それは真っ暗闇の中でわずかに聞こえる環境音。
「なぜだ…?どうして僕を避けようとする!?」
「い…痛い…離して!」
「!?…この傷は?一体何があった、エマ!?」
「…………なんでも、ないわ…」
「まさか…僕の父さんが、君に何か…?」
「わたしはただの人…。
たとえどんなに愛し合っていても、
あなたとは決して結ばれはしない…」
「…エマ……」
「お別れしましょう、ルミエール。
私達は…こうなる運命だったのよ…」
聞こえるのは男女の会話。
感情が乱れるルミエールの声と悲しそうなエマの声。
お互いにぶつけ合い、静寂とし、沈黙となる。
しかし世界は無情でそのまま眩しい光に包まれると
視界が真っ白になった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
+ハザマタウン+
扉を開くと懐かしい空気を吸う。
そして思い切り吐くと
神菜が両腕をぐんっと上に伸ばした。
「3つ目制覇ああ~っ!疲れたぁー…」
疲労が溜まるのはどの世界でも共通であるが
今回の場合は精神的な疲労も含まれている。
それを吐き出すかのように上げた腕をぶんっと振り下ろした。
それを見たピーチが微笑ましく笑う。
「一時はどうなることかと思ったけど、
なんとかみんなちゃんと帰ってこれたわね」
《ごめんなさい…私のせいで…あと…その…ありがとう》
「当たり前のことをしただけだ」
アンナのその声はより穏やかな音色になっている。
マリオと
神菜のみだった当初の彼女と比べれば
口数の少なさはあれど、
機械的な冷たさは消えているように聞こえる。
それを聞いたピーチもマリオも思わず笑みを浮かべて頷くが
最後尾に付いて来ていたクッパは釣られず、腕を組んだ。
「フン!とりあえず
ワガハイの邪魔だけはせぬように気を付けろよ!」
とはいえその言葉は突き放すようなものではなく
彼なりの気遣いなのだろう、乱暴だが優しさの含まれる言葉に
その場にいた三人は思わず苦笑した。
「そういえば…ひょっとしてクッパ、
あなたが3人目の勇者なのかしら?」
「む?」
ふと思い出したように振り向いたピーチの言葉に反応するも
それと同時にエレベーターの方から稼働音が聞こえてくる。
「おーい!待っておったぞ!」
そのエレベーターの扉が開くと、
そこからデアールが現れ、彼らの元へと近付いてきたのだ。
巨体のクッパの姿に一度「おお、」声を漏らすも、
神菜、マリオ、ピーチの無事な姿を見て安堵の息をつく。
そしてリセットするように咳払いをすれば、
改めてアンナの方へと向きなおした。
「お主たち、ピュアハートは手に入れられたであ~るか?」
《えぇ…》
「手にいれたというか…アンナから出てきたというか」
「?どういう事であ~る?」
神菜の言葉にデアールが首をかしげると
そのまま彼の前に近付き、
包み込んでいた緑のピュアハートを見せた。
「途中でアンナがさらわれて…
さらったやつのお城に乗り込んで、
そいつを倒して助けたら、
アンナからこれが出てきたって事」
「なんと…ふうむなるほど…」
髭を撫でながらピュアハートを観察するように見つめている。
しかし深く悩む様子はなく、軽く頷いた。
「おそらく、その城はかつて古代の民のものだったのであろう。
ワシ達のご先祖はあらゆる世界に
行かれたということであ~るからな」
「そうだったの…」
「とんでもない奴が引き継いじゃってたね…」
「何か問題でもあったのであ~る?」
「いや!まあ~特に何も…」
確かに追加の装飾を除けば
あの城の雰囲気はかなり立派なものだった。
使われずに放置されているものもあったが
ピクセル調ながらも一つ一つの空間から
繊細な装飾まであったあの城。
それが古代の民達が生み出し実際に使っていた物であるのなら
彼らは無意識に相当な歴史的建造物の中を歩いたことになる。
殆どメイドやらコレクションやらで
埋め尽くされてしまっていたが。
「【遥かの海を越えた地に立つ城にて、
我ら一つのピュアハートを封印しこれを隠す】
…そんな記述を白のヨゲン書で読んだことがある」
「渡った渡った!あの変な海…」
「ウム。なんでも、封印は人を信じる純粋な心に反応して
解かれるようになっておったとか…」
「つまり…アンナが私達を信頼してくれたからこそ
ピュアハートが現れた…」
「そういうパターンもあるんだね」
白のヨゲン書を解読している
デアールが言うのだから事実なのだろう。
納得した様子で頷けば、
デアールが髭を撫でていた手を下ろす。
「とにかくこれで勇者が3人になったであ~る!
