№57 幾つの時を越えて
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+暗黒城+
あの後マネーラと共に自室で休息をとっていたが
ナスタシアからの招集に沈んでいた腰を上げ
急ぎ足で最上階へと向かっていた。
なんだなんかで謎のロボットに乗って飛び出した
例の緑のヒゲが出動してからかなりの時間も経っている。
その召集で彼の結果が出たのだろうと察していた二人だったが
結果を知らされていないのに
マネーラの表情は既に渋い状態だった。
「アイツが勝ったところでな~んかムカつくしぃ…
負けたところでザマ~みろって思う反面やっぱムカつく…」
「あはは…」
そして大広間には例の一番高い塔にはノワールとナスタシア、
そこからナスタシアの手伝いへと向かったドドンタスに
一人どこかに用事と称して消えていたディメーンの姿もあり、
その中にまるで初期から馴染んでいたかのように
見覚えのある緑の人物がそこに佇んでいた。
後から来たマオとマネーラも空いていた塔へと登ると
全員揃ったことを確認したナスタシアがごほんと咳払いをした。
「改めてご紹介しましょう。
彼はミスターL。私たちの新たな仲間です」
「…あ!」
その人物こそ、
まさに彼女達の目の前で空へと飛び立った緑のヒゲ。
もとい、ミスターLと呼ばれたそのヒゲ男は
周囲の塔に降り立っていた他の伯爵ズを見るなり鼻で笑った。
「ふん…どいつもこいつもしけたツラだな。
そんなツラしてるから
あんな赤いヒゲにいいようにあしらわれるんだ」
ナスタシアに指定されたのか自ら選んだのか。
伯爵ズが集結する塔の中で
ノワールの塔に一番近い所なのもあり、
彼に背を向けるミスターLを凝視する伯爵ズへと視線を向ける。
その表情は希望も期待も何も抱いていないようなもので。
興味がない冷めた瞳がただ流れるように彼らに向けられていた。
「にゃ…にゃんだとー!!」
「アンタだっていきなりやられて帰ってきた癖に…
なんなのよその態度は!!」
もはやお家芸といった所だろうか。
その態度に反応しやすい二人が案の定声を上げる。
二人してミスターLを睨みつけながら声を荒げるも
当の本人は涼しい顔のまま彼らに背を向けてしまった。
「フン。あれはほんの小手調べ…次は奴等を倒す」
すると突然体の向きを変えるなり、
その場でくるくると回転をし始める。
まるでスケートリンク上のスピンの様に
ブレない回転を披露すると
彼の決めポーズなのだろう、ピタリと動きをとめ
"L"の形を模すように勢いよく両腕を伸ばした。
「この緑の雷…ミスターLがな」
その声色は激しい動作と反して落ち着いたもので。
ドドンタスとマネーラもまばたきをしながら呆然と眺める中、
ディメーンはただ微笑ましそうに笑みを浮かべる。
マオはそんな伯爵ズを交互に眺めながら苦笑していると
一息つくなりポーズを解除し、
帽子のツバをつかんでより深く被った。
「さて…オレは相棒の整備があるから
これで失礼するぜ…アバヨ!」
他の声を聞くそぶりも見せることなく
勢いよく片腕を高く上げると塔から飛び降り、
長い脚で爽快に歩いて大広間から出て行ってしまった。
残された伯爵ズは立ち去る彼の姿を
ただ静かに眺める事しかできず。
「なんか…やっぱりすごいね」
「…ったく、なんなのよあいつ!チョームカつく!」
マネーラがむすっと頬を膨らましながら
ミスターLの背中を見下ろす。
すると静かに見守っていたノワールの手がゆっくりと動くと
黒のヨゲン書を開き、
何枚かページをめくると手の動きが止まった。
「【赤き衣を纏いし勇者。
大いなる力をふるいたるも、その前に立ち塞がる者あり。
混沌を纏いし戦士、緑の男が全てを闇へと葬るだろう】
ワルワルワル…黒の予言書に書かれている一説だ」
「つまり、その【緑の男】っていうのが
彼の事だって言いたいんだね」
笑みを浮かべながらノワールを見つめるが
彼の方向から返事が来る前に頭上から激しい轟音が響く。
ふとそちらの方を見上げてみれば
その揺れの正体であるドドンタスが
ひたすら地団駄を踏んでいて。
「そ、そんな理由ではドドンっと納得できませぬ!」
「落ち着くでワ~ル。次はお前に行ってもらうでワ~ル」
「おおっ!ありがたき幸せ!!」
しかしその反応の転換はとても単純だ。
ノワールの一言で険しい表情から優越感へと変わり
歓喜の声を上げながら両腕を掲げ、
主張させるようにポーズをとった。
「このドドンタス!
