+大宇宙+
相当な訓練を行わなければ絶対に見られることのない
幻想的で綺麗な光景なのは間違いないのだが、
進めば進む程、嫌でも確信してしまう先が見えない空間。
マリオ達はタマラの進むあとをただ付いていく。
次元のワープを見つければ入り、はずれだと戻ってと
また同じ空間をさ迷う。
それ以外の変化は何もない状態だったのだ。
そんな同じことの繰り返しで
タマラの言う目的地らしき場所に全く辿り着けない。
《本当に…信じてよかったのかしら…》
アンナは不審そうにタマラの後ろ姿を見つめるも、
神菜はただ怠そうに遊泳しながら欠伸をする。
「ねえ~まだなの?
流石に星空眺めるのも疲れたっていうか…」
「うるさいっきゅね~あともう少しだっきゅ!」
先頭を進むタマラも途中からほぼやけくそに光線を放っている。
彼自身も同行者の力不足だとぶつけたい気持ちは
まだ心の奥底にたんまりと残っているのだろう。
しかしその感情で八つ当たりばかりしても
仕方がないと判断したのか、
口は悪いままだがその声色はどこか軽く、
ひたすら光線を進行の邪魔をする宇宙生物にぶつけている。
そんな光景をピーチが苦笑しながら先を見つめてみれば
その進むタマラの先に小さくなにかを見つける。
それは何度も見つけたワープの歪みの一つだったが、
今までの歪みとは違い、サイズも大きければ
滲むような色合いもどことなく違うものになっている。
「あのワープ…今までと少し違わないかしら?」
「本当!?そりゃ行くっきゃないっ!!」
ピーチの視線の先を見た
神菜は
先導するタマラより先に反応し、押し退けて先へ進んでしまう。
先に行かせまいと邪魔をする宇宙生物達を
バーリやーで追い払い突き進む姿は
勇ましい根性なのか向こう見ずな判断なのか。
「ちょっ!ちょっちょっ!
ボクを置いて先に行ってはダメっきゅ!
危ないっきゅよ~~~!!」
勿論タマラは焦る様子で彼女の後を追う。
ある意味極限状態に近い無鉄砲な彼女を目の当たりにして
さすがに我に返ったのだろうか。
薙ぎ払われて快適に進めるようになった空間を泳ぎ
必死に
神菜のあとを追いかける。
「あらら…」
「ありゃどっちが子供なんだか」
「フンどちらも変わらぬ小童だ!」
《…でもあそこしか行く場所がないなら、
ついて行くしかないわ》
「そうだな」
残された三人はまるで
追いかけっこをする子供を見守る保護者の様な状態だ。
先を急ぐ
神菜の様子を見て変に慌てなくなったのも
ここまで共に歩んで信頼し始めてきた証だろうか。
各々呆れたようにその光景を眺めつつも
万が一の事も考えて彼らも彼女の後を急いで追う事にした。
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+惑星 プラネーン+
歪みに飲まれ、閉じた瞼越しに
眩しかった光が徐々に薄れていく。
それと同時に軽かった体に徐々に重みが蓄積していき、
足先からゆっくりと落下する感覚が伝わる。
「…お」
そして足先から硬い地面に着地する感覚がする。
ゆっくりと爪先から足の裏全体を着地させると
閉じていた瞼を開き周りを見渡した。
「おお!無事についたっきゅ!」
「すご!!地上なのに変な感じ!」
見渡す上空はやはり変わらない宇宙空間。
しかし違う所は重力を感じられる状態であり、
地面を見下ろせばそこには硬い土の上なのが分かった。
周辺にはゴロゴロと岩が転がっており、
すこし削る様に地面を強く擦れば砂が舞う。
地上の様にすぐに落下はせず、
砂や粒がゆっくりと揺らめいている。
そしてタマラと
神菜の嬉しそうな声色の方へと向けば
その地面を軽快に走り回る姿がそこにあった。
神菜に至ってはその場でジャンプを試みており
確かに蹴った砂粒同様、滞空時間が長くなっていた。
それはまるで月の上を歩く宇宙飛行士の気分だろう。
《ここは…小惑星?
貴方は私たちをどこへ連れていこうとしてるの?》
「この星のどこかに
"宇宙の抜け道"への扉が隠されてるはずっきゅ!
