それは真っ暗闇の中でわずかに聞こえる環境音。
「な、何を考えているの…?そんなの許されないわ」
「もしそれが、許されない事なら…
許される場所を探しに行こう」
「この世界のどこにそんな場所があるの?考え直して…。
貴方まで不幸になってしまうわ」
「もしこの世界に二人が幸せになれる場所がないなら、
それを一緒に探しに行こう。
…もう一度言うよ。結婚してくれ、エマ。
君を必ず、幸せにしてみせる」
「本気なのね…なんて…なんて…バカな人なの…」
「返事を…聞かせてくれないか」
「ルミエール…愛しているわ。
だから連れて行って、二人が幸せになれる世界へ…」
ルミエールの安堵のため息と共に衣擦れが聞こえる。
その中で聞こえるエマの嗚咽。
静かに流れる空間に二人だけの吐息だけが漏れ、
まるでその静寂の中で祝福するように
温かい光が包み込み、視界が真っ白になった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
+ハザマタウン+
タマラを残して部屋を出たのち、
ピュアハートの光によって導かれた先は
彼ら勇者達の休息の街、ハザマタウンだった。
「生還~っ…と!」
ハザマタウンに足を付けると思い切り空気を吸い込む。
宇宙空間も地上ではできない体験が沢山あったものの
やはり地上で育った
神菜達にとっては
この当たり前の地面がとても落ち着く。
《これでピュアハートも5つ目…だいぶ集まってきたわね》
「がっはっは!言ったであろう!
ワガハイの手にかかればこれぐらい簡単な事だ!」
水色のピュアハートを片手にそう胸を張る。
まさかの宇宙での刺客を退けてから戻ってくるまでの
彼の様子を一部始終見ていたマリオとピーチは
思わず笑みを浮かべながら微笑ましくクッパを見上げた。
その穏やかな空気感にアンナも軽快に舞うと
ひらりと
神菜の前に移動した。
《うふふ…
でもピュアハートを手に入れられたのは
タマラ達のおかげね…感謝しないと》
「だね!」
そんなアンナも釣られるように笑いを零す。
蝶の姿でもわかる嬉しそうな彼女の様子に気付いたピーチも
視線をクッパから移動させ、小さく頷く。
「アンナ、貴女近頃なんだか雰囲気が変わってきたわね。
なんとなく明るくなったというか…いい感じよ」
「わかるわかる!」
《そうかしら…でも、
カメレゴンの城で
神菜達に助けられた時から
何だか心と体が軽くなったみたい》
そのままゆっくりと
神菜の肩に乗り、
羽ばたかせていた羽の動きも緩やかになる。
重みの感じない雪のような感触だが
それはどこか温かみを感じさせる、優しいものだった。
《このままずっと、みんなといられたらいいのに…》
「ん?」
《ふふ…》
普段であればこの順調なペースを維持させたまま
率先してハメールストーンを探しに行くのだが、
今回のアンナはそんなそぶりを見せる様子もなく。
ひと段落したこの心地の良い空気感を堪能するように
神菜の肩の上で羽を休めている。
不思議に感じつつも微笑ましいその光景を眺めていれば
それを見守っていたマリオの視界に人影が映る。
「戻ってきたであ~るか?」
その人影、デアールはエレベーターから降りると
マリオ達がいるのを見つけ、安心した様子で駆け寄る。
あまりにも広大な世界の後のその声は
思わず全員の表情が緩んでしまう程の声色で。
駆け寄るデアールの姿に気付くなり
全員の視線が彼を向き、アンナも肩から離れる。
「どうであったか?ピュアハートは手に入ったであ~るか?」
《5つ目のピュアハートも手に入れられたわ。
勿論、これは…》
そのままデアールの目の前へと移動し
普段より明るさが増した声色でデアールに報告する。
