ピエロ
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「どうだったぁ?」
「ロード・キャメロット・・・・・・・・」
「やっぱりボクの名前、知ってるんだね」
知っている。
だって、彼女はあたしの知ってる漫画の―――
気付けば周りの景色は、ゴシック系の部屋に変わっていて、真ん中にテーブルと椅子があってそこには豪勢な食事が用意されていた。ロードは、嬉しそうにあたしの手をとりその席へと座らせてくれて、自分も向かい側の席に座り、グラスを手に取った。
「かんぱーい♪」
「・・・・・・・・・・かんぱい」
何に乾杯なのかよくわからないが、彼女はすごく嬉しそうだ。
目の前にある豪勢な料理を少し口にし、あたしにも食べるようにと彼女は言ってくれた。
確かにお腹も空いていたので、サラダから少し食べていく。
(あ、おいし・・・・)
ラディッシュは可愛く花形に切られているし、一枚のチコリにキャビアのような小さい粒とポテトサラダのようなものが添えられている。
気付けば、バクバクと色んなものを食していた。
洋食で、メイン料理はボリュームも凄くて、それでいて全部食べてしまえるような美味しさがあった。
ステーキはミディアムレア。
肉々しいはずの油も、添えられているラズベリーソースと見事に合い、さらりと食べてしまえる。
まだ未成年で高級料理店なんてものに入ったことはないが、きっとそんなお店で食べられるような代物たちだったであろうことは、自分の中でも理解できた。
「おいしかったー」
あまりの美味しさに、感想がそれしか言えない。
「良かったぁ。ヒカルのために用意したんだよぉ」
「それはどうも。で?」
あたしは、満腹になったお腹を撫でながら、ロードにあたしをここに呼び出した用件を尋ねた。
いくら美味しい料理を食べても、知らない世界にいるより、早く自分の世界に戻りたいのは当然だろう。
「憶えてないの?ボクと千年公と約束したじゃんかぁ~」
「約束・・・・・?」
ヒカルは、頭をフル回転させて考えた。
だが、どう考えてもある一点で記憶が止まる。思い出せなかった。
「あはは、そうだよねぇ。記憶が飛んじゃったんだよね。思い出させてあげるよ」
そういって、ロードはヒカルの前に頬杖をついて話し出した。
何ヶ月か前、ヒカルはその日災難続きだった。
ずっと愛用していた携帯が、朝の学校への登校中に急な雨により壊れた。
そして、教科書たちにまで浸透した雨の水のせいで、教科書やノートの悲惨な状態を皆に笑われる。
挙句の果てには、学校の教師にまで笑われた。
さらには、弁当を持ってくるのを忘れたヒカルは、購買に買いに行ったが人の混み具合が半端なく、何も買えず昼ご飯はなし。
昼の後の五限目の授業は移動教室で、ふやけた教科書を持ち慌てて行くが、購買の混み具合のせいかチャイムはヒカルが廊下を走っていた途中で鳴り止んでしまう。
遅刻決定だとわかったヒカルは、もう災難続きだと一人廊下で呻きながら教室の扉を開けた。
その後は、ふやけた教科書を友達にまた笑われて、それからちょっと雑談をして授業中だと先生に怒られるのだろう。
そんな出来事を想像して扉を開けた。
だが、次の瞬間彼女は扉に足を踏み入れてしまった。
前を見ていなかった彼女は気付かなかったのだ。
目の前の扉の奥には何もなく、ただひたすらに暗く何もない空間だということに。
その中に、ヒカルはまるで吸い込まれるように堕ちていった。
「ぎいいやああああああああああああ!!」
化物のような叫び声が、暗い空間に響き渡っても誰も助けは来ない。
どんどん、どんどん深みに堕ちて行く。
どこまでも、どこまでも。
ずっと、ずっと堕ちていく。
下から上がってくる強風のような風が髪や制服を揺らす。
下に落ちていくような感覚と、体内の臓器がふんわりと一瞬浮き上がるような変な感覚がある。
重力が下に引っ張られるように、体が横になっていく。
だが、落ちれば落ちていくほどに、ヒカルは冷静になっていった。
この穴は、どれだけ深いのだろうか。
というか、そもそもここは教室ではなかったのか。
何がどうなって、どうして今自分がこの場所で落ち続けているのか。
いくら考えても解けない問題に、ヒカルは頭を悩ませていた。
仕舞いには、ヒカルは胡坐を掻いて空中で首を傾げ始める。
それほどまでに、長い時間、彼女は落ち続けていた。
