+大宇宙+
扉の先を進んでいれば今までになかった変化が道中に現れる。
地に着ける足取りが段々と軽くなり
一歩前に進むスピードも一段と早く感じる。
そして暗闇が少しずつ明るくなる時にはもはや浮遊状態で、
まるでかつての海中遊泳のような状態でその先へと辿り着く。
「…!」
目を見開く程に視線を奪う広がる光景。
上下、前後、左右全ての感覚を失う延々と広がる空間。
周囲はキラキラと小さな星が輝いており
それはまるで広い夜空を全身で感じているような…。
《見渡す限りの星…どうやらここは、宇宙の様ね》
「う、ちゅう…は!?」
宇宙。
アンナの言葉で一同が我に返るなり、
今いる状況を理解してしまった
神菜の様子が急変する。
それに感染するようにマリオ達も口元を、喉元を押さえ
何かないかと見渡すもただ声も出せずにもがくだけで。
《どうしたの、
神菜?》
「い…き…!」
「……ッ」
《あ…ここは空気も何もない世界…!
このままじゃ
神菜達が…》
海にいた時とは違い、
呼吸も言葉も何もアクションを起こせない。
見た事のない容態にアンナは一度固まるも、
改めて周囲を見渡し理解したのか
慌てるように激しく羽を動かした。
《ニンゲンたちはまだウチュー電波を感じ取れてないビン!?》
《ユー達ならデンジャーゾーンも乗り越えられる!
さあ!今こそ力を見せる時プリーズ!》
《どう見てもそれどころじゃないどえーす!》
《あ…ああ…どうしたらいいのかしら…!?》
《スリリングを越えたデンジャラスゾーン…!!?
ドキがムネムネをこえてビッグバンしちゃうルンルン~~!》
《ワア~~~!!》
そんなフェアリン同士の言葉の掛け合いは
ただ更にお互いに混乱を招くだけだった。
収拾のつかない集団の言葉にトるナゲールの目がグルグルと回り
アンナも必死に考えるよう苦しむ人間達の周囲を飛び舞う。
《えーと…えーと…えーと…
えーと…えーと…えーと…えーと…えーと…
えーと…えーと…えーと…えーと……!》
《アンナ~~っ!》
《
ああンもうっ!》
トるナゲールの悲鳴がトリガーとなったのか、
やけになってしまったアンナの声が大きく響き渡る。
その瞬間、まさにビッグバンが起こったのかのように
全員の視界が真っ白に包まれる。
何が起きたのか理解できないまま
その眩い世界を何とか見つめるも、
徐々に全員の意識が遠のいてしまった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
《ねえ…ねえ起きて…》
「ん…」
あの白い視界のまま気を失っていたのだろう。
気が付けば体は地面に伏した状態になっており
重くなった上体を持ち上げ、戻ったばかりの頭を動かした。
「あ、あれ?」
視界には先程
神菜達が開いて先へと進んだ緑の大きな扉、
彼女の周囲には未だ気を失っているマリオ達が倒れている。
見覚えのあるその景色は、
旅立ったはずのハザマタワーだったのだ。
それに気付いた彼女がただ呆然と一息つくなり
ふわふわと浮遊していたアンナが座る
神菜の太ももへと止まる。
《大丈夫だったのね…よかった…》
「う、ん…あれ、さっきのは?」
《どうやって戻ってきたのかは覚えてないの…必死だったから…》
「そう…」
その声色だけでも彼女が困惑しているのがわかる。
軽く体を動かし立ち上がる素振りを見せるとアンナは再び飛び、
倒れるマリオ達の様子を見ようと腰を上げた。
しかし丁度タイミングが被り、
近付いたと同時に彼から小さく唸る声が漏れた。
それに続くようにクッパとピーチの体もピクリと反応し、
各々が重くなった体を何とか動かし始める。
「っぐぅ…本当に死ぬかと…」
「古代の民とやらも厄介な所に隠すものだ…!