デアールもその変化に驚きつつも見守っていたが
何故かその途中で彼女の言葉が止まった。
「アンナ…?」
《……うっ!》
そう覗き込んだ直後だった。
まるで何かに射られたように体を震えさせると
ぱたぱたと仰いでいた羽が突如動きを止め、
葉が枝から散るように、その場に静かに落ちていく。
「アっ…アンナ!」
しかし一番近くにいた
神菜が咄嗟に体を動かすと
地面に着くギリギリのところで彼女を受け止めた。
「え…な、何!?」
「どうしたアンナ!?一体どうなったんじゃ?」
ピーチも何が起こったのかわからない様子で動揺する。
そしてデアールもアンナを受け止め
その場でしゃがみ込む
神菜に近付いた。
幸いにもアンナの羽は緩やかに動いていたが
先程のように元気良く飛び回れるほどの力は見られない。
飛ぶ以前に起き上がる事も出来ないのか
浅い呼吸をするようにただ
神菜の手の中で横たわっている。
「と、と、とにかく!ワシの家に運ぶであ~る!」
「わかった…!」
デアールはその姿に何かを察した様子を一瞬見せるも
そのまま彼に連れられアンナを抱えた
神菜とマリオ達も
急いでエレベーターへと向かい、館へ駆け込んだ。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
デアールの館へと到着すると、
かつてアンナが使っていた鳥籠が退かされた卓上に
未だに回復する様子を見せない彼女をそっと置く。
そしてその傍に
神菜とデアール、
後ろの空いていた椅子やベッドにマリオ達を座らせると
デアールは深く一息をついた。
「どうやら落ち着いたようであ~るな」
「そうなのかな…あんなに元気だったのに…」
「うむ…もしかすると…アンナはフェアリンの体を
保てなくなってきているのかもしれん」
「…え?」
「フェアリンの体…?一体どういうことだ?」
起き上がらずに横たわった状態とはいえ
確かにその呼吸する動きは徐々に規則正しくなっていき
穏やかになっていくアンナを見下ろしながらそう伝える。
だがその言葉にクッパは険しい表情を凝視する。
神菜も思わずデアールを見つめれば
彼はじっとアンナを見つめ、そのまま静かに咳払いをした。
「アンナは、元々フェアリンではない。
何者かに呪いをかけられ
この街に流れ着いた次元の漂流者だったのであ~る」
「次元の漂流者…?」
《…オ~?ンン~~なるほど…》
首を傾げ、ただ呆然とその言葉を繰り返すように呟く。
だがそのアンナに対する
今までの違和感の理由を何となく理解したのか、
トるナゲールはどこか納得した様子でうんうんと頷いていた。
「息絶える寸前だった彼女を不憫に思ったワシは
最後の手段として…ご先祖様の書物を頼りにし、
その魂をフェアリンにした。それが今のアンナであ~る」
「そうだったの…」
「
神菜と似たような状況…とは言っていたが、
死にかけてる状態ではなかったよな」
「まあHP1ぐらいとは言われてたし事実だったけどね…」
「…」
「じゃあ…アンナは一体どこから来たのかしら…」
ピーチの言葉に全員の視線がデアールに注目する。
何かを考える様子を見せていたが、その視線に気付くなり
眠るアンナを見つめ、再びゆっくりとマリオ達と向き合った。
「彼女は全ての記憶を失っていたから
どこから来た誰なのかは全くわからん。
ただ彼女もワシの元へ来たのは偶然ではなく
何かの運命に導かれてのような…
そんな気がしてならんのであ~る」
そしてゆっくりと向きを変え、
デアールの視線が
神菜の方へと向けられる。
複雑な心境で向けたその先にいる彼女も
困惑しつつ何かを察知したように目線を合わせる。
「
神菜、お主と同じであ~る」