最初の堕ちて行くような不安は、もうどこかに消え去ってしまっていた。
そんな時、不意に誰かの笑い声が聞こえた。
それは、どこからともなく現れた。
傘を広げてゆらゆらと。
ゆっくりと、それはヒカルの前に止まった。
「大当たりいいぃ~♪」
「レロ!」
「おめでと~!お前が、当たりくじだよぉ♪」
そこへ千年公と、ロードが現れた。
「当たりって・・・どういうこと?」
「当たりは当たりですヨ」
「お前は、僕らの世界でゲームをする参加資格を得たのさ」
驚いて声も出ないヒカルに、二人は嬉しそうに話を続ける。
「僕らの世界で、お前が無事ゲームの最後を見届けることが出来たらお前の勝ち」
「途中で死んだら、そこでゲームオーバー。簡単なゲームというわけデス」
「ちょ、ちょっと待って!あたし、ゲームとかそういうの興味ないし!ていうか、早く授業に出ないと遅刻から欠席扱いに変わっちゃうから!!」
「ゲームに参加するって言ったら、ここから出してあげるよ?」
「な、なんて横暴なの?!!ありえない!」
「ちなみに、ゲームは見届けることが出来ればクリアとなるのデ、別に何もしなくても構いませン!」
「つまりぃ、ゲームの中では何をしても良い! ってことだよねぇ」
「貴方がつまらないでしょうカラ、面白く脚色するのもいいでショウ!」
踏ん反り返って、千年公は言う。
「わああああ!千年公ってばやっさしいいい!!!」
「レロは、ロードたまも優しいと思うレロ!」
「きゃあああああ!レロも好きいいいい!!!」
ヒカルは、まさに開いた口が塞がらない状況に陥っていた。
訳の分からない二人と、一匹?本当に、彼等は自分とは違うのだとヒカルは思った。
別の世界の人間だと。
「え、なに?どこから否定すればいいの?この部屋のありえなさからですか?」
「ここはボクが作った特別な空間だよぉ。お前がゲームを断れば、すぐにでも地面を作り出して殺してやるよ♪」
本気とは思えない冗談。だが、ロードの目を見たヒカルは怯えた。
まるで、それは彼女にとって造作もないような、簡単なことなのだと思ってしまったのだ。
逆らえば殺される。
彼等に何の危害も加えられていないヒカルだが、漠然と彼等の危険性を第六感が感知したのかもしれない。
それでも、ヒカルはゲームに参加することだけは、頑なに拒んだ。
「嫌ったら嫌。別の世界? 行きたいなんて言うわけないじゃない」
自分がこれまで何年も生きてきた世界から、別の世界に移動する。
そんな非科学的で、夢のような出来事まで信じるような年頃ではなくなっていたし、彼女は今の自分の世界がそれなりに気に入っていた。
嫌なことや、つまらないと思うことはあっても、次の日になれば楽しいことがあるのだと知っているからだ。
それを急に、大切な人や友達と離れてゲームに強制参加させられる。
しかも、変な落ちる部屋に入ってしまったその部屋に現れた、変な人たちによって。変な世界であることは、目に見えてわかっている。
彼等がおかしいのだから。
しかも、ゲームというわりにはリアルなRPGの世界ではないか。
死んだらゲームオーバー、普通のゲームならあっそう、と納得もできたところだが、これは生身の人間がするゲームだという。
死んだら終わりって、本当に終わってしまうではないか。
恐怖がヒカルの体中を駆け巡る。
ゲームのルールも詳しく説明されないまま、訳の分からない変人達とはヒカルはもう話したくはなかった。
「しょうがないですネ」
だから、千年公がしょんぼりと肩を下げて言ったとき、ヒカルは勝ったのだと思った。
まるで、しつこくて陰湿なセールスマンに口で勝てたかのような優越感に浸った瞬間、
「じゃあ、似た世界でまずは疑似体験をしてもらえば? 眺めてるだけで良いよ。そういうゲームだからさ♪」
ロードは、ヒカルの下に扉を作り出し、その扉を開けた。
「え、ちょ・・・っ!?」
「困惑して楽しめなかったらダメだから、そっちにいる間はコッチの記憶を隠しておいてあげる。じゃ、ばいばーい♪ またね」
ヒカルの意見は、全く無視されたままゲームの疑似体験が開始された。
「ってなわけで、ヒカルと似た世界に飛ばしたのはいいんだけど、ヒカルの記憶がなんか途中まで飛んじゃってたみたいで・・・」
「・・・・・・・・思い出した!アナタは、あのときの!?」
(ていうかDグレの漫画の敵キャラじゃん!?)
