ピエロ
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少女は、傘を片手にぺろぺろキャンディーを舐めながら現れた。
その姿は、ヒカルにとっても彼等にとっても、忘れることの出来ない存在。
「・・・・・・・・・・・ロード・・・・・」
少女は、嬉しそうに笑う。
「アレ~ン♪やっと会えたよぉ」
ロードはアレンに抱きつくと、頬をすり寄せる。
アレンは、嫌そうに、それはそれは嫌そうにされるがままになっている。
神田はというと、一瞬で再びイノセンスを発動させてアレンごとロードに襲い掛かった。
それをさらりと避けたロードは、服の埃を払いながら言う。
「何すんだよ、もう。ボクとアレンの感動の再会を邪魔すんなよぉ!」
「うるせぇ、斬る」
「僕まで斬ろうとしましたね!?ほんっと、最悪ですよ神田!」
かろうじて避けたアレンは、床に転がっていた。
「あははー!」
ロードは笑った。そして、すっとヒカルのすぐ傍に近付いた。
その間、二人は動くことが出来なかった。
「ヒカル!逃げてください!!」
「どけ!!」
神田とアレンの二人が、ヒカルに手を伸ばす。
だが、ヒカルはその手を取ることも、動くことさえ出来ない一瞬でロードに手を繋がれて二人から離された。
「今日、用があったのはこの女で、お前らじゃないんだ~」
ヒカルの耳元でくすりと笑ったロードは、小さい声で呟く。
「ヒカル、ゲームのこと話してないんだね」
「・・・・・話したらゲームオーバーだって、誰かが言ったからよ」
またロードは小さくクスクスと笑う。
「今、ボクがここでヒカルを殺したら、ゲームオーバーだよ?」
「そんなに早く、あたしをゲームオーバーにしたいわけ?ゲームは長い方が楽しいんじゃない?」
ヒカルの声は、震えていた。
それでも、死なないためにどうすればいいのか、今ヒカルはただそれだけを考えている。
言葉一つで、ロードに殺されてしまうかもしれないからだ。
ロードはそんなヒカルを知ってか知らずか、ずっと笑っている。
「・・・・やっぱり、お前を選んだのは当たりだね」
ロードはヒカルを掴んでいた手をぱっと離したかと思うと、思いっきり背中を叩きヒカルを突き飛ばした。
「がっ!・・・・・」
ぶっ飛ばされたせいか、背中を思いっきり叩かれたせいか、ヒカルは声にならない声を出し息を詰まらせながらも、咄嗟に足を動かした。
その足は、ヒカルが飛ぶ直前だったため、ロードに当たった。
「いったぁ・・・・」
ロードは、ヒカルに蹴られたお腹を抑えながら笑うと、どこからともなく現れた扉の中へと消えていった。
ヒカル、これからもっとゲームを面白くさせて見せてよ。そしたら、ボクはお前を殺さないかもしれない。
独り言のように呟かれた言葉。
その言葉は、扉の向こうのヒカルには聞こえていないけれど、少女は嬉しそうに歩き始めた。
「ヒカルっ!?」
アレンは、飛ばされたヒカルを咄嗟に支える。
「うっ・・・・・げほっ、げほっ!痛い・・・・・」
「おい、あいつに何言われた?」
神田とアレンには、二人の会話は何も聞こえていない。
ヒカルは、今の会話を二人にするわけにはいかなかった。
「あ、えっと・・・・世間話」
「・・・・・・・・」
「ヒカル・・・・・なにか、僕等に言えないようなことを、言われたんですか?」
「お願い、聞かないで」
ヒカルは、アレンの手から離れて一人で立ち上がる。
「・・・・・・・・帰るぞ」
神田は、二人を見ずに言う。
辺りの景色は、いつの間にか元の美術館の中の部屋に戻っており、廊下にはファインダーがいた。
「待って」
神田の睨む視線に、ヒカルはにっこりと笑って答えた。
「これ、あの子のお墓に埋めて来て良い?すぐに戻ってくるから」
ヒカルの手に握られていたのは、綺麗なネックレス。
「・・・・勝手にしろ」
ヒカルは、ファインダーの人に少年の名前を聞き、急いで美術館から出て近くにあった墓地へと走った。
「神田・・・・」
「ヒカルは、どうして・・・」
あんなに悲しそうに、苦しそうにしているのだろうか。
ロードと、一体何を話していたのか。
AKUMAを破壊するとき、何故止めたのか。
アレンは、そう思い神田に問う。
「俺に聞くな」
神田は、窓の端から見えるヒカルの姿を見た。
『お願い、聞かないで』
あの時の言葉が、神田の胸に今も残っていた。
一方、アレンもまたその言葉を思い返していた。
(ヒカル、君は一体・・・・・・)
彼等はそれからすぐに教団へと戻っていった。
まるで、この町に未練はないとでもいうように。
ヒカルはお土産を買いたいと駄々をこねていたようだが、これはさすがに神田の押しに負けたようで、ヒカルは電車の中では珍しくとても大人しかった。
機嫌が悪かったとも言えるが、緊張もしていたのだろうか。
ヒカルは神田とアレンから少し離れた席で、一人眠りについていた。
教団に着くと、コムイが一番に三人を出迎えた。
「おかえり、三人とも」
「ただいま、コムイさん」
「ただいまー!」
「ヒカルちゃん、調子はどう?」
「イノセンスなら、適合してないですよ。任務も不発でーす」
