№38 この木なんの木
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+??+
勇者達が必死で大海原を越えていた頃。
「……」
マオは未だ枝に腰掛けながら
静かに地上を見下ろしていた。
もう何時間経ったのだろうか、
勇者と言われるような人影ひとつも現れず
ぶら下げていた足を持ち上げ、膝を折る形で座りなおす。
風景自体にも変化は特に起こらない。
穏やかな風でなびく葉っぱ、徘徊する部下たち。
どこかで騒ぎが起きている様子もなく、非常に平和な状況だ。
ふと後ろを振り向けば
途中でこの場から離れていたディメーンが戻ってきており
しかし彼自身もマオと同じ心境なのだろう。
浮遊状態で座った体勢のままくつろいでいるようだった。
「…ふう」
腰に装着する本を取り出し中身を開く。
自然の風によって勝手にページがめくれ、
絵柄のあったところまで開いた。
「忍び寄る音…ドンドンと揺れる音…」
それはナスタシアが解読してくれた古代文字の文章だ。
その言葉思い出しつつ復唱するも、
やはり彼女の中で思い当たるような光景は浮かばない。
「あ~そういえばそれ、どうなったんだっけ?」
「うわっ」
静まり返る空気にディメーンの声が響く。
先程までくつろいでいたのに音もなく背後に来た声に
マオは思わず体をはねさせた。
そして彼の言葉で沈んでいた記憶がよみがえる。
「…マネーラからカギ貰うの忘れちゃった」
「ありゃりゃ」
「はあ~…帰ったら、かな…」
「てことは~進捗ナシって感じ?」
「うん…あ!でも文字は解読してもらったよ」
ページをめくり、一番最初の絵柄のある場所を開く。
2ページ分使った大きな白いハート。
片ページだけがノド部分の上から少しだけ破れかけており
まるでひび割れて分裂しそうなハートの形をしている絵柄。
「これは【夢の外から忍び寄る音がする】…なんだって」
「夢の外?」
「うん…で、もう一つは【ドンドンと揺れる音】」
「どういう意味?」
「それがわからないんだ…」
ディメーンの反応を見る限り
彼もその文字の意図を読み取れないらしい。
一応想定内だったが小さくため息をつくと
彼は横からページをめくり絵柄と文字を何度も見返す。
「これってさあ、文章と絵と何か関連してるんだよね?」
「だと思うんだけど…」
「……」
何度も往復し、最終的に二つ目の絵柄の方をじっと見つめる。
一つ目と同じように2ページ分たっぷり使った絵柄。
大きな巨人とそれを囲う大人数のヒト達。
いつものおどけた様子を見せず
真剣にその絵柄を読み込むディメーンの横顔を見つつ
再び本の方へと視線を移した時だった。
「…あっ!!」
「うわあっ!」
突然マオが大声を上げる。
勿論その声にディメーンも驚いた様子を見せるが
彼女は気に留めることなくただ地上を見つめていた。
何も言わずに眺めるマオを見て
ディメーンも本から地上へと顔を向ける。
「…お。おやおや~」
そこにはこの大樹でより際立つ風貌をした者たちがいたのだ。
「ピーチ姫と魔王と…」
金髪をなびかせる桃色のドレスの女。
立派なツノとトゲの生えた甲羅を纏った巨大な生物。
暗黒城でマオの目の前で消えた者がそこにいたのだ。
そして先頭を歩く赤い帽子をかぶったヒゲの男。
その赤とピーチ姫の間で歩く一人の少女。
「あれって…っ!」
丁度ノワールの計画が始動し始めた頃。
暗黒城で見かけた黒髪の少女も共に行動していたのだ。
ピーチ姫と談笑をしているのを見る限り
知り合いか拾われて中を深めたかの
どちらかなのは確実だろう。
そして愕然と目を見開く彼女の横で
同じ現場にいたディメーンは動揺した様子は見せず、
ただ平然と見下ろしている。
「んっふっふ~勇者達に拾われたんだねぇ、あの子」
「どうして…あの時、倒れて…」
「ん~搾り取ったら消滅するはずなんだけどなあ~…」
「え…?」
思わず耳の疑うような言葉と共に
どこか冷たさと消えた感情の声色にゾクリと鳥肌が立つ。
震えた声を漏らしながら彼を見るも
やはり依然変わらない表情のままだ。
「ちゃんと処理したはずなんだよ、
伯爵に見つからないようにね。
まあ…結果的にはああなっちゃってるけどさ~」
「…」
「でもどうせ、きっと彼女の中には"殆ど残ってない"。
マオの中に全部注ぎ込んだからね」
「確か…生きてる…力…」
「うん。だから不思議だなあって。
どうやって動かしてるんだろ」
時折、彼の言っている言葉が理解できず
怪訝な瞳を思わず向けてしまう。
そんな混乱とした視線に気付いたのか、
流石のディメーンもマオと目線を合わせにこりと笑えば
彼女も無意識に彼から目をそらし、地上を見下ろす。
彼らの様子からしてやはり目的はこの大樹らしく
生い茂る葉っぱの影に隠れて行ってしまった。
「…でも、油断はできないよね」
「そうだねえ~…あっちは四人でこっちは二人。
数が結構増えてるのはちょっと想定外だったかな」
「…罠を張って、数を減らす?」
「うん。分断させて、じわじわ追い詰めちゃおっか」
勇者一行の姿が見えなくなるのを確認すれば
ディメーンは彼女から離れ大樹の幹付近へと移動する。
幹にはいくつか開いた穴が覗いており
人一人分は入れるサイズ感からして、
きっと彼らはこの穴のどこから出てくるだろう。
「んっふっふ♪楽しみだねぇ~!」
「……」
待ち遠しそうにふわふわと浮くディメーンに対し
マオは瞼を閉じ、作った握りこぶしを胸元に当てる。
ドドンタスとマネーラを打ち負かした彼ら。
行方知れずとなっていた者たちとの再会。
ディメーンの不穏な言葉。
一気に押し寄せる複雑な感情を抱きながらも
決心したように小さく頷き、ディメーンの元へと移動した。
勇者Side▷