1日目
夢小説設定
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そうして歩き始めてすぐに、この角でイケメンとぶつかったという訳だ。
我ながら意味の分からない展開である。もう運が良いのか悪いのか分からない。
運が良ければ、そもそも迷子になることなんて無かった、というのは言わないお約束である。
「悪い、怪我とかしてないか?」
なにやら額にかっこいい傷のあるイケメンが問いかけた。
とりあえず精一杯愛想良く返事をしておく。
『い、いえ! 全然大丈夫です!!』
私の方こそ、怪我をさせていないかどうか心配だった。ギリ平均体重以下とはいえ、極端に軽いとは言い難い。
だけどここでそんなことを言ったら、せっかく男の名義としてか弱そうな女の子を心配するばかりか手まで取ってくれたこのイケメンの顔が立たない。
ああ、そうそう、さっき手を取ってくれたんだった······。
現実味が無さすぎて、危うくあれは夢だったとして記憶から抹消されてしまうところだった。
『あの·········そのネクタイ、もしかして同じ学校の方ですか?』
「え? ああ、そうだけど······お前も遅刻しそうなのか?」
今ここで、私には2通りの選択肢があった。
1つ目は、正直に『自分は迷子です』と告げること。
2つ目は ⎯⎯ このイケメンが提案してくれた逃げ道を有難く利用して、このまま『私も遅刻しそうなんです』と告げること。
酷い、なんて酷いんだ!
転校初日早々、悪魔の選択をさせるのはやめて欲しい。
そして残念なことに、私は根っからの正直者だ。
もちろん、1つ目の選択肢を取る他ない。
だがしかし······それイコール、私がどうしようもない馬鹿だということをひけらかすことになってしまう。それは少々はばかられた。
⎯⎯ いや、これからは正直者で生きていくと決めたのだ。それはもちろん相手にだけじゃなくて、自分にも。
まずはこれがその第1歩としよう。
『いや、その·········私、今日転校してきたんです』
「!! そうだったのか! ·········ということは?」
『はい、その·········迷子なんです』
言ってしまってから、やっぱりちょっと後悔した。
引かれてないかな?
いや、こんなの全く引かない方が難しいとは思うが······。
私は、相手が何か言う前に付け足した。
『だから、その·········良ければ、学校まで案内していただけませんか?』
恐る恐る相手の方を見てみると······引いた、というよりも、合点がいった、というような表情で、私はそっと胸を撫で下ろした。
「それならもちろん ⎯⎯ あ、でも······」
『でも······?』
その人は慣れた手つきでポケットからスマホを取り出すと、何やらロック画面で時間だけを確認するような動作をして、そしてすぐにまたそれを元の場所へと仕舞った。
「ちょっと走らないと遅刻するかもな。
······いや、転校生を案内してたのなら許されるか······?」
と、ここで、我ながら素晴らしいアイデアが浮かんできた。
せっかく私のために自問自答してくれているところ申し訳ないが、生憎私も他人が不利益を被るような無理を言ってまで頼むほど追い詰められているという訳ではないのだ。
『それなら大丈夫ですよ!』
宙を向いていた相手の目が、ハッとこちらを見る。
『私は勝手に後ろをついて行くので! 貴方は、自分の出席日数を最優先に、前だけ見て全力で突っ走ってくだされば結構ですよ!』
私の自信満々な態度とは裏腹に、相手は見るからに怪訝そうな顔をした。
「そ·········そうか?」
·········先程、『自分は迷子だ』と告げた時よりも、引かれている気がするのは気のせいだろうか······。
『だからもうさっさと行きましょう! 私のせいで、全く関係のない貴方が遅刻するなんて許せません!!』
「でも本当に大丈夫なのか? 俺は別に遅刻しても ⎯⎯」
『いえ、迷惑をかける訳にはいかないので!』
相変わらず、相手は何やら不安そうな表情を浮かべている。
「·········わかった。悪いな、気使わせて······」
しかしあまりの熱意に気圧されたのか、少しばかりの間考えた後、渋々この提案を受け入れることにしてくれたらしい。
······もしかして、私が本当に付いてこられるかどうか、心配しているのだろうか?
良いだろう。必要のない気遣いだったと、気づかせてやるまでだ!!
