+ドットドット海+
再び水中に潜ると例の6つの杭があった場所まで戻ると
マリオとピーチが見つけた壁画と同じ形に揃えるために
へびードンの力を使っていくつかの杭を沈める。
「!」
神菜が三つずつ並ぶ杭の間を眺めていれば
きっとその杭が仕掛けになっていたのだろう、
その間の地面がボロボロと崩れ、大きな穴が現れた。
そこからは引き込まれそうな空気の流れも
謎の巨大なイカの足が覗く事もなく、
ただ穏やかに崩れた地面のかけらが浮遊しているだけだ。
「…」
「…」
それを見たうえでこれ以外に新しい道がない事を確認すると
今度は全員揃ってその出現した穴の先へと潜る。
降下し、曲線を描いて浮上する方向へと変わる。
まるで土管の中を潜る様にその通路を泳げば
ヘびードンを見つけた時の空間のような広い場所へと辿り着く。
しかし罠というものがないのか、
これといって変化が起こる事はない。
「…!」
ただ今までなかった変化が一つだけ確認できた。
岩壁に囲まれた空間ではなく、
周囲は広い青、頭上には青空を映した
明るい水面が揺れていたのだ。
眩しい太陽光と白い雲がゆらゆらと映し出されている。
そして周辺にはプクプクとは違う
大きな体をした赤い魚、フグモドキが泳いでおり
海に飛び込んだ場所と
似たような広い場所に出てきていたのだ。
神菜はその魚のようにも
ロボットのようにも見えるソレと
その赤と青のコントラストをまじまじと眺めており、
ピーチはそんな彼女の傍に、
マリオとクッパは周辺を散策していた。
「…!?」
しかし眺めていた
神菜と目線が合えば威嚇状態なのか、
鋭い歯の生えた大きな口をバクバクと動かしながら
こちらに向かって襲い掛かってきたのだ。
「…ッ!」
やはり水中での構造をした生き物なのだろう、
彼女の重い体とは反対に俊敏な動きで攻めてくるフグモドキを
ピーチを庇いながらなんとか避け切る。
そして一定の距離を保ったタイミングで
ピーチと共にいたのか、偶然傍にいたボムドッカんを引き寄せ
ギリギリのタイミングでフグモドキに向かって投げ飛ばした。
―ボォオオオオっ!
「ッ!!」
しかしいつもの爆発よりも大きな衝撃に思わず体が浮遊し
その流れで飛ばされないよう背後にいたピーチが背中を支えた。
破裂した閃光と共に目の前に現れた真っ赤な炎。
力尽きたフグモドキがゆっくりと地面へと降下すれば
止んだ炎の向こう側にクッパのシルエットが浮かび上がった。
炎を出したのであろうクッパが深く息をついていたのだ。
「~!」
目の前にいた
神菜がナイス!と言わんばかりに親指を立て
背後にいたピーチが嬉しそうに微笑めば
照れ臭そうにそっぽを向き、そのまま背を向けると
他の浮遊するフグモドキを退治しに行ってしまった。
思わずピーチと目を合わせ笑みを浮かべ合うと
遠くへ進んでいったクッパとマリオの元へ泳ぎ出した。
…………………
そして様々な障害を払い、広い海を順調に先へ進んでいくと
目の前に見覚えのある物体が視界に映った。
「…!!」
神菜が目を細めてその物体を見る。
そこには例の緑色をした土管があったのだ。
しかもその土管は地面に繋がっている状態ではなく
長い土管の管が上の方へと伸びている。
それは揺れる水面を貫き、
明らかに地上へと繋がっているのがわかる程に。
神菜が安堵と期待の表情を見せれば
全員が同じことを思ったのか、
お互いに顔を合わせ、
その感情を抱きながら急いで土管へ向かう。
「
ゲッソ~っ!」
「!?」
だがその行動はあっというまに封じられた。
水中では聞く事のないだろう新たな声が響き渡る。
その声はフェアリンではなく、むしろ鳴き声に近いもので。
そんな声と同時に水中全体が大きく揺れ、
砂の地面からは細かい空気の粒が無限に湧き出す。
それに驚いた残っていたフグモドキ達も
咄嗟に逃げていってしまった。
「
ゲッソー!」
《なんじゃワレー!って言ってるどえーす》
その鳴き声をフェアリンは理解しているのか
神菜の傍に引っ付くトるナゲールが言葉を通訳する。
だが声の主はどこにいるかすらわからない。
すると止むことのない揺れがより激しくなり、
未知の感覚に一同の体勢がガクンと崩された。
―ガラガラガラゴロゴロッ!