それを見つけてピュアハートのある場所へ
近道するっきゅん!」
《そう…で、その入口はどこにあるの?》
「ふっふっふ…聞いて驚くっきゅ!…」
「なんだ」
そうアンナが問いかけるとタマラは背を向け、空を仰ぐ。
そして再び体を回転させマリオ達の方へと向きなおせば
満面の笑みが視界に映った。
「
なんと! …タマラも忘れたっきゅ!」
てへっと自身の触手を軽く頭にぶつけると、
可愛らしく口をとがらせたのだ。
《…………………………》
思わず全員の姿勢がガクッと崩れる。
そしてアンナが呆れた様子で
神菜の肩に乗ると、
クッパは腕を組み、炎が出る勢いで大きなため息をついた。
「ふん!こんなことだろうと思ってたぞきゅん!」
「え?」
「だいたい初めから信用していなかったのだきゅん!」
「ク…クッパ、どうしたの?」
奇妙なものを見るように
神菜とピーチが様子のおかしいクッパを見つめる。
何も気付いてなかったクッパも
彼女達の声に気付いたのち、一気に顔が赤くなり
勢いよくタマラの方を睨みつけた。
「しゃっ喋り方が移ってしまったではないか!!」
「フフン!そんな顔しなくても大丈夫っきゅん!
きっと多分この辺に手がかりがあるっきゅ~」
「オ、オイ!」
しかしそんな怒声は一切効いていなかったのか、
憤慨するクッパスルーすると呑気な様子で
両腕にあたる触手をゆらゆらと揺らめかせる。
それはそれで屈辱的な対応なのだろう、
プルプルと震えだしそうなクッパをピーチが抑えていれば
黙っていたアンナも小さくため息をついた。
《いい加減ね…》
「
ああ~~~~っ!!」
するとその言葉の直後、タマラの表情がガラリと変わり
突然の叫び声に全員がビクリと反応する。
しかしその表情は怒りなどではなく驚きに近いもので、
アンナの言葉に反応したわけではなさそうだった。
《何か思い出したの?》
その変化のあった反応に
アンナは再び羽を広げタマラの方へ近付く。
しかし目の前のタマラは体をモジモジとよじらせ
悠々としていた表情は切羽詰まった状態へと変わっていた。
「オシッコ~~!とっ突然もよおしてきたっきゅ~!
漏れちゃうっきゅ~~~ん!!」
緑の全身からはじわじわと冷や汗が溢れてきている。
その様子からして限界が来ているのは事実なのだろう。
しかしアンナや一行の返事を聞く余裕もないのか
そのまま彼らに背を向けると
砂埃が舞う程の猛ダッシュで走り去ってしまった。
「…………」
《………》
「あらまあ…」
呆然と立ち尽くし、沈黙が続く。
ただ無言でその背中を見つめながらピーチが呟けば
マリオとクッパは宇宙一大きなため息をついて頭を抱えた。
《手がかりは私たちで探しましょ》
「そうだね~…」
タマラと同様に地に足がつく事にテンションが上がっていた
神菜ですらもその空気感にクールダウンする。
そして気を引きしめるとザッと土を踏むと
タマラが走り去った方向へと足を動かし始めた。
しかし無重力遊泳の時間もそんなに長い訳ではなかったのに
その感覚が懐かしく感じ、同時に動かす足に違和感も伝わる。
「なんか…歩くスピードが遅いような…はやいような…」
「宇宙だからってのもあるからな…っと」
ふと後ろにいるマリオの方を振り向くと
彼女の後を追う前に慣れた様子でヘルメットを脱ぎ、
被っていた帽子の位置を調整していた。
ピーチやクッパもヘルメット脱ぎ、
各々閉めきった空気から解放されている。
「…って、え!ヘルメット…!?」
「どうやらこの惑星には酸素があるみたいだ。
ヘルメットなしでも動けるぞ」
「へ…?」
神菜を除いた全員が解放されてる状況を見て
困惑しながらも
神菜もヘルメットを外し、
スウと惑星の空気を吸う。
確かにマリオの言う通り酸素が存在しており
呼吸は出来るがやはり宇宙だからだろうか、
地球の地上と同じはずなのに少し不思議な感覚も伝わった。
「さあ、行きましょう?」
そして先に行っていたマリオとクッパを追いかけるように
神菜とピーチもふわふわと飛ぶように後を追う。
しかし平らな地面の道はすぐに終わってしまい、
少し進むだけで険しい道のりが彼らの目の前に現れる。
「うわあ…」
それは深い谷底に見上げる程の丘と
デコボコとした高低差の激しい道。
その場からでも奥に見える遠い場所にも
似たような道のりが続いているのがよくわかり、
神菜は思わず声を漏らしてしまう。
そして目の前に現れた深い谷底を降りる前にのぞいてみると
先に進んでいたマリオとクッパに
なにか細長い水色の物置きのようなものが見える。
「うおっ…と!」
その谷底へと向かおうと軽く飛べば
思っていた以上に高く飛び上がり体勢が崩れかける。
惑星に辿り着いた当初はその感覚に興奮していたものの
いざ実践しようとすればその力加減が難しい。
しかし落下速度もゆるやかなのは把握していたため
慌てず冷静にふわりとマリオ達の所へと移動した。
そして例の物置きのある場所へ移動すると
そこにはモジモジとよじらせるタマラと
依然として呆れた様子のマリオとクッパが彼を見守っていた。
「どうしたの?」
「紙を取りに来いだとさ」
するとマリオがコンコンと物置きの扉を叩く。
その物置きよく見れば、
ピンクの扉かつ、その上部に見覚えのある
人型の赤と青のシンボルマークが並んで描かれていたのだ。
神菜の中の記憶がじわりと蘇り、強張る。
《クルクルミラクル紙がない~♪だからクルクル出られない~♪
ほしいなペーパー♪待ってるペーパー♪
もし持ってたらプレゼントフォーミー!》
「も…もれちゃうっきゅ………」
しかしその物置き、もとい仮設トイレの中からは
彼女の記憶と反して聞き覚えのある呑気な声色が聞こえる。
聞き覚えがあると言っても知っている声というよりは
特徴的な独特さに何となく確信してしまったという所だろう。
「まさか…」
「はっはやく!!紙を探しに行ってくるっきゅ!!」
「それぐらい自分で見つけなって!」
「今動いたらもれちゃうっきゅ~!
