+タイルタイルツリー+
大海原を抜けた先に再び降り立った大自然。
徐々に増えていく木々の中、
なるべくけもの道を避けながら一行は進んでいた。
「なんだか暗いな」
クッパがそう呟き、空を見上げる。
そこには背丈のある木々と密集する葉。
葉っぱの隙間から青空と太陽光がさしている状態だ。
その視線を上からゆっくりと視線を前の方へ向ければ
同じく目線を合わせていた
神菜は思わず声を漏らした。
「た…っか~…」
そこには彼女も初めて見るような大樹があった。
周りの木々とは比にならない程の巨大な立派な幹。
幹から生える枝も幹に合わせるように太く
毬藻に見えそうなほど密集した新緑が
風に揺れている状態だった。
ピーチも彼女と同じように反応し、口元に手を当てる。
「本当高いわね…他に道がないってことはこの木を…」
「…え!?のぼるの!?」
「通り抜けられる場所がなかったらな」
その言葉に続けるように
神菜が声を上げれば
目線のあったマリオもため息をつきながら頷く。
「今度は上って事だ」
平坦な平原からの沈む大海原、
そして次に大きく立ちはだかる新緑の大樹。
「…アンナを助けなきゃだもんね。
これぐらい乗り越えなきゃ!」
そう決心した
神菜は自身の両頬を叩く。
そんな気引き締めた様子を見せるなり、
様子を見ていたマリオもピーチとクッパも大きく頷いた。
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「うわぁあっ!」
「っ…と」
飛び乗った足場から足を踏み外しかけた
神菜だったが
丁度前方を進んでいたマリオの手によって引き戻される。
体勢を整えるとふうと一息をついた。
「ごめんごめん。海の中にいた時の感覚がちょっと…」
「ここから落ちたらさすがの俺でも助けられないからな。
気を付けてくれよ」
「はあ~い」
一行は大樹の枝の上に登っている最中だった。
大樹の根元に到着したものの、
やはり周辺に道らしき道は見当たらず
更に生い茂る木々や草むらで立ち入る事すら難しい状態だった。
そして根本から見上げた場所には
丁度足をかけられそうな枝や
歪んだ幹によって出来た足場があり、
彼らはそこからこうして大樹のてっぺんを目指していたのだ。
道中にはパタパタが巡回していたのだが
どちらかと言えば操られる部下達の方が過半数で
一行を見つけるなり問答無用に攻撃を仕掛けてきており
かつてのラインラインマウンテンと似た状況だった。
「あー!!もう!鬱陶しい!」
「ぐぬぬ…伯爵め!」
直属の部下に炎を浴びせるのはあまり気が進まない様子だったが
やむを得ない状況という事もあり
海の洞窟でもあった時の様に加減をして気絶させている状況だ。
「でも、クッパが仲間になってくれたおかげで
とても進みやすくなったわね」
「そうだな…」
今までマリオの攻撃やフェアリンの力でも十分進行出来ていたが
やはり遠距離と近距離と二つを兼ね備えた能力には勝てない。
マリオもクッパの力の強さを知っているという事もあり
その力を信頼して彼に妨害者の対処を頼っている状態だった。
時より機嫌が悪くなる所だけが面倒ではあったが。
そして操られる部下以外にもこの世界特有の生き物も勿論いた。
神菜がかつて抱きしめていたアイスチェリリンの亜種、
毒を吹き出すポイズンチェリリンにも遭遇するも、
明らかに危険だと現すカラーリングに
今回はさすがに抱きしめる事はしなかった。
「うわぁっ!なにこいつ…!」
しかし
神菜はまた別の生き物に注目していた。
その目線の先には枝をぐるりと回るように這う生き物。
蠢く青いタイルの密集体の奇妙な生き物、
タイールBがいたのだ。
正方形の一頭身で六面あるうちの一面の
目玉らしきものも見える。
ジャンプで避けられるものではあるが、
まるで木に這う虫のような動きに釘付けになっていた。
「奇妙な生き物ね」
「気持ち悪いような…不思議というか」
「フン!どかぬなら消し屑にしてやるわ!」
しかしその観察時間はすぐに終わってしまい、
背後にいたクッパがそのまま炎で
タイールBを消し飛ばしてしまった。
確かにクッパのサイズ感では邪魔ではあるだろうが
テトラを眺めていた感覚もあった
