+惑星 プラネーン+
《【岩の男の頭の上に宇宙の裂け目、
その裏側に扉の秘密は隠されている】…》
「よく読めるね…これも宇宙語?」
ショボーンさん(72)がマリオ達に年季の入った紙、
つまり古文書を手渡したのち、
用がすむと出ていけとそのまま追い出されてしまった。
そして先程
神菜が巨大化して走ったあの長い道を
マリオと
神菜はノッテこーに乗り、
その渡された古文書の文字を解読していた。
「だろうな。俺も見た事のない言語だ」
《そうね…でも、
少しクセがある書き方だから、あっているか怪しいわ》
《あ~何となくわかるかも…なんか汚いっほ~》
《ボクチンの方がもっと綺麗に書けるどえーす》
「あははっ!確かに手の形してるからねぇ」
「とまあ…とりあえず宇宙の裂け目ってさっきのやつだろ」
《えぇ…裏側ということは、
やっぱりあの中ということかしら…》
そして丁度この長い通路へと降り立った際に
立っていた高い丘のある場所へと到着すると
ノッテこーから飛び降り、古文書を再び広げる。
「手がかりは良いけどさぁ。
一番求めてるトイレで使えそうな紙なかったよね」
《そうね…古文書は手に入れたけど…》
広げた古文書をくるくると巻物の形に戻すと
無くさないようにリュックの中へと詰め込む。
「…紙って、まさか…」
そのまま丘へと登り来た道へと戻っていく最中に
マリオがふと声を漏らす。
しかしそんな事に気付く事なく、
先頭を歩く
神菜はそのまま戻っていき
マリオもその後姿を眺めながら後を追った。
……………………
急ぎ足で戻れば既にピーチとクッパが待っている状態で。
丘の岩壁にもたれかかるように待っていたクッパは、
近づいて来るマリオと
神菜を見るなり
組んでいた腕を解きながら彼らへと近付く。
宇宙の風景を眺めていたピーチもその様子に気付くと
小走りでクッパと共に二人と合流した。
「そっちはなにかあったか?」
「いいえ…宇宙のことをとてもよく語ってくれた方しか」
「宇宙人だからねえ…」
「そういうお前たちこそ何か見つけられたのか?」
相当収穫のない結果だったのだろう。
苦笑を浮かべるピーチの背後で、
クッパは軽く苛立ちを見せながら彼らに問いかける。
そしてそれに応えるように
神菜がリュックに手を突っ込み
取り出したものを見やすいようにばっと広げた。
「これ!」
「…なんだこれは?」
しかしそれを見たクッパとピーチは首を傾げる。
古文書というだけあってボロついており、
クッパは顔を近付けさせ書き足された汚い文字を見つめた。
「例の宝物だ」
「と言うことは、そっちは長老さんと会えたのね!」
「でも書かれてる内容が完全に行き詰まってる
さっきのキラキラしてる裂け目のことなんだよね」
そして広げた古文書の文字を解読できなかったのか、
クッパが険しい顔のまま顔を離すのを見て
そのままリュックに戻す様にクルクルと筒状に巻き始める。
《…あっ
あーーーーーッ!!》
「うわっ!?な、なに…!?」
それを見たキえマースが何かに気づいたのか、
突然声をあげるなりピョンピョンと跳ね始めたのだ。
当然目の前で叫ばれた
神菜が一番驚愕しつつも
それには反応せず、体を回転させんがら古文書へ移動する。
「どうしたの?キマちゃん」
《わかった!わかった!クルルンルン♪そのペーパー!!》
「な、なんなのだ!」
《クルクル回るん薄い紙、それは君たちも知っている…
そうそう!!これこそ!!まさにそう!!
トイレットペ~~パ~~ルルンル~~~ンっ♪》
《ハア~オーマイゴット!なんていいリズム!
