+サルガッゾーン+
ミスターLので最初の威勢はどこにもなく
しかし憎めないような雰囲気を残して去っていった。
神菜が呆れながらその方へ見上げていると
何か違和感があったのか、クッパが険しい表情で腕を組んだ。
「う~~むう~~む…あのミスターLとやら、
どこかで見たことがあるような気がするが…」
「やっぱりクッパもそう思う?」
「ピーチ姫もか!?」
「ええ…マリオもそうでしょう?」
「…ああ」
彼らのミスターLに対する既視感は
神菜がマリオ達の名前を
"なんとなく知っていた"ようなものではなく
どこか"自分の知っている誰かに似ている"のようなものだった。
「うう…酷い目のあったきゅん!でも気を取り直して…」
しかしそんな事はどうでもいいタマラは
奥の扉の前で待機しており、
未だに動く様子のない一行を見て
両手の触手でパチパチと両頬を叩いた。
「ピュアハートはこの奥っきゅ!ついて来るっきゅん!」
その言葉にハッと我に返ったマリオ達も
タマラに向かって頷く。
そしてタマラはいつもより背筋を伸ばすと
その目の前にある大きな扉を開いた。
…………………………
「ママ、ママ!つれてきたっきゅよ~~!」
背筋を伸ばしたままその部屋に入るものの
数歩歩いたのち、いつものタマラの様子に戻り
駆け足で部屋の奥へ向かっていった。
「ママって…さっき言ってた…?」
それはエルガンダーを前にしてクッパに放った言葉だ。
ヘルメットを脱ぎ、走って行ったタマラを追って進んで行くと
あるものを目の前にして彼は立ち止まっており、
一行が到着したのを確認するとソレを背にし振り向いた。
「やっとここまで来たっきゅね…
さあ!ママに挨拶するっきゅ」
「ママ…?」
上へと差し伸べた触手の先を見上げる。
それはクッパよりもはるかに大きい金の銅像。
タマラと同じ形状だが顔つきは女性の形をしており
タマラよりも立派な星のアンテナに大きな杖を持っていた。
「これがボクのママ、タマラーン王国の女王。
タマリン14世の像だっきゅ!」
「女王…!?」
「まあ…」
その発言に全員が驚く。
だがそんな反応を既に予想していたのか、
タマラはどこかご機嫌そうだった。
《女王が…ママ?じゃあ、貴方は…》
「ボクは大昔栄えたタマラーン王国の王子!
タマラ・コロガリーヌ・タマリンっきゅ!」
「じゃあ、前に
神菜が言っていた王子だという予想は…」
「なぁ~んだ~予想されてたっきゅか~
まあ、されてても仕方ないぐらいの王子オーラが
出てたからっきゅね!」
とはいえ冗談半分で言った予想が当たったという事もあり
神菜はただただ仰天としている。
その反応にタマラはさらに喜ぶように胸を張ると
女王の像を見上げ、今度は真剣な様子で口を開いた。
「でも隠しててゴメンっきゅ。
悪い奴に狙われるから秘密って約束だったっきゅ」
「そう…だったのか」
「ずっと昔、ママはある人達が
未来の世界に破滅の危機が訪れることを聞いたっきゅ」
「古代の民…かしら」
「そして混沌のラブパワーによる破滅を防ぐには
ピュアハートが必要なことも…
だからママとその人達はピュアハートを
誰も近寄れないこの【サルガッゾーン】に隠した後、
ボクを冬眠カプセルで1500年間眠らせたんだっきゅ」
「1000…5…」
その桁数は眠りから覚めた
フェアリン達からで散々聞いたワードだ。
しかし目の前のタマラとはきっと全く違う状況だ。
まだ幼子だろう小さな体でたった一人、
あの棺の中で眠って待ち続けていたのだ。
タマラなどの宇宙人達にとって
1500年はどれ程の感覚なのかは定かではない。
しかし彼の語る内容からして
とても長く、孤独な時間であっただろう。
そしてタマラはそのまま女王の像を再び背にすると
真剣な眼差しでクッパを見つめた。
その瞳はまさに役割を与えられた王子のような、
使命を背負った大人の表情だった。
「やがてこの世界にやってくる勇者をここへ導く為に…
世界を破滅から救う為に!」
そしてタマラがゆっくりとクッパに歩み寄り
姿勢正しく彼を見上げると両腕の触手を差し出す。
察したクッパも狼狽える様子を見せず、
大魔王の威勢を保ったままタマラと向き合った。
「タマラーン王国の王子、
タマラが女王からのメッセージを伝えるっきゅ」
「…ウム」
「ピュアハートを貴方に託す。それで世界を救うっきゅ…」
瞼を閉じ、静かに何かを唱えると
タマラの合わせた触手の先から淡い水色の光が放つ。
そしてそれが段々と眩くなると
そこから水色のピュアハートが現れた。
深い宇宙の彼方に埋もれる事のない優しい水色。
そして幾多の星々よりも煌めき、
透き通るような純粋な心を現すような鮮やかさ。
「さあ、受け取るっきゅ!」
それをクッパの方へ向けると、
彼もゆっくりとそのピュアハートを手にする。
片手からでも伝わるその思いと温かみを静かに受け取ると
突如タマラの足元がふらつき、大きな欠伸をした。
「ふわ~あ…安心したら何だか眠くなってきたっきゅん☆
ちょっと…眠るっきゅ…」
「…ウム。ゆっくりと眠るがいい」
クッパも穏やかに、優しくそう伝えると
タマラも嬉しそうに笑みを浮かべる。
そしてそのままフラフラとおぼつかない足を動かし、
女王であり母親である像の前へと辿り着くと
うずくまるようにゆっくりと体を横たえた。
「…行くか」
「ああ」
そのマリオの言葉にピーチと
神菜も無言で頷く。
そして全員が部屋を後にし、クッパが出ようとした時
ふと、ピタリとその場で立ち止まった。
「ママ…ボク、頑張ったっきゅよね?
褒めて…くれるっ…きゅよ……ね」
それは既に眠った状態での寝言なのか
眠る前の最後の言葉なのかはわからない。
うずくまり、ゆっくりと瞼を閉じるタマラの元へ
クッパが静かに歩み寄り、姿勢を低くすると
そして一度だけその頭を優しく撫でると
先に行ったマリオ達の後を追うように、静かに部屋を出た。
№57 幾年の時を越えて
「ありがと…きゅ」
そのタマラ表情はどこか嬉しそうで、
重大な使命を果たせた事に誇りに思っている様にも見えた。
-第四章END-
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