「洞窟…?」
アンナの後を追って辿り着いた谷底。
そこは丘という名の岩壁に周囲を囲われた場所で
先程まで見えていた宇宙の夜空が殆ど隠れており
真上を見上げれば果てしない空が見えていた。
こんな場所をいつの間に見つけていたのか、
相変わらずのアンナの観察眼に感心してしまう。
そして一行の目の前にあるのは囲われた岩壁であり、
その岩壁に馴染むように作られた扉があったのだ。
岩壁をよく見てみれば鍵穴らしきものも見つけ、
手に入れた鍵をそこに差し込んだのち、
こうして新たな道が拓かれている状態になっている。
まるで洞窟の入口の様な真っ暗闇の空間に
すぐさま動こうとはせず、全員が思わず息をのむ。
「真っ暗…だけど、入って大丈夫なヤツ?」
「思い出したっきゅ!
これが【宇宙の抜け道】の入口だっきゅ~ん!」
「まさしくって感じだな…」
そしてタマラが動いたのを見てマリオもその入り口へ近付く。
土管の内部を調べるように入口周辺を確認するも
庭同然として動き回るタマラが断言したという事もあってか
特に異常は見られず、
神菜達にアイコンタクトを送った。
そのままタマラを先頭にマリオ、
神菜と
ぞろぞろとその明かりのない岩壁の中に潜り込んでいく。
タマラの揺れる星が僅かな灯りとなり
それを目印に彼の後をついて行けば
先頭を進んでいたタマラがふわりと宙に浮かび上がる。
「…なんか、苦しくない?」
「ええ…そうね」
「念のためにヘルメット被っておくか」
それと同時に一行の体にも異変が起きる。
徐々に体が軽くなるとともに息苦しくなる呼吸。
マリオの一言で全員が頷くと
神菜はその場でリュックを下ろし、
暗闇の中手探りで全員分のヘルメットを取り出す。
「何してるっきゅ!さっさと動くっきゅ~ん!」
「ハイハイハイ!」
尿意が解消されいつもの調子に戻ったタマラの声が響き
いつの間にか歩行ではなく浮遊状態になっていた一行も
急いで彼の元へと移動し始めた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
+大宇宙+
「ここが【宇宙の抜け道】っきゅ!」
岩壁の洞窟から抜けた先は
惑星から離れた陸地も何もない宇宙空間だった。
「この旅路のリーダーはタマラっきゅ!
進むも下がるも、全てはこのタマラが決めるっきゅ~!!」
「ハーイヨーソロ~」
とはいえ当初の感動はもうほとんど現れない。
この無重力体験ですら感覚に慣れてきたのか
浮遊する姿にぎこちない様子は一切残っていなかった。
《ウワア~オ!100年経っても変わらないユニバ~ス♪
クルリン優雅なスペーススイミング~♪》
《ファンタジックなコズミックスリリング!
グルリン胸熱スペースエクスペディショ~ン♪》
《……》
「…アンナ?」
《!な、なに?》
「いや、なんかボーっとしてたから…
何か感じ取ったのかな~って」
未だに宇宙空間で騒ぎ続けるフェアリン達の中で
当たり前なのだが唯一アンナだけが冷静に、
何かを見極めるようタマラを見つめている。
《いえ…彼、タマラは
どうしてこんなルートを知っているのかしら…って》
「確かにそうね…会った時からそうだったけど、
やっぱり普通の宇宙の子じゃなさそうな気がするわ」
そう呟きながら先方を見渡すタマラを見つめていると
彼らの視線に気付いたのか勢いよく振り返ると
にやりと怪しく笑みを浮かべ口を開いた。
「そんなに見つめちゃって、
タマラに惚れるとヤケドするっきゅん!」
「ハイハイ…」
そのミステリアスを表現しているのだろう表情から
どこか誇らしげな表情へと切り替え、彼らに見せつける。
その大きな瞳はとてもキラキラと輝いており
あまりにも純粋な姿にツッコミを出す気も起きなかった。
そして全員が少し前に出たタマラに近付けば
彼は背を向け、触手で遥か遠い先の方向へさした。
「ここのどこかから【サルガッゾーン】へ入れるっきゅ」
「さる、が?」
「今度はその入口を探すっきゅ!」
《サルガッゾーン…?なんなのそれは?》
アンナが
神菜の肩にとまりそう問いかければ
問われる事が嬉しいのか、背を向けたままだったが
意気揚々とした様子のまま両手の触手を動かした。
「【宇宙の墓場】とも言われている禁断の空間だっきゅ。
中は複雑な迷路のようになっていて、
入ったら二度と出られないって言われてるっきゅ」
「ヒェ~…迷路かあ」
「そしてその空間の一番奥に、
ピュアハートが隠されてるっきゅん!」
「まあ!よかったわ!ちゃんとあるのね」
「当たり前だっきゅん!