「「「「っ!!?」」」」
すると丁度マリオ達が浮遊する場所にあった地面が
蟻地獄のように吸い込まれ、雪崩るように崩れ落ちる。
それが落ち着いたころには
ぽっかりと広がる大きな穴が出現していた。
その異変にマリオとクッパが咄嗟に
神菜とピーチを掴み
どこまで続くかわからない海底に落ちないよう
今の浮遊する位置から退避するよう足を動かす。
するとその穴の下からニョロニョロと無数のイカの足が伸び、
まるで壁のようにマリオ達を囲ってしまった。
それは黄色の吸盤がついた足達で
その周辺を青い吸盤と赤い吸盤をした足も揺らめいている。
「っ!~~!!」
そしてマリオに掴まれた
神菜の視界に
足とは違う白の巨大な三角形の物体が映る。
大きな穴と岩陰の底から覗くソレは
ゆらゆらと方向を定め、それがピタリと決まると
勢いよくその物体が浮上し、姿を現した。
その三角形は巨大なイカの頭であり
声の主であろう、その顔も目の前に現れたのだ。
クッパの全身程あるだろう瞳をぱちぱちとまばたきさせる。
そんな人の顔より大きな目線が
神菜とばっちり合っていて。
心臓が飛び出そうな程の反応に
一瞬溺れかけた
神菜だったが、
急いで彼女の手を掴むマリオの腕を握りしめれば
それに気付いた彼も
神菜と同じような反応を見せた。
「っ!?」
流石の彼も見たことのない大きさだったのだろう。
彼女程の慌てる様子は見せないものの
ただ目を見開き、その物体の動向を警戒していた。
「ゲゲッソ~~~っ!!」
《気に入らん面じゃのう!いてもうたる~~って
言ってるどえーす!!》
そう叫ぶと再び穴の下から激しい音が響く。
「っ!」
そして下からその巨大イカ、
ダイオーゲッソーの大きく長い足が
勢いよくマリオ達へと襲い掛かってくる。
なんとかそれを避けたマリオが全員にアイコンタクトを送ると
先程見つけた土管の所へ急いで逃げようとする。
「ッ…!」
「~~っ!!」
だがそれをさせまいと、
壁代わりになっている黄色の吸盤の足が
更に隙間なく密集する形となり、彼らの行く先を阻む。
少し迷ったマリオは
掴んだままの
神菜と共に海面へと泳ぎ
それを見たクッパとピーチも追いかける浮上すれば
水面から顔を出し、地上の空気を吸った。
「ぶはっ!なにこのイカ!?デカすぎにも程があるって!!」
驚きをまだ隠せない
神菜は
恐怖という形で興奮していた。
地上ならズンババの経験があるからともかく、
今回のケースは浮遊はできるものの
全体的に動きづらい水の中だ。
海中のパニック展開もののような状態というのもあり、
そんな
神菜の様子をマリオが落ち着かせていれば
ピーチが何かを思い出したのか、「あ」と声を漏らした。
「あのフェアリンが言っていた【魔物の真っ赤な脚】って…
この事じゃないかしらっ!」
「…そうか!ナイスだ!ピーチ姫!!」
そうこう話していると
また海底から勢いよく足が伸び、海面を貫く。
彼等には当たらなかったものの、
防御態勢をとれば水しぶきを浴びる。
その体勢のままマリオの視界にちらりと赤い吸盤が映った。
「来た…!クッパ!やってくれ!!」
「う、うむ!」
その足を見たマリオがクッパに声をかければ
彼からの指示が不服だったのか、若干くぐもった反応を見せる。
しかし対処法を理解している状況という事もあり
素直に深く息を吸い、勢い良く炎をはいた。
「
ゲゲゲゲゲッソ~っ!!」
空気のある地上での炎は水中より勢いが増しており。
そんな猛烈な攻撃を食らえば足は大きく反応し
それと共鳴するようにダイオーゲッソーが悲鳴をあげる。
「ゲ!ゲゲッソ~っ!」
《あかん!そこは堪忍や~!だってビン!》
「なるほど…!」
しかし一度悲鳴をあげたがめげる事なく、
別の足を使って彼らに攻撃を再び仕掛けてきた。
「クッパ!水中でもその炎は現役なんだろ?」
「当たり前だ!ワガハイを誰だと思っている!」
「じゃあ今回はお前が頼りだ!頼んだぞ!」
フェアリンを扱えば可能なのだろうが
それでも動きを制限されるという
不利な環境なのはかなり痛手だ。
その中でも唯一道具を使わず自身が武器になるクッパの存在は
現状においてかなり重要なポジションだろう。
そんなマリオの真剣な眼差しにを見て思わず言葉を詰まらせるも
彼が水中へと戻ったタイミングでフン、と鼻で息をついた。
そしてクッパも同様に水中へと戻れば
神菜とピーチも彼が攻撃しやすい状況を作ろうと
同じように水の中へと潜っていく。
「っ…!」
そして水中に戻ると
予想通りに再び長い足が襲い掛かってきた。
しかし今度は赤ではなく青い吸盤だ。
それを見た
神菜はふと背負っていたリュックに手を入れると
黄色の雷の形をしたアイテム【かみなりドッカン】を取り出す。
その形状を見て攻撃アイテムとなんとなく理解したのか
物は試しという事でそのアイテムを使い始めた。
感電しないかと不安になりながらも
自然と握りしめるかみなりドッカンを思い切り振り続け、
ピリリッと電気が溜まったのを確認すれば
目の前の足に向かってかみなりドッカンを投げた。
―ドカンッ!