ヒカルが指差してわなわなと震えながら言うと、ロードはにやりと笑った。
「あははっ何震えてるのぉ?怖い?ボクが」
「怒りで震えてんのよっ!早くあたしを自分の世界に帰して!あと、アレンたちが石みたいに固まってるのも、どうにかして!」
「ヒカルは途中までボクらの世界を知ってるんでしょぉ?」
「・・・・・・・」
ヒカルは、その言葉を聞いて言葉が出なくなった。
「漫画の世界でさ。ボクや、アレンたちのこと知ってるんだよね」
「何で・・・・それを、アンタが知ってんのよ?」
「ヒカルがさっきまでいた世界で見たんだぁ。アレンたちは気付かなかったみたいだけど」
さっきまでいた世界は、ヒカルの記憶を模したもの。
そこにあるものは全てヒカルが知っているものしか存在しない。
その中にあった本の数々の中から、ロードは自分たちが登場する漫画を発見していた。
「じゃあ、ウォーカーく・・・・アレンたちって・・・」
「ヒカルでいうと、漫画の世界の住人だよぉ。ボクがアレンたちとゲームするのにピッタリの場所だったんだぁ♪負けちゃったけどねぇ」
そして、また次はヒカルがゲームをする番だと、笑いながら言う彼女。
バカにしないで!と怒鳴ってみても、彼女はクスクスと笑うだけ。
ロードは、グラスを持って中のジュースを揺らしながら言う。
「ちなみにぃ、アレンたちがゲームしていた内容はね」
「この世界に居てはいけない者を、見つけること」
「っ!?」
「見つけたら、その子はイノセンスを持ってるから教団に持っていっていいよって、教えてあげたんだよぉ♪」
「誰が、イノセンスを持ってる、って・・・・・・」
「お前だよぉ。お前の中に、イノセンスが眠ってるのさ」
「じゃあ、なんで壊さないのよ」
「簡単に壊してたら面白くないじゃーん。千年公が考えた、新しいシナリオにお前がいるんだよ、ヒカル」
本当に、これは彼女にとってゲームなのだと理解した。
漫画で読んでいて思ったとおり、彼女は危険だ。
一般人のあたしとは考え方が違いすぎる。
「じゃあ、このゲーム降りる」
「降りる場合もゲームオーバー」
「だからなんでよ!!」
「ボクは別にいいんだよ、ヒカルがゲームオーバーになっても」
「あたしの世界に帰してよ。あたしの世界で他の人にでもゲームに付き合ってもらえばいいじゃない。あたしは平凡に平和に過ごしたいの」
ロードは、あたしの言葉を聞いてにやりと笑った。
「うるさいなぁ、いいから早くやろうよぉ」
ロードは、いつの間にか自分の後ろに扉を作り出した。
扉は開き、中は暗く先が見えない。
「そんなとこに入れって!?」
「アレンたちなら、世界に戻したよ。ヒカルのこともちゃんと憶えていて、お前を待ってる」
「…………ルールを、教えなさいよ」
クスクスと笑いながらロードはあたしに近付いてくる。
ルール① ボクらノアやAKUMAに殺されるとゲームオーバー
ルール② ゲーム終了までヒカルの世界には帰れない
ルール③ ボクら以外にこのゲームを話すのは禁止
指折り数え、あたしの周りをぐるぐる回りながらロードは三つのルールを告げた。
「で、ゲームのクリア条件が、世界の結末を見届ける。合ってる?」
「そう。ボクはヒカルを狙って殺すために探したりはしないよ。そういうゲームじゃないし。でも……」
ロードは持っていたペロペロキャンディーを自ら落とす。
暗くて底が見えないこの場所にも地面はあり、ガッと小さい鈍い音と共に、キャンディーにヒビが入る。
それを無表情で見ていたロードは、そのまま足を上げた。
そして、落ちたキャンディーは踏み潰されて粉々になる。
無残に砕けた欠片を、彼女は気にも留めない。
そしてニィ、と粘りつくような笑みを浮かべ、あたしに抱きついてきた。
「ボクはぁ、ヒカルの血を早く浴びたいなぁ」
あたしの首を緩やかに両手で覆い、うっとりとした声でロードは言う。