「そうか・・・二日後に、次の任務に行ってもらうからね。それまでに、体調を整えておくように!」
「りょうかーい!」
ヒカルは元気に返事をして、すぐに自室へと入っていってしまった。
アレンはヒカルを追いかけていたのだが、すぐに自室に入られて入れなくなってしまったのだ。
自室に入った彼女に声をかけることは、何故だか彼には出来なかった。
「アレン君は、どうかしたのかな?」
「俺に聞くな。次もまたアイツと一緒か」
神田が問うと、コムイは首を横に振った。
「次は、違うエクソシストに同行してもらうよ。だから、神田君はアレン君とこの任務!」
ピラリと見せられた紙を、神田はコムイの手から奪った。
「モヤシとだと。ふざけんな、俺一人で行く」
「文句は聞かないよ。二人で、行ってらっしゃい」
今から、アレン君を呼んでくるから~。そういって、コムイはアレンの後を追いかけた。
ヒカルは、自室に入ろうとしていたところ、リナリーに会った。
「リナリー!」
「ヒカル!帰って来たのね、おかえりなさい!」
「ただいまー」
「疲れたんじゃない?色々と大変だってことは、兄さんから少しは聞いてるけど・・・」
「あははー、なんていうか、あの二人と一緒だったから余計に疲れたんじゃないかとも思うよ、ははっ・・・・」
「神田とアレン君だったわよね?」
「そーそー、あの二人ってば、廃墟に無理やりあたしを連れてったんだよ!?酷い、酷すぎる・・・」
「でも、任務の場所だったんでしょ?仕方ないわ」
「リナリーは、二人の味方なんだね・・・寂しい」
「我侭言っちゃ駄目よ、ヒカル」
リナリーの言葉にヒカルが謝る。
「何か、リナリーお母さんみたい」
「え?そう?」
二人は、お互いに視線を合わせてクスクスと笑い出した。
「とにかくお疲れ様。次もまたすぐに任務に行くんでしょ?」
「うん、二日後だって」
「そう、じゃあ明日は一緒にご飯を食べましょう」
「絶対だからね」
そういって、ヒカルは自室へと入っていった。
リナリーは、トレーの上に乗せているいくつかのコーヒーの入ったコップを持ち、科学班の人たちのいる場所へと向かった。
そして、自室に入ったヒカルはというと、ベッドで横になっていた。
疲れたということもあってか、彼女はすぐにシャワーを浴びようと身体を起こしたが、気だるさで上手く起きれない。
というか起きるのが面倒臭くなってしまったのか、再びベッドに横になった。
仰向けに寝ると、古臭い天井が目に入る。
(AKUMA・・・・千年伯爵が作った、魂を内蔵された兵器)
ロードとの接触は予想していたより、早かった。
ヒカルは、これからの自分の行動についても考えようと思い、少しの眠りにつくのであった。
「・・・・・・・あ、アレンがいる」
廊下を歩いていたら、目の前に彼が現れて、ヒカルは寝起きの眠たい目を擦ってそう言った。
「居たら何か問題でもありますか」
「いや、ないけど・・・なんか怒ってる?」
ヒカルがそういうと、待ってましたと言わんばかりにアレンはヒカルの両肩をがしっと掴んだ。
「神田と任務なんですよ!」
「え、デート?」
「・・・・・・・・」
「ごめんごめん、冗談です。すいません。神田と、なんの任務?」
ヒカルは、すっかりアレンのおかげで目覚めた脳を使い、漫画の記憶を思い出そうとしていた。
神田とアレンの二人の任務といえば、最初の頃のマテールの亡霊ぐらいしか彼女には思い浮かばない。
(それ以外にあったっけ?でも、今ってそのだいぶ後っぽいしなぁ)
「マテールの亡霊、だそうですけど」
「・・・・・・・は?」
「なんですか、なんで君がそんなに驚くんですか?マテールの亡霊を知ってるんですか、ヒカル?」
「え、あ、いや、知らないけど・・・へー、神田と任務・・・・・た、大変だね!」
「・・・・・えぇ、まぁ」
ヒカルをじっと見つめるアレンの視線を感じたヒカルは、「あ、あたしご飯食べてこようっと!じゃあね、アレン!任務頑張ってね」
と言い、その場から逃げるようにして去っていった。
「・・・・・・・・・・・ヒカル」
アレンは、ヒカルの背中を何かを考えるようにじっと見つめていた。
彼女が廊下から姿が見えなくなるまで。
(おかしい・・・・・)
ヒカルは、食堂に着き、ご飯を食べながらも物思いに耽っていた。
(アレンと神田がマテールの亡霊に行って、それから後にロードとアレンが始めて出会って・・・・・)
ヒカルは、漫画での話を必死に思い出そうとしていた。
アレンが教団に始めて訪れたところから始まり、神田とのマテールの亡霊、リナリーとの巻き戻しの街、ノアとの初接触、ラビとの出会い―――――
思い出しても、今のヒカルのいる世界は漫画の世界とは流れが異なっていた。
彼等は既にノアの存在を知り、接触している。そして、アレンは既にラビとも出会っており、明日の朝にマテールの亡霊の任務に出発するのだという。
マテールの亡霊の話は急だったため、ろくに説明もされずに神田とアレンが列車に飛び乗り、その中でトマに説明してもらうはずだったのだ。
だが彼等はもうマテールで何をすべきか、マテールの亡霊の話も聞いてしまっている。
そして、出発はのんびりとしている。
(なぜ?どうして?)