ミーも心がクルクルリ~~ン!!》
《オウオウチェケ…チェケラッチョ…》
キえマースのリズムに便乗するように
ノッテこーもノリノリにクルクル回り始める。
そしてリズムといえばのヘびードンもそのリズムに感化され
小さくビートを刻み始めていた。
それはなにか奇妙な儀式かと思う光景ではあるが
とりあえず絶好調な動きだった。
「トイレット…紙……は、」
それを聞いた
神菜は何度か頷きながら我に返る。
つまりこの貴重な歴史の一つだろう遺物で
便の汚れを拭うと言うわけだ。
ふとマリオの方を振り向けば既に予測していたのか、
苦い表情で踊り狂うフェアリン達を眺めていた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
あの後ご機嫌なフェアリン達を何とか鎮め、
タマラとフェアリンがいるであろう公衆トイレへと急ぐ。
「きゅ…きゅ………」
辛うじてまだ漏らしていないようだが
やはり限界が近付いているのだろう、その声は悲痛なものだ。
そして戻ってきた一行に気付くと、
涙目となった大きな瞳を向けた。
「きゅう~~~~~~~~!!」
もう言葉を話す余裕すらないのか。
限界と言わんばかりの奇声を放つと、
神菜は駆け足でトイレの方へ向かう。
そして念のためコンコンと丁寧にノックをすれば、
微かに聞こえるあの独特の声色の鼻歌がピタリと止まった。
《クルクルミラクル紙がない~♪だからクルクル出られない~♪
欲しいなペーパー♪待ってるペーパー♪
もし持ってたらプレゼントフォーミー!》
「はいはい!今入れますよ~!」
その謎の悠長ぶりに呆れながらもそう伝えると扉が少し開く。
なるべく中が見えないようその隙間に古文書を差し込めば
それを強い勢いで引っ張り、扉を再び閉めた。
《これを待ってたプレゼント~♪
やっと会えたねディアマイペーパー!》
「用を足すフェアリン…まさかヒト型か!?」
《そんなの聞いたことないビ~ン》
そんなクッパの発言で奇妙な想像をしていたその時、
トイレの中から水を流す音が響く。
この宇宙の遺物が一つが消えた瞬間だ。
《ア~ンドロ~~ンググッバ~~イ♪》
謎のビブラートをきかせながら、流れる水にそう伝える。
そしてその水がちろちろと終わりかけの音が聞こえた時、
涙目のタマラが静かに口を開いた。
「も…もうげんかい!!タマラダムが決壊しちゃうっきゅ…
強行突入っきゅ~~~!!!」
「おわっ!」
そして目の前に立っていたマリオ達を押し退け
トイレの扉を勢い良く開くとそのまま中へと駆け込む。
それと同時に入れ違いで籠っていた声の主がぴょんと現れ、
やっと一行の前に姿を見せた。
《スッキリ~ンコ!!》
それは四角の薄いフォルムで小さな羽が羽ばたき、
下部に丸い先端の付いたしっぽが揺らめく姿。
その表情はどこか晴れ晴れしい。
そして目の前の
神菜に気付くなり、
トイレの目の前にいた彼女の方へと向いた。
《クルクルミラクル気分ソーカイ!
この幸せをくれたのはキミ?》
「え?あ~うん…」
《ボクはキミをず~っと待ってた。
この出会いをず~~~~っと待ってた》
まるでポエムの如く甘い言葉を並べると
彼女から少し離れ、他の一行達が見渡せる位置へと移動する。
《ボクらはフェアリン、便利な道具~
いいやつにも悪いやつにも使われる~
ボクらは主を選べない~!
でもどうせならちゃんと出会ってむすばれたかった…
だから眠らず待っていた~♪》
安定した音程で歌うように伝える言葉は
あのしつこく感じさせるフェアリンの独特な声ですら
何故か綺麗に聞こえる。
同じ歌というジャンルというのに
ヘびードンとの聞こえ方が違うのは何故だろうか。
《キミが来てくれて本当によかった!
