眩い光から逃れた先は、また白い世界。
目がくらむ程の眩しい白と微かに走る緑が見える。
「もうすくだっきゅん…もうすぐ…到着だっきゅよ~♡」
そんな先に進むタマラの瞳は
宇宙空間にいた時よりも大きく輝いている。
そしてその白い空間から抜けたのだろう。
瞼が開けられない程の眩い白さは消え
どこか異次元の様なSFチックな光景に切り替わっていた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
+サルガッゾーン+
「ついたっきゅ!ここがサルガッゾーンだっきゅ~ん!
とうとうボクはここにたどり着いたんだっきゅ~」
「ここが…サルガッゾーン」
「
たどり着いたんだっきゅ~!」
それは宇宙の墓場とも言われる場所。
依然タマラはやっと目的地に着いて嬉しそうにしていたが
事前にそう伝えられていた一行は
少々不安になりながらも周りを見渡す。
「すご…この、なんだろう…SF映画の世界みたいな?」
「そりゃ宇宙だしな」
「ま~そう言われればそうなんですが…」
墓場と聞いておどろおどろしいものか
殺風景なものかと思っていたのか。
目の前にあるのは時折が動く空間の不思議な模様に
黒い地面に刻まれた一定間隔に走る緑の閃光。
そして所謂足場のようなものだろう、
地面と同じ材質のブロックが
ジャンプして届く高さにいくつか配置されている。
想像よりも煌びやかさと整備されてある空間に
ただ見渡しながらまばたきを繰り返す。
とはいえこんなガラリと変わる状況にも慣れてしまったのか。
神菜は新たな光景に多少感動しつつも
いつもの気楽な様子でその空間を眺めていた。
マリオも呆れながらその空間を見渡していれば
背中を向けていたタマラくるりとこちらに体を向ける。
「…ということで、嬉しさのあまりタマラは先に行くっきゅ。
みんなはゆっくり来るといいっきゅ」
「え?」
「でも前にも言ったように、
ここはチョー複雑な迷路になっていて…
自分がどこにいるのかすぐにわからなくなってしまうので
くれぐれも注意するっきゅ」
「案内してくれるんじゃなか」
「じゃあみんな!あとでピュアハートの所で会うっきゅ~ん!」
マリオが口を出すも安定して饒舌状態のタマラには通用せず
軽く敬礼の様なポーズを見せるなり
そのままピュアハートの場所へと走って行ってしまった。
「…えぇ~」
案の定、取り残された
神菜達は呆然とする。
《肝心な所で置いていかれちゃったわね…》
「フン!さっさと髪の毛でも燃やしておくべきだったな」
「まあまあ…」
怒りに拳を握るクッパをなだめるピーチの表情も、
流石にどこか疲れを見せている。
《でも確かにピュアハートの存在を感じる…
この空間のどこかにあるんだわ》
「なら、隅々まで探すしかないな」
「宇宙の墓場っていうんだったら、幽霊とかいたりして?」
「可能性はまあ、無きにしも非ずだな」
「ま、マジ…?」
「お前が言ったんだろ」
そして取り残されたマリオ達一行もヘルメットを外すと、
なるべく足早に新たな空間の奥へと進み始めた。
…………………
「…む?」
宇宙空間でいうワープと同じような仕組みであろう
このサルガッゾーンの空間を行き来する扉の先へと進めば
先頭を歩いていたクッパの頭の上に何かが乗る。
ひんやりとした少々重みのあるそれを手に取れば、
それは見慣れた薄く黄色のコインが目の前に映った。
そしてそのまま落ちてきたであろう頭上を見上げれば
何もない白い天井に溶け込むように雲が浮いており
そこからコインが雪のように降り注いでいた。
《たくさんのコインだルン!!コインコイ~ン!!》
「ここでも一応回収は出来るんだな…」
「ねえこれってさ、宇宙の通貨とかじゃないよね?