「同じ…?」
それは
神菜とアンナは状態は違えど
記憶を失い流れ着いた者同士だという事だろう。
そして実際に
神菜に関しては
白のヨゲン書にそれらしき人物が浮かび上がっており
実際にデアールからそれを聞かされている。
アンナも彼女の様に、
隠れたヨゲンの一つなのだろうか。
—ゴゴゴ…
「…うおっ!?」
すると館全体、この街全体が大きく揺れる。
ほんの数秒だったが外から聞こえる住人達の悲鳴で
マリオ達もデアールもすぐに原因がわかった。
「また空のあなが大きくなったであ~るな」
「ノワール伯爵とやらのよくわからん奴らも襲ってくるが、
その裏で着実に進めているんだな…」
「それって…アイツらは単に時間稼ぎってやつ?」
「まあ、あの様子からすりゃ時間稼ぎだけじゃなくて
普通に一掃させるつもりだろうがな」
「そうか…じゃが、最近はこのような揺れが
頻繁に起こるようになってきておる。
やはり事態は刻一刻と悪くなっているようであ~るな」
「そうよね…」
「果たして白のヨゲン書が
黒のヨゲン書を打ち破る事が出来るかどうか…」
全員が不安の表情で見つめ合えば
デアールは再びアンナの方に視線を向ける。
「アンナはワシが見ておる。
お主達はピュアハートを
ハメールストーンにはめに行くであ~る」
「わかった」
「ウム」
その言葉にマリオ達は頷く。
そして手に入れた水色のピュアハートを収められる
ハメールストーンに探すために、そのまま館を後にした。
―バタン
「
神菜?」
しかし、
神菜は動こうとせず
ただじっとアンナを見つめていた。
「私も見てていい?」
「構わんが…」
「あと!そういえばね…
伝え忘れてたな~って事思い出してさ」
「伝え忘れていた事?」
「宇宙に行く前に言ってた、
私が伯爵の手下と接触していた~って夢で見た話!」
「あぁ…お主がこの街に来るまでの経緯であったな…」
「そうそう」
デアールの反応に小さく頷くと
アンナに背を向け、ベッドの上にぼふりと座る。
そしてデアールは解読と共にアンナの看病の為、
ヨゲン書を手に持ったまま
アンナの近くまで椅子を移動させると
その最中の時間差で何かを思い出したのかふと顔をあげた。
「そういえば生命力がどうだと言っていたであ~るか?
アンナから少し話は聞いておったが…」
「そうそう!その伯爵の手下のディメーンって奴…
ここに来る前にそいつに魔法をかけられてたっぽい」
「魔法とな?」
「うん。なんか生きてる力を…貰う?みたいな…」
「…なに!?」
時間が経ってあやふやな記憶を絞り出せば
デアールの方から突如大きな声が響く。
その表情は普段の疑問ではなく仰天としている様子。
驚く姿を見せる事は度々あったが、
それとはまた違う異常な反応だ。
神菜は思わず困惑し、まばたきを繰り返す。
「…確か、その後にア・ゲールに
例の術を与えられた。であ~るな?」
「う、うん。戦うたびに強くなるみたいな術だったはず」
「じゃがしかし…
何故ノワール伯爵の手下がそれを扱えるのか‥」
「そ、そんなにヤバいんです…?」
ヨゲン書を閉じ頭を抱える姿は流石に見た事がない。
今現在はなんとか持ち直してとても元気な状態という事もあり
そこまで深刻になる程の実感はなかったが
そんな彼の様子を見るなり顔が強張ってしまう。
「ワシの記憶の中ではな…
偉大な魔術師やヤミの一族と呼ばれる種族。
つまり…古代の民が所持していた魔法であ~る」
「…え?」
「アンナの魂をフェアリンに…とは少し方法は異なるが、
やっている事は殆ど似ているであ~る」
「ちょ、ちょっと待って!じゃあその…アイツは
デアールさんと同じ古代の民の…末裔って事?」
「ありえるがそうとも限らん。
