+大宇宙+
扉を潜り抜けると一度見た無限大の空間。
長い髪が邪魔にならないようにと
ピーチはポニーテール、
神菜は簡単なおだんごに結んでおり、
辿り着く直前に既にマリオ達は
もらったヘルメットを被っていた。
《どう…これで苦しくない?》
「おお!すごい!」
「ああ。ちゃんと呼吸ができる」
「これで落ち着いて星も眺められそうね」
ヘルメットの影響で少々お互いの声が籠って聞こえてしまうが
以前のドットドット海のように喋る事も出来ず
意思疎通が上手くできなかった状況と比べれば遥かにマシだ。
そうピーチが微笑むと、
アンナも安堵の様子を見せるようひらりと舞った。
そしてマリオ達もまるでフェアリン達の様に
ふわふわと浮くとその感覚を楽しむ。
《では行きましょう。
ピュアハートはこの星の海のどこかにあるはずよ…》
「おう」
「うむ!」
地面というものが存在しない故に
思い切り踏み込んだりと足に力を入れる事は出来ないが
その感覚は海よりも軽く、ふわふわと浮遊ができる。
「うはーっ!なんか気持ちいい!」
「宇宙は初めてか?」
「そりゃそうでしょうよ!…って、その言い方…まさか」
「まあ諸事情あって、色々とな」
「勇者様の経験値恐るべし~…」
広く見れば良い状況とは言い難いかもしれないが
以前の世界と違い仲間の誰かが
欠けた状態ではないという事もあって
余裕のある雑談が出来る事に思わず笑みが零れる。
そんなやり取りで和みながらひたすらに宇宙遊泳をしていると
どこからかピピピと電子音が小さく鳴り響く。
《こっちね…》
それに気付いたアンナが真っ先にその音の方に近付くと
続いてマリオ達も浮遊している岩石を避けながら後を追う。
すると発生源が近付いてきたのか
例の電子音がだんだんと大きくなっていく。
「何の音かしら?」
《ここから…SOSの電波が聞こえるわ…》
「SOSって、なんでわかるの?」
《なんとなく…そう、聞こえる》
「ふうん…」
そして彼女が見つめる先へと腕輪を付けた腕をかざし、
手探りで探すように動かす。
するとその発生源と重なったのか一瞬眩しく輝き、
そこから緑の模様が走る大きな箱のようなものが現れた。
それに触ると冷たく、
金属のような感触も光沢感も感じられる。
それだけでもとても丈夫なものだというのがわかるだろう。
そんな物体には赤いランプも埋め込まれており
稼働しているのだろうか、常に点灯している状態だ。
「なんだこれ…」
《これは宇宙船かしら?何かの装置みたいにも見えるけれど…》
「まるで棺みたいだな。
SOSを出してたくらいなら誰かいるんじゃないのか?」
そしてクッパが赤いランプの所に
書いてある文字を見ようと近付けば
赤いランプが点滅しSOSの電子音とは違う音が響き渡った。
―ヂリリリリリリリッ
「うおっ!」
それはまるで大きな目覚まし時計のような音だ。
鳴り響く同時に宇宙船がブルブルと震え、
赤いランプが青に変わるとピタリと震えが止まる。
思わず耳を塞いでいた彼らが警戒しながら再び接近すれば
宇宙船の扉なのだろう、上部分がスライドするように開いた。
「ふあああああぁ~~あ」
そこから一人の生物が顔を覗かせ、呑気な欠伸をする。
それは前進が緑色で頭上には星のアンテナが揺れている。
体だろうか、顔の下には5本の触手が伸びた形状をしており
宇宙人と言われれば宇宙人だし、
タコと言われればタコにも見える。
そしてその様子からして寝起きなのだろう。
ぷっくりとした唇をムニュムニュと動かせば
きゅるっと大きな瞳を何度かまばたきさせ、
丁度目の前のいたクッパに気付くなり
体の向きをそちらへ向けた。
「きゅるきゅるきゅ~☆おはよっきゅ~!」
これはなかなかの強者だと、
一同がその一言だけで軽く確信した。
そして実際に大きな瞳に射止められているクッパは
より動揺した様子だ。
「な、なんだお前は!?ここで何をしている?」
「あなたがピュアハートを探してる人?