50m走は余裕で9秒台の私だったが、今日だけは全力で走ると決意した。
我ながら意味の分からない展開である。もう運が良いのか悪いのか分からない。
運が良ければ、そもそも迷子になることなんて無かった、というのは言わないお約束である。
「悪い、怪我とかしてないか?」
なにやら額にかっこいい傷のあるイケメンが問いかけた。
とりあえず精一杯愛想良く返事をしておく。
『い、いえ! 全然大丈夫です!!』
私の方こそ、怪我をさせていないかどうか心配だった。ギリ平均体重以下とはいえ、極端に軽いとは言い難い。
だけどここでそんなことを言ったら、せっかく男の名義としてか弱そうな女の子を心配するばかりか手まで取ってくれたこのイケメンの顔が立たない。
ああ、そうそう、さっき手を取ってくれたんだった······。
現実味が無さすぎて、危うくあれは夢だったとして記憶から抹消されてしまうところだった。
『あの·········そのネクタイ、もしかして同じ学校の方ですか?』
「え? ああ、そうだけど······お前も遅刻しそうなのか?」
今ここで、私には2通りの選択肢があった。
1つ目は、正直に『自分は迷子です』と告げること。
2つ目は ⎯⎯ このイケメンが提案してくれた逃げ道を有難く利用して、このまま『私も遅刻しそうなんです』と告げること。
酷い、なんて酷いんだ!
転校初日早々、悪魔の選択をさせるのはやめて欲しい。
そして残念なことに、私は根っからの正直者だ。
もちろん、1つ目の選択肢を取る他ない。
だがしかし······それイコール、私がどうしようもない馬鹿だということをひけらかすことになってしまう。それは少々はばかられた。
⎯⎯ いや、これからは正直者で生きていくと決めたのだ。それはもちろん相手にだけじゃなくて、自分にも。
まずはこれがその第1歩としよう。
『いや、その·········私、今日転校してきたんです』
「!! そうだったのか! ·········ということは?」
『はい、その·········迷子なんです』
言ってしまってから、やっぱりちょっと後悔した。
引かれてないかな?
いや、こんなの全く引かない方が難しいとは思うが······。
私は、相手が何か言う前に付け足した。
『だから、その·········良ければ、学校まで案内していただけませんか?』
恐る恐る相手の方を見てみると······引いた、というよりも、合点がいった、というような表情で、私はそっと胸を撫で下ろした。
「それならもちろん ⎯⎯ あ、でも······」
『でも······?』
その人は慣れた手つきでポケットからスマホを取り出すと、何やらロック画面で時間だけを確認するような動作をして、そしてすぐにまたそれを元の場所へと仕舞った。
「ちょっと走らないと遅刻するかもな。
······いや、転校生を案内してたのなら許されるか······?」
と、ここで、我ながら素晴らしいアイデアが浮かんできた。
せっかく私のために自問自答してくれているところ申し訳ないが、生憎私も他人が不利益を被るような無理を言ってまで頼むほど追い詰められているという訳ではないのだ。
『それなら大丈夫ですよ!』
宙を向いていた相手の目が、ハッとこちらを見る。
『私は勝手に後ろをついて行くので! 貴方は、自分の出席日数を最優先に、前だけ見て全力で突っ走ってくだされば結構ですよ!』
私の自信満々な態度とは裏腹に、相手は見るからに怪訝そうな顔をした。
「そ·········そうか?」
·········先程、『自分は迷子だ』と告げた時よりも、引かれている気がするのは気のせいだろうか······。
『だからもうさっさと行きましょう! 私のせいで、全く関係のない貴方が遅刻するなんて許せません!!』
「でも本当に大丈夫なのか? 俺は別に遅刻しても ⎯⎯」
『いえ、迷惑をかける訳にはいかないので!』
相変わらず、相手は何やら不安そうな表情を浮かべている。
「·········わかった。悪いな、気使わせて······」
しかしあまりの熱意に気圧されたのか、少しばかりの間考えた後、渋々この提案を受け入れることにしてくれたらしい。
······もしかして、私が本当に付いてこられるかどうか、心配しているのだろうか?
良いだろう。必要のない気遣いだったと、気づかせてやるまでだ!!
50m走は余裕で9秒台の私だったが、今日だけは全力で走ると決意した。