ピュアハートのある場所に行きたいなら
さっさと探しにいくっきゅ~!!」
全身をモジモジとよじらせながら必死に訴えれば
これがマリオ達が呆れた要望かと
神菜も大きくため息をついた。
「一人で大丈夫?」
「い・い・からあ~~~!うっきゅうう~~~~!!」
ピーチの心配する言葉もお構いなしだ。
仕方がないと、そんなタマラをトイレの近くで放置させ
"最適な紙"を探しに惑星を探索することにした。
………………………………
「たっか~…」
その高さは普通のジャンプでは届かない位置に
着地できるだろう頂点があるだろう。
だがこの宇宙空間なら高さなど関係なし。
マリオが距離をとり勢いよく助走をつけジャンプをする。
「おらっ!」
その高さはやはり地上のジャンプよりもとても高く
彼の持ち前の運動神経もあってか
着地する場所よりも高く飛んでいってしまった。
《ふぁんたすてぃっく!
地上でもあれだけ飛べたら楽しいどえーす!》
「それができりゃあどれだけ楽だろうなあ…」
さすが宇宙空間という所だろう。
いつも高く飛んだマリオは無事に着地できたのか、
砂埃を舞わせながらも高い丘へと辿り着き
見上げる
神菜達を見下ろす。
彼の様子からして進める場所だと把握したのか
それに続いてクッパを先頭に丘の上へと高く飛び上がった。
しかしあの一番重いだろうクッパが
軽々と宙を飛ぶのはなかなか不思議な光景で。
「っと…ん!?わあっ!!」
それを眺めつつ
神菜も無事着地、したと思いきや
丁度嫡子をした目の前に
白いなにかが
神菜に向かって飛び出してくる。
思わず声をあげるも
その白いなにかをなんとかギリギリ避けると
その拍子に体勢を崩し、ふわりと地面に転がった。
「大丈夫か?」
「何…!?何もいなかったんじゃないの…」
その飛び出た白いなにかをよく見てみれば、
長方形の形をした不思議な生き物がそこにいた。
その上半分は顔なのか、笑みを浮かべる表情が映されており
しかし彼女と視線が合うとその部分のみ水平にずれ
届く事はなかったが、その表情が彼女の目の前に急接近する。
そことなく地味にホラーチックなそれに向かって
咄嗟に腕を動かし、アンナの力を久しぶりに発動させた。
《カックン。四角い形の正体不明生物…
見ての通り顔をのばして攻撃してくる…
ジャンプの着地地点によくいるみたいだから、注意して》
「なる…ほど」
正体不明というのが少々気がかりであるものの
そこかこの不思議な惑星と宇宙空間という事もあってか
そこまで気にする事でもなさそうだろう。
状態が落ち着いたタイミングでアンナの力を解けば、
たまたまカックンの背後に立っていたマリオが動き出し
近付くとそのまま勢いよく蹴りを入れた。
「何も居ないと思ってたが…見落としてたな」
「まあそこまでヤバそうじゃないから、良しとしよう」
きっと彼の着地した周辺に
カックンが居なかった故の見落としだろう。
マリオの蹴りによってパチンと弾けるように地上から胴体が離れ、
着地面を失ったカックンはそのまま惑星の外へと放り出される。
そしてあとから飛んできたピーチとも合流すると
また極端に低い谷底へと降りていった。
№49 ギブミー"キー"!
「これも伯爵…だったか。あいつの息のかかった部下か?」
《わからない…その場合もあるし、
普通にその地域に生息する生き物かもしれないわ》
「部下じゃないと考えると…少し申し訳ないわね…」
「しかし向こうから邪魔をしてくるのだ。
反撃するのは至極当然!向かってくる方が悪い!」
「そんなことよりなんで宇宙にトイレあるのさ…」
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