取りに行く身の事を考える事もできんのか!!」
「本来は取りに行かずに眠らせておく事の方が良いんだがな」
「でも宇宙ってさぁ…」
「…このままじゃ、取りに行くどころの話じゃないわね」
そう話していれば意識がはっきりとし始めたのだろう
全員が無事を確認し合い、再び緑の扉を見つめる。
その様子を見ていたアンナがひらりと飛び上がると
そのまま立ち上がった
神菜の肩へとゆっくりと乗った。
《…一度、デアールの所へ相談に行きましょう》
「だよねえ…」
彼女の言葉に全員が頷くと
視線を扉からエレベーターの方へ向ける。
そして一番近い所にいたピーチを先頭に
デアールの館へと戻っていった。
………………
「随分早かったであ~るな…
もうピュアハートが見つかったであるか?」
館の扉を開けば主であるデアールがピクリと反応し振り向く。
沢山の資料とヨゲン書に張り付いていたらしく
体はそちらへと向き合ったまま顔だけを彼らに向けていた。
《いいえ、デアール。扉の先は宇宙だったの…》
「宇宙!?
そいつはなんともとんでもない所に出たであ~るな!」
《宇宙には空気がないから
マリオ達は息できないの…どうしたら…》
館の中へと入るマリオ達を見ながらアンナの言葉に驚愕とし、
座っていた椅子から立ち上がったデアールも
改めてその話を聞き返しながら考えるように小さく唸った。
「ふ~む…それならば、
宇宙用の【ヘルメット】があればきっとOKであ~るな」
「ヘルメット…まあそれはそうだが…」
《持っているの…?》
「勿論、持っておらん!だが代わりに
"それっぽいもの"でよければ用意してやれるぞ!」
「ぽいものって…」
自信満々に答えるも
その内容に素直に喜ぶ事ができるわけでもなく。
不安気な反応を見せるがデアールは構わず背を向けるなり
神菜に差し出した金塊が眠っていた物置きを漁り始める。
金塊以外にもたくさん収納されていたのだろう。
奥からゴミやら埃やらがモノを動かすたびに吹き飛び
資料らしきもの、謎の雑貨など、
彼の私物がちらほらと視界に入る。
「にょほ!」
その様子を全員が怪訝な視線で見守っていれば
ぴたっと動いていた手が止まり、
体を跳ねさせ驚きの声をあげる。
《どうしたの…?》
「し、しまったであ~る!
ちょっと前に資料の整理をしておったのであ~るが…
その時邪魔になったのでその"それっぽいもの"を
人にあげてしまったであ~る!」
「えぇ!?誰に?」
「その辺を歩いていた男の子じゃ」
散らかった私物を物置きに押し込むも
その扉を開いたまま立ち上がりマリオ達と向き合う。
「燃えないゴミの日に捨てるよりも手っ取り早かったのでな…。
とにかくその男の子を見つけ、
事情を話して返してもらってくるであ~る!」
「ゴミにしようとしたものを…?」
「そう思うであろう。じゃがワシの言葉を信じるのだ!