命に代えましてもにっくき勇者めを
やっつけてくれましょう!」
熱意のこもった言葉をノワールに伝え
その言葉に彼も頷けばドドンタスもまた塔から飛び降り
勢いよく大広間の扉を開いて外へと飛び出してしまった。
「熱いねえ、ドドンタくんは。
ま、それがいいところなんだけど…」
「どーせあの調子じゃ二の舞よ。
は~ぁ!あたしは今回は出番なしなの~つまんないわ~!」
ドドンタスほどではないものの、
そんなマネーラの声も響き渡れば
その場にしゃがみ込んで大きくため息をついた。
マオもその姿を見て苦笑を浮かべつつディメーンの方を見る。
魔法で立ち去りそうになっているのに気付き、
「あ、」と声を漏らせば
その声と視線に気付いた彼も首をかしげて彼女を見つめた。
「ディメーンの方はどんな感じ?」
「んん?」
「ほら…コッソリいい案って言ってたやつ」
「あ~…」
その言葉にはっと思い出した様子を見せるも
この場では言いづらい事なのか、ただ言葉を濁す反応で。
見ていたマオもその答えにまばたきを繰り返せば
ディメーンは困ったような笑みを浮かべた。
「なんとも~かな?そっちはどう?」
「あの時見せた南京錠…持ってたカギと合ったんだ」
「じゃあまた夢見れたんだ!どうだった?」
「また変な感じだったけど…
ドドンタスと関係のあるヒトが出てきてね…」
「ドドンタくんと?」
「そのヒトからなんだか…懐かしい感じはあった、ぐらい…」
彼女を連れてきたディメーンも知らない情報なのだろうか。
その言葉を聞いても返ってくる彼の反応は不明確なもので、
反応を見たマオも彼と同じように顔を俯かせる。
「それで新しく探すか~ってなったけど、
お手上げ状態って事よ」
「どうして?」
「憶測だけど、もしかしたらわたし達が
こうして探す事自体が間違いなんじゃないかって」
「…んん?どういう事?」
「今まで見つけてきたヤツは偶然見つけたモノだったのよ。
アタシ達が血眼になって探してるときじゃなくて、
別行動をしてる時にそこにあった、みたいにね」
「……ふうん」
「だからさ…一回頼もうとしたと思うけど、
それは置いておいて勇者対策の方に専念しようかって」
二人を見上げるようにマネーラも話の中へと混じれば
ディメーンは更に悩むように視線を彼女達から外す。
「…ンン」
しかしその静寂を破る様に
背後からナスタシアの咳払いが小さく響く。
我に返ってふと振り向けば
ノワールもナスタシアもまだ塔の上に留まっており
落ち着いた様子でヨゲン書を開くノワールに対し、
ナスタシアは無言の眼差しをずっと三人に向けている状態だ。
一瞬気まずそうに反応したマオとマネーラだったが
ディメーンは安定してひょろりとおどけた。
「あ、もしかしてお邪魔だったかな~?」
「いえ…むしろ貴方がたの話が筒抜けの状態だったので」
「ちゃんと伯爵様にも話してる事なんでしょ?