首を絞め殺されることは今はないだろうけれど、覆われているというだけで少し息苦しい。
(条件が厳しいとか、そういうこと言える相手じゃない……下手なことをこれ以上話すのもヤバイ…………)
「わ、わかったわよ!ゲームに参加するから、離れて!」
「冷たいよぉ」
「アンタが怖すぎるの!」
またクスクスとロードは笑い、ハンカチを取り出してひらひらさせて「いってらっしゃーい♪」と満面の笑みで言う。
あたしは、激しい憂鬱な気分と物凄い不安を抱えて、赤のギンガムチェックの扉を潜り抜けた。
「行って来ます」
「守備はどうですカ?ロード」
「千年公~♪」
千年伯爵に抱きついたロードは、無邪気な笑顔で笑う。
「レロは~?」
「あのコにはちょっと頼みごとをしてるんですよネ」
「んー、レロがいないとつまんないよぉ」
「次来る時には連れて来ますヨ、ロード」
「ほんとにぃ!?千年公、ありがと~!」
ぎゅっと抱きついていたロードは、不意にゆるりと千年公から離れて笑う。
「ヒカルはね、良い感じだよぉ。シナリオ通りだもん」
「そうですカ、それは良かったデス。カノジョは我々にとって必要な存在ですしネ」
ロードは踏み潰した飴を拾い、その尖った部分で腕をなぞる。
腕から薄く血が滲み、それを見てロードはうっとりとした。
「待ってるよ、ヒカル」
腕から流れた血は、床にポタリと零れ落ちた。
「ロード・キャメロット・・・・・・・・」
「やっぱりボクの名前、知ってるんだね」
知っている。
だって、彼女はあたしの知ってる漫画の―――
気付けば周りの景色は、ゴシック系の部屋に変わっていて、真ん中にテーブルと椅子があってそこには豪勢な食事が用意されていた。ロードは、嬉しそうにあたしの手をとりその席へと座らせてくれて、自分も向かい側の席に座り、グラスを手に取った。
「かんぱーい♪」
「・・・・・・・・・・かんぱい」
何に乾杯なのかよくわからないが、彼女はすごく嬉しそうだ。
目の前にある豪勢な料理を少し口にし、あたしにも食べるようにと彼女は言ってくれた。
確かにお腹も空いていたので、サラダから少し食べていく。
(あ、おいし・・・・)
ラディッシュは可愛く花形に切られているし、一枚のチコリにキャビアのような小さい粒とポテトサラダのようなものが添えられている。
気付けば、バクバクと色んなものを食していた。
洋食で、メイン料理はボリュームも凄くて、それでいて全部食べてしまえるような美味しさがあった。
ステーキはミディアムレア。
肉々しいはずの油も、添えられているラズベリーソースと見事に合い、さらりと食べてしまえる。
まだ未成年で高級料理店なんてものに入ったことはないが、きっとそんなお店で食べられるような代物たちだったであろうことは、自分の中でも理解できた。
「おいしかったー」
あまりの美味しさに、感想がそれしか言えない。
「良かったぁ。ヒカルのために用意したんだよぉ」
「それはどうも。で?」
あたしは、満腹になったお腹を撫でながら、ロードにあたしをここに呼び出した用件を尋ねた。
いくら美味しい料理を食べても、知らない世界にいるより、早く自分の世界に戻りたいのは当然だろう。
「憶えてないの?ボクと千年公と約束したじゃんかぁ~」
「約束・・・・・?」
ヒカルは、頭をフル回転させて考えた。
だが、どう考えてもある一点で記憶が止まる。思い出せなかった。
「あはは、そうだよねぇ。記憶が飛んじゃったんだよね。思い出させてあげるよ」
そういって、ロードはヒカルの前に頬杖をついて話し出した。
何ヶ月か前、ヒカルはその日災難続きだった。
ずっと愛用していた携帯が、朝の学校への登校中に急な雨により壊れた。
そして、教科書たちにまで浸透した雨の水のせいで、教科書やノートの悲惨な状態を皆に笑われる。