ほら…前にあったマネー的な」
「どうかしら?見慣れたコインに見えるけど…」
その口ぶりからしてマリオが過去のセカイでもあった
ハッピーフラワーを見つけたのだろう。
ピーチは依然として落ち着いた様子のまま
降り注ぐコインを逆さまにしたパラソルで受け止め、
神菜も半重力の中、手を伸ばし掴み取っている。
そしてその様子を見ていたアンナが
ひらりとマリオの肩へととまった。
《マリオ…ここでは下手に
分かれて行動するのはやめておいた方がいいわ》
「迷路だからか?」
《それもそうだけど…こういう所は情報を得るというよりは
次元ワザを上手く利用しないと進めない気がするの…》
「そりゃまた唐突だな。今までもあったのに」
《なんとなく…だけど》
そんないつにも増して心配の気持ちが籠った声色に
マリオはただ素直に頷いた。
そして女性陣二人が拾える分全てのコインを回収し終えると
妨害する宇宙生物達を押しのけ、
先へと進むクッパの後を追った。
…………………………
「ねえ、アレって…扉じゃない?」
「扉…?」
その扉の先を辿り、丁度壁に突き当たった場所。
見上げた場所で何かに気付いた
神菜が声をあげ指さす。
そこにはこのフロアの二階部分にあたる場所なのだろう
途中で途切れた足場から覗いて見える隙間から
確かに先程と同じ扉らしきものがあったのだ。
しかしその扉の向きは二階の足場ではなく
このフロア全体の天井を向いており、
要は逆さまに向いている状態だ。
そして目の前は足をかけられる場所もないただの壁。
「どうやってあんな所に行けばいいのだ!」
「こういう所こそ、って事か」
《そうね…》
納得したように頷けばその場で次元ワザを発動させると
予想通りだったのか、戻ってくるなり合図を送り
全員で次元ワザで移動する。
現れた階段を上り、二階部分へと辿り着くも
その先で再び立ち止まってしまった。
「扉はあるが…鍵がかかってる」
「えぇ!?じゃあやっぱりこの上の扉?」
その場で見上げてみれば、
先程見えた天井側の扉と同じように
二つ目の扉が丁度真上の位置にあったのだ。
宇宙空間にいた時のように
自由自在に浮遊が出来れば話は早いのだが
このサルガッゾーンでは地上にいる時と同じように
惑星の時のような半重力で高く飛ぶことができない。
「さっきのコインが降ってきた場所、
もしかしたらあそこで見逃してる場所があるかも?」
「何か…う~ん足場はあったような記憶だったけど…」
《…ええ。次元ワザが必要なら、
そこになにかがある可能性はあるわ》
そしてのぼってきた階段を下り、先程の空間に戻ると
確かに
神菜が言っていたように
戻ってきた扉の真上に足場が設置されている。
まずマリオが先にのぼって次元ワザを発動させている間に
神菜も後から追い付けば
やはり何かがあったのか、すぐに戻ってきており
いつものように全員に合図を送ると再び次元ワザを発動させた。
すると壁しかなかったそこに扉がペラリと現れる。
「まあ。よくできた仕掛けね」
「次元ワザで見つかる扉って…
タマラはどうやって進んでるんだろ」
「ここを知ってる様子だったし、
仕掛けを避けるルートでも知ってるんじゃないのか」
「じゃあ勇者ご一行を置いていくなって話…」
そう呟きながらも、早速目の前に現れた扉を開いた。
……………………………
次元ワザで見つけた扉の先で再び見つけたコインフラワーと
まるで貯金箱のような生物、ブーチョを扱い
コイン稼ぎを行いながら示された道を進んで行く。
そしてある扉をくぐって辿り着いた空間。
先程まで歩いてきた場所よりも狭めの場所で
部屋の中央に顔が中心に寄った水色の丸い生物が見える。
何かしらの宇宙生物だろうと恐る恐る近付いてみれば
不意にその顔の視線が
神菜とパチリと合う。
―ブオンッ
「うおっ!!」
するとその生き物目つきが鋭いものへと変わり
そのまま彼女に向けて円型の光弾を飛ばしたのだ。
その動向を捉えていた
神菜は驚きつつも難なく避け
間髪入れずにマリオがアンナの力を発動させた。
《バリバー。無敵バリアを使って身を守る丸い顔の生命体…
だからバリアを破ることは出来ないけど、
次元ワザを使えばバリバーの懐に入り込むことは可能よ》
「壁…?」
静止した世界のままバリバーの方をよく観察すると
確かにバリバーを中心に透明の壁が張っているのが見える。
そしてそのバリバーの向こう側に何かがあるのもわかった。
「次元ワザ…あ!?」
アンナの力を解除し動ける状態へと戻れば
早速マリオが次元ワザを使おうとする。
しかし先程までいたバリバーの姿が消えており
困惑した様子で周囲を確認してみれば
光線を避けた
神菜の手に捕まれている姿が目に映った。
《さっすが
神菜~!