そのそれっぽいものさえあれば道は拓かれるであ~る!」
彼の表情は自信に満ちている。
話の流れを聞いて不審そうに見つめていた彼らだったが
今までのデアールの言動を思い返した
神菜は
そのまま力強く頷いた。
「…よし、わかった!」
《そうね…今は彼を信じて、みんな行きましょう》
「…了解」
相変わらずクッパは不服そうな様子を残していたものの
どちらにせよこの街で解決策を見つけない限り
あの無限大の宇宙へと再び向かう事が出来ないのも事実だ。
マリオ達も
神菜とアンナと同調すると
館の外へと移動し、早速周囲を見渡した。
「男の子と言っていたから…きっと子供よね」
《でもハザマタウンには沢山の住人がいるから…》
「片っ端から子供に声をかけるか…
それっぽいものを持ってる子供を探すかだな」
デアール的には地元の子供に
お菓子やおもちゃをあげるような感覚か。
あの言い方だと、本当に見ず知らずの少年に
例のそれっぽいものを譲渡してしまったのだろう。
しかも案外この街は広い。
ハメールストーンやお店を探しに駆け回ったマリオと
神菜は
言わずともその大変さを理解していた。
「あ~その前にさ、行きたいとこあるんだけど…」
《例の男の子の事?》
「ううん。あのカメレゴンのお城のあったセカイにさ…
マリオとピーチ覚えてない?一番最初の草むらにいた…」
「………あー」
「確かにフェアリンちゃん居たわね」
「念のためもう一回会っておこうかな~って…」
重要なヒントを与えつつも
高みの見物をしていたあのフェアリン。
すっかり記憶が抜け落ちていたのか、
マリオは鈍い反応だったが
察したピーチが代わりに
神菜の方へ向く。
「いいじゃない!
もしかしたら仲間になってくれるかもしれないし…」
「じゃあその間に俺達は例の子供を探すか」
「ワガハイは知らんぞ!一体何の話をしているのだ!」
「後で話す」
「ごめん!じゃあそっちはお願いするね…!」
申し訳なさそうに両手を合わせるも
ピーチは普段通りの穏やかな笑みで彼女を送り出す。
雑に扱われたクッパはマリオに何やら文句を言っていたが
慣れたように扱う様子を見て
神菜は思わず笑いを零す。
トるナゲールとヘびードンが
神菜の方へと移動すると
そしてそのまま二手に分かれ、各々行動をとった。
………………………
「えーと前の所だから…黄色か!」
《いえーす!》
ハザマタワーに辿り着くと、
マリオやクッパがやっていたように黄色の扉へと手を触れる。
しかし解錠済みという事もあってか扉に重みはなく
まるで弾むように扉が開くとふわりと風に包まれる。
その風の中へと突き進んでいけば、眩しい光で瞼を閉じる。
地に足の感触が変わったのを合図に瞼を開けば
見覚えのある鮮やかな平原が視界に映った。
「うぅーん…!懐かしい!」
穏やかな風を浴びながら深呼吸をする。
以前であればこの直後に
例の誘拐犯によって状況が変わってしまったが
今やその人物は
神菜達によって城に閉じこもっているだろう。
直感的に安全だと感じた彼女はそのまま自分のペースで足を進め
そして見覚えのある草むらの傍に立ち止まる。
そのまま軽く片足をあげると、
目の前の草むらに向け、
草むらを揺らすように軽く蹴りを入れた。
《むっほ!》
すると草むらの奥から影が動き、
勢いよく
神菜の前に現れる。
それは紫の小さな三角形が8個囲んだ八角形の様なフォルム。
その中心に顔のパーツの目元がぱちぱちと彼女を捉えた。
《むっほっほ!カメレゴン城に行くヒントを聞きたいっほ?
いくらでも教えてあげるっほ~》
「ヒントならもういいよ。それは解決したから」
《…ヒントがいらない…?
ひょっとして…カメレゴンを倒したっほ!?》
「まあ~色々苦労したけど…ねえ?」
ちらりとトるナゲールへ視線を向けてみれば
苦笑を浮かべる
神菜と同調するように大きく頷く。
しかし目の前のフェアリンは彼女達の話す様子よりは
話した内容の方に反応していたのか、
期待するように目をキラキラと光らせていた。
《ニュ~スニュ~ス大ニュ~~~~~~~~ッス!!