だからタマラがこうして案内してあげてるっきゅん!」
ピーチの歓喜の声にマリオとクッパの表情も和らぐも
まだなにか疑問があるのか、アンナは落ち着いたままだ。
《そんな事まで知っているなんて…
貴方、本当に何者…?》
―グルルゥ…
するとその緊張感を打ち破るように音が響き渡る。
それはまるで空腹時に腹から聞こえる例の音で、
マリオが真っ先に
神菜の方を呆れたように見つめるが
当の本人は何故自分だと驚きながらも必死に首を横に振った。
そしてタマラが自身のお腹の手を当てると
何事も無かったように笑顔に戻った。
「きゅきゅ~~☆
出すもの出したら、今度はお腹が減ってきたっきゅ~!
細かいことを気にしてないで、
さっさとサルガッゾーンの入口を探すっきゅ~~~ん☆」
腹の音の発生源はタマラだったらしい。
しかし気にする様子も見せずに出発の合図を出すと
そのままゆらゆらと直進してしまった。
《…》
「まあ、ここまでコキ使われてもここまで来てるんだ。
もう少し信じてみよう」
《…ええ、そうね》
疑心が高まっているだろうアンナをマリオがなだめつつ
再び一人ずつフェアリン達を身に付けると彼のあとを追った。
…………………………
途中に徘徊する宇宙生物のジェルルや
進行の妨げとなるヘドロンを避けながらなんとか進むと
先に進んでいたタマラの立ち止まる姿がやっと見えた。
彼に接近しつつその視線の先を見てみると、
そこには先程の裂け目のようなあからさまなバツ印がある。
「タマラ~!」
神菜が声をかけるとビクッと反応し
驚いたように振り向くと、何故か咳払いをした。
「ベッ別に悩んでるわけではないっきゅ!
思い出そうとしてるだけっきゅ!!」
「何も言ってないけど」
「つまり悩んでいるという訳か」
「悩んでないっきゅ!!!」
少々からかう様に答えれば、タマラはぷんぷんと顔を赤くする。
するとそのバツ印を見たメクるルンが突如反応し、
タマラの前へと移動しバツ印の目の前に移動した。
《メクく~んどうしたの?》
《ここからミラクルクルリンを感じる~…》
「ミラクル…ん~つまり!だ!」
その言葉で何となく察した
神菜は大きく頷くなり
メクるルンの力を発動させ、手をバツ印の方へ向ける。
するとそのバツ印がパチンと弾け、二つの緑の星が出現する。
その星もはじけた拍子に左右に移動すると
緑の閃光が長方形を描くように形を作りはじめた。
「お…おお~!」
それはバツ印のあったところを中心に出現した
青と鮮やかな緑のグラデーションの対となる二本の柱。
その内の一本である左側の柱には
何やら不思議な形状をした穴があった。
鍵穴にしては大きすぎており、不自然な大きさだ。
そのサイズ感はまるで目の前に居るタマラと同じぐらいの…。
「キュキュ~~ン!!こ、この穴…とってもナイスな形。」
すすとそれを見たタマラが大きな瞳をきゅるりとさせると
その穴をじっと見つめ始める。
察しが良いのか一瞬マリオが反応したが
何も答える事なくタマラの様子を見つめる。
「どうしてだろう、あそこにギュ~って押し込まれたい…
すっごく押し込まれたいっきゅ~~!」
「へえ~……へっ!?」
突然の思わぬ発言に驚愕の声をあげる。
確かにその形はタマラの小柄な体格にはとてもぴったりだ。
しかしこれまでの旅路の経験の事を思い出せば
鍵以外であるとしてもその形を模した
特殊なキーか何かと普通は思うだろう。
そしてタマラは驚く一行をスルーしそのまま穴の方へ近付く。
マリオ達の方へ顔を向けると
妙に慣れたように背中から穴へとすっぽりと入った。
「さあ!もっと!!
