バレンタインはスカイレース(ミュオン)
「ジータってば、ミュオンにチョコレートあげないの?」
丸テーブルを囲んで紅茶と甘いお菓子で一時、今日は依頼の合間に時間が空いたため女子会が開かれたのだった。ちなみに発案者はロゼッタだ。戦闘時は属性で固めたチームを編成するが、女子会に属性なんて関係ない。今日の女子会の参加者はイオ、ルリア、ソーン、イルザ、コルワ、メーテラ、そしてジータと発案者のロゼッタだ。丁度8人ほどがかけられる丸テーブルの上には真ん中にクッキーが山盛りに乗せられ、その周りをチョコやグミ、その他焼き菓子が乗せられた皿が無造作に置かれ、それぞれの席の前にはティーカップが置かれている。今日はバレンタインが迫っていることもあり、その話題で持ちきりだ。そして冒頭に至る。
「ごほっ」
「ジータ大丈夫ですか?」
盛大にむせたジータの背中を優しくルリアがさすった。
「ありがとう、ルリア。ってか、イオなんで知ってるの?」
「ん? ジータがミュオンにチョコ作らないこと? それともジータがミュオンを好きなこと?」
「どっちも!」
にやにやとイオが笑えばジータは顔を真っ赤にして怒った。その様子をさも嬉しそうに眺めるのはイルザとコルワだ。ジータの騎空団の中でも一際恋バナが好きな二人である。
「そうなの? 私、ジータにそんな良い人がいるの知らなかったわ。ミュオンってこの騎空団の人なの?」
ソーンも身を乗り出してジータに迫る。
「ミュオンは一応同じ騎空団の一人だけど、スカイレースのレーサーなの。世界中のスカイレースに出るために旅に同行してるけど、自分の走艇の整備に忙しくしてるから、属性が違ったら会うことも少ないかもしれないわね」
ロゼッタがソーンたちにミュオンのことを紹介した。
「ミュオンってすぅーっごいイケメンよぉ。ジータも面食いよねぇ」
「別に外見だけが好きなわけじゃっ……!」
メーテラに対し声を荒げるジータだったがそれ以上は恥ずかしくなってしまったのか口を噤んでしまった。そんな初々しい様子のジータを他の9人は温かい目で見るのだった。
「でも、ミュオンさんとジータ、とっても仲良しですよね!」
「えぇ。とってもお似合いよ!」
ルリアとコルワが顔を合わせてにっこり微笑んだ。
「でもさっきイオがチョコを作らないと言ってたが、何故なんだ?」
首を傾げるイルザにジータはまだ顔を真っ赤にしたままぼそぼそと説明した。
「去年も一昨年も渡して、普通にもらってくれてるんですけど、やっぱりレーサーだし、大会が近いこともあって今体重とかカロリーも調整してるし……」
「それじゃぁ別のものをプレゼントするってこと?」
ソーンの問いにジータはこくんと頷いた。
「1番喜んでくれるのってやっぱりスカイレースかなって思ってて。それから……」
ごくりと生唾を飲むコルワとイルザ。
「告白、したいなって……思って……」
「きゃー! いいじゃない! 告白! しなさいよぉ!!」
メーテラも大はしゃぎだ。
「私も! 応援してますね、ジータ」
「ちゃんと報告しなさいよぉ!」
ルリアもイオも笑顔で応援した。
「あら? いやだ、この二人あまりの興奮で固まっちゃってるわ」
旅をしていてはあまり聞きなれない告白という単語に思わず固まってしまったコルワとイルザを放っておき、ジータ達は紅茶とお菓子を楽しむのだった。
「スカイレース? 二人でか?」
バレンタイン当日、ジータはミュオンにスカイレースを挑んだ。
「私がミュオンに勝ったら、聞いて欲しいことがあるの!」
この日のためにジータは走艇の整備や自信を鍛えて来た。告白するなら好きな人に少しでも追いつきたい。自分の気持ちを伝えるならスカイレースが一番だと思ったのだ。
「最近ジータが走艇いじってるのよく見ると思ったら、俺と勝負がしたかったんだな」
ジータはこくんと頷いた。
ルリアとビィはグランサイファーでジータの帰りを待っていた。正真正銘、二人だけのレースだ。ミュオンはブルーオービットに、ジータはナイトサイファーに乗って、合図は二人で同時に出した。