嬉しい報告ありがとう!お役に立てて嬉しいっほ!》
すると突然その場で歓喜を帯びた声色で飛び跳ねる。
神菜達にヒントを伝える程の事だったのだ、
カメレゴンはフェアリンにとっても厄介な存在だったのだろう。
跳ねる様子を呆れながら見つつも落ち着くのを待っていれば
最終的に
神菜の目の前でぴたりと止まる。
しかしその表情は先程の喜びはあまり見えない。
《もうここでヒントを教える必要なくなっちゃったっほ…
やることなくなっちゃったっほ…
眠ってるのが退屈でこの1000年ほど散歩してたけど、
それも大分飽きてきたっほ…》
「せ、1000年散歩かあ…」
《バッテリーが切れるまでまだ1000年あるっほ…
ボクチン退屈っほ~!!》
それはまるで駄々をこねる子供のようで。
情緒が不安定なのはフェアリンの特性なのだろうが、
改めて目の当たりにする感情の豊かさについてけない。
自分で報告に来たもののその光景に疲れ気味な表情を向ければ
気付かれたのかただ偶然か、鋭い眼差しで
神菜を見つめた。
《アンタ責任とってくれっほ!
ボクチン、アンタについていくっほ。
嫌って言っても決めたっほ!》
そして彼女が答える間もなくその体からキラキラと光が流れ
神菜の周りをぐるぐる回ると頭上でぴたっと止まった。
こうしてバリアフェアリン
【バーリやー】が仲間になった。
「えーと、バーリやーだから…バーリでいいかな」
《むっほ!それはボクチンの名前っほ?》
「そ!私が考えたあだ名!みんなにもつけてるよ」
《チェキ!チェキ!チェケラッチョ!
全てを束ねる最上級!そんなオレはフェアリンのドン!
慕っていいぜ何故ならオレは、
秘めた真髄セクスィーリーダー!》
「アレは気にしなくていいからね。
フェアリン達はみんな平等だから」
《むほ~…》
「で、バーリはどういう力なの?」
《ボクチンはバリアフェアリンっほ!
その名の通りバリアで守ったり、
突撃すれば攻撃もできるっほ!》
「突撃?」
《聞くより使ってみる方が早いっほ!ホラホラ~!》
「わかったって!」
使えと言わんばかりに
神菜にすり寄るバーリやーを掴み取れば
その言葉通り、早速バーリやーの力を発動させる。
「おお!」
《わ~お!キラキラ!ふぁんたすてぃっく!》
すると彼女の全身を囲うように青色の光が一瞬輝く。
だがよく見てみれば、その青い光は三角形の形をしており
それはまさにバーリやーの体の一部だ。
体が分解され発動する仕組みといえばアンナの力も同じだ。
しかし彼女と違う所は、
発動した力の対象が発動者という所だろう。
綺麗な青い光に関心するように声を漏らせば
バーリやーはご機嫌な様子でゆるりと飛び回った。
《この一瞬のバリアで立ち塞がる敵達を
バーン!と弾けるっほ!》
「なるほど…結構使えるかもね…」
そんな
神菜の言葉にニッコリと笑みを浮かべる。
それをチラリと一度見た彼女も思わず苦笑を浮かべつつも
リュックを下ろし、ガサガサとリュックの中を漁る。
するとそこから赤と白の縞模様の小さな土管を取り出した。
なんだかんだ一度も使った事のない
その物体を手のひらに乗せれば
初めて見るフェアリン達は興味深そうにその土管を囲った。
《??》
《ちっちゃい土管だあ!》
《チェケ!ミニミニ土管、ベリ~キュート!