ワシがご先祖様の書物を参考にしたように、
そのようなものをどこかで手にした可能性もある」
「……」
確かに今までの伯爵の手下とは違って
彼は常に魔法を扱っているスタイルだった。
そして夢の中での術の扱いも手慣れているようにも感じる。
「…つまりじゃな、現代でのその魔法は
アンナの様な特殊なケース以外では
基本使う事…使える場面はないはずであ~る」
「魂を、移す…」
「うむ」
その魔法がデアールの言うものかどうかも、
扱ったディメーンの真意は勿論わかる訳もなく。
ただ発覚しているのはその魔法をかけられたにもかかわらず
神菜の命が奇跡的に助かった事だろう。
―ドカアアンッ……
「な…なに?」
すると館の外から激しい爆発音が響く。
その聞こえ方からすると
小さい音ではなく距離のある場所からのようだった。
今いる階数ではなく下の階の辺りだろう。
平和な街に響く轟音に思わず
神菜は咄嗟に振り向く。
「フム、あの音はきっとマリオ達じゃ」
「なんでそう言い切れるんです…?」
「このハザマタウンにハメールストーンはもう無いからの。
きっと別の道を見つけたのであ~る」
その音で先程までの思考を中止し、扉の外を確認すれば
デアールの落ち着いた声で彼女の方へと向き合った。
デアール越しに見えるアンナはまだ眠り続けている。
「…ごめん。やっぱりアンナの事任せていい?
まだゴチャゴチャしてるけど…今までの話的にも
なんか私も深く関わってそうだし…」
「うむ。確かにそうじゃな。
今ではもう立派な勇者の関係者であ~る。
マリオ達と共にピュアハートの導く先を見届けるであ~る!」
その言葉に素直に頷けばデアールも安堵の笑みを見せる。
そしてリュックを背負い館を出ると
爆発音のした場所へと急ぎ足で向かった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
案の定、エレベーターで下に降りれば人だかりができており
その人混みを避けながら音の発生源へと近付く。
「うお~…」
人が捌けた先に映ったのはボロボロに破壊された壁だった。
だがちゃんと火力の加減はしていたのか、
近くの建物に酷く破損したような形跡は全くない。
そんな絶妙な加減ができるのは
熟練の職人の作った爆弾か
意思のあるボムドッカんぐらいであろう。
《あ!
神菜どえーす!》
そんな穴をくぐり街の裏路地の様な場所に辿り着くと
聞き馴染みのある独特な声が響く。
そちらに視線を向ければ
目立つ配色の集団がその路地の奥の方で佇んでいた。
「アンナの調子はどう?」
「う~ん…悪くないと思うけどまだ眠ってる」
「そう…」
「ん~で、今ってどういう状態?」
三人とフェアリン達と合流し、
そう答えながら彼らが佇み見つめていた方へと向く。
そこにはこのハザマタウンの建物とは違う
ドクドクな雰囲気の建造物が見えた。
「こういう状態だ」
遠くにあるのだろうそれは
まるで教会の様な構造をした大きな建物で、
その距離からでもわかるステンドグラスが輝いている。
しかしその先にたどり着くための道はどこにもない。
足を着けられるような地面や足場なんてものはないし
ピーチの傘で浮遊できるような距離でもない。
ラインラインマウンテンであった橋掛けの崖の様な状況だ。
「奥にあったプレート…きっとメモね。そこには
【8ツノブロック、イッカイズツ】としか書いてなかったわ」
《まあその肝心のブロックは見かけてないっほっほ~》
しかしその横にいたマリオは改めて途切れた道を見下ろしつつ
どこか納得した様子を見せながら軽く頷く。
それに気付いた
神菜もハッとしたのち彼を見つめた。
「マリオ!これってさ…」