「3、2、1……GO!」
夜の空を二艘の走艇が風を切る。結果、ジータは一度もブルーオービットに追いつくことが出来なかった。ミュオンはスカイレースのレーサーであり、旅を続けている間もレースに出るために日夜励んでいる。片やジータはそれだけに構っていることは出来ない。ジータはレーサーではなく、騎空士であり騎空団の団長でもある。自分たちの目的も違う。ミュオンは様々なスカイレースで優勝すること、ジータは星の島イスタルシアへ行くこと。それでも1回でも追いつくことが出来たならジータは告白するつもりでいたが、ここまで惨敗してしまっては何も言うことが出来ない。少しでもミュオンに近づきたいと思っていたが、まだまだ自分の準備が足りなかったのだ。
レースの後、ゆっくりとブルーオービットとナイトサイファーは並んで飛んでいた。ミュオンは徐にブルーオービットの屋根の部分を開けて、ジータに向かって手を振った。ジータが逸れに気付くと親指をくいっと上に向けられ、ジータも屋根の部分を開けた。
「悪かったなぁ! 俺になんか言いたいことがあったんだろぉ!?」
並んで飛んでいても、少し距離がある。機体から出る音もあってミュオンは大声で叫ぶようにジータに話しかけた。ジータは告白できなかったことに少しの安堵と悔しさとがないまぜになって、何を離せばいいかもわからないけれど何か言葉を発したらなんだか泣き出してしまいそうでただ首だけを振った。
「でも今日は絶対負けたくなかったんだよ!」
ミュオンは笑顔でそう言った。ジータが首を傾げていると、ひょいっと何かが飛んできた。両手でそれをキャッチするとそれは一粒のチョコレートだった。チョコレートだと認識できたのと同時にミュオンが叫んだ。
「ジータァッ!!! 好きだっ!!!」
驚いてジータが顔を上げると笑っているミュオンがそこにいた。
ジータとミュオンはグランサイファーに帰る前に少し寄り道をして別の島へ降りた。島の端にブルーオービットとナイトサイファーを停める。船を降りると先に降りていたミュオンがジータの方へ駆け寄って来てそのままジータを抱きしめた。
「あ、あの、ミュオン!?」
「はー、やっと言えた」
すぐに抱きしめられていた腕は離れたが、二人はそのまま並ぶ走艇のすぐ傍に同じように並んで腰かけた。走艇を停めるために何もない草原を選んだせいか、なにも邪魔するものがないその場所からは夜空の星が一層近くに見える。
「前々からジータのことは気になってたんだけど、俺たちの目指してる先って全然違う場所だろ? なんかそういうことを考えたりしてると自分の気持ちとか別に言わないでいいんじゃないか、とか思ったりしてたんだよ」
ジータもそれはずっと考えていることだった。今はいい。今は一緒にいられる。けれど自分たちの目的が近づけば近づくほど離れなければいけない。どちらかが自分たちの目的を、夢を諦めることは考えられない。そうする権利もないし、諦めて欲しいとも思っていない。
「なんとなく、ジータも同じ気持ちなのかなーとは思って、でもジータは伝えようとしてくれただろ?」
ジータが今日告白することは、なんとなくミュオンもわかっていたようだ。
「まだ先のことは俺もわかんないけどさ、どうしても俺から言いたかったんだ、好きだって」
悩んでる風でもなく、諦めている風でもなく、優しく笑うミュオンにジータも拳を握った。
「私も、好きです! 私も、これからのことはわからないけど……」
「ん、じゃぁ二人で考えようぜ」
「うん!」
きっとすぐには答えは出ないだろうけれど、それでも気持ちが通じ合っているとわかっているだけでも違う。今までよりもこれからのことが楽しみで仕方ない。二人はこれからの少し先からもっと未来まで、夜が明けるのを忘れるくらい話をした。
朝、ジータとミュオンが二人が揃ってグランサイファーに帰って来たのを見たコルワとイルザが、2人の尊さに卒倒するのも、もうすぐの話だ。