想像してたよりずっとキューートっきゅんきゅん~♡」
クッパは眉をひそめ怪訝な表情でその生物を見下ろすも
当の本人は目をキラキラ光らせながら
可愛い声でクッパを見つめていた。
するとピュアハートという言葉に反応したアンナが
クッパの大きな体を越え、宇宙船の目の前に移動する。
《どうしてピュアハートや私達はのことを?
…まさかノワール伯爵の仲間!?》
「えっ!」
「怖い顔しちゃ嫌っきゅん♡
ボクの名前はタマラ。あなたたちの水先案内人っきゅ!
ささ、ピュアハートが欲しければ
ボクに協力するっきゅっ~~~~~ん!」
《どういう事?ちゃんと説明してちょうだい》
警戒心をさらけ出しているはずだが、
目の前の宇宙人はむしろ喜んだ様子で答えており
むしろそのまま宇宙船から飛び出していこうとする。
調子が狂いそうになるのをなんとか保ちアンナ問い詰めれば
先を急ごうとするタマラがピタリと止まり、振り向いた。
「今は詳しい事言えないっきゅ。
ボクを信じてついてきてほしいっきゅ!」
《そんなことできないわ、出会ったばかりのあなたと》
「
お口チャ~~ック!!」
アンナの言葉を遮るようにタマラが大きな声で叫ぶ。
それに驚いたマリオ達も思わずビクッと肩を震わせた。
「キャプテンの言うことは絶対!
それが宇宙の男のルールっきゅ。していい返事は
"はい"と"ヨーソロー"だけっきゅん!ユーシー?」
「よ…ヨーソローってなんだっけ?」
「確か…はいと同じ意味だったはずよ」
「ほお…じゃあ、ヨーソロー!」
はいorイエスの流れはこの次元では恒例の流れなのだろうか。
宇宙空間と宇宙船が目の前にあるという事もあってか
そうあえてそちらを選んだ
神菜が元気よく答えると
タマラはふふんと機嫌よく笑い、
彼らの頭上へと移動すると見下ろした。
「自分達の立場がわかったようっきゅね!」
《大丈夫なの…?》
「構わん…もし怪しい素振りを見せたら
まる飲みにしてやるだけだ」
「おお~…大魔王様~…」
《知らないわよ…》
アンナが不安そうにつぶやくも
きっとあのサイズ感と性格を見て扱いやすいと感じたのか
クッパは鼻で笑いながらそう答えた。
「それでは準備するっきゅ…
レッツ!ワープ!フォ~メイション!」
「ワープ?」
その掛け声とともに頭上にいたタマラが彼らの元へと接近する。
正確にはクッパの目の前ではあるが。
「我々はこれよりピュアハートの在り処へ
直接ワープで向かうっきゅ。
ワープをするのにはすっげくエネルギーがいるっきゅ。
だからあなたたちの精神エネルギーを
いっぱいい~~~っぱいタマラにこめるっきゅ!」
そして長い触手で自身の頭に付いている
星のアンテナを指差せば
流れを見ていたクッパも首を傾げつつもそのアンテナを握る。
すると揺れる星部分が一瞬仄かに光った。
「…で、どうするのだ」
「そのまま精神エネルギーを送るっきゅ!