神菜の表情は
どこか引きつったものになっていた。
タイールBの存在が消えるなり
そのまま何事もなかったかの様に先に進んで行ってしまった。
「も~…」
「ウフフ。動いてくれているだけマシでしょう?」
唇を尖らせながらクッパの姿を目で追えば
ピーチは苦笑を浮かべながらも彼女の肩に優しく触れた。
…………………
パタパタや大樹に生息する生き物たちを
なんとか対処しつつ登れば
先頭で進んでいたマリオが
枝の上で立ち止まっている姿が見える。
そしてクッパ、
神菜とピーチと全員揃えば
マリオが何かを見つけていたのか、
見上げる状態のまま彼らにアイコンタクトを送った。
吊られるように
神菜達も見上げてみれば
そこには大樹には似つかわしくない物体がそこにあった。
「"ガンバレ♡♡♡"…だあ?」
「これも伯爵の手先の仕業ってか?」
「さあ…」
大樹のサイズに合わせた電光掲示板が貼付けられてあったのだ。
というよりかは幹に埋め込まれているという方が近いだろう。
そんな自然に埋め込まれた最新技術のオレンジの文字が
ゆっくりとループするように流れている。
伯爵側の仕業であれば一種の煽りのようにも見えるが
それにしては今までの経験上、あまりにも雑な対応だろう。
真意はどうであれ、呆れた様子で周囲を見渡すが
その場で頭が左右に向けられるのみで体は動かない。
「…あそこか」
「ええ…!?届かないよ!」
上に登るために足をかけられる良い感じの足場がなかったのだ。
そしてやっと見つけたのは
明らかにジャンプでは届かない距離にある大きな枝。
「ピーチ姫のパラソルがあれば行けるだろうけど…」
「それじゃあ、ワガハイは一体どうやって行けばよいのだ!」
クッパがそう声を荒げるも
ピーチは冷静のまま何かを思い出たのか
「あ」と声を漏らした。
「前にやった…トナちゃんを使う方法でどうかしら?」
《ふぁんたすてぃっく!ナイスアイデアどえーす!》
「なるほど!」
その場にいる全員が大きく頷く。
クッパのみが困惑したまま彼らを見つめていたが
まずピーチが勢いを付けてジャンプしたのちにパラソルを広げ、
同時にトるナゲールも彼女の元へと浮遊する。
「と、トナとやらを使うとはどういう意味だ?」
「トナってのはトるナゲールっていうコレの事で…
まあ見てなって!」
そう話していた時。
丁度隣にいたマリオが
何かに引き寄せられる様にその場から消えた。
驚いた様子も悲鳴もなく飛んでいった彼の残像、
そしてピーチの元へと辿り着いているマリオの姿を見て
勿論何が起こったのかわからないクッパは驚愕としていた。
「な、なんだ!?」
「トるナゲールの力を使って、
引き寄せるんだよ…ってわぁっ!」
彼女もそう話していれば
その話の途中だった事も知らないマリオ達によって
トるナゲールの力で引き寄せられていく。
今度こそ見失わないよう目で追えば
飛んでいった
神菜がマリオによって受け止められ
そのまま枝へと着地する姿そこにあったのだ。
「…なるほど」
それによって動きの流れをやっと理解すれば、
クッパもトるナゲールの力で引き寄せられ枝を移動した。
…………………
見つけた足場で何度か飛び上がる事を繰り返していれば
先程までいた地上がかなり遠い場所に見える程に
高い場所まで辿り着いていた。
しかし生い茂る葉の部分までにはまだ届いておらず
周辺は地面から生える木々を通り越して
青空だけが大樹を囲っている状態だ。
「…む?」
そして今まで渡ってきた足場の中で一番余裕のある場所。
そこでまた何かないかと全員が見渡していると
クッパが幹の方に何かを見つけたのかにらみつけ始める。
その様子に気付いた
神菜も
彼の背後からひょいっと覗き込んだ。
「なにか見つけた?」
「何やら穴が開いているが…
こんなもの来る途中でも見た事がなかったぞ」
「穴??」
その目線の先には幹と同化するように絡んだ立派なツタ。
自然と絡みついた状態なのだろう、
ツタ同士が密着していない隙間には幹の皮ではなく穴が見える。
クッパの丈夫な爪でも欠けたりすることのないそのツタの先端は
やはり幹と馴染んでおり、その影響でより強固となっているのだろう。
ひっかこうとも軽く爪跡が残るだけだった。