「ああ。いつでもどこでも次元ワザ…」
「だよね!」
その言葉でピーチとクッパも理解したのだろう。
全員が離れないよう各々繋がりを作ると
早速次元ワザを使用する。
《ビビン!ビンゴ~!》
するとその何もなかった空白を埋めるように
ペラペラと道が繋がり始め、奥の建物の方へと向かっていく。
それを確認するなり、
次元ワザが切れる前に急いでその建物へと急いだ。
…………………………
ゆっくりと扉の開く。
その小さく繊細な音も響く程の静けさだ。
風の音も入らない綺麗なその空間に
窓から明るい陽が差し込み、神秘的な演出を生み出している。
そして目の前には赤、橙、黄、緑、青、藍、紫という
虹色と黒を含めた8つのブロックが浮遊していた。
「あら…」
「あ!これ凄いデアールに似てない?」
そのブロックに気付いたピーチであったが
それと重なるように
神菜の声が大きく響く。
彼女の見つめる先には
青を基調としたデアールと類似したヒトのステンドグラス。
隣にも紫を基調とした女のヒトのステンドグラスもあり
それはどことなくサンデールのような雰囲気を漂わせている。
「本当ね!こっちは…サンデールに似ているわ」
「ム…なかなか立派だな」
「これってもしかして、古代の民か?」
そしてクッパとマリオが進んで行った奥の場所にも
同じように二枚のステンドグラスが飾られてあった。
クッパの前には黄緑を基調とした男のヒト、
マリオの前には水色を基調とした女のヒトが彩られている。
だがその女性の像はマリオと
神菜、
トるナゲールにとっては見覚えのある人物で
彼女とトるナゲールは思わず声を上げていた。
《このヒトこのヒト!砂漠の下に眠ってたヒトどえーす!》
「砂漠…?」
「クリスタールさんじゃん!」
「ピュアハートやらコントンのラブパワーやら…
旅のはじめの時に教えてくれた本物の古代の民だ」
懐かしい姿を見上げていれば
出会った事のないピーチとクッパも同じように見つめる。
「…それで、このブロックが8つのブロックって事か」
《ヨオチェケブロック!ワンヒット!》
それを合図に各々がブロックの下へと移動を始め
端から1回ずつブロックを叩き始める。
マリオとクッパがその作業をしているのを見つつ
神菜は四つ並ぶステンドグラスの中央部分に移動した。
そこには黄緑と青のステンドグラスに挟まれるようにあった
天井まで届く高さの大きく広いガラス。
触れた指先だけでもわかる分厚さを感じながら覗き込むが
今彼女達の居る空間と似たような構造をしているのはわかる。
―ピシ、
「お?」
するとその触れていたガラスに一筋のひび割れが生じる。
そして丁度マリオが最後のブロックを叩いた瞬間、
ひび割れがガラス全体にいきわたり
そのままパラパラと雨が降るように粉々となり崩れ落ちた。
…………………………
壁となっていたガラスが崩れた事によってその奥へと進み、
先程の入口と同じ形状の扉を開けば
その先もまた同じように道が途切れており。
察したマリオは再び次元ワザを使い、
現れた道を辿って進んで行く。
「え…?ココって…」
しかし辿り着いた場所はハザマタウンの路地だ。
壁を壊し、入ってマリオ達と合流したあの場所。
「ん…?戻ってきたのか?」
「にしてはなんか変な感じだけど…」
そこは確かにハザマタウンではあるが、
何故か調子の狂いそうな気持ち悪い違和感。
よく見渡してみれば壁は所々欠けていたり
街灯も塗装が剥げていたり斜めに傾いていたりと、
見慣れたハザマタウンよりはどこか退廃的な雰囲気はある。
だが住民はいつも通りハザマタウンの住民と同じ容姿だ。
それが余計に違和感を増大させるのだろう。
《おういえーす!