丸テーブルを囲んで紅茶と甘いお菓子で一時、今日は依頼の合間に時間が空いたため女子会が開かれたのだった。ちなみに発案者はロゼッタだ。戦闘時は属性で固めたチームを編成するが、女子会に属性なんて関係ない。今日の女子会の参加者はイオ、ルリア、ソーン、イルザ、コルワ、メーテラ、そしてジータと発案者のロゼッタだ。丁度8人ほどがかけられる丸テーブルの上には真ん中にクッキーが山盛りに乗せられ、その周りをチョコやグミ、その他焼き菓子が乗せられた皿が無造作に置かれ、それぞれの席の前にはティーカップが置かれている。今日はバレンタインが迫っていることもあり、その話題で持ちきりだ。そして冒頭に至る。
「ごほっ」
「ジータ大丈夫ですか?」
盛大にむせたジータの背中を優しくルリアがさすった。
「ありがとう、ルリア。ってか、イオなんで知ってるの?」
「ん? ジータがミュオンにチョコ作らないこと? それともジータがミュオンを好きなこと?」
「どっちも!」
にやにやとイオが笑えばジータは顔を真っ赤にして怒った。その様子をさも嬉しそうに眺めるのはイルザとコルワだ。ジータの騎空団の中でも一際恋バナが好きな二人である。
「そうなの? 私、ジータにそんな良い人がいるの知らなかったわ。ミュオンってこの騎空団の人なの?」
ソーンも身を乗り出してジータに迫る。
「ミュオンは一応同じ騎空団の一人だけど、スカイレースのレーサーなの。世界中のスカイレースに出るために旅に同行してるけど、自分の走艇の整備に忙しくしてるから、属性が違ったら会うことも少ないかもしれないわね」
ロゼッタがソーンたちにミュオンのことを紹介した。
「ミュオンってすぅーっごいイケメンよぉ。ジータも面食いよねぇ」
「別に外見だけが好きなわけじゃっ……!」
メーテラに対し声を荒げるジータだったがそれ以上は恥ずかしくなってしまったのか口を噤んでしまった。そんな初々しい様子のジータを他の9人は温かい目で見るのだった。
「でも、ミュオンさんとジータ、とっても仲良しですよね!」
「えぇ。とってもお似合いよ!」
ルリアとコルワが顔を合わせてにっこり微笑んだ。
「でもさっきイオがチョコを作らないと言ってたが、何故なんだ?」
首を傾げるイルザにジータはまだ顔を真っ赤にしたままぼそぼそと説明した。
「去年も一昨年も渡して、普通にもらってくれてるんですけど、やっぱりレーサーだし、大会が近いこともあって今体重とかカロリーも調整してるし……」
「それじゃぁ別のものをプレゼントするってこと?」
ソーンの問いにジータはこくんと頷いた。
「1番喜んでくれるのってやっぱりスカイレースかなって思ってて。それから……」
ごくりと生唾を飲むコルワとイルザ。
「告白、したいなって……思って……」
「きゃー! いいじゃない! 告白! しなさいよぉ!!」
メーテラも大はしゃぎだ。
「私も! 応援してますね、ジータ」
「ちゃんと報告しなさいよぉ!」
ルリアもイオも笑顔で応援した。
「あら? いやだ、この二人あまりの興奮で固まっちゃってるわ」
旅をしていてはあまり聞きなれない告白という単語に思わず固まってしまったコルワとイルザを放っておき、ジータ達は紅茶とお菓子を楽しむのだった。
「スカイレース? 二人でか?」
バレンタイン当日、ジータはミュオンにスカイレースを挑んだ。
「私がミュオンに勝ったら、聞いて欲しいことがあるの!」
この日のためにジータは走艇の整備や自信を鍛えて来た。告白するなら好きな人に少しでも追いつきたい。自分の気持ちを伝えるならスカイレースが一番だと思ったのだ。
「最近ジータが走艇いじってるのよく見ると思ったら、俺と勝負がしたかったんだな」
ジータはこくんと頷いた。
ルリアとビィはグランサイファーでジータの帰りを待っていた。正真正銘、二人だけのレースだ。ミュオンはブルーオービットに、ジータはナイトサイファーに乗って、合図は二人で同時に出した。
「3、2、1……GO!」