「…あ~でも、木だからさあ~…」
ふと聞こえた彼女の方を振り向けば
クッパを見つめながら何やら人差し指を口元に当てている。
彼の視線が向けられると
その一本の指を五本の全ての指へと増やし
その口元から何かを吐き出すようにハンドサインを見せる。
そのジェスチャーに少々間を置いたものの
クッパも理解したのか、
枝から落ちない程度の距離を保ちツタから離れると
思い切り息を吸い、真っ赤な炎を吐き出した。
「っ!なんだ!?」
敵に放っていた物より激しい熱にマリオも驚いて振り向く。
すると当てられたツタが徐々に燃え
炭となってぽろぽろと落ちていく。
複数の隙間が炎で広がり、それらが一つの穴へと収束すれば
丁度人一人が入れるほどのサイズ感の穴が出現した。
「さっすがあ!」
「まあ!これは…なにかしら?」
「入口か…?」
喜んだ様子でクッパの腕を叩けば
声はあげなかったものの、
すました表情で彼女から目線を外した。
そしてマリオが穴のフチにつく消し炭を払いながら内部を覗く。
最初は頭部だけだったが、奥行きを見つけたのか
そのまま穴の中へと進んで行ってしまった。
「…ついていく?」
「他に行く場所がなさそうなら行くしかないわね」
残された三人も戻ってくる様子のないマリオを確認すると
一人ずつその大樹の穴の中へと入っていった。
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「…うわっ」
入口の焦げ臭い匂いから徐々に木材の香りに変わっていき、
視界も暗闇から光が差してきた。
そして通路を抜けたのか広い場所に出れば
既に到達していたマリオがその場で辺りを見渡していた。
「…わあ!」
同じように周りを見渡せば、不思議な光景が広がっていた。
木の内部という事もあってか
空間全体が明るい色調の木目柄で統一されており
手触りも幹のざらざら感はなく、つるりと滑らかだ。
樹木の香りがダイレクトに漂うその空間の天井はやはり高く
その伸びるまでの間には所々
足場となるだろうでっぱりなどが見えている状態だ。
「ここからまたのぼる感じかあ」
屋外で進路がないのであれば
この示されている内部から再び登るのだろう。
神菜が思わずため息をつくとピーチが反応した。
「何か期待でもしてたの?」
「全自動エスカレーターとかエレベーターとか」
「ここにそんなハイテクな機械あるかって」
「だってあんな掲示板あったじゃ~ん!」
「誰かが勝手に取り付けたんだろうよ…」
呆れたように答えるマリオだったが
その表情に自信というものがあまり見られなかった。
以前までの進行とは違いこの旅で初めてだろう、
上へと進行するスタイルなのだ。
本来足を付けているはずの地面からどんどん遠ざかり
ただ大樹を基準に上へと登るだけの道に
流石の彼も不安になってきていたのだ。
「っと!」
しかし示された道はこの大樹の上しかない。
何とかなるだろうの期待を少しだけ抱きつつ進んでいれば
広い足場と共に黄色い土管を見つける。
念のため確認をしてみればどこかへと繋がっているらしく
マリオが先に入るのを見てピーチ、クッパと続いて潜って行く。
「~♪」
「ん…?ふあぁ」
そして最後尾にいた
神菜も入ろうとすれば
どこからか優しい歌声が聞こえた。
その柔らかい声色を聞いた
神菜の頭部がぐらりと揺れ
ぱっちりと開いていた瞼が重くなり小さくあくびをする。
しかし現状の事を思い出し、眠気を飛ばすよう頭を横に振ると
遅れないように土管の中にへと入っていった。
…………………
土管を抜けた先は変わらない大樹の中で。
しかしよく確認してみるとその位置はかなり高い所にあり
この木の中の一番上なのだろう、
見上げれば天井が少し近く見える。
しかしただ広い足場があるだけで
出口だったり他の土管は見当たらない。
何かないかと
神菜が久々に腕輪の力を使うも
突然光り輝く事はなく変化は一つもなかった。
「あれは…なにかしら…」
すると土管から一番離れた奥の方にいたピーチが
水色のスイッチを見つけ、そのまま触れる。
「…のわっ!」
「んおっ!?」
すると大樹全体が大きく揺れるもそれは一瞬で止む。
「…あら」