挙句の果てには、学校の教師にまで笑われた。
さらには、弁当を持ってくるのを忘れたヒカルは、購買に買いに行ったが人の混み具合が半端なく、何も買えず昼ご飯はなし。
昼の後の五限目の授業は移動教室で、ふやけた教科書を持ち慌てて行くが、購買の混み具合のせいかチャイムはヒカルが廊下を走っていた途中で鳴り止んでしまう。
遅刻決定だとわかったヒカルは、もう災難続きだと一人廊下で呻きながら教室の扉を開けた。
その後は、ふやけた教科書を友達にまた笑われて、それからちょっと雑談をして授業中だと先生に怒られるのだろう。
そんな出来事を想像して扉を開けた。
だが、次の瞬間彼女は扉に足を踏み入れてしまった。
前を見ていなかった彼女は気付かなかったのだ。
目の前の扉の奥には何もなく、ただひたすらに暗く何もない空間だということに。
その中に、ヒカルはまるで吸い込まれるように堕ちていった。
「ぎいいやああああああああああああ!!」
化物のような叫び声が、暗い空間に響き渡っても誰も助けは来ない。
どんどん、どんどん深みに堕ちて行く。
どこまでも、どこまでも。
ずっと、ずっと堕ちていく。
下から上がってくる強風のような風が髪や制服を揺らす。
下に落ちていくような感覚と、体内の臓器がふんわりと一瞬浮き上がるような変な感覚がある。
重力が下に引っ張られるように、体が横になっていく。
だが、落ちれば落ちていくほどに、ヒカルは冷静になっていった。
この穴は、どれだけ深いのだろうか。
というか、そもそもここは教室ではなかったのか。
何がどうなって、どうして今自分がこの場所で落ち続けているのか。
いくら考えても解けない問題に、ヒカルは頭を悩ませていた。
仕舞いには、ヒカルは胡坐を掻いて空中で首を傾げ始める。
それほどまでに、長い時間、彼女は落ち続けていた。
最初の堕ちて行くような不安は、もうどこかに消え去ってしまっていた。
そんな時、不意に誰かの笑い声が聞こえた。
それは、どこからともなく現れた。
傘を広げてゆらゆらと。
ゆっくりと、それはヒカルの前に止まった。
「大当たりいいぃ~♪」
「レロ!」
「おめでと~!お前が、当たりくじだよぉ♪」
そこへ千年公と、ロードが現れた。
「当たりって・・・どういうこと?」
「当たりは当たりですヨ」
「お前は、僕らの世界でゲームをする参加資格を得たのさ」
驚いて声も出ないヒカルに、二人は嬉しそうに話を続ける。
「僕らの世界で、お前が無事ゲームの最後を見届けることが出来たらお前の勝ち」
「途中で死んだら、そこでゲームオーバー。簡単なゲームというわけデス」
「ちょ、ちょっと待って!あたし、ゲームとかそういうの興味ないし!ていうか、早く授業に出ないと遅刻から欠席扱いに変わっちゃうから!!」
「ゲームに参加するって言ったら、ここから出してあげるよ?」
「な、なんて横暴なの?!!ありえない!」
「ちなみに、ゲームは見届けることが出来ればクリアとなるのデ、別に何もしなくても構いませン!」
「つまりぃ、ゲームの中では何をしても良い! ってことだよねぇ」
「貴方がつまらないでしょうカラ、面白く脚色するのもいいでショウ!」
踏ん反り返って、千年公は言う。
「わああああ!千年公ってばやっさしいいい!!!」
「レロは、ロードたまも優しいと思うレロ!」
「きゃあああああ!レロも好きいいいい!!!」
ヒカルは、まさに開いた口が塞がらない状況に陥っていた。
訳の分からない二人と、一匹?本当に、彼等は自分とは違うのだとヒカルは思った。
別の世界の人間だと。
「え、なに?どこから否定すればいいの?この部屋のありえなさからですか?」
「ここはボクが作った特別な空間だよぉ。お前がゲームを断れば、すぐにでも地面を作り出して殺してやるよ♪」