そこでヒカルは、ふと脳裏に蘇ってきたロードと千年伯爵の言葉を思い出した。
『ちなみに、ゲームは見届けることが出来ればクリアとなるのデ、別に話の中に介入してくれても多いに構いませン!』
『つまりぃ、話を変えて展開を変えることは、アリってことだよねぇ』
『始めから知っていては、面白くないですし、何より貴方がつまらないでしょうカラ!』
彼女は、一つの仮説を立てた。
ヒカル自身がこの世界に入ることにより、既に話が変わっていたのではないか。
もしくは、漫画で読んでいたD.gray-manの世界ではなく、その世界の本当の世界がここにあるのではないだろうか。
考えてみれば、ロードたちノアがアレン達とゲームをしていたところに、ヒカルが巻き込まれたこと自体がおかしいのだ。
そんなことは、ありえるはずのない出来事なのだから。
しかし、これはいくら考えていても答えが出ないことを彼女は知っていた。
だが、アレンとロードに面識があるのにマテールの亡霊の任務がまだで、それでも神田たち他のエクソシストとアレンがある程度仲を深めているということにも、彼女は疑問を抱いていた。
(う~ん、考えれば考えるほどわからなくなってきた・・・)
「なーに難しい顔してるんさ」
ポン、と頭を叩かれたヒカルは、嫌そうな顔を彼に向けた。
「なんでそんな顔するんさ」
「べつに」
「お前、明日俺とリナリーと任務だってさ」
「え、あ、そっか・・・二日後、だっけ」
「あんま深く色々考えんなよ」
ラビは、不意にそういって食堂から去っていった。
(ラビに心配されるほど、考え込んでいたのかな・・・)
ふと、ヒカルは自分の食事を見て、彼女は目を細めた。
そして、ラビに向かって箸置きを投げつけた。
「あたしの味噌汁勝手に飲むなっ!」
「いでっ!!」
見事クリーンヒットした箸置きに、ラビは涙目になりながらもヒカルに笑いかけた。
「ヒカルは、笑ってる方が似合うさ」
(あ、今・・・・・励まされてる?)
「そっか、なんかショック・・・」
「なにが?」
「ラビに励まされてしまうなんて」
「え、なに?今何か悲しい言葉が聞こえた気がするんだけど・・・気のせい?気のせいだよな!?」
必死になってヒカルに近付いてきたラビを、ヒカルはデコピンをして笑った。
「冗談。ありがと、ラビ」
「・・・・・・ヒカルが素直なの初めて見た」
「素直じゃいけない?」
ヒカルがそう言って笑うと、ラビも赤く腫れたおでこを擦りながら笑った。
「リーバーさん、あれなんですか?」
「俺に聞くなよ、アレン。本人達に聞け」
「食堂でああいうことされると、凄い迷惑ですね」
「やきもちか?」
「まさか、僕はヒカルが好きじゃないので」
「さらりと爆弾発言するなよ・・・」
ヒカルとラビのやりとりを、アレンはただ冷たい目で見ていた。
(これは、完全にやきもちだろ・・・青春だなぁ、アレン)
最早父親のような目線で、アレンを一歩離れた場所から見守っていたリーバーは、静かに笑みをこぼした。
「どうしたんだい?リーバー君」
「あ、室長。仕事終わったんですか」
「終わらせたよ、ちゃんと。僕だって、たまにはやるよ」
「じゃ、次はこれお願いします」
どっさりと大量に置かれた新たな資料たちは、瞬く間にコムイの部屋を埋め尽くしていった。
「あれれ?リーバー君、これは何かな?」
「資料です。じゃ、失礼します」
「ちょ、ちょちょちょちょちょ!さっきリーバー君笑ってたのはコレ?コレがあるから笑ってたの!?」
「違いますよ、ちょっと先ほどアレン達の束の間の青春を見ちゃいまして」
「なにそれ・・・」
「ヒカルって、意外とモテるんじゃないすかね」
「意外とって・・・ヒカルちゃんは普通に可愛い方でしょ」
「いや、俺はてっきり美人の部類で皆近寄らないのかと」
「「・・・・・・・・・」」
コホンと咳払いをした二人は、会話を元に戻した。
「つまり、アレンとラビがヒカルを好きなんじゃないかという場面に出くわしちゃったんですよ」
「へー、いいなあ。僕も見たかったなぁ・・・神田君は、入ってないの?」
「さぁ?俺は見てませんから、そこは知りませんけど・・・入らないんじゃないすかね?」
「・・・・・どうだろうね」
意味深に呟いたコムイの言葉に、リーバーは少し驚きつつも彼はコムイの机を叩いた。
「その話はもう終わりです。この資料、頼みましたよ」
「あぁ!リーバー君!!」
彼は、コムイの部屋から出て科学班の場所へと戻っていく。
(神田もってことになると、三つ巴か・・・・キツイな)
しかし、そこまで考えてリーバーは自分の頭をかきむしった。
(何考えてんだ、俺は)
彼はむしゃくしゃした頭を放置して、タバコを一本取り出して火をつけた。
タバコの火は、廊下に吹く微かな風に流れて白い煙はゆっくりと流れて消えていく。
「さぁ、仕事だ」
リーバーは、白衣をバシッと着直して、廊下を颯爽と歩き始めた。
「―――――ってことで、次の任務頑張ってね、ヒカルちゃん」
「ってことでって、言われても・・・何も説明されてませんが?」
「細かいことは気にしない!はい、行ってらっしゃい!!」
「大丈夫よ、ヒカル。私達が任務の内容を聞いているわ」
「なんであたしには説明ないの?」
「コムイのミスだろ、いつものことさ」
リナリーとラビは、ヒカルを掴み無理やり出発した。
「なんであたしだけ―――!?」
「で、どこ行くの?」
「アレン達が行く任務地は知ってるか?」
「マテールの亡霊って言ってた」
「マテールの隣町にある、人形屋敷に私達は行くのよ」
人形屋敷という響きに、ヒカルはびくっと一瞬肩を震わせた。
「え、それって・・・・なんかホラーな感じしない?」
「昔からある人形が飾られてる美術館みたいなもんさ」
「また美術館ー!?どうせアレでしょ!!もう誰も来ることのない無人の幽霊屋敷で、中はちょっと歩くだけでミシミシ音を立てて今にも壊れそうな感じで、そこにはAKUMAとちょっとしたサプライズとして幽霊が出てくるっていうアレでしょ!!!?」