ピーチがその場でスイッチのあった場所を見下ろせば
そこには先程の水色ではなく
ピンク色のスイッチへと変わっていた。
「そのスイッチはなんなのだ?」
「さっきは水色だったのだけど…押したら色が変わってて」
「消えないタイプか…」
「でも何かしら仕掛けは動いてるんだよね?」
「どうかしら…」
「一階見てみるしかないな」
そして再び土管の中に入り、出入り口のある下層へと戻れば
そこには先程までなかったはずのピンク色の足場が現れていた。
周辺の木材とは違う材質で、ツヤのあるその足場は
まるでスケルトン階段のように
浮遊したまま上の方へと伸びており、その先には
ピーチのジャンプでも届かない足場まで出現していた。
「おお…!」
「こりゃまた変な仕掛けだな…」
そして現れた足場を伝って更に上へと登っていく。
「…あ?」
しかしその遠くで見えていた足場に
隠れていた生き物がそこにいた。
花びらの頭部をし、
可愛らしい笑みを浮かべるパンジーさんだ。
そしてのぼってきたマリオを見つけるなり
ビクリと反応して瞼を閉じる。
「~♪」
「あ!コレ…ふぁ…あぁ~」
「あらあら…ん…」
「ぐぬ…」
それは先程
神菜が聞いていた歌声だった。
子守歌のような優しく柔らかい歌声。
やはり
神菜には効いてしまうらしく
より大きなあくびが思わず漏れてしまう。
ピーチとクッパも同じように瞼の様子がおかしくなるや否や、
マリオには効いていないのかそのままパンジーさんへ近付く。
そしてパンジーさんの額の前に手を出し、中指を親指にかけた。
―パシンッ
「!?ふあぁ~…」
瞼を閉じていたせいでその気配に気付かなかったのか。
はじける音と共に瞼を開き、
驚いた表情のままぱたりと後ろ向きへと倒れてしまった。
その弾いた勢いは特に激しいものではなかったものの
パンジーさんにとっては強烈だったのだろう。
子守歌をうたっていた本人がすやすやと眠ってしまっていた。
「…はっ!…あれ、眠気が…」
「こいつなあ…やっかいなやつだ。目が覚めたか?」
「う、うーん…多分…」
パンジーさんが倒れたと同時に
睡魔に襲われていた
神菜達の表情もはっきりとする。
神菜に関しては二度も食らった影響もあってか
瞼をなんどかこすってやっと睡魔から逃れていた。
すると
神菜のその霞んだ視界の奥に
何やら見覚えのある物体が映る。
「…あ、ピンクのスイッチ!」
先程の土管の先にあったスイッチがそこにもあったのだ。
それに触れてみればまた大樹全体が揺れ、
スイッチの色が青色に変色する。
そして先程の渡ってきたピンク色の足場が消えると
今度は上の方へと続く水色の足場が現れていた。
「なるほど。そういう仕組みか」
「煩わしいな…両方一気に出せんのか!」
「そうだよなあ…」
場所を移動してのスイッチ起動、そして別の場所の開路。
このあまりにも高い天井を見る限り
きっとその繰り返しで進んで行くのだろう。
マリオは頭を掻きながらも
その示された道へと進んで行く。
そして再び苛立ちが戻ってきたクッパと
苦笑するピーチも彼の後を追い、
神菜も付いて行こうとするが
倒れるパンジーさんの隣にある光る何かを見つけた。
《綺麗なお水~なんだビン?》
「んー謎の液体…」
《謎っ!!?性質不明の謎のお水っ…!毒かっ聖水か…!!
命を左右させそうな予感っ!スリリングルグル~~!!》
《でもこのお花さんの懐から出てきたよね~?
お花の蜜の可能性もあるどえーす》
「うーん…まあ、一応貰っておこっか」
本当にパンジーさんの物であれば拝借したというべきか。
気絶で口無し状態の為、ほぼ一方的ではあるが
物珍しいそれをリュックサックの中に入れてしまう。
そして先を進んで行ったマリオ達に遅れないよう
彼女も水色の足場に乗り移り上へと進んだ。
№38 この木なんの木
「気になる木~」
「お前も何歌ってんだ。おかしくなったか?」
「ちっがーう!えーと…この木なんの木の歌!」
「なんだそりゃ…」
「確か…えーと…あれ、何の歌なんだっけ」
「やっぱあの歌聞いておかしくなってるな」
「なってなーーいっ!!」
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