君とのサイズ、ベリ~バッド…》
「でもねえ…確かこれで、ハザマタウンに戻れるんだってさ!」
そしてその土管、モドルドカンを静かに地面に置けば
まるで植物が成長するようにぐんぐんと大きくなる。
最後には人が入れるサイズへと変化し、
等身大のいつも見る土管サイズとなったモドルドカンが現れた。
《この中に入るっほ?》
『うん。初めて使うけどデアールさんから貰ったものだし、
ちゃんと帰られるはず!』
少々不安な様子だったが、
とりあえずモドルドカンに足をかけると
普段土管に入るのと同じように暗闇の中に滑り落ちる。
きゅっと角度が代わりに上昇する感覚に切り替われば
その頭上から小さな光が遠くで見え始める。
途中落ちている間にキえマースが何やら
奇声を放ちながら興奮していたのはあえて触れず、
近付き大きくなる白い光へと見えると腕を伸ばした。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「ん…とこしょっと…お!」
出口だろう土管のフチに手をかけよじ登る。
上半身を出し周囲を見渡せば、
そこは予想していた通り、
扉が並ぶハザマタワーに到着していた。
一緒に顔を覗かせたフェアリン達が先に外へと飛び出し
最後に
神菜も全身を出し地面に着地すると
感知したモドルドカンが小さくなり、
最初の手のひらサイズに戻った。
《ちょ~便利だっほ!1500年前もこんなのあったっほ?》
《う~ん…あったような…なかったような…》
「とりあえず!バーリも来てくれる事になったし、
一旦デアールさんの館の所まで戻ろっか」
《おういえーす!》
きっとマリオ達はこの広い街で
"それっぽいもの"を探しているだろう。
無暗に行動してすれ違ってしまわないように
その言葉の通り、一度館へと立ち寄る事にした。
……………………
「あら!
神菜!」
しかしエレベーターを降りてデアールの館の方に向いた時、
彼女の背後から数人の足音と話し声が聞こえたのだ。
その声が
神菜の名前を呼ぶ。
反応して振り向けば、そこにはマリオ達が揃っており、
そんなマリオの手には
大きな赤い金魚の入った丸い金魚鉢があった。
「フェアリンちゃんはいた?」
「うん!付いて来てくれる事になった…けど、
それよりその金魚鉢どうしたの?」
「ああ、例のヘルメットっぽいものな」
「これが!?」
想像通りの反応だったのか、一同は苦笑を浮かべ
バーリやーを含めたフェアリン達がその金魚鉢を囲う。
それは確かに仕掛けも何もないただの金魚鉢で
目の前で金魚という生命がその中を泳いでいる。
だがデアールの言っていた
男の子から貰ったのも事実なのだろう。
半ばあきらめた様子でその金魚鉢を掲げ、
無邪気に泳ぐ金魚を眺める。
「まあ…とりあえずこの金魚をなんとかしなきゃな」
「何とかって…」
《下へと降りるエレベーターで
地下に行けば放せる所があるわ…》
「ち、地下…?」
川などではなく地下という発言に一瞬戸惑うが
目の前の彼らは既に理解し、現に向かおうとしていたのだろう。
疑問を抱く様子も見せずに頷く。
彼女は首をかしげるも、遅れないように
マリオ達の後を追って
そのまま地下へと繋がるエレベーターへ向かった。
………………
辿り着いた地下は少々息苦しくじめっと湿度も感じられる。
そんな場所に似合わないバーの看板が立てられており
営業中なのだろう、ネオンがギラギラと輝いている。
そしてその建物の反対側には
この空間が湿っていた原因の一つであろう、
底が深い水が溜まってあるのを見つけた。
「ここか?」
《ええ…》
その水面の目の前にマリオが持っていた金魚鉢を置くと
ゆっくりと傾け、金魚を地下水へと放す。
金魚鉢に入っていた水も流すと綺麗に中身が空っぽになった。
《これで宇宙に行けるはずよ…》
「いやこれ…本当にただの金魚鉢っていうか、生臭…」
「しかも1つしか無いぞ!ワガハイ達はどうすればよいのだ!」
確かに水を流しただけのただの金魚鉢を被っても
ただ窒息するかこの生臭さで頭がどうにかなるの2択だろう。
そして残りの人数分不足しており、
そもそも金魚鉢のフチのサイズからしてまず被る事も不可能だ。
デアールに言われるがままに行動していたが、
改めて考えればあまりにも非現実的な作戦で。
《そうね…もう一度デアールのとこに戻りましょう。
きっとまだ手段を探しているはずよ》
「しかし…」
「あのデアールさんだよ?