「ヒカル、落ち着いて?」
「しかもプラスするならアレね!人形が不自然に髪の毛伸ばしたり、勝手に歩いて来たり、襲ってくるんでしょ!?」
「すっげー想像力さ」
「前の任務が、トラウマになってるのかもしれないわね」
「いーやーだー!帰るっ!あたし帰って寝る!!」
「ヒカル、大丈夫よ。私がいるじゃない」
リナリーはそっとヒカルの手を握り、笑いかける。
すると、今にも怒りで大声で騒ぎそうで、まるで爆弾が爆発寸前かのようだったのだが、ヒカルは段々と落ち着いてきたのか、風船がしぼむ様にシュン、となってしまった。
「大丈夫さ、ヒカル。オレもいるし」
「ラビじゃ不安。リナリーなら安心!」
「そう、良かった」
「良くねぇさ。俺の立ち位置って・・・・・」
ラビが項垂れているのを余所目に、二人の少女はキラキラと笑いあっていた。
「冗談よラビ。ほら行きましょ?」
リナリーの言葉に、項垂れていたラビが萎れた顔のまま歩き出した。
その後、すぐに列車に乗り込み、ヒカルたちはアレンと神田を追うようにしてマテールの街へと向かった。
「そういえば、ブックマンは?」
「あぁ、ジジィならここ数日の出来事が、まだまとめれてないから行けないって言ってたさ」
「へぇ、なんか大変そう」
「帰ったらお茶を淹れてあげなくちゃ」
「じゃあ、あたしはお土産買って帰ろっかな~?」
きゃぴきゃぴと、再び話し出した二人を、ラビは微笑ましい目で見つめていた。
「どうしたの?ラビ」
「さっきから、変」
「いや、二人とも仲良いんだなぁと思って」
ラビの言葉に、二人はまたニコーッと笑う。そして、口を揃えて「仲良しだよ」と言った。
(リナリー、ヒカルが来てから元気さ・・・これで、ヒカルがエクソシストになったら・・・・・)
「そーいや、ヒカル。お前、なんかイノセンスを発動出来ないか、練習してねぇだろ」
「してないけど、なに?」
練習しなきゃ駄目なの?と、練習する気もないヒカルに、ラビとリナリーは顔を見合わせてため息をついた。
「イノセンスとのシンクロ率を上げるためには、練習もしなくちゃいけないし、上手く使いこなすためにも必要なことよ」
「そんなこと今言われても・・・・・」
「まぁ、今からでも遅くはないさ」
二人は、それからヒカルにイノセンスを発動するために、意識を集中させろだの、体内に宿るイノセンスに話しかけろだの、色々なことを言った。
しかし、一時間経っても二時間経ってもヒカルは発動できなかった。
「・・・・・ちょっと、休憩に外の風に当たってくる」
「あ、じゃあ私も―――――」
「ごめん、リナリー。ちょっと、一人にしてくれる?」
「・・・・・・・・そう、わかったわ」
ひらひらと手を振り、ヒカルは一人で列車の一番後ろへと向かった。
そこは、外の風に当たることが出来る。扉を開けた瞬間、ヒカルは気持ちの良い風に自然と伸びをした。
「んー、なんか肩凝ったかも」
扉を閉めて、そこに座りもたれかかる。
(アレンと神田、今頃何してるだろ?大丈夫かな・・・話が変わってるってことは、二人ももっ怪我とかしちゃうかもしれないんだよね・・・)
昼の空は、青々とした空に、まばゆい光の太陽が照り付けている。
ヒカルには、今はその空や太陽さえ、気味が悪いものに思えていた。
話が変わってしまっては、助けようもない。
それでは、ヒカルはこれから一体どう動いていけばいいのか。
イノセンスを無事発動できてエクソシストとなったとしても、漫画と異なる流れにいるヒカルにとってここは未知数の世界。
結局、振り出しに戻ってしまったかのような不安が、再びヒカルに迫ってきていたのだった。
「神田・・・・・ヒカルは、無事にイノセンスを発動できると思いますか?」
「・・・・・知るかよ」
「じゃあ、ヒカルにエクソシストになってほしいですか?」
「・・・・・・・・」
「僕は、彼女には出来ないし、出来て欲しくないと思ってます」
アレンは、苦しそうにそう言った。
彼女は、別世界で出会ったときも、今も普通の一般人だ。普通に生きてきたヒカルが、こんな苦しい戦いをする必要はないのだと、アレンは言う。
「アイツは、俺達とは違う」
「・・・・・・・・」
神田は、それだけ言うと、横に立てかけていた刀を取った。
「行くぞ」
丁度その時、列車は止まり、彼等は立ち上がった。
(ヒカル、君はエクソシストにはなれない。いや、ならないで欲しい)
「はっくしょん!!風邪引いたのかな・・・」
その頃ヒカルは、まだ外の風を受けていた。
(エクソシスト・・・・・イノセンスを体内に宿した寄生型、AKUMA退治、イノセンスの回収、ノアとの戦い)
彼女は、絶対にエクソシストにならなければならない理由があった。
エクソシストになれなければ、教団からの保護を受けられなくなるということ。
そして、体内にあるイノセンスを強制的に取り出されてしまうということ。
ヒカルは、元の世界に帰る為にも、ロードと伯爵により参加させられたゲームで生き残る必要がある。
それは、教団の助けとイノセンスの力がヒカルには絶対必要だった。
教団という盾と、イノセンスという矛。
彼女は、この二つを持ち、ようやくゲームで生き残る手段を得られることとなる。
この二つが欠けてしまうことは、すなわちゲームオーバーになったも同然なのだ。
(この任務中に適合できなかったら、もう後がない!)
三つの任務のうち、既に二つめに入っている。
これで適合しなかった場合は、残りのチャンスがあと一回になってしまう。
追い詰められる前に、なんとしてもヒカルはイノセンスに適合しなければならないと考えた。
(絶対、やってみせるんだから!!)
改めて色々な覚悟を決めたヒカルは、その場でイノセンスとの適合するために正座をして、目を閉じた。
体内にあるイノセンスの存在を、自分の中の感覚ではっきりとしたものにしていく。
そして、その感覚がはっきりしたとき、全ての意識をそこに集中させる。
ヒカルは、ひたすら同じ事を繰り返した。
(反復練習は、暗記の基本!)