もっとギュ~~~っとおしこんでっきゅん!」
瞳を輝かせ、両手広げながらそう叫ぶ。
それは誰が見ても異様な光景だろう。
そしてその状況で誰も動かないのを見て、
仕方ない様子でマリオが一歩前に出ると
なるべく優しめに彼をさらに押し込んだ。
「ギュギュ~~~ンっ♡」
「変な声を出すな!!」
目を細め頬を染め、
どこか恍惚の表情で叫ぶタマラに耐えつつ隙間を埋める。
―
ドドドドッ!「うわっ!?」
すると突然、地震が起きたように空間全体が揺れ始める。
どういう原理で宇宙空間が揺れているのかは定かではないが
それの揺れもほんの数秒で落ち着くと
二本の柱の間に再び緑の閃光が走り新しく形を作り始めた。
《これは…一体?》
出来上がったものは柱と同じ配色をした
両開きの大きな扉だった。
そしてマリオに押し込まれて抜け辛くなったのか、
脱出しようと奮闘するタマラの手を引き解放させると
一息ついて扉の前へと移動する。
「【宇宙の門】だっきゅ。
サルガッゾーンへ続く宇宙の抜け道にある門だっきゅ」
「おお…」
先程の事も何もなかったように
平然とした様子で一行へ説明を終えると
そのまま出来たばかりの宇宙の門を開く。
「さあ、この門をくぐって先に進むっきゅん!」
そしてそのまま門の中に入ると
マリオ達も遅れないようにタマラのあとを追った。
……………………
抜けた先はやはり変わらない宇宙空間だ。
ただ少し進んだ先には例の緑の扉を出現させた
バツ印が空間に浮いていた。
先程同様にメクるルンの力を使うと
やはり青と緑のグラデーションをした二本の柱が現れる。
「…あら?」
しかし今度はタマラがピッタリはまった穴が一つではなく、
同じ形のものが一本の柱に一つ、つまり二つの穴があったのだ。
「キュキュ~~ン!!またまた素敵なカ・タ・チ!」
そして案の定、その穴に近付くと目を輝かせる。
「どうしてだろう…あそこにグリグリってねじ込まれたい…
すっごくねじ込まッんぎゅうう~~ッ!!?」
「マ、マリオ!?」
するとその先の展開をよめていたからであろう。
タマラがもじもじと発言を終わらせる前に
マリオが穴にのぞき込むタマラを穴に押し込み
言われる間もなく隙間も埋めるようにねじ込んだ。
さすがの
神菜も動揺しながらタマラを見つめるが
やはりその姿にどこも抵抗の様子はなく
むしろ悦びを感じているのか、妙に身をよじらせた。
そして同じように空間が揺れが再び扉が現れる。
「…ん?」
…のはずだったが、何も起こらない。
全員が困惑としながら辺りを見渡すも特に変化はない。
「何かが…何かが足りないっきゅ…
弾けきれないっきゅ~~~~!!」
「何かが…?」
改めて見れば確かに今回は埋める穴が二つある。
もう一体、タマラと同じフォルムをしたモノを
このぴったりな穴に入らなければ意味が無いのだろう。
「弾けるためには…そうっきゅ!
なにか美味しいものを食べればいいっきゅ!
タマラは美味しいもの食べるまで動かないっきゅ~!」
「はあっ!?」
そう宣言すると、駄々をこねる子供のように頬をふくらませる。
どことなく上からの態度は安定していたが
パシリのあとにまた来た追加のパシリに
流石の
神菜は眉をひそめ、ピーチは苦笑を浮かべた。
そしてマリオはため息をつくと
神菜の背負うリュックからキノコ缶を一つ取り出す。
「これでもいいか?」
「ワラワはこんなの欲しくないでおじゃるっきゅ~~!」
「アッ!?」
しかしそれを見た瞬間、はめた右腕を穴から出すと
手渡そうとしたキノコ缶をひっぱたく。
そして見事に直撃したキノコ缶は勢い良く飛んでいき
遥か彼方の星の輝きに向かって消えていった。
「あぁーっ!貴重な食料が……!!」
「グダグダつべこべ言わずさっさと探すっきゅ~~~ん!」
頬をふくらませ、プンと顔を反らして不機嫌になる姿を見て
一行は仕方なく彼の求める"美味しいもの"を探すことにした。
「…」
するとプチ騒動が起きていた中、
無言で探索していたクッパが何かを見つけていたのか
一つの宙に浮く看板の前に立ち止まっていた。
「どうしたの?」
「ウム、ここにこれが書いてあってな…」
そこには一枚の紙きれが掲示されており、
内容は誰かに宛てて書かれた文章のようで。
「頭に"チョ"、おしりに"コ"が付く……」
「あ~…」
そしてそこに書いてあった文章を読んだ故か、
既にクッパの表情は悩みで険しくなっていたが
彼以外はすぐに理解したように頷いた。
「貯蔵庫か?」
「それは美味しいものを入れるほうな」
「黒くて甘い食べ物だから…きっとアレね」
《逆にそれボケるの難しいどえーす》
何故か理解できないクッパに苦笑しつつも
他に何かないかと周辺を見渡せば
見慣れた渦巻くワープ空間がポツンと存在していて。
それ以外にルートが見当たらないのも確認すれば
一行はその頭に"チョ"とつき、最後に"コ"とつく
美味しい食べ物を求め渦の中へと進んでいった。
№52 門の導く先
「ていうか、宇宙にそんな食べ物あるのかね…」
「宇宙食は…持ち込んだものよね」
「そもそも俺達が想像しているモノなのかすら怪しいけどな」
そんな不安を抱きながらも
広大な宇宙の可能性を信じてみる事にした。
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