なんかすごいアイテム出してくれるって!」
「まあ…そう信じるしかないな」
……………………
「おお、返してもらったであ~るな」
《ええ…でもこれじゃあ意味がないわ…》
一応張り付く水滴は切ったてきたものの、
やはり生臭さ感は残っているその金魚鉢を彼の方へ向ける。
するとデアールが机に置いてあったある物を手に取り
マリオの持っていた金魚鉢の底の部分、
つまり被ると頭のてっぺんにあたるだろう場所に
ペタリとソレを装着した。
「これは…」
「古代の技術で過去に製作した【サンソデキ~ル】じゃ!」
そのままマリオが底とフチの部分を上下反対にすれば
ピンクの玉が付いたアンテナがぷるんと揺れる。
発明品というよりは一種のパーティーグッズにも見えるだろう。
そしてマリオから離れると
机の影から3つの丸いものを取り出す。
それぞれに緑、青、黄の玉の付いた
サンソデキ~ルが付けられており
どこから調達したのか、
だがそこに並ぶのはやはり金魚鉢だった。
「このサンソデキールはヘルメットやそれっぽいものに
取り付けて被るだけで
宇宙ヘルメットと同様の能力を発揮する!」
「酸素はどうなってるんだ?」
「このアンテナから伝わる
特殊技術で酸素が行き届くであ~る!
しかし充電が切れることがあるであるため、
使わない時は被らずにしておくほうがいいであ~る」
「まさかの充電式…」
「安心せい!
ちゃんと全て充電満タン、状態も良好で万全じゃ!」
「しかし!これではそもそも頭が入らないぞ!」
「ほっほっほ…そう思うじゃろう。
しかし!それを付けている間は金魚鉢ではなく
ちゃんとヘルメットになるであ~る!」
少し不安に感じつつもデアールの自信あふれる笑みにおされ
3つの金魚鉢、もといヘルメットを手に取る。
クッパは緑のアンテナの少し大きめの金魚鉢、
ピーチが黄色のアンテナ、
神菜が青のアンテナのものを取ると
各々その手にした金魚鉢を角度を変えて観察し始めた。
「あの…俺のだけ汚いんだけど…」
「汚いとな?」
「金魚が泳いでた水を捨ててきたばっかなんだよ。
拭いても臭いし…」
「ふむ、では…これを使うといい!」
そしてまた卓上に置かれていた白い布切れをマリオへ手渡す。
だが目の前の布切れといい金魚鉢といいアンテナといい、
これといって特殊アイテムという雰囲気は感じ取れず
ただ困惑としたままその布を見つめていた。
「それもワシの過去の作品【キレイニトレ~ル】じゃ!
臭い、汚れを全て綺麗サッパリ
スッキリと落とせるのであ~る!
しかも洗えば効果が切れるまで何度でも使える!」
「まあ!ぜひ私にも欲しいわね」
「ほっほ!全てが落ち着いた時にいくつかあげるであ~るよ」
「おお!生臭くない!」
するとそんな会話の最中に例の布切れで金魚鉢を拭いたのか
実際にその場で金魚鉢を被っていた
マリオから喜びの声が漏れる。
その背後でクッパが疑心の表情のまま
金魚鉢のフチを両手で握れば
その部分だけ柔らかい質感へと変化していたらしく、
外側へと手を動かせば広がり、力を緩めば元のサイズへと戻る。
しかし本来水のたまる球体部分の質感は
ガラスの硬い状態のままで。
こちらはこちらで驚きの声を漏らし、
全員が金魚鉢に釘付けになれば
デアールは更にご機嫌な様子で彼らを眺めた。
「リュックといいコレといい…相変わらずすごいなあ」
「必要な道具は全て揃ったじゃろう?
ならば一刻も早く宇宙へ行き、
ピュアハートを探すであ~る!」
「おう!」
《ありがとう、デアール…》
そして全員が受け取った金魚鉢を大事に抱えると
ハザマタワーへと戻り、もう一度緑の扉を開いた。
№47 バリアフェアリンと、
■