神菜!》
「どうした?」
《この店!さっきと逆の向きにあるどえーす!!》
「店ぇ?」
トるナゲールがぴょんぴょんと指した店。
それはハザマタウンにもあった建物だったのだが
その言葉に気付いたマリオが目を見開きながら再確認をする。
神菜はそもそもその店を認識していなかったのか
ただ首をかしげていたが
異変に気付いたマリオは思わず深く息をついた。
「と言うことは…」
その流れのままマリオが道の奥へと移動する。
それはハザマタウンで壊した壁のある場所とは逆の方向で、
辿り着いた先で何かを見つけたのか
神菜達に知らせるように大きく手を振った。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「全部が反転してるわけか…感覚がおかしくなりそうだ」
マリオが見つけたのは完全に崩れ落ちた壁だった。
まるで彼らが崩したあの壁のようだが、それ以上の崩れ具合。
そしてそこをくぐってみれば、
それ以降はほぼ予想通りだった。
柱が欠けていたり噴水が壊れていたりと
退廃した雰囲気はあの路地だけではなく街全体に広がっている。
状況を把握したマリオを先頭に
いつものハザマタウンのルートの逆を進めば
彼が目指している目的地へと近付いていく。
そしてエレベーターで二階部分に上がり、
普通ならデアールの館がある所に辿り着いた。
「よく来たであ~る!
そろそろ来る頃だと思っていたであ~る!」
すると聞き覚えのある声が響く。
しかしその声色は普段聞いているものより若干低く、
視界に映った容姿も全く同じだが全体的にモノトーン調だ。
「デアール…さん?」
「なあ、ここは一体…」
「ほっほっほ…
ここはハザマタウンであってハザマタウンではない。
ここはハザマタウンの裏にあるもう一つのハザマタウン…
ウラハザマタウンであ~る!」
目の前のデアールに似た老人は自身のヒゲを撫でる。
その仕草も彼とそっくりだった。
「ちなみにワシもお主達の知るデアールではない。
ウラハザマタウンに住むもう一人のデアール…
ウラデアールであ~る!」
そのウラデアールと名乗った彼に対し
困惑としていたピーチは思わず首をかしげた。
「どういう事なの…?」
「わからぬか?ハザマタウンは元々表と裏…
二つで一つの街であ~る。
もっともこの街に住んでいる者で
この事を知っておるのは
ワシとデアールと一部の者だけじゃがな」
「お、表と…うら?」
「この街にこんな秘密があったなんて…」
「ちょいとビックリしておるな。
ホッホッホ…物事には裏と表があるものであ~る」
各々がそう呟けばウラデアールは静かに頷く。
「とりあえずハメールストーンはこの上の階じゃ。
さっさと行ってピュアハートをはめてくるであ~る」
「ああ、わかった」
一行がその言葉に頷くと、
ハザマタワー…もといウラハザマタワーの先にある
三階部分へのぼるエレベーターに向かおうと足を動かした。
「
神菜。念のためにお前は残ってろ」
「え?なんで?」
神菜も後を追うように駆け足で向かおうとすると
振り向いたマリオに呼び止められる。
不思議そうに見つめるが、彼は真剣な眼差しだ。
「確かハメールストーンにはめるたびに
記憶っぽいの思い出すんだろ?」
「うん…まあそうだけど」
「ここ最近のは倒れるレベルになってるんだ。
万が一の事も考えて安静にしておいた方が良い」
「えー!デアールさんにも言われたのに…」
「ちゃんと起きてくれるならいいんだがな…
実際はどんどん悪化してるように見える」
彼女も見たことのないセカイが拓く瞬間を拝みたかったが、
マリオの言っている事も確かに事実だ。
やけに真剣な様子も相まってそのまま無言で頷けば、
確認したマリオも同じように頷き、そのまま背を向ける。
見守っていたピーチも
神菜の背中をさすったのち、
クッパと共にマリオの方へと向かって行ってしまった。
「そうか…お主が、例の【異国の人間】か?」
口をとがらせながらその三人の姿を見つめていると
しずかに見守っていたウラデアールが彼女を呼ぶ。
「【欠けた姿になろうとも勇者の盾となる者。
共に導かれし光を掲げ、道を拓くだろう】」
「え…?」
「白のヨゲン書に記述された言葉。
つい最近デアールが解読したものであ~る。
…とりあえず中に入るであ~る」
驚く
神菜にそう伝えると
そのまま館の中へ戻り、彼女にも中へ入るように促す。
そんな館の中もやはりデアールの館と殆ど同じ内装で
違うと言えば全体的に紫色なのと家具が全て反対なぐらいだ。
用意されていたのだろう見覚えのあるスツールに座ると
そのまま資料を漁るウラデアールをジッと見つめる。
やはり見れば見るほどデアールとそっくりだが
顔つきはあの優しげなものではなくどこか厳しそうなものだ。
「ウラデアールさん…って、デアールさんと双子?」
「ふむ…まあ近い存在だというのは正解であ~るな」
そして彼も自身の椅子に座ると
神菜と向き合う。
「さて。本題に移るが、お主は勇者…
マリオ達とは別の世界の住人なのであ~るな?」
「うん。ほぼ確実だね」
「お主はマリオ達の事を知っていたが、
マリオ達はお主のことは一切知らない」
「知ってたっていっても無意識に浮かんできたって感じで…
なんていうかなあ。知ってるようで、知らない?