ボクチンの使いこなしっぷりに
どんどん磨きがかかってきてるどえーす!》
「いや~安心安定!ね?」
きっとトるナゲールの力を使ったのだろう。
バリバー自身も目を動揺しているが何も出来るわけもなく。
両手に抱える程のサイズのボールを片手で持ち上げながら
マリオに合図を送り、隠れていたモノへと視線を向ける。
そこにあったのは予想していた通りの宝箱で
その中から緑の宝石が埋め込まれた小さな銀の鍵を見つける。
「鍵だな」
「その鍵ってまさか…さっきの所の?」
「だろうな」
「……」
《ヨオヨオ!ベリークールなご尊顔!
フニャフニャフェイスに落ちぶれてるゼエ~》
「だ、黙れ!」
それを複雑そうな様子で眺めるクッパに対し
へびードンなりの心配の言葉なのか
ただちょっかいをかけてるのかわからない絡みに
様子を見ていたピーチはたふぁ苦笑を浮かべていた。
そしてバリバーを解放したのち鍵のあった扉の空間へと戻ると
手に入れた鍵で解錠し、そのまま扉が開いた。
「…お、お!?」
すると先に扉の先へと入った
神菜の声が頭上から響く。
残された三人がふと天井を見上げてみれば、
そこには天井を地面にするように立ち、
こちらを見下ろしている彼女の姿があった。
しかし彼女からすれば見上げている状態でもあるし
マリオ達の姿も見下ろす様に見上げている状態なのだろう。
そして改めてこの空間の重力どうなっているのか不明だが
神菜の長い黒髪やスカートなどの
垂れ下がるものの動きにも特に変化は見られないし
落ちてくる様子も一切ない。
「なんじゃこりゃ…」
思わず口をぽかんと開いてしまう。
そしてこの空間にはもう一つ、天井の所に扉がある。
タマラの言っていた迷路のような空間というのは
つまりこういう仕組みが入り組んでいると言う事なのだろうか。
「みんな~!はやく!!」
それに対し
神菜はどこか楽しそうに
向かいにある天井側の扉へと駆け出して行っていて。
「あの小娘は何故あんなに楽しそうにいられるのだ…」
「きっと元の世界ではこういう不思議な現象を
あまり無いんじゃないかしら?」
「まあ…どうせ最初だけだろ」
その様子を保護者の様に見つめながら
マリオ達も後を追った。
………………………
地面が天井に。天井が地面に。
摩訶不思議な空間を楽しんでいた
神菜であったが
マリオの予想通り、だんだんと活気がなくなり
先頭で歩いていたのに最終的には
クッパと共に列の後方へと移動して行動していた。
飽きたのか酔ってしまったのかは定かではないが
明らかに彼女のテンションは先程より落ち着いている。
しかしマリオの次元ワザ、ピーチのパラソル、
そしてフェアリン達の力で難なくその仕掛けを渡り歩き
重力を反転できるスイッチも見つけ使いこなしていくと
再び鍵の入った宝箱のある場所まで進んでいた。
その宝箱のある天井部分、つまり
重力反転すれば地上にあたる場所に鍵のかかった扉もある。
「なんとか順調ね」
「ああ。うじゃうじゃ湧いてるタイルのやつらが
ちょっと鬱陶しいのがネックだな…」
「あら、いつもの身のこなしで簡単に対処できるでしょう?」
「それはそうだけど」
鍵を手にするマリオとピーチが力を抜いた状態で会話をすれば
それを後ろで眺めるクッパは少々不機嫌な様子で佇んでいる。
他に何かないかと探索していた
神菜が
そんなクッパの様子に気付くなり、
ちょこちょこと横から顔を覗き込んだ。
「どうしたの?あ!もしかしてジェラシー??」
「な、なんなのだ!お前までワガハイを馬鹿にする気か!」
「ご、ごめんごめん!なんか様子がおかしいから…」
普段通りで接するもその返答はいつもの様な軽いものではなく。
その口ぶりのまま炎が噴射されそうな勢いに狼狽えながらも
彼女は逃げる事なく、じっとクッパを見上げた。
その様子を見たクッパは顔をそらし、
マリオやピーチではない壁の方を見つめながら無言になる。
「…ワガハイの出番は、いつになったら回ってくるのだ」
「…へ?出番?」
「マリオとピーチ姫ばかりに頼り…
自慢の炎ですら役目が回ってこないではないか!」
マリオとピーチの関係かと思っていた彼女だったが
予想外の悩みに思わず頓狂な声を漏らす。
勿論そんな反応をされた真面目に話していたクッパも
やはり目線を合わせる事もなく咳ばらいをする。
魔王と言う名に似合わない姿をさらしたというのもあるが。
すると突然
神菜が吹き出すように笑い出した。
「…フッ、フフッ…!」
「な、なにがおかしい!!」
「いやあ~それならもっと積極的に前線に出たらいいじゃん!