残り1人が誰なのか知らんが、早く見つかるといいのう」
彼らの雰囲気的に脅威ではないと察知したのか
一番後ろで顔を覗かせるクッパへと視線を置くってみれば
フンと鼻で息をつき強気な様子を見せた。
「ふん!ワガハイがいればそんな奴必要ない。
どんなピンチが待ち受けていようと
軽くはね除けてくれるわ!」
「おお、頼もしいのう」
それはまさに元気な若者を眺めるような老人の姿。
微笑ましく頷けば、再び全員を見渡した。
「ではよろしく頼むであ~…」
「わあっ!?」
デアールが話のシメを伝えようとしたその時、
全体が大きく揺れ、忘れていた地震が襲ってきたのだ。
もしかしてと
神菜はふと上の空を見上げる。
「…!」
「また空の穴が大きくなったであ~るか…ええぃ忌々しい!」
その揺れの正体は
次元のあながまた大きく広がった影響だった。
徐々に地震がおさまっていくと
アンナがひらりとマリオ達の前へ移動した。
《のんびりしてられない…
次のハメールストーンを探しに行きましょう》
「ああ、そうだな」
「ワシもこうしてはおれんな…
少しでも白のヨゲン書を解読せねば…
ところで
神菜、少し来てくれぬか?」
今度こそついて行こうと
神菜の方へと体を向けたが
デアールの呼び止める声でそのまま彼へと向きなおす。
「えっ?うん、わかった。
じゃあハメールストーンは任せたよ!」
「ええ!」
神菜はすっかり頭から抜けていたが
ハメールストーンにはめる度に彼女は体に異変を起こしている。
しかも前回に至っては倒れる始末だ。
マリオはその応えに安心して頷くと
手を差し出したピーチへとピュアハートを渡す。
そして先に歩くデアールの後を駆け足でついていき
フェアリンを残しマリオ達より先にハザマタワーから離れた。
…………………
いつもの様に
神菜は用意されたスツールに座り
デアールも普段から使っている椅子へと座る。
その光景はまるで診察に来たような患者と医者のようだった。
「どうじゃ?ワシのやったイッパイサイフは」
「すごい便利!見た目以上にたくさん入るし持ち運び楽だし…」
「ほう!それならよかったよかった」
そんな会話をしながら、デアールは白のヨゲン書を取り出す。
ページを確認しながら何枚かめくると、ゴホンと咳払いをした。
「さて…本題じゃが、記憶はどうであ~る?
多少はもどってきてるであ~るか?」
「うーん…多少というか、
記憶だと思う夢みたいなのはさっきの世界の前に見たかな…」
「さっきの世界の前、とは?」
すると腕輪を付けている腕をデアールの前に差し出す。
ハートの装飾が見える角度に腕輪を調整すると
確かにそこには三色だけ染まったハートが反射で光っていた。
「色がついておるの…」
「これね…
ピュアハートをハメールストーンに入れたから
色が付いてると思う」
「ピュアハートを?」
「そう!で、色が染まるたびになんていうの…
記憶のフラッシュバックみたいな?感覚っていうのかな」
目を細めて凝視するデアールを見て察したのか
そのまま一旦を一度外そうと手を引き戻し、腕輪に手をかける。
しかし
神菜の表情は一瞬で険しくなった。
「…あ?あれ?」
「どうしたであ~る?」
「なんっ…あれ…外れない…」
勿論腕輪の内側がぴったりくっ付いている状態ではない。
手のひらを手首付近と同じ細さに握りしめれば外れそうなのに
何かがつっかえてどう形を変えても取れない状況だったのだ。
困惑しながら格闘する彼女を見てデアールは髭を撫でる。
「もしや…呪物だったとか?」
「いや…でもさ、アンナの能力とか隠れたモノ見つけたりで
むしろ重要な道具というか…呪いって感じはしないけど」
「ふむ…」
どこかのタイミングで
アンナかマリオから事情を聞いたのだろうか。
彼女の答えに対し、
デアールの反応はそこまで大きくはなかった。
そして結局外れない腕輪に力尽きたのか
申し訳なさそうな表情をしつつ再びデアールへと腕を差し出す。
「ちなみにその見た記憶というのはどういうものか、
覚えているであ~るか?」
「…ディメーンと、一緒にいた子…」
「んん?」
「そう!さっきの世界で!その夢に出てきた奴と会ったんだ!
