていること」
ニヤニヤと下卑た視線に、少女は心底嫌そうに眉をひそめた。
「あなた、煩いの。爆音のヘドバンより煩い」
「アハハ! そうなんだ!」
「何で喜ぶの」
「喜んでないよ」
最後の言葉を、男は冷たく言い放った。
「喜んでる、ってどこで判断したの? 俺の心の声? 俺は何も喜んでなんていないよ」
立ち上がり、男は一歩距離を詰めた。
少女の耳の遠くで、学校の予鈴が鳴る。
「人の声が聞こえてしまう、可哀想なヒカルちゃん? 君の哀れな心を、僕が助けてあげようと思って」
そこでようやく彼は、少女に会いに来た目的を告げた。
「昔聞こえた親の心の声を言い当てた君は、気味悪がられて育児放棄。以後、他人の心が読めるようになってしまって、今では他人の声を聞かないように常にヘッドホンを身に付けている。誰の声も、聞かないように。君は可哀想だよ。とても、ね」
少女の傷を斬りつけ、抉り出した男は、睨みつけてくる少女に手を伸ばす。
「俺は気味悪がったりしない。おいで?」
そんな能力、あるわけないのさ。
人を嫌うなんて、なんて可哀想な子。
俺は人が大好きなんだよ、この上なく。
人に嫌われる前に、自分から人を嫌うなんて愚かしい。
おいで、一緒に。
学校なんて行ってたら、益々君は酷い目に合うよ。
男の声が、急に彼女の耳に入ってくる。
それは彼女の傷に浸透するように、また傷から血が溢れるように。
隠していた瘡蓋を、ゆっくりと剥がされる。
だが、少女にはそれが男の本心なのかわからない。
さっき喜んでいると聞こえた声が、嘘だったように。
これも、全て嘘なのかも知れない。
混乱する少女の手を、男はゆっくりと取った。
「大丈夫だよ。瘡蓋なんて、いずれ剥がれるものなんだし」
男の言葉に、混乱したままの少女はとにかく何か言わなければと、小さく声を零した。
「あなたは、誰なの?」
「……またそれか。折原臨也、情報屋だよ」
握った手を自身の方に寄せると、男に引っ付くほど距離が近くなった少女は、顔を赤くした。
「さぁ、まずは俺の助手として働いてもらおうかなー」
顔を真っ赤にする少女を、ちらりと見た男は彼女に見えないようほくそ笑む。
所詮この世は弱肉強食。
人の心が読める少女より、人を掌握することに長けたこの男の前では、少女はただの子どもに過ぎない。
ただただ、男の掌で操られるしかないのだ。
彼に手を取られてしまった少女は、後に渋谷一の探偵になるのだが、それはまた別の話。
日本全土が真っ赤に染まり、その酷さが伝えられる中、人々はピッタリとマスクをして出掛けた。
都内の駅構内では、誰もがマスクをして鼻をすすっている。
その姿を海外が見れば、きっとなにか重大な感染病が日本で流行っているに違いないと思うだろう。
そんな中、一人の少女が電車内に足を踏み入れた。
学生服の少女は大きなヘッドホンから漏れ出る音楽に耳を澄ませながら、ドア付近にもたれ掛かり目を閉じた。
マスクもせず、鼻もすすらない彼女はきっと花粉症ではないのだろう。
大人達はそんな少女を羨ましく、そして朝から車両内でマナー違反を堂々とする姿に、ストレスを積み上げていた。
睨みつけるように鋭い視線を向けられても、彼女はどこ吹く風だと数駅で降りて行った。
同じ学生服の生徒達がひしめき合う改札口付近。
その中でも、彼女の姿は目立った。
周りとじゃれ合うでもなく、ただ静かに淡々と歩く姿は、学生らしくなかった。
改札を出て学校へと歩き始めていると、不意に横の電柱から人影が現れた。
「やぁ」
ファーのついた黒い上衣を羽織る男は、近い位置から彼女に笑顔で手を振った。
学生でない男から声をかけられる少女の姿に、周りの生徒達は騒めいた。
やっぱり男いたんだ、朝から彼氏かよ。
てか誘拐じゃね? どうでもいいから道開けろよ、邪魔。
そんな冷たい言葉が飛び交うが、当の二人は互いを見たままで周囲には目もくれていなかった。
先に動いたのは、やはり男だった。
「あのさ、何か喋ってくれない? 俺、このままじゃ不審者扱いで通報されそうなんだけど」
そう言って、彼はチラリと冷たい言葉を向けた生徒達を見た。
目が合った生徒達は、慌てて学校へ走っていく。