これは勉強ではないが、ヒカルにとってはもう何でも良かった。
適合すればいいだけなのだから。
そのために、彼女は駅に着くまでの間、ずっと意識をイノセンスへと向けようと努力し続けた。
その姿は、ヒカルにとっても彼等にとっても、忘れることの出来ない存在。
「・・・・・・・・・・・ロード・・・・・」
少女は、嬉しそうに笑う。
「アレ~ン♪やっと会えたよぉ」
ロードはアレンに抱きつくと、頬をすり寄せる。
アレンは、嫌そうに、それはそれは嫌そうにされるがままになっている。
神田はというと、一瞬で再びイノセンスを発動させてアレンごとロードに襲い掛かった。
それをさらりと避けたロードは、服の埃を払いながら言う。
「何すんだよ、もう。ボクとアレンの感動の再会を邪魔すんなよぉ!」
「うるせぇ、斬る」
「僕まで斬ろうとしましたね!?ほんっと、最悪ですよ神田!」
かろうじて避けたアレンは、床に転がっていた。
「あははー!」
ロードは笑った。そして、すっとヒカルのすぐ傍に近付いた。
その間、二人は動くことが出来なかった。
「ヒカル!逃げてください!!」
「どけ!!」
神田とアレンの二人が、ヒカルに手を伸ばす。
だが、ヒカルはその手を取ることも、動くことさえ出来ない一瞬でロードに手を繋がれて二人から離された。
「今日、用があったのはこの女で、お前らじゃないんだ~」
ヒカルの耳元でくすりと笑ったロードは、小さい声で呟く。
「ヒカル、ゲームのこと話してないんだね」
「・・・・・話したらゲームオーバーだって、誰かが言ったからよ」
またロードは小さくクスクスと笑う。
「今、ボクがここでヒカルを殺したら、ゲームオーバーだよ?」
「そんなに早く、あたしをゲームオーバーにしたいわけ?ゲームは長い方が楽しいんじゃない?」
ヒカルの声は、震えていた。
それでも、死なないためにどうすればいいのか、今ヒカルはただそれだけを考えている。
言葉一つで、ロードに殺されてしまうかもしれないからだ。
ロードはそんなヒカルを知ってか知らずか、ずっと笑っている。
「・・・・やっぱり、お前を選んだのは当たりだね」
ロードはヒカルを掴んでいた手をぱっと離したかと思うと、思いっきり背中を叩きヒカルを突き飛ばした。
「がっ!・・・・・」
ぶっ飛ばされたせいか、背中を思いっきり叩かれたせいか、ヒカルは声にならない声を出し息を詰まらせながらも、咄嗟に足を動かした。
その足は、ヒカルが飛ぶ直前だったため、ロードに当たった。
「いったぁ・・・・」
ロードは、ヒカルに蹴られたお腹を抑えながら笑うと、どこからともなく現れた扉の中へと消えていった。
ヒカル、これからもっとゲームを面白くさせて見せてよ。そしたら、ボクはお前を殺さないかもしれない。
独り言のように呟かれた言葉。
その言葉は、扉の向こうのヒカルには聞こえていないけれど、少女は嬉しそうに歩き始めた。
「ヒカルっ!?」
アレンは、飛ばされたヒカルを咄嗟に支える。
「うっ・・・・・げほっ、げほっ!痛い・・・・・」
「おい、あいつに何言われた?」
神田とアレンには、二人の会話は何も聞こえていない。
ヒカルは、今の会話を二人にするわけにはいかなかった。
「あ、えっと・・・・世間話」
「・・・・・・・・」
「ヒカル・・・・・なにか、僕等に言えないようなことを、言われたんですか?」
「お願い、聞かないで」
ヒカルは、アレンの手から離れて一人で立ち上がる。
「・・・・・・・・帰るぞ」
神田は、二人を見ずに言う。
辺りの景色は、いつの間にか元の美術館の中の部屋に戻っており、廊下にはファインダーがいた。
「待って」
神田の睨む視線に、ヒカルはにっこりと笑って答えた。
「これ、あの子のお墓に埋めて来て良い?すぐに戻ってくるから」
ヒカルの手に握られていたのは、綺麗なネックレス。
「・・・・勝手にしろ」
ヒカルは、ファインダーの人に少年の名前を聞き、急いで美術館から出て近くにあった墓地へと走った。
「神田・・・・」
「ヒカルは、どうして・・・」
あんなに悲しそうに、苦しそうにしているのだろうか。
ロードと、一体何を話していたのか。
AKUMAを破壊するとき、何故止めたのか。
アレンは、そう思い神田に問う。
「俺に聞くな」
神田は、窓の端から見えるヒカルの姿を見た。
『お願い、聞かないで』
あの時の言葉が、神田の胸に今も残っていた。
一方、アレンもまたその言葉を思い返していた。
(ヒカル、君は一体・・・・・・)
彼等はそれからすぐに教団へと戻っていった。
まるで、この町に未練はないとでもいうように。
ヒカルはお土産を買いたいと駄々をこねていたようだが、これはさすがに神田の押しに負けたようで、ヒカルは電車の中では珍しくとても大人しかった。
機嫌が悪かったとも言えるが、緊張もしていたのだろうか。
ヒカルは神田とアレンから少し離れた席で、一人眠りについていた。
教団に着くと、コムイが一番に三人を出迎えた。
「おかえり、三人とも」
「ただいま、コムイさん」
「ただいまー!」
「ヒカルちゃん、調子はどう?」
「イノセンスなら、適合してないですよ。任務も不発でーす」
「そうか・・・二日後に、次の任務に行ってもらうからね。それまでに、体調を整えておくように!」
「りょうかーい!」
ヒカルは元気に返事をして、すぐに自室へと入っていってしまった。
アレンはヒカルを追いかけていたのだが、すぐに自室に入られて入れなくなってしまったのだ。
自室に入った彼女に声をかけることは、何故だか彼には出来なかった。
「アレン君は、どうかしたのかな?」
「俺に聞くな。次もまたアイツと一緒か」
神田が問うと、コムイは首を横に振った。
「次は、違うエクソシストに同行してもらうよ。だから、神田君はアレン君とこの任務!」
ピラリと見せられた紙を、神田はコムイの手から奪った。
「モヤシとだと。ふざけんな、俺一人で行く」
「文句は聞かないよ。二人で、行ってらっしゃい」
今から、アレン君を呼んでくるから~。そういって、コムイはアレンの後を追いかけた。
ヒカルは、自室に入ろうとしていたところ、リナリーに会った。
「リナリー!」