そこの三人もサボらないでやるっきゅ!」
ビシッとクッパの様子を見ていたマリオ達三人も指差せば
終始見ていたマリオが呆れたようにため息をつき
アンテナを握るクッパの手の上に手を添える。
そして
神菜、ピーチも同じように大きな彼の手に添えると
全員が瞼を閉じ、その握った手へと力を込めるよう集中する。
とはいえ正直どういう仕組みかは理解していない。
神菜はとりあえずそれっぽく力を込めている状態だ。
しかしその効果はあったのだろう、
タマラを囲うように赤い光が円を描くように現れ
その光がどんどんと激しく輝き始めると
タマラがカッと瞼を開き、きゅるっとした瞳が光った。
「
キタキタ~~☆」
その声をと共に唇を尖らせると、
その口から何かが発射される。
壁のない宇宙に放り投げられる事なく留まったソレは
徐々に不思議な色として空間が歪み始め、
小さな渦がその場に現れた。
《これが…》
「では行くっきゅ~~~~…
ウワ~~ップ!」
「うおおっ!」
「うわぁっ!」
アンテナを握り続ける彼らを気にする事なく前進すれば
無重力で体が軽くなった一行も
その力に釣られるよう引っ張られる。
渦の向こうに見える空間の中へと身を投じれば
タマラの引っ張った力とは違う別の引力で体が引っ張られ
その拍子に全員がタマラのアンテナから手を離してしまう。
そしてその渦の動きに沿って、
全員が順番に吸い込まれて行ってしまった。
「わあ…っ!」
ふと
神菜は様々な衝撃で閉じていた瞼を無理矢理開く。
そこには見たことのない
カラフルで不思議な世界が広がっていたがそれも一瞬で、
気付けば見覚えのある青と黒の世界に切り替わった。
「……きゅ?」
全員が無事に渦から脱出するとタマラが小さく呟く。
そしてふわり前後・上下・左右全てを確認すると
露骨にテンションが下がる様子を見せた。
「なんだ…この辺にあるのか?」
「全然…目的地まで届いてないっきゅ…」
すると勢いよく振り向き、クッパを睨み付ける。
突然の態度に思わず険しくなるも
タマラは強気の姿勢を崩そうとしなかった。
「あなたたちの精神エネルギーはこの程度っきゅか?
とんだヘタレっきゅね…
期待したタマラが馬鹿だったっきゅ」
「な…なんだと!?」
「まあまあ…」
小馬鹿にする態度を見て案の定声を荒げるクッパを止めると
鼻で笑い、きゅるっとした瞳で見下ろすように口を開く。
「…ま、ヘタレにはヘタレなりの進み方があるっきゅ。
ピュアハートはまだまだ先っきゅ。
仕方ないからここからは泳いでいくっきゅ!」
指揮をとるように片腕をあげると、
そのまま宇宙の先に進み始める。
まるで旅行ツアーの案内人のような状態なのだろう。
それを見たマリオ達もタマラの言動に呆れながら後を追った。
「なんだあ…?急に出てきたかと思えば引っ張りまわして…」
《…きっとただ者ではないわ、油断はしないでね》
「うん…」
そうアンナに頷くと、
気付けば最後尾になっていた
神菜も後を追った。
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その途中には岩石やら浮遊する生き物が沢山いる。
クッパも炎を出す事が出来ない為、
なるべく避けながら浮遊するも
先へ泳ぐ
神菜の足元へと接近していた。
その数はかなりの数だが、
足元に注目していない彼女は気付いておらず。
「きゅっ!危ないっきゅ!」
「ん?…っとああ!?」
それに気付いたのかただ偶然か、ふと振り向いたタマラが
神菜の足元に集るクラゲのような生物に気付くと
その場で口元から勢いよく赤い光の何かを吐き出した。
すると放たれた赤い光が
彼女の足元に浮遊する生き物に直撃する。
当たった生き物達がパチンと弾けるように消えていけば
神菜はただ呆然とその場で周囲を見渡していた。
「大丈夫か?」
「う、うん…びっくりしたあ…」
「たっく~ちゃんと周り見てるっきゅ?
今回は助けてあげたけど、
自分の身は自分で守るっきゅよ!」
「お手数ぅ~をおかけしましたねぇ…」
相変わらずの上から目線だが
助けられた身としては返す言葉もない。
適当に返事をするも素直に応えた事が良かったのだろうか、
タマラは機嫌を損ねる事なく
そのまま前へと向き進行を再開した。
とりあえず
神菜は
仲間になりたてのバーリやーを片手に後を追えば
それを横目で見ていたピーチが興味深そうに彼女へ接近する。
「あら、その子が例の新しいコ?」
「うん!バリアフェアリンのバーリ!便利そうだからさ~」
「バリア?」
《むっほっほ~!
こういう不安定な場所こそボクチンの出番っほ!