男の視線は鋭利なものではなかったが、得体の知れない不気味さを感じさせるものだった。
そうこうしている間に生徒達の波が消えていく。
予鈴に間に合う最終時間の電車が去った今、道を通る生徒達はもういない。
すると、少女はスマホを取り出した。
カチカチとスマホの文字を打つ音が数回聞こえた男は、少女のスマホを覗き込んだ。
ーーーーだれ
ブハッ! と音が吹き出したかと思うと、腹を抱えて笑い出した。
「君さぁ、初対面の男に会って思うことってそれだけ? もっと他にないの? なんで自分に声かけたの?とか、なんの用なの? とかさ」
ーーーーだれ
早口で捲し立てる男の言葉に、スマホを目の前にかざした少女は眉を少し寄せていて、男はますます笑みを深くした。
「それは答えにくい質問だね。まぁ、強いて言うならなら人、だよ」
大げさな身振り手振りで言う男の言葉は、当然彼女の求めた答えではない。
きっと盛大なツッコミがあると踏んでいた男は、返された少女の言葉に更に爆笑した。
「人が、何の用?」
抑揚もなく、平坦な音程の声が聞こえた。
いつの間にか、少女のヘッドホンから音楽は消えており、彼女はそれを首に掛けている。
「ツッコミも何もないなんて、ちょっと寂しいなぁ」
少し下を向き目を伏せ気味な少女に、男はしゃがみ込んで無理やり手を合わせて微笑んだ。
「俺の声、聴こえても平気?」
男の声に、彼女はビクッと一歩後退りした。
そして、男が自分のことを知っているのだと理解した。
「私のことを知ってなお、用があるの?」
少女は、男を不審な目で見た。
「君は人の心が読めるんだろう? なら読めばいい。わかるだろう、俺が考えていること」
ニヤニヤと下卑た視線に、少女は心底嫌そうに眉をひそめた。
「あなた、煩いの。爆音のヘドバンより煩い」
「アハハ! そうなんだ!」
「何で喜ぶの」
「喜んでないよ」
最後の言葉を、男は冷たく言い放った。
「喜んでる、ってどこで判断したの? 俺の心の声? 俺は何も喜んでなんていないよ」
立ち上がり、男は一歩距離を詰めた。
少女の耳の遠くで、学校の予鈴が鳴る。
「人の声が聞こえてしまう、可哀想なヒカルちゃん? 君の哀れな心を、僕が助けてあげようと思って」
そこでようやく彼は、少女に会いに来た目的を告げた。
「昔聞こえた親の心の声を言い当てた君は、気味悪がられて育児放棄。以後、他人の心が読めるようになってしまって、今では他人の声を聞かないように常にヘッドホンを身に付けている。誰の声も、聞かないように。君は可哀想だよ。とても、ね」
少女の傷を斬りつけ、抉り出した男は、睨みつけてくる少女に手を伸ばす。
「俺は気味悪がったりしない。おいで?」
そんな能力、あるわけないのさ。
人を嫌うなんて、なんて可哀想な子。
俺は人が大好きなんだよ、この上なく。
人に嫌われる前に、自分から人を嫌うなんて愚かしい。
おいで、一緒に。
学校なんて行ってたら、益々君は酷い目に合うよ。
男の声が、急に彼女の耳に入ってくる。
それは彼女の傷に浸透するように、また傷から血が溢れるように。
隠していた瘡蓋を、ゆっくりと剥がされる。
だが、少女にはそれが男の本心なのかわからない。
さっき喜んでいると聞こえた声が、嘘だったように。
これも、全て嘘なのかも知れない。
混乱する少女の手を、男はゆっくりと取った。
「大丈夫だよ。瘡蓋なんて、いずれ剥がれるものなんだし」
男の言葉に、混乱したままの少女はとにかく何か言わなければと、小さく声を零した。
「あなたは、誰なの?」
「……またそれか。折原臨也、情報屋だよ」
握った手を自身の方に寄せると、男に引っ付くほど距離が近くなった少女は、顔を赤くした。
「さぁ、まずは俺の助手として働いてもらおうかなー」
顔を真っ赤にする少女を、ちらりと見た男は彼女に見えないようほくそ笑む。
所詮この世は弱肉強食。
人の心が読める少女より、人を掌握することに長けたこの男の前では、少女はただの子どもに過ぎない。
ただただ、男の掌で操られるしかないのだ。
彼に手を取られてしまった少女は、後に渋谷一の探偵になるのだが、それはまた別の話。
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