これから二人は臭い仲。
もう離れられない離さな~~~い!》
「はっ!?」
《キミについていくクルクルリン~♪
クルクルミラクルリ~~ン♪》
綺麗な歌声と共に衝撃的な言葉に思わず声が漏れる。
思わず後ずさる
神菜だったが
目の前のフェアリンは更に彼女へと近付き
彼女の周りをクルクル回ると、頭上でぴたっと止まった。
こうしてめくりフェアリン
【メクるルン】が仲間になった。
《不幸の裏には幸せが待ってる…
それを一緒に見つけに行こう!クルクルミラクルリ~ン♪》
やっとその相手に巡り会えたことに喜んでいるのか
クルクルと上機嫌に飛び回るメクるルンとは正反対に
神菜は無意識に鼻を押さえていた。
「えぇと、お名前は何かしら?」
《イッツイ~~~ッズ!メクるルンミラクルクルクルリ~ン♪》
「フフっ。
神菜、なんて呼んであげようかしら?」
この流れに慣れつつもはやトイレの事は気にしていないのだろう。
ピーチはいつもの笑顔で彼女へと微笑むと
神菜は鼻を押さえたまま「あー」と声を漏らす。
「じゃメクる…ん~じゃあメク!」
《メク!?メ~ク!う~~んなんとも呼びやすい響き!!》
とはいえやはりフェアリンはフェアリンだったようで。
短縮された自身の名前を連呼しながら踊り出し、
このハイテンションがまた一匹増えたなと、
マリオは頭をポリポリと掻いた。
—ジャァ~…
すると静かになっていたトイレの中から水の流れる音がする。
そして扉が開くと、スッキリとした様子のタマラがいた。
「ふ~スッキリしたっきゅ!
さあ、【宇宙の抜け道】の入口を探すっきゅ~~ん!」
彼を襲うものが排除され、
何も囚われるモノがなくなったタマラは
いつもの元気な調子で触手を高く掲げ、
彼らを先導するように先頭になって進みだす。
「宇宙の抜け道ならもう見つけたぜ」
「きゅっ?」
「と言っても…見つけただけ、なんだけどね」
その彼らの言葉にタマラは悩むように腕を組むと瞼を閉じる。
しかしそうしている間にも
例の裂け目の方へとクッパや
神菜は勝手に動いており、
それに気付くや否やマリオ達と共に遅れないよう追いかけた。
「裂け目~…あったあった!」
「岩の男ってのはコレだったんだな」
不安定な足場といえど
既に何度も通った道のおかげでスムーズに丘や谷を越え、
空間の裂け目があった石像の前まで戻る。
初めて見たそれをタマラは思わず凝視し、
相変わらずへびードンはうっとりと見とれていた。
「ちなみに、具体的にはどういう能力だ?」
《キミはそのお飾りで、ヒゲくん達は普通に気になるところに
ボクを向けてクルリンリ~ン!》
「んー…まあ実際に使ってみた方が早いかも!」
その答えがあまり伝わらなかったのか
全員が首をかしげる中
神菜が空間の裂け目の前に立つと
早速メクるルンへと手をかざしの力を発動させる。
まるでアンナの力を使うような感覚だったが
違う所は世界が静止していないという所だろう。
発動しただろうメクるルンが彼女の手に追尾するよう動くと
その流れのまま裂け目の方へと手をかざす。
「おっ…!」
すると突如メクるルンから眩い光が放ち
そこからストン、と石像の上に何かが落ちてきた。
《…カギね》
「でも扉なんて…どこにあったかしら?」
それを拾い上げて確認をすれば
確かにキーヘッド部分が星の形を模したデザインの鍵で。
という事はどこかの鍵のかかった扉を開ける為なのだろうが
この往復してきた道の中ではこの惑星の住宅の扉以外では
それらしきものはまだ見つけていない。
全員で顔を見合わせ、思い出そうとすると
マリオの横で飛んでいたアンナが
見合わせる4人に囲まれるようにひらりと間へと入り込んだ。
《…確か、あったわ》
「えっ!本当?」
《ええ。私達が落ない様に飛び越えてきた、あの谷底に》
そう言いながらそのまま体の向きを変え、
トイレのあった方向に向くと
そのまま更に来た道を戻るように進み始める。
それを見たマリオ達も、
説得力のある彼女の言葉を信じてあとを追う。
「…きゅる」
石像の前で一人となったタマラの瞼が一瞬閉じかけるも
ブンブンっと頭を横に振り、何事も無かったように追い掛ける。
その様子は誰一人見ていなかった。
№51 めくりフェアリン
■