身を護るのもよし!アタックしちゃうのもよしほっほ~!》
「まあ!それは頼もしいわね」
ピーチがいつものように微笑むと
神菜も釣られて笑い、
バーリやーも照れ臭そうに表情を緩ませた。
そしてマリオはトるナゲール、ピーチはボムドッカんを使い、
クッパは謎に懐かれているタマラの光線攻撃の援護、
そして
神菜は新しく加入したバーリやーで移動しながら
進行を妨げる宇宙の生き物、ジェルルを倒していく。
それを見ているアンナはどこか嬉しそうな様子で後を追った。
…………………
…と、最初はそう戦いながら泳いでいたが
近寄るジェルルなどの生物が少なくなると
果てしない宇宙の星空を眺めながら優雅に遊泳し始めていた。
宇宙のイメージといえばただ無限に広がる真っ暗闇の世界。
青い地球が映える程の黒世界の映像ぐらいだろう。
しかし目の前に見えるのは仄かに青みの混じる黒。
その二色が星の形を描いてグラデーションを作り出しており
地上では見上げて見える
小さな星粒もキラキラと輝いてもいた。
岩石のように散らばるものから天の川のように繋がる星粒。
すると
神菜が数個の星粒を見つめながら「あ、」と声を漏らした。
「どうした?」
「なんかキノコの形に…見える…?」
「あら!あれがキノコ座なのね!
こんな近くで見られるなんて…」
「え?」
ピーチがキラキラとした瞳で
神菜の見つめる星粒を眺める。
初めて聞く星座に困惑しながらも
彼らが言うキノコ座に見える星粒を改めて凝視した。
「お前知らないのか?キノコ座」
「知らないも何も…キノコ座だなんてないし」
「あら、そうなの?」
《
神菜は…マリオ達とは違う世界の
ニンゲンじゃないのかって言われていたはずよ》
「デアールさんも異国の人間かもって言ってたしなあ」
「なに?では何故マリオと共に行動していたのだ?」
「色々あって記憶探し!実はちょっと抜けててさ~」
「でも俺やピーチ姫に、クリボーとかも知ってるんだよな」
「何故かね~。ほんのちょっとだけだけど」
「何なのかしらね?不思議だわ」
だが実際に見た記憶らしき光景の中には
まだその手がかりとなりそうな情報は見つけられていない。
ただきっとあの夢を更に遡れば欠けた記憶が
埋まっていくだろうと、
神菜は内心確信している。
その為にはピュアハートを探さなければならない。
壊れるセカイを救うためにも、自身を探すためにも。
するとずっと黙っていたタマラのアンテナがぴろんと揺れ、
それに気付いたクッパがそちらへと視線を向ける。
「…む!」
タマラ越しから見えたモノ、
そこには先程一行が吸い込まれていったワープ空間があった。
ゆらゆらと揺らめき、空間が不自然に歪んでいる。
「お?」
「ワープ発見!ささっ、入るっきゅ!!」
興奮したタマラから離れないようクッパも彼にしがみ付き、
後ろを追うマリオ達も続けて空間に入る。
「…あとどれぐらいだ?」
「…」
そこを抜けた先もやはり変わらぬ広い宇宙空間のままで。
変化があるとすれば浮遊する岩石が増え
ジェルル以外の宇宙の生き物達が現れているという所だろう。
「知らないっきゅ…
あなた達の精神エネルギーが足りなかったから
こんなに遠くなってるっきゅよ!
反省してついてくるっきゅ!!」
その声は怒りか動揺か。
どちらにせよ震えの混じる声で一行を怒鳴り付ければ
ぷりぷりと口をとがらせながら
再び先導するように先へ進み始める。
脅威を感じられないそんな態度に呆然としつつも、
マリオ達も続いて泳ぎ始めた。
№48 宇宙の子
「ねえ。さっきの機械の中に居たけど、何者なの?」
「ン~?タマラはタマラっきゅ~☆」
タマラの様子を伺いながら
神菜が声をかければ
先程の憤慨した様子は一切見られずおどけるような返答で。
そしてくるりと体を回転させながら泳げば
自然とクッパの傍から離れる形になってしまい、
そのまま先に進んで行ってしまう。
小さい緑のシルエットとなっていくタマラを眺めながら
クッパはむしゃくしゃするように唸った。
「いったいアイツは何者なのだ…あーだこーだと…」
「意外とさ~生意気だけど宇宙のすっごい王子~…
なんて事もありそうじゃない?」
「ウフフ、それが本当ならロマンチックな展開ね」
「王子だと…?フン!あんな小童が王子な訳ないだろう!」
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