デアールさんもそんなにわかってなさそうだったけど…」
改めて考えようとして混乱とする頭をガシガシとかく。
その様子を見てウラデアールは小さく頷いた。
「やはりマリオ達がアンナの力によって導かれたように、
お主も誰かの力によって導かれたのかもしれんな」
「誰かに導かれた…?」
「記憶が欠けている…とは聞いているが、
その事でなにか心当たりはないであ~る?」
その言葉でぽかんとまばたきを繰り返すも
遠い昔の記憶をほじくるために瞼を閉じ、集中する。
ここまでの濃厚な旅路がゆらりと遡る中、
一つだけ、違和感のある記憶をゆっくりと思い出そうとした。
「"セカイを"…なんだっけ…」
「ん?」
ふわりと蘇る独特な声質と、大きな真っ白の姿。
「なんだっけ…"セカイを、たすけて"…みたいな」
「セカイ…とは、どの世界の事であ~る?」
「いやぁ…そこまでは…」
「フム。声の主は見たであ~るか?」
「えーと…大きくて、白くて…………」
神菜の言葉に合わせて
ウラデアールは準備していた筆記道具でメモを取る。
しかしその二言で彼女の声はだんだんと苦しくなり、
険しい顔と小さな唸り声だけが響く。
「白い大きな姿という事であ~る?」
「多分…うん…」
きっとその情報は自身の記憶や境遇に深く関わっている。
何故かそう確信した
神菜はなんとかして蘇らせようと
瞼をきつく閉じ、ゆっくりと開いたその時だった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
(…あ、あれ?)
瞼を開いた先には、目の前にいたウラデアールは消え
周辺も館の中からガラリと雰囲気が変わっていたのだ。
一つは室内の照明とは違う仄かなオレンジの明かり。
見上げた空はその明かりに似合う夕暮れが姿を見せており
トワイランドの空と比べると鮮やかなマジックアワーだろう。
もう一つは屋外だという事。
神菜はスツールに座ったままの体勢だったが
その下にあるのはスツールではなく低めのブロック塀で
花壇なのだろう、背後には土の花が見える。
目の前は広い土のグラウンドが広がっており
誰かが使用しているのだろう、所々に人が集まっている。
その光景は明らかに今まで見た記憶や
マリオ達と共に歩いた世界の風景ではなかった。
(…!)
何故か立ち上がれず動く事も出来ない体のまま視線を動かせば
丁度彼女の隣に"彼女"が座っているのを見つける。
その"彼女"は目の前のグラウンドを眺めながら
誰かと話しているのか、携帯を片手に口を動かしていた。
「アレ?まだ来てないんだ。迷ってる感じ?」(来てない…?)