じゃあむしろ共有した方が良いんじゃないかな~」
「ワル…?何か進展があったでワ~ル?」
ノワールの反応にマオは留めていた本を取り出す。
「…あっ!」
パラパラとめくろうとするが、
その最中にひとりでに本がふわりと彼女の手から離れる。
そのまま宙へと浮かぶと
まっすぐノワールの元へと浮遊していった。
マオはその現象に思わず慌てた様子を見せるも
ノワールは安心させるよう手のひらをこちらに向け
彼女の動きを止めながら開かれた本を見つめる。
そのページを見て、
まず一番最初に反応したのはナスタシアだった。
「…新しい絵柄になっていますね」
「うん。本当ついさっきなんだけど…
ナスタシアから貰った黄色の南京錠がカギとはまったの」
「その話は確かにナスタシアからも聞いている。
不思議な夢を見た…と」
「はい。誰かの目線で進む内容で…」
「その新しく見た夢で、
新たに気付いた事はありませんでしたか?」
刻まれている古代文字を見ているのだろうか。
ノワールの視線は彼女ではなく本を見つめており、
あの時のナスタシアの様に過去のページも確認している。
「もしや、それが先程聞こえていた話でワ~ル?」
「はい…ドドンタスはいなかったんですけど、
昔の知り合いだって人が出てきて」
「ディメーン、その事は?」
「…いいえ~初耳だね」
「懐かしい感じと聞こえましたが、知り合いなのです?」
「かもしれないって感じかな」
とはいえやはり情報量はかなり少ない。
念のため聞いたナスタシアやノワールも
関連性に心当たりがないのだろう、ただ言葉が詰まる。
「…話を聞く限り、現状ではまだ
執行の妨げにはなりそうではないな」
「そうですね。勇者に関わる話も出ておりません」
「しかし、この物語は何を現しているでワ~ル?」
「それも正直…何もわかってないんです」
「新しいページって何て書かれてるかわかりますぅ?」
その言葉にノワールは再び本へと目線を移す。
そこに刻まれる文字列を見て、すぐに頷いた。
「【キュルキュルと軋む音】、と書いているでワ~ル」
「きゅるきゅる…?」
「この絵を見る限り何か複雑な機械の内部に見えます。
それを表現した文章では?」
「あ~…確かに!」
そして残りのページが例のくぼみしかない事を確認すると
浮遊したまま時間を巻き戻すかのように
マオの元へ本がゆっくりと戻っていく。
それを両手で優しく握りしめると
魔法が解け重力が働き、本の重みで少しだけ腕が揺れた。
「【夢の外から忍び寄る音がする】。
【ドンドンと揺れる音】【カサカサと蠢く音】…。
そして【キュルキュルと軋む音】……」
「なんだか音ばっかだねぇ」
「やっぱりあらすじのあの字も感じられないわ。
まさか全部こんな文章じゃないわよね…?」
「それはもうちょっと見ないとわからないんじゃないかな」
見つけてもただ謎が深まるばかりの情報に頭を抱えるが
とりあえずその謎めいた本を開けば彼女のみに関わらず
伯爵ズとの僅かな関連性も現れる事はわかった。
「…マオ。引き続き、その本の調査を進めるでワ~ル」
「は、はい!」
「…じゃ、とりあえずまとまったところで僕も一旦失礼するよ」
「うん。ありがとう」
マオがそう微笑むとディメーンも釣られて笑みを浮かべ
移動魔法でその場から姿を消した。
「じゃあ…アタシ達もとりあえずでよっか。
色々整理しましょ~」
「うん。じゃあ伯爵様、ナスタシア。失礼します」
丁寧にお辞儀をしたのち、マネーラと手を繋ぐと
彼女の魔法の力でディメーンの様にその場から立ち去る。
「……」
二人だけになり静まった大広間。
そして思考をリセットさせるために
ナスタシアが改めて小さく息を吐く。
「彼女の調査は順調に進んでいるようですが…
恐らくドドンタスでは勇者には…いえ。
マネーラ、ディメーン、マオ…そしてミスターLでさえも…」
「…」
「やがて勇者はピュアハートを集め、
伯爵様の元へやって来るでしょう。貴方を打ち倒す為に…」
その声は先程の凛々しさが消えた嘆くような声色で。
だがノワールの口からは余裕さを含めたような
静かな笑いがこぼれる。
「ワルワルワル…それこそヨの望むところでワ~ル」
そう呟けばナスタシアの眼鏡の奥の瞳がより悲壮感に満ちる。
足元を見るように俯くが、ノワールは見向きもしない。
「貴方ほど、この世界を愛していた方はいないというのに…
貴方がこんな事をしなくてはならないなんて…」
「もう言うな、ナスタシアよ…」
「私が…」
「なんだ?」
「私が、あの方の代わりになれたなら…そう思います…」
その普段からは聞こえない震える声に気付き
目線だけを彼女に向けながら帽子を深くかぶる。
しかしナスタシアはノワールとの目線を合わせようとしない。
気付いていないのか、合わせたくないのか。
変わらない様子を見て視線を戻し、首を横に振った。
「彼女の代わりなどいない。
無論、お前などがなれるはずもない」
冷たく突き付けられた彼女は
我に帰ったように背筋を伸ばすも、
その表情はどこか強張り、複雑なもので。
「申し訳ありません。失言でした…」
「そうとも…彼女はもういない。もう…どこにも…」
ナスタシアの謝罪に被せるように、彼の言葉が突き刺さる。
それだけを小さく呟けば、彼女に振り向く事無く
移動魔法で何も言わずに立ち去ってしまう。
「……」
残されたナスタシアは、
執行人の右腕という強かな立場である事を忘れ
ただ何もできず肩を落とすことしかできなかった。
勇者Side▷