私達の邪魔をして来る伯爵の手下たち!!」
「お、落ち着くであ~る!
その伯爵の手下とやらは、お主の事は覚えていたであ~る?」
「クリスタールさんのいた砂漠の時も会ったけど
ちゃんと知ってる感じだった。
でも記憶は…その出会った所までしか、わからない」
「…なるほど」
濃厚な旅路の記憶から彼らの光景を絞り出すよう
片手で頭を抱えながらゆっくりと言葉を発する。
デアールも
神菜の答えを聞きながら静かに考えこむ。
そして一度息をつくなり、開いていたヨゲン書を軽くめくると
文章の一部分に指をさした。
「ここに【異国の人間】、と書かれておるのがわかった」
「異国…」
「その異国の人間とやらはなかなか特異な存在らしくての…
もう少し解読が必要ではあ~るが、
マリオ達のような勇者の一人という扱いは
されていないようであ~る」
もし仮にその異国の人間が
神菜の事だとすれば
サンデールが伝えた【4人の勇者】の中に彼女はは含まれず
神菜は勇者ではない事がほぼ確定する。
マリオ達と並ぶ存在として僅かな希望を抱いていたのもあり、
そんな自分の存在がまた霞んでしまった事で
神菜の表情が曇る。
勿論その反応を見ていたデアールはすかさず言葉をつづけた。
「しかしの、この異国の人間とやらは…
どうやら【守護者】とも呼ばれていたらしく、
勇者の行動の近くに必ず現れているであ~る」
「守護者…?」
「うむ。【守護者】、【拓く】、そして【腕輪】…」
「!!」
デアールの最後の言葉に
神菜は勢いよく立ち上がる。
その反応をちらりと見つめ、再びヨゲン書へ視線を落とした。
「【妖精を使役】…とまあ、文章というよりは単語じゃが
それまでの境遇はどうであれ、お主と同じ力を持つ者がいる」
「…私は、意味もなくココに来たわけじゃないって考えても?」
「そうとも読めるな。そしてきっと重要な役目じゃ」
「それは…勇者の、マリオ達の守護者…として?」
「うむ!」
そしてぱたりとヨゲン書を静かに閉じると
立ち上がっていた
神菜もゆっくりスツールへ腰を下ろす。
「あの時、マリオと共に旅に出ていて正解であったな」
「そう…うん、そうだね」
安堵の息を付けばへにゃりと表情が緩む。
これまで三つの世界を渡ってきた
神菜であったが
記憶があやふやな事と立場がはっきりしないという事実には
彼女自身でも大きな不安な要素だったのだ。
それが少しずつ判明している。
「ピュアハートを集めればお主の記憶らしきものも見つかり、
旅でもマリオ達の力となり、ワシもヨゲン書の解読が進む。
ここまで条件が揃えばもう止める理由なんてないであ~る!」
「じゃあ…今まで通り一緒に旅をしても?」
「うむ。むしろその方がお主の為にもなりそうであ~るからな」
お互いに微笑ましく笑い合えばデアールが椅子から離れ、
近くの物置の扉を開きそこから何かを取り出すと戻ってきた。
その手には照明でより輝く平たいものがあり
さすがの
神菜もその形はすぐに理解し、驚愕する。
「え?!これ…延べ棒じゃん…」
「今のワシが持ってても仕方ないからの~。
やっと目的がはっきりしたお主への記念の餞別じゃ!