「ヒカル!帰って来たのね、おかえりなさい!」
「ただいまー」
「疲れたんじゃない?色々と大変だってことは、兄さんから少しは聞いてるけど・・・」
「あははー、なんていうか、あの二人と一緒だったから余計に疲れたんじゃないかとも思うよ、ははっ・・・・」
「神田とアレン君だったわよね?」
「そーそー、あの二人ってば、廃墟に無理やりあたしを連れてったんだよ!?酷い、酷すぎる・・・」
「でも、任務の場所だったんでしょ?仕方ないわ」
「リナリーは、二人の味方なんだね・・・寂しい」
「我侭言っちゃ駄目よ、ヒカル」
リナリーの言葉にヒカルが謝る。
「何か、リナリーお母さんみたい」
「え?そう?」
二人は、お互いに視線を合わせてクスクスと笑い出した。
「とにかくお疲れ様。次もまたすぐに任務に行くんでしょ?」
「うん、二日後だって」
「そう、じゃあ明日は一緒にご飯を食べましょう」
「絶対だからね」
そういって、ヒカルは自室へと入っていった。
リナリーは、トレーの上に乗せているいくつかのコーヒーの入ったコップを持ち、科学班の人たちのいる場所へと向かった。
そして、自室に入ったヒカルはというと、ベッドで横になっていた。
疲れたということもあってか、彼女はすぐにシャワーを浴びようと身体を起こしたが、気だるさで上手く起きれない。
というか起きるのが面倒臭くなってしまったのか、再びベッドに横になった。
仰向けに寝ると、古臭い天井が目に入る。
(AKUMA・・・・千年伯爵が作った、魂を内蔵された兵器)
ロードとの接触は予想していたより、早かった。
ヒカルは、これからの自分の行動についても考えようと思い、少しの眠りにつくのであった。
「・・・・・・・あ、アレンがいる」
廊下を歩いていたら、目の前に彼が現れて、ヒカルは寝起きの眠たい目を擦ってそう言った。
「居たら何か問題でもありますか」
「いや、ないけど・・・なんか怒ってる?」
ヒカルがそういうと、待ってましたと言わんばかりにアレンはヒカルの両肩をがしっと掴んだ。
「神田と任務なんですよ!」
「え、デート?」
「・・・・・・・・」
「ごめんごめん、冗談です。すいません。神田と、なんの任務?」
ヒカルは、すっかりアレンのおかげで目覚めた脳を使い、漫画の記憶を思い出そうとしていた。
神田とアレンの二人の任務といえば、最初の頃のマテールの亡霊ぐらいしか彼女には思い浮かばない。
(それ以外にあったっけ?でも、今ってそのだいぶ後っぽいしなぁ)
「マテールの亡霊、だそうですけど」
「・・・・・・・は?」
「なんですか、なんで君がそんなに驚くんですか?マテールの亡霊を知ってるんですか、ヒカル?」
「え、あ、いや、知らないけど・・・へー、神田と任務・・・・・た、大変だね!」
「・・・・・えぇ、まぁ」
ヒカルをじっと見つめるアレンの視線を感じたヒカルは、「あ、あたしご飯食べてこようっと!じゃあね、アレン!任務頑張ってね」
と言い、その場から逃げるようにして去っていった。
「・・・・・・・・・・・ヒカル」
アレンは、ヒカルの背中を何かを考えるようにじっと見つめていた。
彼女が廊下から姿が見えなくなるまで。
(おかしい・・・・・)
ヒカルは、食堂に着き、ご飯を食べながらも物思いに耽っていた。
(アレンと神田がマテールの亡霊に行って、それから後にロードとアレンが始めて出会って・・・・・)
ヒカルは、漫画での話を必死に思い出そうとしていた。
アレンが教団に始めて訪れたところから始まり、神田とのマテールの亡霊、リナリーとの巻き戻しの街、ノアとの初接触、ラビとの出会い―――――
思い出しても、今のヒカルのいる世界は漫画の世界とは流れが異なっていた。
彼等は既にノアの存在を知り、接触している。そして、アレンは既にラビとも出会っており、明日の朝にマテールの亡霊の任務に出発するのだという。
マテールの亡霊の話は急だったため、ろくに説明もされずに神田とアレンが列車に飛び乗り、その中でトマに説明してもらうはずだったのだ。
だが彼等はもうマテールで何をすべきか、マテールの亡霊の話も聞いてしまっている。
そして、出発はのんびりとしている。
(なぜ?どうして?)
そこでヒカルは、ふと脳裏に蘇ってきたロードと千年伯爵の言葉を思い出した。
『ちなみに、ゲームは見届けることが出来ればクリアとなるのデ、別に話の中に介入してくれても多いに構いませン!』
『つまりぃ、話を変えて展開を変えることは、アリってことだよねぇ』
『始めから知っていては、面白くないですし、何より貴方がつまらないでしょうカラ!』
彼女は、一つの仮説を立てた。
ヒカル自身がこの世界に入ることにより、既に話が変わっていたのではないか。
もしくは、漫画で読んでいたD.gray-manの世界ではなく、その世界の本当の世界がここにあるのではないだろうか。
考えてみれば、ロードたちノアがアレン達とゲームをしていたところに、ヒカルが巻き込まれたこと自体がおかしいのだ。
そんなことは、ありえるはずのない出来事なのだから。
しかし、これはいくら考えていても答えが出ないことを彼女は知っていた。
だが、アレンとロードに面識があるのにマテールの亡霊の任務がまだで、それでも神田たち他のエクソシストとアレンがある程度仲を深めているということにも、彼女は疑問を抱いていた。
(う~ん、考えれば考えるほどわからなくなってきた・・・)
「なーに難しい顔してるんさ」
ポン、と頭を叩かれたヒカルは、嫌そうな顔を彼に向けた。
「なんでそんな顔するんさ」
「べつに」
「お前、明日俺とリナリーと任務だってさ」
「え、あ、そっか・・・二日後、だっけ」
「あんま深く色々考えんなよ」
ラビは、不意にそういって食堂から去っていった。
(ラビに心配されるほど、考え込んでいたのかな・・・)
ふと、ヒカルは自分の食事を見て、彼女は目を細めた。
そして、ラビに向かって箸置きを投げつけた。
「あたしの味噌汁勝手に飲むなっ!」
「いでっ!!」
見事クリーンヒットした箸置きに、ラビは涙目になりながらもヒカルに笑いかけた。
「ヒカルは、笑ってる方が似合うさ」
(あ、今・・・・・励まされてる?)