本気とは思えない冗談。だが、ロードの目を見たヒカルは怯えた。
まるで、それは彼女にとって造作もないような、簡単なことなのだと思ってしまったのだ。
逆らえば殺される。
彼等に何の危害も加えられていないヒカルだが、漠然と彼等の危険性を第六感が感知したのかもしれない。
それでも、ヒカルはゲームに参加することだけは、頑なに拒んだ。
「嫌ったら嫌。別の世界? 行きたいなんて言うわけないじゃない」
自分がこれまで何年も生きてきた世界から、別の世界に移動する。
そんな非科学的で、夢のような出来事まで信じるような年頃ではなくなっていたし、彼女は今の自分の世界がそれなりに気に入っていた。
嫌なことや、つまらないと思うことはあっても、次の日になれば楽しいことがあるのだと知っているからだ。
それを急に、大切な人や友達と離れてゲームに強制参加させられる。
しかも、変な落ちる部屋に入ってしまったその部屋に現れた、変な人たちによって。変な世界であることは、目に見えてわかっている。
彼等がおかしいのだから。
しかも、ゲームというわりにはリアルなRPGの世界ではないか。
死んだらゲームオーバー、普通のゲームならあっそう、と納得もできたところだが、これは生身の人間がするゲームだという。
死んだら終わりって、本当に終わってしまうではないか。
恐怖がヒカルの体中を駆け巡る。
ゲームのルールも詳しく説明されないまま、訳の分からない変人達とはヒカルはもう話したくはなかった。
「しょうがないですネ」
だから、千年公がしょんぼりと肩を下げて言ったとき、ヒカルは勝ったのだと思った。
まるで、しつこくて陰湿なセールスマンに口で勝てたかのような優越感に浸った瞬間、
「じゃあ、似た世界でまずは疑似体験をしてもらえば? 眺めてるだけで良いよ。そういうゲームだからさ♪」
ロードは、ヒカルの下に扉を作り出し、その扉を開けた。
「え、ちょ・・・っ!?」
「困惑して楽しめなかったらダメだから、そっちにいる間はコッチの記憶を隠しておいてあげる。じゃ、ばいばーい♪ またね」
ヒカルの意見は、全く無視されたままゲームの疑似体験が開始された。
「ってなわけで、ヒカルと似た世界に飛ばしたのはいいんだけど、ヒカルの記憶がなんか途中まで飛んじゃってたみたいで・・・」
「・・・・・・・・思い出した!アナタは、あのときの!?」
(ていうかDグレの漫画の敵キャラじゃん!?)
ヒカルが指差してわなわなと震えながら言うと、ロードはにやりと笑った。
「あははっ何震えてるのぉ?怖い?ボクが」
「怒りで震えてんのよっ!早くあたしを自分の世界に帰して!あと、アレンたちが石みたいに固まってるのも、どうにかして!」
「ヒカルは途中までボクらの世界を知ってるんでしょぉ?」
「・・・・・・・」
ヒカルは、その言葉を聞いて言葉が出なくなった。
「漫画の世界でさ。ボクや、アレンたちのこと知ってるんだよね」
「何で・・・・それを、アンタが知ってんのよ?」
「ヒカルがさっきまでいた世界で見たんだぁ。アレンたちは気付かなかったみたいだけど」
さっきまでいた世界は、ヒカルの記憶を模したもの。
そこにあるものは全てヒカルが知っているものしか存在しない。
その中にあった本の数々の中から、ロードは自分たちが登場する漫画を発見していた。
「じゃあ、ウォーカーく・・・・アレンたちって・・・」
「ヒカルでいうと、漫画の世界の住人だよぉ。ボクがアレンたちとゲームするのにピッタリの場所だったんだぁ♪負けちゃったけどねぇ」
そして、また次はヒカルがゲームをする番だと、笑いながら言う彼女。
バカにしないで!と怒鳴ってみても、彼女はクスクスと笑うだけ。
ロードは、グラスを持って中のジュースを揺らしながら言う。
「ちなみにぃ、アレンたちがゲームしていた内容はね」
「この世界に居てはいけない者を、見つけること」