「っ!……~~っ」
確かに大きな雷が落ちたが、
その足には効いていないのかぴんぴんとしている。
つまりあのフェアリンが言っていたヒントの通り、
魔物の真っ赤な脚以外は通用しないというのが確認できた。
そして無傷の青いの足が底に戻り、再び違う足が伸びてくる。
だがそれもまた別の青い吸盤の足だった。
「っ…」
伸びる足の色のパターンは不規則らしく
赤い吸盤が伸びてくるまでに繰り返して入れば
かなり時間をかけてしまっていた。
「っ!!」
そしてやっと現れた赤い足の三度目の攻撃。
クッパが炎を当てるとまた大きくビクッと反応した。
「
ゲッソ~~~~ん!」
「!!」
現れた当初よりも大きな悲鳴をあげると、
周りで揺れながら攻撃のタイミングをうかがっていた足達が
順々に海底へ全て戻っていく。
ブクブクと小さな空気の粒や密集して地上へ上がっていけば
壁の役割をしていた黄色の足も含め足全てを鎮めると
ダイオーゲッソー自身も深海に潜って行ってしまった。
……………
一気に騒音が静まった水中。
各々の目の前に映るのは呆然とする仲間達と
ぽっかり大きな穴の開いた終わりが見えない海底。
それ以外が何もない事を確認すれば
マリオが安心した様子で全員無事かを確かめる。
ピーチとクッパはこういう戦いにも慣れているのか
比較的余裕の表情を見せていたが
神菜は魂の抜けたような表情でその場で浮遊していた。
ピーチが
神菜の肩を叩いて魂を戻せば
やっと見えたこの大海原の出口であろう、
あの土管へと向かった。
そして土管の中に入れば
やはり地上へと向かうものだったのか
上昇すると同時に土管内の水量が減っていく。
「っはぁ…」
そして一番先に入ったマリオが土管から顔を出した。
すかっとした空気と葉が擦れる音。
辿り着いた先には懐かしののどかなピクセル調の空や木。
彼らが海へと飛び込んだ場所と似た自然豊かな場所だったのだ。
そして後から来た3人も土管から抜け出せば
神菜は思い切り息を吸った。
「地上だぁあああああっ!陸だあ……!」
初めての水中の戦いにかなりの体力が消耗したのだろう。
そのまま力が抜けた様にヘナッとその場に座り込むと
びしょびしょとなった服を絞る。
するとピーチがワサワサとドレスを簡単に払い
神菜の隣に並ぶようにしゃがみ込んだ。
「水の中だと地上より体が重く感じるし、
疲れが溜まるのも仕方がないわ」
「ていうか!色々突っ込みたい事もあってさあ…
喋れない事がこんなに辛いだなんて思ってもなかったし…
あ!でもジャンプがいつもより高く行けたのが…!」
隣に来たのが運の尽きだろう。
そのまま感想と愚痴が混じった感情をピーチに向けて吐き出す。
ピーチはにこやかにその話を聞き、
マリオはため息をつきながらも体をほぐす様に腕を伸ばす。
そしてクッパはその場に座り込み、
静かに彼らの様子を見ていた。
睨んでいるのか、羨望の眼差しかは不明だが
それまでの経緯があったからか
その表情に当初にあった険しすぎる雰囲気は薄くなっていた。
「…よし!そろそろ行くか」
「おーう!」
水気を全て搾り取ったマリオが帽子の位置を整えれば
吐き出してすっきりしたのか
神菜が元気よく立ち上がる。
合わせてピーチも立ち上がり、
マリオと
神菜の元へ近付くと
遅れないようクッパも急いで立ち上がった。
№37 vsダイオーゲッソー
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