「そっか、なんかショック・・・」
「なにが?」
「ラビに励まされてしまうなんて」
「え、なに?今何か悲しい言葉が聞こえた気がするんだけど・・・気のせい?気のせいだよな!?」
必死になってヒカルに近付いてきたラビを、ヒカルはデコピンをして笑った。
「冗談。ありがと、ラビ」
「・・・・・・ヒカルが素直なの初めて見た」
「素直じゃいけない?」
ヒカルがそう言って笑うと、ラビも赤く腫れたおでこを擦りながら笑った。
「リーバーさん、あれなんですか?」
「俺に聞くなよ、アレン。本人達に聞け」
「食堂でああいうことされると、凄い迷惑ですね」
「やきもちか?」
「まさか、僕はヒカルが好きじゃないので」
「さらりと爆弾発言するなよ・・・」
ヒカルとラビのやりとりを、アレンはただ冷たい目で見ていた。
(これは、完全にやきもちだろ・・・青春だなぁ、アレン)
最早父親のような目線で、アレンを一歩離れた場所から見守っていたリーバーは、静かに笑みをこぼした。
「どうしたんだい?リーバー君」
「あ、室長。仕事終わったんですか」
「終わらせたよ、ちゃんと。僕だって、たまにはやるよ」
「じゃ、次はこれお願いします」
どっさりと大量に置かれた新たな資料たちは、瞬く間にコムイの部屋を埋め尽くしていった。
「あれれ?リーバー君、これは何かな?」
「資料です。じゃ、失礼します」
「ちょ、ちょちょちょちょちょ!さっきリーバー君笑ってたのはコレ?コレがあるから笑ってたの!?」
「違いますよ、ちょっと先ほどアレン達の束の間の青春を見ちゃいまして」
「なにそれ・・・」
「ヒカルって、意外とモテるんじゃないすかね」
「意外とって・・・ヒカルちゃんは普通に可愛い方でしょ」
「いや、俺はてっきり美人の部類で皆近寄らないのかと」
「「・・・・・・・・・」」
コホンと咳払いをした二人は、会話を元に戻した。
「つまり、アレンとラビがヒカルを好きなんじゃないかという場面に出くわしちゃったんですよ」
「へー、いいなあ。僕も見たかったなぁ・・・神田君は、入ってないの?」
「さぁ?俺は見てませんから、そこは知りませんけど・・・入らないんじゃないすかね?」
「・・・・・どうだろうね」
意味深に呟いたコムイの言葉に、リーバーは少し驚きつつも彼はコムイの机を叩いた。
「その話はもう終わりです。この資料、頼みましたよ」
「あぁ!リーバー君!!」
彼は、コムイの部屋から出て科学班の場所へと戻っていく。
(神田もってことになると、三つ巴か・・・・キツイな)
しかし、そこまで考えてリーバーは自分の頭をかきむしった。
(何考えてんだ、俺は)
彼はむしゃくしゃした頭を放置して、タバコを一本取り出して火をつけた。
タバコの火は、廊下に吹く微かな風に流れて白い煙はゆっくりと流れて消えていく。
「さぁ、仕事だ」
リーバーは、白衣をバシッと着直して、廊下を颯爽と歩き始めた。
「―――――ってことで、次の任務頑張ってね、ヒカルちゃん」
「ってことでって、言われても・・・何も説明されてませんが?」
「細かいことは気にしない!はい、行ってらっしゃい!!」
「大丈夫よ、ヒカル。私達が任務の内容を聞いているわ」
「なんであたしには説明ないの?」
「コムイのミスだろ、いつものことさ」
リナリーとラビは、ヒカルを掴み無理やり出発した。
「なんであたしだけ―――!?」
「で、どこ行くの?」
「アレン達が行く任務地は知ってるか?」
「マテールの亡霊って言ってた」
「マテールの隣町にある、人形屋敷に私達は行くのよ」
人形屋敷という響きに、ヒカルはびくっと一瞬肩を震わせた。
「え、それって・・・・なんかホラーな感じしない?」
「昔からある人形が飾られてる美術館みたいなもんさ」
「また美術館ー!?どうせアレでしょ!!もう誰も来ることのない無人の幽霊屋敷で、中はちょっと歩くだけでミシミシ音を立てて今にも壊れそうな感じで、そこにはAKUMAとちょっとしたサプライズとして幽霊が出てくるっていうアレでしょ!!!?」
「ヒカル、落ち着いて?」
「しかもプラスするならアレね!人形が不自然に髪の毛伸ばしたり、勝手に歩いて来たり、襲ってくるんでしょ!?」
「すっげー想像力さ」
「前の任務が、トラウマになってるのかもしれないわね」
「いーやーだー!帰るっ!あたし帰って寝る!!」
「ヒカル、大丈夫よ。私がいるじゃない」
リナリーはそっとヒカルの手を握り、笑いかける。
すると、今にも怒りで大声で騒ぎそうで、まるで爆弾が爆発寸前かのようだったのだが、ヒカルは段々と落ち着いてきたのか、風船がしぼむ様にシュン、となってしまった。
「大丈夫さ、ヒカル。オレもいるし」
「ラビじゃ不安。リナリーなら安心!」
「そう、良かった」
「良くねぇさ。俺の立ち位置って・・・・・」
ラビが項垂れているのを余所目に、二人の少女はキラキラと笑いあっていた。
「冗談よラビ。ほら行きましょ?」
リナリーの言葉に、項垂れていたラビが萎れた顔のまま歩き出した。
その後、すぐに列車に乗り込み、ヒカルたちはアレンと神田を追うようにしてマテールの街へと向かった。