仲間も増えたからの、旅の足しにでもするであ~る」
目の前の突然の金塊に
神菜は狼狽えるも
差し出したデアールは気にする事なく、
むしろ嬉しそうな表情で。
それを交互に見つめ、
神菜は力強く頷いた。
「…うん!ありがとう、デアールさん!」
初めて触れた塊の重みが両手に伝わる。
デアールの手が離れて増した重みを大切に受け取ると
満足気な笑みを見て軽く頭を下げる。
そして金塊を一旦リュックの中へ収めようとスツールから離れ
腕を動かすと不意に視界に腕輪が映る。
「…あ、」
それと同時に黄色に輝くハートの隣がジワリとにじみ
徐々に緑色が現れ始めた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
(……あ?)
まばたきをすれば目の前の空間がガラリと変わる。
神秘的なデアールの館の内装ではなく、
殺風景で不安を煽るような漆黒の空間。
おぼろげの記憶の中にある、確かに知っている場所だった。
(…え!?)
ぐるりとその場で周囲を見渡せばある光景が映った。
そこには倒れる"
神菜"の姿と
あの紫のピエロのディメーン、赤い髪の
マオがいたのだ。
「マオ」
ディメーンが笑みを浮かべながら
マオの名を呼ぶなり
倒れる"
神菜"に近付くとそのまま額に手をあてる。
それと連動するように同時に見ている
神菜も
思わず自分の額に手をあてた。
「その…どうするの?」
そう
マオが話すとディメーンは背を向けたまま答える。
「こんなどこの誰かもわからないの、
置いとく訳には行かないでしょ~?
丁度いいからさ、この子から少し貰っちゃおうかなって」
「貰う…なにを?」
「なんだか不思議な力感じるからさ~」
「不思議な…力を、もらう?」
「そうそう。その生きてる力を、こう…ワっと!」(…はあっ!?)
聞こえていないのは承知上だったが、
思わず出た声にハッと気付き口をおさえる。
"生きてる力"を貰う。
彼の事だから一種の遠回しの言葉なのかと錯覚しそうになるも
ふと
神菜が初めてマリオとアンナと旅を始めた頃を思い出す。
("生命力"を、盗まれた…)
まるで穴を掘ったように、ごっそりと失っている。
あの時、アンナはそう言っていた。
調べたものを事細かにかつ正確に分析できる彼女の言葉。
確かにそれは曖昧なものではない、欠けていた事実だったのだ。
思い出すほど更に理解に苦しむその状況に
神菜は固まる。
しかし目の前の彼らは倒れる"
神菜"を目の前にして
例の"生きてる力を貰う"儀式を行おうとしていた。
「そ、そんな事したらその子は…っ?」
「放っておくよりは処理しておくべきでしょ。
今のマオはヒョロヒョロなんだし、
貰えるものは貰っておかないと」
「貰えるって…そんな、大丈夫なの…?」
「だいじょーぶ♪」(ヒョロヒョロ…?あの子が?)
心配する
マオに対し彼は悠々とした態度で魔法を使う。
額に当てられた手から黄色い光が舞い上がると
その光は
マオの体へと入っていく。
思わず見とれてしまった
神菜だったが、
その光の正体こそ本来彼女の中にあった生命力とやらだ。
止める術はないのは知っている、しかし焦燥としてしまい
その場で倒れる"
神菜"と光を浴びる
マオを見た。
「どう?」
「…ちょっと楽にはなった、かも」
「お!成功してるね~!」
「……」
「でもこれでちゃんとパワーアップしてるからさ。
伯爵の為にここから特訓して更にもっと体力つけなくちゃ」
一仕事終えて一息ついたディメーンが立ち上がり、
力を注ぎ込まれたであろう
マオは自身の胸元の服を握る。
「…そうだね」
「うん。とりあえず、早く伯爵の所にもどろっか」
「…わかった」
そして二人が隣り合わせになった状態になると
彼が指を鳴らし、見覚えのある魔法が二人を囲んだ。
それは
神菜もマリオも閉じ込められたあの魔法の箱。
「ディメーン」
「んん?」
「…ありがとう」
「どーいたしまして♪」
マオの言葉にディメーンが嬉しそうに微笑めば
そのまま指を再び鳴らし、魔法の箱ごと姿を消してしまった。
(こういう事…ね)
静かになった空間。
去り際の彼らの空気感や
マオの事も気になるが
そのまま倒れ、取り残された"
神菜"の元へゆっくり近付く。
(…えっ!?ちょっ……っ!)
