1日目
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広々とした校庭に、改装されたばかりの校舎。そして夢にまで見た正門が、今目の前に。
それはありふれた学校の様相で、どんなに見渡してみたって特別なことは何一つとしてないのに、これからここで新たに生まれるであろうたくさんの“特別”に思い馳せずにはいられなかった。
これから何度足を踏み入れることになるか分からない校門に、そして何度目にするか分からないこの景色に、こんなに期待を預けることなんてもう二度とないだろう。
校門の傍に書かれた学校名をまじまじと眺めていると、先程から私の初登校に付き合ってくれていた、「クロス」と名乗る同級生に声をかけられた。
「そんなに感動することか?」
『もちろん! だってここに来るまでに40分近くかかってるんだからね!』
「20分も迷子になってたのか······?」
私が極度の方向音痴なことくらい、もうとっくに気づいているものだと思っていたが、どうやら予想の範囲外を行ってしまったらしい。
いよいよ呆れたようでため息をつかれてしまった。
「そりゃ大変だったな」
『あ、待って! 写真も撮りたい······』
先に行ってしまいそうになったクロス君を慌てて引き止める。
嫌な顔をしながらも、ちゃんと足を止めてくれる彼はやはり良い奴なんだろう。
「·········」
『ごめん ごめん! 今誰もいないから丁度良くてさ。
帰ったらお母さんに報告しないと······』
「言わない方が良いんじゃないか?
······遅刻したの、バレるだろ」
『大丈夫! お母さん、分かってるから』
スマホの充電は切れてしまったので、代わりに非常用に持ってきていたピンク色のデジカメを取り出す。
彼はまだ何か言いたげな表情だったが、私を説得しても無駄だということに気がついたのか、大人しく写真撮影会にも付き合ってくれるようだった。
『なんやかんや待ってくれるの、優しいよね』
「置いていく訳にもいかないだろ······」
「そういうところが優しいんだよ!」って言いそうになって、やめる。会話の終わりが見えなかったからだ。
「それに、アンタには俺がただの遅刻じゃないことを証明して貰わなきゃ困る」
『もちろん、任せてよ!』
私は自信ありげに親指を立ててみせた。
ちなみに、失敗したら、今日のお昼ご飯を奢るということで話をつけた。ああ、もちろん私の提案で。
クロス君は女の子に奢らせるような奴じゃなかったよ。
······まあ、押し通したけど。
無駄な借りは作らない方が良いと、散々学んだ。
「もういいのか?」
『あ、うん! ごめんね、待たせちゃって』
「まあ、どうせ遅刻なら何分遅れたって変わらないからな」
ちらりと校舎の時計を見ると、針は既に8時50分辺りを指していた。
······そう、もうみんなとっくに察している事かと思うが、結局あの後私は走り続けることができなかったのだ。
道中の橋が壊れていたり、妹の結婚式に立ち会ったりしたわけでもないのに······なんという失態。メロス以下である。
恐らくクロス君は私の気を遣ってゆっくりと走ってくれていたので、幸いにも自分の足の遅さを痛感することは無かったものの、残念なことに私の体力の方が限界を迎えてしまった。
つまり今の私は、今日のお昼ご飯1食分では補えないほどの諸罪を背負っているということである。
①ぶつかった罪(これは傷害罪に問われるかもしれない)、②学校に間に合うかもしれないと期待させた罪(詐欺罪に当てはまるかもしれない)、そして今、③写真撮影会に付き合ってもらった罪(誇張すれば強要罪だ)·········その他諸々、とにかく迷惑を掛けすぎた。
運良くも、この男子生徒は心優しかったので、1食分で許されたが·········運が悪ければ1週間分のお昼ご飯を奢ることになっていたかもしれない。いや、なったとしても、私に断る余地はない。
これが前の学校だったら、どうなっていたことか······。
恐らく今頃酷く胃を痛めながら、どうやったら償えるかを考えていたことだろう。
改めて、この心優しき運命の使者には感謝しかない。
⎯⎯ という訳ならば、ここで交友関係を結んでおいても損は無いだろう。
むしろ、何かあった時に助けてくれる確率が、7割以上······!!(自社計算)
ちょうど良い、と思って、気になっていた事をここで全て聞いてやることにした。
『そういえば、何年何組なの?』
「俺は2年5組だ」
『え! 同学年じゃん! 良かった〜!! 先輩に無礼を働いていたらどうしようかと······。
私は3組なんだよね』
「え、アンタ3組なのか······!?」
クロス君が目を見張る。
その反応は·········流石に、何か問題があると捉えざるを得ないが。
『なにその反応。なんか良くないの?』
「いや·········その、大丈夫だとは思うが······。
変なやつに絡まれないように気をつけろよ」
『え、分かった······』
それはありふれた学校の様相で、どんなに見渡してみたって特別なことは何一つとしてないのに、これからここで新たに生まれるであろうたくさんの“特別”に思い馳せずにはいられなかった。
これから何度足を踏み入れることになるか分からない校門に、そして何度目にするか分からないこの景色に、こんなに期待を預けることなんてもう二度とないだろう。
校門の傍に書かれた学校名をまじまじと眺めていると、先程から私の初登校に付き合ってくれていた、「クロス」と名乗る同級生に声をかけられた。
「そんなに感動することか?」
『もちろん! だってここに来るまでに40分近くかかってるんだからね!』
「20分も迷子になってたのか······?」
私が極度の方向音痴なことくらい、もうとっくに気づいているものだと思っていたが、どうやら予想の範囲外を行ってしまったらしい。
いよいよ呆れたようでため息をつかれてしまった。
「そりゃ大変だったな」
『あ、待って! 写真も撮りたい······』
先に行ってしまいそうになったクロス君を慌てて引き止める。
嫌な顔をしながらも、ちゃんと足を止めてくれる彼はやはり良い奴なんだろう。
「·········」
『ごめん ごめん! 今誰もいないから丁度良くてさ。
帰ったらお母さんに報告しないと······』
「言わない方が良いんじゃないか?