「…え~こっち頼まれた買い出しもあるんだけど」(…)
「……お、じゃあお出迎えよろしく~」その"
神菜"の姿はやはり今の
神菜と同じものだ。
白い半袖シャツと黒いベストに青いネクタイとスカート。
遠くで複数見える"
神菜"と同じぐらいの女子も見る限り
いわゆる組織の中で規則として着る制服なのはわかった。
そして会話が終わったのだろう。
何度か相槌をうったのち通話を切り携帯をポケットへと戻すと
近くに置いてあったスクールバッグを手に立ち上がる。
グラウンドの方へ声をかけ、戻ってきた声を聴くと
そちらに大きく手を振りながらグラウンドから離れていった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
その後ろ姿を呆然と眺め、
まだたきをすれば世界が再び変わる。
視界の目の前には
心配しながらも凝視するウラデアールが戻ってきており
周囲を見渡せばあの夕暮れは完全に消え、館の中で。
そしてハメールストーンから帰ってきたのか
ピーチとがトるナゲール心配そうに
神菜の傍らにいた。
そして動き出した彼女を見るなり、
全員が安堵した様子で一息つく。
「
神菜!大丈夫?」
「え…え?あ、うん…」
何が起こったのかわからない
神菜は
ただ困惑したままは片手を持ち上げ両まぶたを擦る。
その時に見えたブレスレットを見るなり、
ハッとした様子でゆっくりとその腕を下ろした。
《ワ~!お飾りに色が増えてる!》
トるナゲールが興奮しながら彼女の周りを飛び回る。
緑色の隣にあった無色だったハートに
水色のハートが増えていたのだ。
つまり先程の光景はこの影響だったのだ。
それを見たウラデアールはヒゲをなでながら小さく唸る。
「…こういう事であ~るか」
「ん?ん~…ん?」
「記憶が戻る度にお前の様子がおかしくなることだ」
「あ~…」
「…とりあず、お主らがハメールストーンに向かっている間に
デアールから連絡があった。
アンナが意識を取り戻した…とのことじゃ」
「本当か!」
「うむ。
あやつらはハザマタウンのハザマタワーの上で待っている。
早く行ってやるであ~る」
「ああ。わかった」
…………………
ウラデアールから話の続きは
ピュアハートを手に入れてからと言うことで
再び集結したマリオ達一行はそのまま館を後にする。
そして無事ハザマタウンへ戻り
ハザマタワーへ向かおうとする道中、
マリオが浮かない様子の
神菜へと振り返る。
「そういや、何か思い出せたのか?」
「一応…多分だけど、私の元いた世界っぽい所…」
「良い事じゃない!どういう所だったの?」
「グラウンドがあって、私と同じ服を着た子も沢山いて…」
「貴様も組織のニンゲンという事か?」
「まあ、ある意味組織かも?学校だったし」
「ガッコウ……」
「って事は、やっぱり俺達とは違う世界の人間なのは確実だな」
「だよねえ…」
そしてエレベーターの扉が開くと、
先に動いたマリオ達に続いて乗り込んだ。
最上階につき、エレベーターの扉が開くと
例の各世界へ繋がる扉の目の前に
伝えられていた通りにデアールとアンナがいた。
待っていたのか、デアールの肩で休めていた羽を動かし
こちらに駆け寄ってくるマリオ達と合流するように飛ぶ。
「アンナ!」
《私はもう平気…さあ、行きましょう》
そしてくるりと舞うとマリオの帽子の上に乗る。
一緒に待っていたデアールも心配そうに見つめていた。
「ホントに大丈夫であ~るか?」
《ホントよ。とにかく寝てる場合じゃないわ。
それに私…マリオ達と一緒にいたいの…》
「仕方ないであ~る。お主の力は
ピュアハートを手に入れる為にも必要であるからな。
…勇者よ、アンナの事をよろしく頼むであ~る」
「ああ」
真剣な眼差しでマリオ達を見つめるとそう伝える。
4人も力強く頷き、各々が返事をすると
新しく現れた水色の扉をゆっくりと開いた。
№.58 黄昏のふるさと
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