だが突如、倒れる"
神菜"の全身が仄かに輝き
舞い上がる塵となって徐々に消え始める。
それはまるで降り積もる雪を逆再生したような。
思わず急いで駆け付けようとするも、
彼女の視界も真っ白に瞬き、思い切り瞼を閉じてしまった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「……ん…」
「お、おはようさん」
瞼を開くと先程より柔らかい光が視界に入る。
視線の先には紺色の空に黄色い星。
見覚えのある光景に
まばたきをしながら声のする方に顔向けると
彼女の寝ているベッドの傍で見下ろす形で
椅子に座り、こちらを見ているマリオがいた。
そのまま上半身を持ち上げれば
心配そうな表情のピーチと
迷惑そうな表情のクッパも一緒にいた。
「
神菜、大丈夫か?お主、
突然目の前で倒れたであ~るよ」
「倒れ…え?」
「本当に大丈夫?前にも倒れていたのに…」
「前にも?…そういえば、
以前にも何やら体調が優れていなさそうな…」
彼女にとってはいつの記憶だったかは定かではない。
しかし倒れたという状況から
目を覚ました際に起きる現象を思い出し
咄嗟に腕輪の付けている腕を視界の中へと入れる。
「…やっぱり」
そこには想像通りのものがあった。
ガラスのような質感に変わった透き通る緑色のハート。
その言葉と共にマリオとピーチ、トるナゲールも腕輪を見た。
《お飾りの色が増えてるどえーす!!》
「てことは、また何か見たのか?」
「…うん。
やっぱり顔見知りだったみたい。あのディメーンと…」
「何!?あのいけ好かないピエロとだと!?貴様…まさか!」
「大丈夫よクッパ!!彼女はスパイでもなんでもないから!」
彼女の言葉を皮切りに騒ぎ出すクッパと宥めるピーチ。
ワイワイと賑やかになった室内の中、
話を聞いていたデアールは察したように静かに頷いていた。
「ごめんごめん!
でもアンナが言ってた生命力~の原因もわかったよ」
《…もしかして、彼だったの?》
「正解!ま~ア・ゲールさんのおかげで何とかなってるからさ。
今が無事ならそれでヨシって事で!」
不安にさせない為か、元気な様子でベッドから降りるなり
筋肉をほぐすよう背筋を伸ばしリュックを背負う。
フェアリン達も彼女の周りに移動するのを見て
騒ぎ立てるクッパを背にマリオが視線を向けた。
「まあ…元気そうなら何よりだが」
「ぐっすり寝かせて貰ったから元気ばっちり!
いつでも行けるよ!」
「とはいえ、くれぐれも無茶だけはせぬようにな」
「りょーかいです!」
敬礼のようなポーズで返事をするとガチャと扉を開き外へ出る。
神菜に続いてマリオ達も外に出ると、
賑やかだった部屋の中が一気に静かになった。
「…さて、ワシもすべきことを進めるか」
パンパンと手を払うといつもの椅子に座り、
再びヨゲン書を開いた。
………………………
「今度は緑かー」
ハザマタワーに来ると新たな扉が現れていた。
それは先程手に入れたピュアハートと同様の緑色で、
マリオがその色を見るなり何かを考える様に立ち止まる。
「どうしたの?」
「あ?あぁ…いやちょっと思い出して。
今どうなってんだろなーって」
「もしかして…ルイージの事?」
「ああ。まああいつの事だから、大丈夫だと思うけど…」
「そうね…」
その名の人物を知っているのか
ピーチとマリオは同じように俯く。
後ろに立つ
神菜も
どことなく聞き覚えのあるその名前に首をかしげたが
一向に進まない状態にしびれを切らしたのか、
クッパがそのまま扉に手をかけさっさと扉を開いてしまった。
№46 為すべき事
《何か…嫌な予感がするわ》
「ん~?」
《気を付けて…》
「おうよ!」
隙間から微かに吹く風と共にアンナが小さく呟いた。
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