ていうかここに来るまでも動いてた気はするけど…」
「フン!マリオなどと並んで共闘など…」
「何を今頃…」
かつての世界や大樹で戦った際は
宿敵のマリオではなく、他人同然の
神菜だったから
守る事や協力などを気にする事もなく隣で戦えたのだろう。
しかし今は次元ワザを優先して使う事が多い空間だ。
マリオが先頭になり、残りがそのあとに続く事になり
必然的にマリオと共に協力する形となる。
とはいえ確かに4人で行動してかなり時間は経っている。
今頃といえばそうなのだが、
現状の動きを見て改めて気付いたのだろうか。
「言ったじゃん?協力してピュアハートを探さないと
ピーチとの関係も、クッパが支配したいセカイも無くなるし」
「ム…」
「そんなの気にしてるのクッパだけだから!ほら!
タイルのやつらを炎で吹き飛ばしちゃえよ!
マ…私もピーチも安心して進めるし!」
クッパの太い腕をペチペチと叩けば少々嫌がる様子を見せるも
しかしピーチという言葉に反応したのか、
また数秒間黙り込み、考えがまとまったのかこくりと頷いた。
先程まで保護者の様な立ち位置だったクッパを
今度は
神菜が奮起させる様に
叩いていた彼の腕を数回さすり、力強くたたいた。
まるで大きな子供の様な姿に思わず笑いが漏れるも
いつもの鋭い瞳で睨みつけられるなり、
少々お道化ながらも戻った様子に安堵した表情を見せた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
《それにしても…目が回りそうね》
あの後、
神菜の助言?が効いたのか
マリオが妨害する宇宙生物達を蹴散らそうと動けば
すかさずクッパが前に立ち、炎で蹴散らすようになった。
突然の積極的さに驚くも、
ピーチがそれに礼を言えば嬉しそうに胸を張る。
なんとも素直な魔王様だ。
「だねえ。アンナは大丈夫?」
《私は大丈夫…》
確かに先程見つけた扉の鍵を使った先には
重力の反転スイッチの数も増えてき、
今度は反転だけではなく90度に回転するスイッチも現れる。
上下に反転ならまだしも
今度は壁から床、床から壁にと回転する現象に
彼らの方向感覚が狂いそうになってきていた。
しかもやっと入れる扉の先には再び鍵のついた扉。
「また鍵か…」
「も~~!なんで置いて行ったのさあ!ここまで来て!」
目的地ははっきりしているもののその過程で削られる体力。
思わず声を荒げるもぶつける本人が居ない以上何もできず、
仕方なくその鍵つきの扉を諦め部屋から出ると
重力スイッチを使い、その鍵を探しに別の扉を見つける。
しかしそこは妨害する宇宙生物も何もおらず、
入って来た真横にある壁側に宝箱が固定されている。
勿論背を伸ばしたりジャンプで届くような高さではなく
ふと周辺を見渡してみれば同じような扉が沢山あり、
その扉の位置関係を見比べながらをたどってみれば、
その到着地点はこの宝箱だということもわかった。
「スイッチに頼らずに自力で取りに来いってことか」
「フン!こんなものワガハイ一人で十分だ!」
するとクッパがマリオ達を押しのけるなり、
ズカズカと一人で鍵を取りに扉へ向かっていく。
残された三人もそのまま動こうとせず、
壁や天井にひたすら移動するクッパを眺めていた。
「急にどうしたのかしら…?」
どこか心配そうに見つめるピーチに
神菜は微笑ましそうに黙って眺めていた。
№55 重力迷宮
そしてクッパが無事に鍵を手に入れると再び集合し、
先程の鍵のかかった部屋まで駆け足で向かった。
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