「そういえば、ブックマンは?」
「あぁ、ジジィならここ数日の出来事が、まだまとめれてないから行けないって言ってたさ」
「へぇ、なんか大変そう」
「帰ったらお茶を淹れてあげなくちゃ」
「じゃあ、あたしはお土産買って帰ろっかな~?」
きゃぴきゃぴと、再び話し出した二人を、ラビは微笑ましい目で見つめていた。
「どうしたの?ラビ」
「さっきから、変」
「いや、二人とも仲良いんだなぁと思って」
ラビの言葉に、二人はまたニコーッと笑う。そして、口を揃えて「仲良しだよ」と言った。
(リナリー、ヒカルが来てから元気さ・・・これで、ヒカルがエクソシストになったら・・・・・)
「そーいや、ヒカル。お前、なんかイノセンスを発動出来ないか、練習してねぇだろ」
「してないけど、なに?」
練習しなきゃ駄目なの?と、練習する気もないヒカルに、ラビとリナリーは顔を見合わせてため息をついた。
「イノセンスとのシンクロ率を上げるためには、練習もしなくちゃいけないし、上手く使いこなすためにも必要なことよ」
「そんなこと今言われても・・・・・」
「まぁ、今からでも遅くはないさ」
二人は、それからヒカルにイノセンスを発動するために、意識を集中させろだの、体内に宿るイノセンスに話しかけろだの、色々なことを言った。
しかし、一時間経っても二時間経ってもヒカルは発動できなかった。
「・・・・・ちょっと、休憩に外の風に当たってくる」
「あ、じゃあ私も―――――」
「ごめん、リナリー。ちょっと、一人にしてくれる?」
「・・・・・・・・そう、わかったわ」
ひらひらと手を振り、ヒカルは一人で列車の一番後ろへと向かった。
そこは、外の風に当たることが出来る。扉を開けた瞬間、ヒカルは気持ちの良い風に自然と伸びをした。
「んー、なんか肩凝ったかも」
扉を閉めて、そこに座りもたれかかる。
(アレンと神田、今頃何してるだろ?大丈夫かな・・・話が変わってるってことは、二人ももっ怪我とかしちゃうかもしれないんだよね・・・)
昼の空は、青々とした空に、まばゆい光の太陽が照り付けている。
ヒカルには、今はその空や太陽さえ、気味が悪いものに思えていた。
話が変わってしまっては、助けようもない。
それでは、ヒカルはこれから一体どう動いていけばいいのか。
イノセンスを無事発動できてエクソシストとなったとしても、漫画と異なる流れにいるヒカルにとってここは未知数の世界。
結局、振り出しに戻ってしまったかのような不安が、再びヒカルに迫ってきていたのだった。
「神田・・・・・ヒカルは、無事にイノセンスを発動できると思いますか?」
「・・・・・知るかよ」
「じゃあ、ヒカルにエクソシストになってほしいですか?」
「・・・・・・・・」
「僕は、彼女には出来ないし、出来て欲しくないと思ってます」
アレンは、苦しそうにそう言った。
彼女は、別世界で出会ったときも、今も普通の一般人だ。普通に生きてきたヒカルが、こんな苦しい戦いをする必要はないのだと、アレンは言う。
「アイツは、俺達とは違う」
「・・・・・・・・」
神田は、それだけ言うと、横に立てかけていた刀を取った。
「行くぞ」
丁度その時、列車は止まり、彼等は立ち上がった。
(ヒカル、君はエクソシストにはなれない。いや、ならないで欲しい)
「はっくしょん!!風邪引いたのかな・・・」
その頃ヒカルは、まだ外の風を受けていた。
(エクソシスト・・・・・イノセンスを体内に宿した寄生型、AKUMA退治、イノセンスの回収、ノアとの戦い)
彼女は、絶対にエクソシストにならなければならない理由があった。
エクソシストになれなければ、教団からの保護を受けられなくなるということ。
そして、体内にあるイノセンスを強制的に取り出されてしまうということ。
ヒカルは、元の世界に帰る為にも、ロードと伯爵により参加させられたゲームで生き残る必要がある。
それは、教団の助けとイノセンスの力がヒカルには絶対必要だった。
教団という盾と、イノセンスという矛。
彼女は、この二つを持ち、ようやくゲームで生き残る手段を得られることとなる。
この二つが欠けてしまうことは、すなわちゲームオーバーになったも同然なのだ。
(この任務中に適合できなかったら、もう後がない!)
三つの任務のうち、既に二つめに入っている。
これで適合しなかった場合は、残りのチャンスがあと一回になってしまう。
追い詰められる前に、なんとしてもヒカルはイノセンスに適合しなければならないと考えた。
(絶対、やってみせるんだから!!)
改めて色々な覚悟を決めたヒカルは、その場でイノセンスとの適合するために正座をして、目を閉じた。
体内にあるイノセンスの存在を、自分の中の感覚ではっきりとしたものにしていく。
そして、その感覚がはっきりしたとき、全ての意識をそこに集中させる。
ヒカルは、ひたすら同じ事を繰り返した。
(反復練習は、暗記の基本!)
これは勉強ではないが、ヒカルにとってはもう何でも良かった。
適合すればいいだけなのだから。
そのために、彼女は駅に着くまでの間、ずっと意識をイノセンスへと向けようと努力し続けた。