······遅刻したの、バレるだろ」
『大丈夫! お母さん、分かってるから』
スマホの充電は切れてしまったので、代わりに非常用に持ってきていたピンク色のデジカメを取り出す。
彼はまだ何か言いたげな表情だったが、私を説得しても無駄だということに気がついたのか、大人しく写真撮影会にも付き合ってくれるようだった。
『なんやかんや待ってくれるの、優しいよね』
「置いていく訳にもいかないだろ······」
「そういうところが優しいんだよ!」って言いそうになって、やめる。会話の終わりが見えなかったからだ。
「それに、アンタには俺がただの遅刻じゃないことを証明して貰わなきゃ困る」
『もちろん、任せてよ!』
私は自信ありげに親指を立ててみせた。
ちなみに、失敗したら、今日のお昼ご飯を奢るということで話をつけた。ああ、もちろん私の提案で。
クロス君は女の子に奢らせるような奴じゃなかったよ。
······まあ、押し通したけど。
無駄な借りは作らない方が良いと、散々学んだ。
「もういいのか?」
『あ、うん! ごめんね、待たせちゃって』
「まあ、どうせ遅刻なら何分遅れたって変わらないからな」
ちらりと校舎の時計を見ると、針は既に8時50分辺りを指していた。
······そう、もうみんなとっくに察している事かと思うが、結局あの後私は走り続けることができなかったのだ。
道中の橋が壊れていたり、妹の結婚式に立ち会ったりしたわけでもないのに······なんという失態。メロス以下である。
恐らくクロス君は私の気を遣ってゆっくりと走ってくれていたので、幸いにも自分の足の遅さを痛感することは無かったものの、残念なことに私の体力の方が限界を迎えてしまった。
つまり今の私は、今日のお昼ご飯1食分では補えないほどの諸罪を背負っているということである。
①ぶつかった罪(これは傷害罪に問われるかもしれない)、②学校に間に合うかもしれないと期待させた罪(詐欺罪に当てはまるかもしれない)、そして今、③写真撮影会に付き合ってもらった罪(誇張すれば強要罪だ)·········その他諸々、とにかく迷惑を掛けすぎた。
運良くも、この男子生徒は心優しかったので、1食分で許されたが·········運が悪ければ1週間分のお昼ご飯を奢ることになっていたかもしれない。いや、なったとしても、私に断る余地はない。
これが前の学校だったら、どうなっていたことか······。
恐らく今頃酷く胃を痛めながら、どうやったら償えるかを考えていたことだろう。
改めて、この心優しき運命の使者には感謝しかない。
⎯⎯ という訳ならば、ここで交友関係を結んでおいても損は無いだろう。
むしろ、何かあった時に助けてくれる確率が、7割以上······!!(自社計算)
ちょうど良い、と思って、気になっていた事をここで全て聞いてやることにした。
『そういえば、何年何組なの?』
「俺は2年5組だ」
『え! 同学年じゃん! 良かった〜!! 先輩に無礼を働いていたらどうしようかと······。
私は3組なんだよね』
「え、アンタ3組なのか······!?」
クロス君が目を見張る。
その反応は·········流石に、何か問題があると捉えざるを得ないが。
『なにその反応。なんか良くないの?』
「いや·········その、大丈夫だとは思うが······。
変なやつに絡まれないように気をつけろよ」
『え、分かった······』