「っ!?」
「見つけたら、その子はイノセンスを持ってるから教団に持っていっていいよって、教えてあげたんだよぉ♪」
「誰が、イノセンスを持ってる、って・・・・・・」
「お前だよぉ。お前の中に、イノセンスが眠ってるのさ」
「じゃあ、なんで壊さないのよ」
「簡単に壊してたら面白くないじゃーん。千年公が考えた、新しいシナリオにお前がいるんだよ、ヒカル」
本当に、これは彼女にとってゲームなのだと理解した。
漫画で読んでいて思ったとおり、彼女は危険だ。
一般人のあたしとは考え方が違いすぎる。
「じゃあ、このゲーム降りる」
「降りる場合もゲームオーバー」
「だからなんでよ!!」
「ボクは別にいいんだよ、ヒカルがゲームオーバーになっても」
「あたしの世界に帰してよ。あたしの世界で他の人にでもゲームに付き合ってもらえばいいじゃない。あたしは平凡に平和に過ごしたいの」
ロードは、あたしの言葉を聞いてにやりと笑った。
「うるさいなぁ、いいから早くやろうよぉ」
ロードは、いつの間にか自分の後ろに扉を作り出した。
扉は開き、中は暗く先が見えない。
「そんなとこに入れって!?」
「アレンたちなら、世界に戻したよ。ヒカルのこともちゃんと憶えていて、お前を待ってる」
「…………ルールを、教えなさいよ」
クスクスと笑いながらロードはあたしに近付いてくる。
ルール① ボクらノアやAKUMAに殺されるとゲームオーバー
ルール② ゲーム終了までヒカルの世界には帰れない
ルール③ ボクら以外にこのゲームを話すのは禁止
指折り数え、あたしの周りをぐるぐる回りながらロードは三つのルールを告げた。
「で、ゲームのクリア条件が、世界の結末を見届ける。合ってる?」
「そう。ボクはヒカルを狙って殺すために探したりはしないよ。そういうゲームじゃないし。でも……」
ロードは持っていたペロペロキャンディーを自ら落とす。
暗くて底が見えないこの場所にも地面はあり、ガッと小さい鈍い音と共に、キャンディーにヒビが入る。
それを無表情で見ていたロードは、そのまま足を上げた。
そして、落ちたキャンディーは踏み潰されて粉々になる。
無残に砕けた欠片を、彼女は気にも留めない。
そしてニィ、と粘りつくような笑みを浮かべ、あたしに抱きついてきた。
「ボクはぁ、ヒカルの血を早く浴びたいなぁ」
あたしの首を緩やかに両手で覆い、うっとりとした声でロードは言う。
首を絞め殺されることは今はないだろうけれど、覆われているというだけで少し息苦しい。
(条件が厳しいとか、そういうこと言える相手じゃない……下手なことをこれ以上話すのもヤバイ…………)
「わ、わかったわよ!ゲームに参加するから、離れて!」
「冷たいよぉ」
「アンタが怖すぎるの!」
またクスクスとロードは笑い、ハンカチを取り出してひらひらさせて「いってらっしゃーい♪」と満面の笑みで言う。
あたしは、激しい憂鬱な気分と物凄い不安を抱えて、赤のギンガムチェックの扉を潜り抜けた。
「行って来ます」
「守備はどうですカ?ロード」
「千年公~♪」
千年伯爵に抱きついたロードは、無邪気な笑顔で笑う。
「レロは~?」
「あのコにはちょっと頼みごとをしてるんですよネ」
「んー、レロがいないとつまんないよぉ」
「次来る時には連れて来ますヨ、ロード」
「ほんとにぃ!?千年公、ありがと~!」
ぎゅっと抱きついていたロードは、不意にゆるりと千年公から離れて笑う。
「ヒカルはね、良い感じだよぉ。シナリオ通りだもん」
「そうですカ、それは良かったデス。カノジョは我々にとって必要な存在ですしネ」
ロードは踏み潰した飴を拾い、その尖った部分で腕をなぞる。
腕から薄く血が滲み、それを見てロードはうっとりとした。
「待ってるよ、ヒカル」
腕から流れた血は、床にポタリと零れ落ちた。