夜の空を二艘の走艇が風を切る。結果、ジータは一度もブルーオービットに追いつくことが出来なかった。ミュオンはスカイレースのレーサーであり、旅を続けている間もレースに出るために日夜励んでいる。片やジータはそれだけに構っていることは出来ない。ジータはレーサーではなく、騎空士であり騎空団の団長でもある。自分たちの目的も違う。ミュオンは様々なスカイレースで優勝すること、ジータは星の島イスタルシアへ行くこと。それでも1回でも追いつくことが出来たならジータは告白するつもりでいたが、ここまで惨敗してしまっては何も言うことが出来ない。少しでもミュオンに近づきたいと思っていたが、まだまだ自分の準備が足りなかったのだ。
レースの後、ゆっくりとブルーオービットとナイトサイファーは並んで飛んでいた。ミュオンは徐にブルーオービットの屋根の部分を開けて、ジータに向かって手を振った。ジータが逸れに気付くと親指をくいっと上に向けられ、ジータも屋根の部分を開けた。
「悪かったなぁ! 俺になんか言いたいことがあったんだろぉ!?」
並んで飛んでいても、少し距離がある。機体から出る音もあってミュオンは大声で叫ぶようにジータに話しかけた。ジータは告白できなかったことに少しの安堵と悔しさとがないまぜになって、何を離せばいいかもわからないけれど何か言葉を発したらなんだか泣き出してしまいそうでただ首だけを振った。
「でも今日は絶対負けたくなかったんだよ!」
ミュオンは笑顔でそう言った。ジータが首を傾げていると、ひょいっと何かが飛んできた。両手でそれをキャッチするとそれは一粒のチョコレートだった。チョコレートだと認識できたのと同時にミュオンが叫んだ。
「ジータァッ!!! 好きだっ!!!」
驚いてジータが顔を上げると笑っているミュオンがそこにいた。
ジータとミュオンはグランサイファーに帰る前に少し寄り道をして別の島へ降りた。島の端にブルーオービットとナイトサイファーを停める。船を降りると先に降りていたミュオンがジータの方へ駆け寄って来てそのままジータを抱きしめた。
「あ、あの、ミュオン!?」
「はー、やっと言えた」
すぐに抱きしめられていた腕は離れたが、二人はそのまま並ぶ走艇のすぐ傍に同じように並んで腰かけた。走艇を停めるために何もない草原を選んだせいか、なにも邪魔するものがないその場所からは夜空の星が一層近くに見える。
「前々からジータのことは気になってたんだけど、俺たちの目指してる先って全然違う場所だろ? なんかそういうことを考えたりしてると自分の気持ちとか別に言わないでいいんじゃないか、とか思ったりしてたんだよ」
ジータもそれはずっと考えていることだった。今はいい。今は一緒にいられる。けれど自分たちの目的が近づけば近づくほど離れなければいけない。どちらかが自分たちの目的を、夢を諦めることは考えられない。そうする権利もないし、諦めて欲しいとも思っていない。
「なんとなく、ジータも同じ気持ちなのかなーとは思って、でもジータは伝えようとしてくれただろ?」
ジータが今日告白することは、なんとなくミュオンもわかっていたようだ。
「まだ先のことは俺もわかんないけどさ、どうしても俺から言いたかったんだ、好きだって」
悩んでる風でもなく、諦めている風でもなく、優しく笑うミュオンにジータも拳を握った。
「私も、好きです! 私も、これからのことはわからないけど……」
「ん、じゃぁ二人で考えようぜ」
「うん!」
きっとすぐには答えは出ないだろうけれど、それでも気持ちが通じ合っているとわかっているだけでも違う。今までよりもこれからのことが楽しみで仕方ない。二人はこれからの少し先からもっと未来まで、夜が明けるのを忘れるくらい話をした。
朝、ジータとミュオンが二人が揃ってグランサイファーに帰って来たのを見たコルワとイルザが、2人の尊さに卒倒するのも、もうすぐの話だ。
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